『――――アフリカ共同体首都ダカールにて大規模な反プラント理事国デモが行われました。大統領府前に複数の市民団体が詰めかけ、プラントの利益を独占するプラント理事国に対し抗議の声を挙げていました。天秤型コロニーで構成されているL5コロニー群“プラント”はその意味の通り作れないものはないと呼ばれる程の大規模な生産施設が存在しており、そこでしか作れない物産、膨大なエネルギーと工業物資は、地球にとってなくてはならない存在となっていますが、その反面膨大な利益をプラント理事国が独占しております。それに対し、安価で品質がよいプラントとの激しい競争にさらされている非理事国は貿易格差が大きすぎる、理事国だけが復興している、貿易が不均衡と強い批判を行っており、理事国そしてプラントに対する不満が高まりつつあります』
デレビからアナウンスの声が俺の耳に届いた。内容を聞く限り大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国三カ国で構成されるプラント理事国に、それ以外の国々で構成されている非理事国はいい感情を抱いていないようだ。
そう言えば、昨日偶然見た政治討論の番組である評論家が、理事国は再構築戦争で深い打撃を受けたにも関わらず、プラントが生産するエネルギーと工業物資、それらを傘下や強い影響下にある非理事国に高く売りつけることで得た外貨を用いていち早く復興を遂げ経済発展をしていると発言したいたのを思い出すな。あと疑問なのは、六〇年前の戦争のつめ跡が残っているかだ。それに関してはまだ分からないのでいずれ調べないといけないな……。
何せ、東アジア共和国は独自で国内にマスドライバー基地の建造を開始していたり、ユーラシア連邦は地球温暖化によって航行しやすくなり重要度が増した北極海航路の開発を推し進めたり、大西洋連邦は軍拡と環境改善プラントの建設を行ったりするなどの余裕があるからな。
やっぱり、あの国どもは西暦時代大国であった国々が母体だけあって先を見据える力は恐ろしく高い。またどれだけの反発があろうとも実行するのだから凄い。ナチュナルとコーディネーターを棲み分ける必要があったとは思うが、コーディネーターを一か所にまとめれば膨大な利益得られることが念頭にあった筈だ。それが功を奏し、投資した強みを生かして利益を独占しているのだから。
まあそのお蔭か分からないが、非理事国側は一部を除いて復興と経済発展は遅れている。大半は発展途上国の地位を甘んじている。西暦時代からの難題である南北問題は深刻の度合いを増しているようだ。だから原作ではああなったということか……。
では、今の俺の故郷で非理事国の一つである北日本はどうなっているかというと、住んでいる
「もうだいぶ時間が経ったけど、飽きないの?」
「……」
今、俺は何をやっているかと言うと、
「コラ!! 貼り付かないの!! 汚いでしょ!!」
「ごめんなさい。柚さん」
俺を叱る女性の声に頭を下げるしかない。
俺が少し違うコズミック・イラの世界に漂着していた半年以上も経った。俺は小学生になりたての六歳児のふりをしながら現状維持を務めたこともあって身の回りについてほぼ把握していた。
まず、俺の傍にいて俺を見つめている黒髪の大人の女性は
「そう言えば……蒼也と同じく宇宙を見るのが好きでしたね……」
「それは誰なの?」
「貴方のお母様。宇宙見たさに小遣いをはたいて買う位でした」
「……」
何とも言えない気分になる。
“スペインかぜの再来”、“ナチュナルかぜ”と呼ばれ、億単位の感染者と数千万規模の死者を出し、ナチュナルとコーディネーターの溝を深くさせたこの病気の犠牲となったのだ。ただでさえ両者の間は緊迫していたときに、この病によってナチュナルとコーディネーターの病気に対する耐性の差を徹底的に知らしめたのだから超常的な悪意を感じさせる。
余談だが、この流行をコーディネーターの陰謀だという噂が流れていたようだが、俺は全く信じていない。しかし、この出来事のせいでナチュナルのコーディネーターを見る目は厳しいものになったのは確かだろう……。
話を元に戻そう。
「そんなに宇宙を見るのが楽しい?」
「うん、楽しいよ。だって宇宙がこんな間近にあるのだから」
柚さんの問い掛けに、俺は本音で答える。周りから見れば目がキラキラと輝いているかもしれない。
前のときは知っていても遠い存在であった宇宙が間近な存在になって目の前にいた。厚いガラス一枚向こう、それを越えれば宇宙だ。いかなる生命の生存を許さない清浄なる漆黒の空間……。そんななかに無数の星々が輝いている。それを見ると心がときめいてしまう。ずっと見ていても退屈はしなかった。
「残念だけどもうそろそろ時間だからこれでおしまい。到着ロビーに向かいましょう」
「うん。分かった」
俺たちは到着ロビーの出入り口に向かう。父である人間を出迎えるためだ。どんな職に就いているのか分からないがその人は多忙な日々を送っており家に殆どいない。今のようにときどき故郷に戻ってきて休息を取るらしい。あと蒼也には一歳年上の兄がいるらしい。月にある都市コペルニクスに留学しているようだ。どんな人となりなのか出会ったことがないので分からないが。
「蒼也、柚、久しぶりだな」
到着ロビーの出入り口にたどり着いてすぐに俺たちは声を掛けられた。声がした方角に視線を向けると、立派な体格をした男性が笑みを浮かべて温かな視線を俺たちに向けていた。
「久しぶりです。
柚さんの口ぶりからこの人が父なのだ。服越しでも分かる鍛え抜かれた肉体をしているな。もしかすると軍人か工場労働者などの肉体労働を生業とする仕事に就いているのかもしれない。
「……蒼也」
変なことを考えていると、父から声を掛けられた。動揺して上ずった声を出してしまう。
「何ですか?」
「お前、出会わないうちに少し変わったな」
「そうかな?」
「そうだ。少なくともこんな反応はしなかったぞ」
あら、そうなの? どれだけ感情が薄かった……むしろ無かったの? 本物は。しかしこれが本当だとすると、疑問を持たれないか不安になる。転生・憑依という頓珍漢な現象を本当に起きたと証明することなんて常識的に考えてありえないのだが、どうしても不安になってしまう。
……取りあえずはこれだけは言っておこう。無言なのは失礼だ。
「……おとうさん」
「うん!?」
「ただいま……」
「うん、ただいま」
その言葉に父さんは最初のうちは面食らっていたが途中で笑みを浮かべて答えた。
俺は生きている。スペースコロニーという人工の大地で。何でこうなってしまったのか分からないが今のところは平穏で楽しんで生きている。これからもずっとそうあって欲しい。原作が原作なので困難なのかもしれないが、そうあって欲しいと心の底から強く思っていた。