機動戦士ガンダムSEED --二つの太陽--   作:月奏

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第三話 出会い

 C.E61年 L3宙域住居コロニー『高天原(たかあまはら)

 

 七歳になった俺は家から出て公園にいた。そこはコロニー、C.E黎明期に建設され完成した最初期のスペースコロニー、今では北日本……通称“連邦”でしか運用されてはいないスタンフォード・トーラス型

 噂によると完成してから四半世紀以上も経ち老朽化が進んでいるため、今建設が進められているシリンダー型で三枚の大きなミラーで光を集める“開放型”コロニーに住民を移転させる計画が練られているようだ。……だとすると、そう遠くない未来にこの景色が見納めのときが来るということになるな。実に寂しい話だと思う。こんないい景色を眺める時間が限られているのは。

 上側にある鏡によって取り込まれた太陽の光が降り注ぐ。それは、住宅や植物や巨大な湖、そして俺と手元にある本を照らしていた。俺が蒼也になる前の子供であった頃に見たスタンフォード・トーラス型の想像図そのものであった。スペースコロニーに住んでみたいと思っていた俺が今住んでいるのだから感慨深く、住んでからだいぶ時が経つが住んでいることを実感すると目頭が厚くなりそうだ。

 このときが来るまで、この景色を見たときの感動を記録として頭に刻みついておこう。

 

「……」

 

 通っている小学校の図書室、街の図書館から借りた本を読んでいる。

 普通この年齢は授業が終わった後や休みの日は友達と一緒に遊びほうけているイメージが俺にはあるが、悲しいことに友達は一人もいなかった。どうも、俺のどこかズレでいるためか同級生と馴染むことができず、また本来の蒼也も人と仲良くすることができず友達を作っていなかったことも大きかった。それらのせいで周りからは地味な根暗と思われ孤立してしまい、一人でポツンといるのが殆どであった。そのうちいじめられないか不安である。何とかその孤立を打破しなければ……上手くいくだろうか? 不安で仕方ない。

 

「いかん、いかん」

 

 ついつい思考がネガティブなものになった。今はこんなことを考えずに本を読むのに専念しよう。

やはり本を見る限り、この世界の歴史線上にはかつての俺がいた日本国(・・)は存在しないようだ。今の二つの日本、皇国と“連邦”は大日本帝国から派生したもののようだ。皮肉な話だな。皇国の前身となった“赤い日本”は“かつての日本(大日本帝国)”を否定した国であったにも関わらず、今では過去の日本と先祖返りしてしまっている。その反面、日本国と韓国と台湾を足して二で割ったような国である連邦は未来の日本だろう。

 

「あら……定位置にいるわね」

 

 女性の声が聞こえてきた。した方角に顔を向けると、金色の長髪をした女性が立っていた。外見からして俺とさほど歳は離れていないようだ。

 

「……誰」

 

 彼女は問いに答えずに、微笑んで言う。

 

「貴方の名前は?」

「質問……」

「名前?」

 

 人の質問に答えず逆に問いかけてくるか。失礼な奴だな。そんな奴に答える義理はないし無視するのに限るのだが、好奇心に満ちた顔からして答えるまでしつこくつきまといそうだな……それもとても面倒くさいな。答えるか。

 

「……人代蒼也」

 

 俺ながら面倒くささ丸出しの声だな。とっととどこかに行って欲しいなと本音がにじみ出ている。もうちょっと気がきいたことが言えたらいいのだが、元々コミュ障のけがある俺には無理だ。

 

「人代蒼也……ああ!! 貴方、蒼人(あおと)の弟さんなの?」

 

 答えを聞いた彼女は驚いた顔をした。

 

「兄さんのことを知っているのですか?」

「ええ……よく知っているわ。こまめに連絡を送ってくれるかわいい弟がいるって言っていたわ」

 

 驚いた。兄さんがそんなことを言っているなんて、兄さんからの手紙にはそんな素振りなんか全く見えなかったのに。

 俺の兄というか、蒼也の兄は親元から離れて月面にある都市の一つコペルニクスの寄宿制幼年学校に留学している。なぜこんなところに留学しているのかよく分からないが、もしかすると、コーディネーターであることが関係しているかもしれない。

 今現在真っただ中である夏休みなど長期休暇でも帰ってくることをしないので今まで顔を合わせたことはないのだが、俺が彼に手紙を送ったことをきっかけにお互いにこまめに手紙を送り合うようになっていた。手紙を読む限りであるが、弟がナチュナルであっても偏見の目を持たない兄という悪くない印象を持っている。

 ただ、親子仲はあまり良くないのかな? そうではないと思いたくないがこんな勘繰りする位に互いに相手のことを聞きはしないし語りはしない。俺としては親子仲良くして欲しい。家庭内不和のせいで唯一の居場所で心安らぐことができないなんて最悪だ。それにお互いにつらいだろうし。とは言っても手を打つ手段がないから厄介だ。今のところは静観するしかない。

 

「席よろしくて?」

「どうぞ」

 

 人が物思いにふけている間に、隣に居座れてしまった。そのお蔭で俺は端に追いやられてしまった。きっぱりと拒否することができず、無意識に他人に距離を取ってしまう己が恨めしくて仕方のない。

 口ぶりからして、この人は兄さんの知り合いか同級生なのかもしれない。女性と知り合いとなるとは彼は誰とでも普通に話すことができるかも。その推測が本当ならばうらやましい限りだ。少しばかり嫉妬しそうである。

 

「何を読んでいるのかしら」

「見れば分かる」

「そっけないわね」

 

 苦笑しながらそんなことを言うと彼女は何かを食べ始める。よく見ると桃であった。優雅に食べる姿に、切らずにかぶりつくなんて汁がこぼれてしまって食べるのに苦労しないのかな? そんな疑問を抱いてしまう程に上手く食べていた。

 

「ねぇ」

「何?」

 

 しつこく質問してくるので怒ろうと彼女に顔を向けると、金色の瞳が俺を見つめ真剣な表情を向けていたので怒気が一気にしぼんでしまった。

 

「何で歴史を知ろうとするのかしら。言っちゃなんだけど別に知らなくてもいいじゃないの?」

「別に……ただ知りたいだけ。それに知りたいということに年齢は関係ないと思うけどな」

「……」

 

 彼女は無言となる。

 

「ふ、ふ、ふ。これは一本取られたわね」

 

 再び笑顔になる。何を考えているのか分からない笑顔だな。

 

「この時期について詳しく知りたいなら、『大日本帝国の後継者』という本がいいかもね」

「どんな本?」

「私その本を持っているのだけど、貸して欲しい」

「図書館か本屋で探してみる」

「やーん。つれないわね」

 

 面倒くさい。けれども久しぶりに身内以外とまともに会話することに嬉しさを抱いている俺がいた。悪くはないな。

 結局、とりとめの会話は彼女が飽きるまで続けられた。終始、彼女にペースを握られてばかりであった。

 こうして俺に知り合いが一人できた。しかも一歳年上の女の人だ。普段ならば喜ぶべきなんだろうけど、何か締まらなくて複雑な心中だ。

 

 




 
 世界観、必要最小限を説明し原作が始まるまでの出来事を全て描写するまでば原作を開始しないつもりなんですが、何話ぐらいで書き切れるかな? 軽く二十話は越えそうな気がする。

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