FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

20 / 50
今回の話には一部ラフム語亜種的な文章表現が含まれます。ご了承ください。


1-10(後)

>>>>>> [3/6] 大切なもの。それは絆。情熱。そして、命。

 

 

「──大変だよ、二人とも! リツカ君が【清姫】に攫われちゃった!」

 

 その知らせを受けたマシュさんは、見る影もなく狼狽した。

 ……落下中である。

 心の乱れとは身体制御の乱れであり、気流と重力と飛行魔術と音楽魔術がブルーインパルスの曲芸飛行じみて交錯する現状においては、彼女の動揺は致命的なミスの誘発因子にもなるだろう。

 早急な解決が必要だ。

 俺は放心状態に陥りつつあるマシュさんをひとまず放置し、セオさんに迅速かつ端的な説明を求めることにした。

 

 目撃者(セオさん)、曰く。

 

「あなたたちが飛んでいった後、ライネスさんと意気投合して色々話をしてたんだよね。

 リツカ君はあのお酒で酔っちゃったから、近くに寝かせておいたんだけど。

 それで、話している最中にふと気づいたら、後ろに和服姿の女の子が立っていて。

 可愛い、中学生くらいの、角の生えた女の子。その子がね、こう言ったのよ。

 

 ──『安珍様を、知りませんか?』

 

 って。

 掲示板の噂……彼女に嘘をつくと燃やされるっていうでしょう? だから正直に「知らない」って言おうとしたんだけど。なんだか……それを言ったら燃やされてしまいそうな気がして。

 そうしたら、彼女がそこに寝ていたリツカ君に気づいたの。

 瞳孔がね。ガバッと広がって──

 

 ──『やっと見つけました、安珍様。…………もう、逃しませんよ』

 

 次の瞬間にはリツカ君を抱えて、すごい土煙を立てながら走り去って行っちゃった。

 たぶん南の方。

 マシュちゃん、君の隣りにいるんでしょう? 彼女、大丈夫かな……?」

 

 ちらり、と隣に視線をやる。目鼻立ちの整ったお顔からは、すっかり血の気が引いていた。

 

「せ、先輩……。安珍? 安珍って誰ですか……? 先輩は、先輩ですよね? わたしの、()()()()()()先輩。安珍なんて知りません。清姫なんて知りません。だって先輩は、わたしを助けてくれるって」

 

 そして、何やらブツブツと先輩への思いの丈を高速詠唱なさっている。……ヤバイ。

 

 ええ~……。マシュさん、君は一体いつの間にそんな重力(グラビティ)を獲得してしまったの?

 というか、今更だけど先輩ってなんだよ。俺だって一応リツカとは中高一緒だったんだぞ。リツカが先輩なら俺だって先輩で良いはずでは……?(しかしそのような事実は存在しない!)

 

 くそっ。リツカの周りの女はいつもこうだ。

 俺は内心こっそり悪態をついた。あいつは確かにモテるが、その相手ときたら最初からどっかマトモじゃないか、関係を深めた後に秘められた一面を披露してくるって相場が決まってるんだ。

 β時代のマシュさんは、あんなに良い()だったのに……! オルレアンではもう違う色……!

 

「何とかして助けないと……! 先輩のバイタル……位置情報……ドクター! 追跡を!」

 

 悲痛な声を上げる。

 通話の先にいるだろうドクター=ロマニ・アーキマンに、俺はひどく同情する気持ちを覚えた。

 

「だ、駄目!? ファヴニールの反応が強すぎて上手くサーチできない、ですか!? ──ッ!」

 

 しかしその試みは失敗に終わったようで。ロマ二氏から報告を受けたらしいマシュさんは、キッ! と強く、落ち行く先に待ち受ける邪竜のお顔を睨みつけたのであった。

 怖っ。俺は震えた。

 邪悪な竜と女の子の執念、どっちが怖いかと言われれば正直答えに困るよね。しかも今ならなんと、そこに(蛇)龍かつ女の子な清姫changまで関わってくるときたもんだ。欲張りセットかよ。

 

「とにかく、一刻も早くこの撤退戦を終わらせて……!」

 

 余裕なさげなマシュさんであるが、しかし、そこで何かに気づいたようである。

 ちなみに俺はもう少し先に()()に気づいていたが、なんだか声をかけるのが憚られたので黙っていた。グリン、と振り向いたマシュさんのかっぴらいたお目々が俺の表情をサーチする。

 うわぁ、お目々がとってもおっきいね! どうしてそんなにお目々が大きいの?

 

「先輩とずっと一緒にいるために決まってるじゃないですか……! それより──」

 

「はい」

 

「──プランB、あるんですよね? 先程の非礼は謝罪します。今すぐ詳しく聞かせてください」

 

 血の気が引きすぎてもはや人形じみている紫の双眸が、底の見えない深淵を湛えていた。

 ……よ、よろこんでー。俺は素直にお話することにする。

 言葉一つ通らない。そう思わせてしまうだけの、動き始めた君の情熱……。

 

「これはさっきも言った話だけど、俺とライネスが【オーダーチェンジ】すれば、向こうで【トーコ・トラベル】が発動できる」

 

 君が再トリップすること前提だけどな。

 そんな俺の答えを受けて、マシュさんは質問を重ねた。

 

「で、では、その飛行術式を使って先輩を追うことは可能でしょうか……!?」

 

 えー、どうだろ? 目的地設定とか、そういう詳しいことは知らないよ。

 あ、でもアレがあったな。どうせなら一応聞いてみればいいと思う。

 

「確信はないけどね。俺やリツカ(レイシフト適性者)の左手には、マーカーが仕込まれているんだよ。ジャンヌと行軍してる最中に、ちょっとだけオルガが来たらしくてな。そのときにリツカにも仕込んだんだ。で、本来の用途とは違うだろうけど、それを目的地代わりにして術式を使用できるなら……」

 

「すぐ確認します!」

 

 そう言って、マシュさんは素早くチャット体勢に入った。

 やれやれ、俺もライネスに準備するよう連絡しておくかね……。

 

 しかし、清姫か。

 このタイミングでやってくるのもそうだが、なぜリツカを攫った? 安珍ってのは一体何だ? いや、安珍さんは例の伝承で清姫ちゃんに焼き殺されたお坊さんのことだろうけどさあ。それとリツカに何の関係があるのやら。サーヴァントの人たちは、俺ら21世紀人とは違った論理で動いてる奴らばっかで付いていけないぜ。

 

「はい、はい! 分かりました! ──大丈夫だそうです!」

 

 と、現在進行形でついていけないサーヴァント筆頭のマシュさんが喜色を湛えて俺に言う。

 間をおかず、ライネスからも了承の返事が届いていた。

 あのエルの関係者だけあって、さすがに返信が早い。めっちゃ仕事できそう……!

 

 さて。じゃあ、だいぶ高度も下がってることだし、さっさと話を詰めようか。

 残る問題はひとつ、どうやって君をトランス状態に持っていくかだ。例の酒はもうないからな。

 

「クー・フーリンさんに意識混乱系の魔術を頼めませんか?」

 

 あ、それでいいんだ。

 いざとなったら俺の方から言おうと思っていたが、自分から提案するのはすげぇ覚悟だな。

 OK、クー・フーリンに伝えておこうじゃないか。そうすれば後の手順は簡単だ。

 着地、マシュさんをトランスさせる、宝具発動、NPC回収して即撤退……。

 

「了解です。それでいきましょう!」

 

「……元気がいいね」

 

「ええ、先輩を取り戻すまで気を休める暇なんてありませんから。

 ……ただ、先程の非礼もそうですが。わたしはずっとあなたを見誤っていたようです。

 『プランB』。単なる無茶・無謀な作戦立案だと思っていましたが、まさか万が一の状況に備えた奥の手だったとは……。 ハッ! そういえば先輩が、軍師の奥義は『こんな事もあろうかと』だと言っていました……! そういうことだったんですね! 流石は先輩のご友人……!」

 

 んん? なんだかよくワカラナイ感じで俺の評価が上がっているぞ?

 あー、でも女の子からの評価ってそういうとこあるよね。知らないうちに決定的な何かが始まり、そして終わっちゃっているあの感じ。甘酸っぱい青春の香りとほろ苦い思い出が蘇ってきそう。

 

「では、着地カウント30から開始します! 衝撃に備えてください! ……30! 29、28……」

 

 そうして。俺たちは見事にマシュさんの宝具で衝撃をカバーしながら、フランスの大地との激しい再会の抱擁を遂げたのである。

 

 ……生きててよかった。今、俺は心の底からそう思っているよ。

 

 あ、ちなみに縄は着地直後のマシュさんが素手で引きちぎってくれました。

 サーヴァントってスゴイナー(感嘆)。

 

 

>>>>>> [4/6] 撤退戦終結。受け継がれる想い。

 

 

()()()B()、開始──」

 

 命のありがたみを噛み締めながらそう告げる俺の前には、ジャンヌと瓜二つの顔をした魔女サマの姿がある。ついさっき、延々粘着戦術を強いていたらしいカナメ氏を落下してくる俺たちの目の前で処刑したばかりの彼女ときたら、それはもう憎々しげな顔で俺たちを見るのであったが。

 

(カナメ……!)

 

 死の間際、剣を取り落としたあの男が最期に見せた右手のジェスチャー。知らない人間が見れば痙攣にしか見えないだろうあれは、間違いなく【GJ】(グッジョブ)のサインであった。親指を立てるアレ。

 ……何故分かるかって? それは、モズの早贄めいて串刺しにされたカナメ氏が頭上から迫る俺たちを見つけてこんなメッセージを送りつけてきたからである。

 

『ありがとう。私の剣は無駄ではなかった。今は唯それだけが嬉しい。最高の戦いだった……!

  追伸 先刻フレンド申請を送らせていただいた。宜しければご検討願いたい(^_^)』

 

 く、くそう。

 伝記モノに出てきそうな古式ゆかしきイケメンアバターまとってる癖に、死に際に顔文字なんか使いやがって……! せっかく奴のフレ申請を無視していたのに、まさか向こうの方から念押ししてくるとはな。やってくれるぜ。

 

『登録したよ―\(^o^)/ これからよろしくねー!(*´ω`*)』

 

 俺は定型文じみた承諾メッセを奴に送りつける。この程度なら息を吐くより自然にできる行動だ。並行して、俺は魔女をガン見する姿勢を崩さぬままクー・フーリンに指示を出した。今だ、やれ!

 

「こういうのは趣味じゃねェんだがな……【魅了(ゲーボ)】!」

 

 その杖が輝き、【X】に似た字を描く。途端にマシュさんの瞳が焦点を失い、とろんと蕩けた。

 

 ……【魅了(ゲーボ)】。

 想い人への感情を暴走させるそれは、『とある槍兵』が持つ魅了の魔貌の逸話をルーン的に引用・再解釈したものらしい。全く分からん。しかし下手に使うとNTR紛いのことも出来ちまうらしいので、まあこんなことでもなければ永遠に封印しておいてほしい使い方である。

 ちなみに今回は、被験者の承諾を得た上でリツカを対象に、時限で魅了を発動させているので無害です。たぶん。……既にちょっぴり危うい彼女の重力が、これ以上増加しないといいけどなァ。

 

 ともあれ、ここから先は俺の出番だ。ライネスからはいつでもいいとメッセージが届いている。

 ようし、行くぞォ!

 

「【オーダーチェンジ】!」

 

 ……一瞬の暗転。そして次の瞬間、俺の前には先ほど別れたはずのセオさんが立っていた。

 

「うぇぇぇぇ……!」

 

「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」

 

 スキルの副作用に襲われダウンした俺を、慌ててセオさんが介抱してくれる。その横で興味なさそうに突っ立ってるのはリーダーとBestPupil(一番弟子)氏の両名だ。お、覚えてろよ~。

 

 オーダーチェンジ。

 その効果を一言で言えば、プレイヤーの位置の入れ替えである。プレイヤー同士の間でしか使えない。それは多分、このスキルの効果が俺たちプレイヤーの『アバターの乗り換え』という形で実現されているからだ。今、元・俺のアバターにはライネスがログインしていて、俺は元・ライネスのアバターにログインしていることになる。

 そもそもからして魔力とかいうよくワカラナイもので構成されてるアバター自体は、そのときログインしているプレイヤーに合わせて一瞬で再構成されるのだけど、ある条件下で副作用が起きる。

 

「……だ、大丈夫です……。それより少し質問いいスか。ライネスって、今レベルいくつ……?」

 

「姫様はまだ目が慣れていらっしゃらない。当然戦闘など出来るわけもないし、レベルは1だ。あと、姫様を呼び捨てにするのはやめろ。敬語を使え」

 

「い、いち……」

 

 返事を聞いて、俺はへなへなと座り込んだ。

 立ち上がる力を欠いている。気力の萎えもあるが、2割くらいは物理的な問題だ。

 オーダーチェンジの副作用。

 それは、レベル差がある者同士で発動すると、高レベル側に一時的な弱体化が生じるという問題だ。低レベル=構成魔力の少ない身体に乗り換えてるわけだから仕方ないね。実装当初は低レベル側が一時的に高レベル化するバグも存在したが、今では丁寧に潰されているのであった。

 

 ……そういう事情を鑑みれば、この副作用はある意味デスペナ亜種とも言えるだろう。

 俺はなんとか立ち上がる。嘘のように体が重い。が、デスペナによる弱体化なら、慣れたモノ……! 無駄に死にまくってる俺の経験を見せるときが来たというわけだな。

 

『術式の準備が終わった。発動と同時に私から【オーダーチェンジ】を使う。いいな?』

 

 俺の中で仕事の速さに定評が出来つつあるライネス嬢から、そんなメッセージが届く。

 いいですとも! 俺も負けじと、即座に返事を送りつけた。

 

 そして、再び視点が入れ替わる──

 

「ごぇッほ!?」

 

「おう、戻ったな」

 

 元の体の周りに立ち込めていたのは土煙。……マシュさんを飛ばしたんだろうから、当然か。

 思わずむせこむ俺を庇うように、クー・フーリンの杖が伸びている。あと数秒だけは、俺の生存が作戦における最重要事項となるからな。俺は右手を突き上げた。刻まれた令呪が光を放つ。

 

「令呪を持って命じる! クー・フーリン、【宝具を開放せよ!】」

 

 これで締めだ! 魔力を!

 

「『我が魔術は炎の檻にして木々の巨人。我、捧げるは生贄の少女【マシュ・キリエライト】。顕現するは──』」

 

 ウィッカーマンに!

 

 そして、轟音。

 地面から恐ろしい勢いで生え茂り、組み上がっていく細木の巨人。目鼻すらない編みカゴ状ののっぺりした顔が、マシュさんの飛んでいったと思しき方角を向いている。俺はクー・フーリンを見た。魔術師は頷く。ここから先は時間との勝負である。

 制限時間は、ウィッカーマンの全身が組み上がるまで!

 

「全員! ウィッカーマンに乗れッ!」

 

 俺は膝から崩れ落ちながらそう叫んだ。それが最後の仕事だと分かっていた。

 パスを介して俺の状態を(おそらく俺以上に)把握しているクー・フーリンが最初に巨人の肩へと飛び乗って、後に続くお姫様と音楽家をルーン魔術で援護する。

 最後に魔女を振り切ってやって来たのは聖女様。しかし、あろうことか俺まで救い上げようとその右手を差し伸べてきやがった。お美しい顔に泥が跳ねている。見上げる俺に降り注ぐ陽光が、聖女様に反射し聖性さえ帯びながら俺の眼を焼いた。風になびく長い髪が光をまとったように輝き、ああ、やっぱり彼女は聖女様だったんだなあと心の底から改めて納得させられる。柄にもなく、目頭が熱くなってしまった。

 

 ……が、駄目ッ……! それは悪手……! 全てを台無しにする……最悪手なんだッ……!

 

 俺は聖女様の手を振り払う。彼女の眼が驚きに見開かれた。

 その反応。それだけで、彼女の次の行動……反対の手で俺の手を取ろうとするのが分かる。右を払われたら左を差し出せ。なるほど敬虔。だが、それでは救われねぇ。今必要なのは訣別だ。

 

「行けよ……!」

 

 俺は膝から崩折れたまま、振り払った右手を掲げた。その親指だけを天に向かって突き上げる。ただそれだけの動作で俺の身体は既に限界なのだということと、ウィッカーマンに乗り続ける体力なんて少しも残っちゃいないっていうことを、彼女もようやく分かってくれたらしい。

 そう。一言で例えるならば、今の俺はプルプルと震える生まれたての子鹿ちゃん。魔力供給のサポートとは一体何だったのか。結局、何一つ変わっちゃいなかったんだ。か、カルデア~~……。

 

 

 ──魔女に焼かれた半死体。魔力切れの半死人。

 

 悲しいことだが、こんなにも簡単にプレイヤーたちは死んでいく。

 そして、だからこそ必要とされてきた犠牲とそれを受け継ぐ生還者。

 【GJ】。それはカナメから俺へ、そして俺からジャンヌへと、受け継がれる意志である……!

 

「……きっと、苦しむ人々を救いましょう」

 

 ジャンヌはそう言って、手甲に覆われたその手の親指を立てて同じ形を作ってくれる。そして最後に俺の手をもう一度強く握ると、軽やかに身を翻してウィッカーマンへと飛び乗っていった。

 これで打ち止めと言わんばかりに狂騒する音楽家の演奏に合わせて雨霰と降り注ぐルーン魔術の嵐を前に、敵サーヴァントたちは近づきあぐねている。……そのとき。

 

「──デオン! 聞かせて! あなたは、シュヴァリエ・デオンなのでしょう!?」

 

 ウィッカーマンの右脚が大地を踏みしめる。左脚のみを地中に残す巨人の肩で、お姫様がそんなことを呼びかけた。それに応えたのは、魔女の護衛として来たらしい身元不詳な剣士(セイバー)のサーヴァント。中性的な美形の騎士だ。

 

「……お気付きになられましたか。いかにも、私の名はデオン。しかしこの身は、既に狂化を付与され変質し果てた剣なれば。あなたの前にこの醜態を晒す無礼をお許しいただきたい」

 

「その美しい顔と咲き誇るような剣捌きを見て、あなたと分からないわけがないでしょう……! どうして、あなたがこのフランスを!?」

 

「その答えはあなた自身がご存知のはずだ。

 シュヴァリエ・デオンは変節の士。あるときは貴女と共に在り、あるときは英国のために剣を振るい、そしてあの革命の後は英仏両国に媚を売りもした。……私の在り方は、昔も今も……狂気に侵され魔女の従僕(サーヴァント)と化してさえ、何一つ変わりはしないのだから」

 

「デオン……」

 

 沈痛な表情を見せるお姫様とは対照的に、デオンとかいう剣士は顔色一つ変えることがない。

 そして、地中から巨人の左脚が引き抜かれた。もうこいつを止めることは出来ないだろう。残念ながらタイムリミットだ。

 

「ッ……逃がしはしない!」

 

 憎悪の炎を滾らせて大地を蹴り、魔女の身体がウィッカーマン目掛けて飛び上がる。だが、それを迎え撃つように聖女の旗が風を含んで大きくなびいていた。

 

「魔女ジャンヌ・ダルク。今ひとときは勝負を預けます。けれど、私は必ず貴女を止める──

  

  ──【我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)】」

 

 聖女がその名を告げた瞬間。彼女の掲げる白と青の聖旗から眩い光が溢れ出し、ウィッカーマンを包み込んでいく。その光の中で巨人の右脚が大きく前へと振り出され、次いで左脚。あっという間に、輝ける木々の巨人(シャイニング・ウィッカーマン)は俺たちとの間に埋めがたい距離を刻んでいた。

 

「……また会おう、白百合の聖女(Jeanne d'Arc du Lys)

 

 俺同様に巨人を見送る剣士デオンが、そう呟いた。

 それは、ある意味では感動的な光景とも言えただろう。

 長く続いた戦いの果て。去りゆくウィッカーマンをただ見つめ立ち尽くす俺たちは、まるで映画のラストシーンめいて寂寥を感じさせる戦場跡で風に吹かれているばかりなのだから。黒き邪竜の炎も、あの光の結界を相手にしては全く効を成さなかったのである。

 

「……ジャンヌよ。彼の者どもに引導を渡す機会はいずれ必ず訪れましょうぞ。既に我らがこの戦場に残る意味はありません。今は、一時お引きくだされ」

 

「……」

 

 聖女の旗の光に弾かれ大地に落ちた魔女ジャンヌに、ジル・ド・レェがそんなことを語りかける。魔女は、ガチャリと金属音を鳴らして無言のままに立ち上がった。先程までの激昂が嘘だったかのように冷めきった彼女が見据えるのは…………俺?

 

「……手ぶらでは帰れません。()()をオルレアンに運び込みなさい。曲がりなりにもサーヴァントを従えるマスターです、何も情報を持っていないということはないでしょう。ああ、そうだ。あの女吸血鬼に尋問させれば良い。そういう仕事は得意でしょうから」

 

 ……なるほど。どうやら魔女サマは俺をお持ち帰りになる腹積もりらしい。

 しかし残念ながら、俺にも俺の都合ってもんがある。今からウィッカーマンに追いつくのは無理だろうが、まあリーダーたちと合流してからゆっくり追いかけて行こうと思うのさ。お誘いはまたの機会にしていただきたいね。

 

 というわけで、この場を辞することに決めた俺は万能撤退呪文『カルデアゲートに行きたいな!』を心の中で強く唱えた。過たず、いつもの真っ赤なシステムアナウンスが俺の視界に読み込まれる。

 

Unsummon Program St■(アンサモン プログラム スタ)

 

 ……が、なぜか途中でその読み込みが止まった。あれ?

 

【サーバーとの通信に失敗しました。リトライしますか?】

 

 ……え、ええ……? じゃあリトライしますけど……

 

【通信エラーが発生しました。時間を置いてからリトライしてください】

 

 ……。

 か、カルデア~~~!

 俺は内心で吠えた。ついでにゴロンゴロンとのたうち回りたかったが、身体が限界だったのでそっちの方は無理だった。そんな怒れる俺の頭上で、ファヴニールが嘲笑うように咆哮を上げた。

 

 ……ファヴニール?

 

 『ファヴニールの反応が強すぎて(プレイヤーが)上手くサーチできない』。

 

 ああ。そういえば、そんなことマシュさんが言ってたね……。も~! なんでスマートに事が運ばないかな―? つらぽよー! ムカぽよ―! マジ萎えぽよピーナッツなんですけど~~~!

 

 ……すると、突然。

 激おこしていた俺の頭部がガシッと鷲掴みにされ、そのまま地面に頬を押し付けられた。

 

「……今、何かしていましたね?」

 

 丁寧な……いや、慇懃無礼なほどの猫なで声が俺の耳元で囁きかける。うつ伏せに頭部固定されているから顔は分からないが、その声は間違いなくジル・ド・レェだ。顔が近い。息が臭い。不快なので少し離れてくれませんかねぇ。もしくは魔女サマに代わるとか、

 

「質問に、答えなさい」

 

「ッ~~!?」

 

 途端、俺の頭部が恐ろしい勢いで上へと持ち上げられ、そして大地へと叩きつけられた。

 

「答えられないのですか? それとも、もう少し手厳しくしないとわかりませんか?」

 

 ガツン、ガツンと河原で石遊びをする子供のように、ジル・ド・レェは俺の頭を地面に叩きつけていく。ぐっはあ。俺は血反吐を吐きながら鼻から鮮血を撒き散らした。HPがもうゼロに近い。ああ、ドンレミ村の愉快な仲間たちが遠くで俺を呼んでるぜ。

 俺は抵抗する労力をカットすることにした。まあ、これはこれで死亡直行コースで都合がいいからな。死に戻りにカルデアゲートを経由しなくてもいいのは一つのメリットだ。ふはははは、レベル1相当のステータスと化したこの俺の死にっぷりを存分に見届けるがいいわッ!

 

「……言っても分からぬようですね。では────その強情な魂ごと、叩き割っておきましょう。なァに、心配することはありませんとも。数日もすれば元に戻ります。戻らなければ──それもまた、()の思し召しということになりますかな」

 

 そう言って、ジル・ド・レェは片手で俺の頭を固定したまま、もう一方の手に抱えた奇妙な装丁の本を俺の前でゆっくりと広げ──

 

「────────ぽぺ?」

 

 それから先のことは、何も覚えていない。

 

 

 

 

>>>>>> [5/6] 掲示板ログ(2015/08/13(木) 18:52:36.98~)

 

 

【オルレアンで】FGO攻略スレ part873【折れるやん?】

 

283:名無しのマスター 2015/8/13 18:52:36 ID:AOmVSwLL3

で、結局ジャンヌはどうなったわけ?

 

284:名無しのマスター 2015/8/13 18:53:54 ID:89Lh7R5LE

>>283

ウィッカーマンに乗って撤退したよ。魔女の方も帰った

今は南に向かってるらしいけど……

 

ところでこちらが走り去るシャイニング・ウィッカーマンの勇姿になります

お収めください【画像】

 

285:名無しのマスター 2015/8/13 18:55:16 ID:Cxz+gPfqV

そもそも突然出てきたウィッカーマンは何なんだよ過ぎる……

クー・フーリンと契約した奴はもう解約済みって言ってなかったけ?

 

286:名無しのマスター 2015/8/13 18:56:22 ID:+XkBgmAMP

>>284

よくやった

飴ちゃんをくれてやろう

 

287:名無しのマスター 2015/8/13 18:58:22 ID:Wr7/bBUrw

>>285

・何らかの方法で再契約できた

・別の奴が契約した

・そもそも解約の話の時点で嘘だった

お好きな説をお取りくだされ

 

288:名無しのマスター 2015/8/13 19:00:20 ID:+0xl4kgGY

>>287

「私はその中からは選ばない」ドヤァ

 

289:名無しのマスター 2015/8/13 19:01:39 ID:0FG1WAKvx

>>287

まずウィッカーマンとクー・フーリンって特に関係なくねぇ?

 

290:名無しのマスター 2015/8/13 19:03:28 ID:UBCFUSPU6

>>289

それな

 

291:名無しのマスター 2015/8/13 19:04:54 ID:gTVe2GmCW

>>288

海原雄山帰れや!

 

292:名無しのマスター 2015/8/13 19:06:25 ID:cB+VSEz3Q

>>287

普通に考えたら3番目なんだけど

オルレアン到達時点で例の契約プレイヤーが使い魔持ってなかったのは確認済みなんだよね……

 

293:名無しのマスター 2015/8/13 19:07:58 ID:Q4MJy0ttx

ま、どうせ使い魔絡みで運営が明かしてない情報があるんだろ

いつものことだよ

 

294:名無しのマスター 2015/8/13 19:09:46 ID:npQjCRJ11

相変わらずの糞運営過ぎる……

 

295:名無しのマスター 2015/8/13 19:11:25 ID:TeooOe/dG

個人的にはウィッカーマンより空飛んでたプレイヤーの方が気になるんですが

 

296:名無しのマスター 2015/8/13 19:12:47 ID:fVhxqhx6v

個人的にはウィッカーマンよりジャンヌちゃんの太モモの方が気になるんですが

 

297:名無しのマスター 2015/8/13 19:14:46 ID:3063T4hkd

ジャンヌちゃんとマシュちゃんのフトモモ並べて上から寝っ転がりたいわ

 

298:名無しのマスター 2015/8/13 19:15:58 ID:gzS6u4yqr

個人的にはあの美形剣士が気になるんですが……誰かスクショ上げてくれよ……

 

299:名無しのマスター 2015/8/13 19:17:53 ID:4cILrjR9z

>>295

あれについてはここで話すと運営から規制食らうので……

直接事情通のプレイヤーに聞いてくだち

 

300:295        2015/8/13 19:18:53 ID:TeooOe/dG

>>299

よく分かんないけどとりあえずありがとう

事情通……廃人ってこと? うち生産系だからなあ……

 

301:名無しのマスター 2015/8/13 19:20:50 ID:axPs5BT2f

>>300

言われて分からないなら深追いしないほうがいい

それよりマルセイユの連中はさっさとリヨンを解放してくれませんかねぇ?

いつまでバイオハザードやってんだよ

 

302:名無しのマスター 2015/8/13 19:22:20 ID:/FSPkEeOS

まとめ定期

・北東ヴォークルール:ジャンヌと合流→オルレアン進撃中

・南東マルセイユ:リヨンから無限湧きするゾンビ狩り

・南西ボルドー:

 今のところイベントなし?

 聖騎士ゲオルギウスと一緒にワイバーン狩り

 清姫の目撃情報が最初に出てきた

 

303:名無しのマスター 2015/8/13 19:23:23 ID:MvPCZ7kNE

>>302

まとめ乙。今のところ追加するなら

北東組:魔女に蹴散らされた→立て直し中

南東組:ゾンビを率いてるボス(鉤爪の男)発見

南西組:角生えた女の子(【SERVANT】?)の目撃情報追加

これくらい?

 

304:名無しのマスター 2015/8/13 19:24:31 ID:j+ahAIpVu

あ、そういや魔女と戦ってるときに清姫見たってやつがいた

スクショとか無いから真偽不明だけどね

 

305:名無しのマスター 2015/8/13 19:26:27 ID:kpJPDioeF

え! 今すぐ北の戦場に行けばきよひーに焼いてもらえるんですか!?!?!?!?

 

306:名無しのマスター 2015/8/13 19:28:17 ID:sUo2h98W5

>>305

おい! 患者が逃げたぞ!

 

307:名無しのマスター 2015/8/13 19:29:52 ID:i4x5N2YpJ

>> 305

駄目じゃあないか……きよひー病患者はきよひースレに隔離されてなきゃあ……!

 

308:名無しのマスター 2015/8/13 19:31:39 ID:CAJmwjIm2

あーいっそこのままジャンヌがリヨンまで来て敵全員粉砕しねーかな―

 

309:名無しのマスター 2015/8/13 19:33:00 ID:yIUIpkzTA

【画像】

話は変わるがこの畑を見てくれ

どう思う?

 

310:名無しのマスター 2015/8/13 19:33:19 ID:13qOjHfof

>>309

すごく……大きいです……

 

311:名無しのマスター 2015/8/13 19:33:55 ID:NQ45QEGns

>>309

すごく……大きいです……!

 

312:名無しのマスター 2015/8/13 19:34:37 ID:Ucx4rs383

>>309

え、それ自分で作ったの!?

 

313:309        2015/8/13 19:38:35 ID:yIUIpkzTA

>>312

そう。近くの村人から使わない土地借りて耕したったわ。キメラは耕具!

そしてこちらが栽培予定の大麦・牧草(クローバー)・小麦・カブになります。

【画像】

 

314:名無しのマスター 2015/8/13 19:40:03 ID:SOyklTazA

>>313

バーーッカじゃねぇの!?(褒め言葉)

 

315:名無しのマスター 2015/8/13 19:41:32 ID:EY/4tHttP

>>313

内政チート! 内政チートじゃないか!

 

316:名無しのマスター 2015/8/13 19:42:42 ID:1e/GEgmtH

>>313

これそういうゲームじゃねぇから!

 

317:309        2015/8/13 19:44:10 ID:yIUIpkzTA

五月蝿え! 俺は輪栽式(ノーフォーク)農法でフランスを救うんだよォ!

コロンブス=サン! 早く新大陸からトウモロコシとかジャガイモとか持ってきてクダサイ!

 

318:名無しのマスター 2015/8/13 19:45:43 ID:CtCs8HrNn

>>317

こうして、一人の男の無謀な戦いが始まった……!(カゼノ ナカノ スーバルー)

 

319:名無しのマスター 2015/8/13 19:47:02 ID:CzdwAu+PW

>>318

むしろ鉄腕DASHでは?

 

320:名無しのマスター 2015/8/13 19:48:56 ID:cSKY+yQJR

あの……盛り上がってるところ悪いんだけど、南西ボルドーから報告いい?

 

ド ラ キ ュ ラ が 出 た

 

 

 

 

>>>>>> [6/6] ちすちこにちみら んらすなみら とくなつらのな ①

 

 

 なとなきなすちにくいんちる のにすちこにんちのちみちみなみらみにららてちすいかちとにみしちにみにね くにからすにみららみみちきちちすなる

 

「もちかちね とにみしいとにもちかかちみらしいとなみい──」

 

 らみみみちくちみちのにのなつなすいすなんらなみにくらくらいみしちる 

 とにとくちてらにかちもなんらなみにる ちすなにくちね かにまにみみみらのちいすにてらしいもなのちいすなんらなみにる

 

 もいみとくちしいのちのなとちすいかちのちらのちすちね いもいすちすなしらみらくにからもにしちのいてらみらつらのちといね のちとなのちみにもにいすなくちしちみらにすらくちね んらすなみらにすらてらんちしらとにかいにかちる

 

「──とにのちとにね のらすいしいくちのらからこちてらのちてちとなのらからもらしいのにもちといみみのちすち」

 

 なとなみなみらみららのなしいね らみみみちみらのなかにこにすなきちちんちとにのなもちまにみちにみらのなてらかなもなきなる

 

 ……そうして。

 何か怖ろしいモノに砕かれ、ひどく撹拌されていた意識が、元の形を取り戻すのを認識した。

 

 同時に、その場にたちこめる濃密な香の(かおり)が俺の鼻腔から脳髄まで染み込んでいく。薄明かりの部屋の中央に据えられた寝台、その傍らの小机に置かれた銀の香炉が鈍い光を放っていた。乳香(フランキンセンス)。足元には精緻な刺繍を施された絨毯。異国の模様(パターン)を織り込まれたクッションが視界の奥で重なり合い、奇妙な影を作り出している。

 しかし、好奇心に任せて視線を巡らすことはできなかった。俺の目は、囚われていた。

 女に。

 目の前の、女に──。

 

「お前は」

 

 誰だ。俺はそう言おうとして、それが果たせないことに気づく。女の細い指が、いつの間にか誰何(すいか)の言葉を投げかけようとする俺の両唇をヒタリと抑えていた。無粋な言葉は、女が見せたただそれだけの振る舞いで喉の奥へと飲み込まれ、消え去ってしまう。

 

 ──ああ、そうだった。この場において、何が物語られるかを決めるのは俺ではない。

 

 ここは閉じられた世界、秘密の部屋。そこに息づくのは部屋の(あるじ)と、その客人の二人きり……だが、どちらが俺の配役で、どちらが女のそれだったか?

 

「【(ライラ)】と。そうお呼びください」

 

 表情を隠す面紗(ヴェール)の影から、そういう意味を持つ音の連なりが紡がれた。

 真名ではない。

 だが、女の纏う豪奢な衣の袖口からはその名の如き(くら)く滑らかな(はだ)が艶めき、伏し目がちの双眸には翠玉(エメラルド)の星の輝きを宿す。(ライラ)とは、確かに女を言い表す真実の名の一つだろうと思われた。

 ……女を【夜】と呼ぶことに、違和感はなかった。まるで最初からそうと知っていたように。

 

 

 ──燃え上がる街を幻視する。崩れ行く大空洞と、首筋へ突き立てた一振りの剣。

 ──鼻腔に満ちるのは血の臭い? 否、それは濃密に焚き染められた白檀香(サンダルウッド)

 

 あの日、あの大空洞から死に戻るはずだった自分は、どこで場面を間違えたのか。崩壊する世界を参照した死に戻りが、復活(リスポーン)地点に空白(NULL)を読み込んだ。行き場をなくし延々と何もない空白をさまよった俺は、いつしかこの死を厭う女の閨に迷い込む。空白と極彩の夢幻。

 かくして現実と夢は混線し、それでもゲームは終わらない。

 

「偉大なるスライマーンの叡智に称讃を。しかし畏れなさい。なぜなら、()の王は──」

 

 【夜】は、警句を発したようだった。

 けれどこの一時が終わってしまえば、俺はそれを思い出すことが出来ないだろう。

 なぜなら、この部屋で起きることは全て夢であり、夢は覚めれば朧に消え行くものだから。

 

 薄闇の中、それから俺たちは(いく)つの言葉を交わしただろうか。【夜】は卓越した語り手であった。俺は【夜】の物語る幻想の数々に耽溺しながらも、時折思い出したように感想を伝え、あるいは何かを問いかけ、またあるいは自分の知る他愛もない小話を語りもした。夢の中でも、自分という人間の性分は変えられないのかもしれない。

 【夜】は優れた聞き手でもあった。俺が語り終えると面紗(ヴェール)の奥の唇が再び密やかに物語を紡ぎ出す。そういったとき、しばしば【夜】は聞き覚えのある筋立てを選び、しかしそれを最前の俺の言葉を取り込んだかのように妖しく展開してみせた。まるで万華鏡が持ち手の動きに応じてその色彩を変幻するように。

 

 

 ──夜が続く限り、言葉は続く。空想は際限もなく広がり続ける。

 

 しかし死せぬ生がないように、明けない夜もない。

 

 

 不意に、【夜】が壁の(とばり)(かんばせ)を向けた。光を遮る暗い厚布のその奥で、隠しきれぬ陽の光が漏れ込んでいる。夢が終わろうとしていた。

 白みゆく意識の中で、女の声が別れを告げた。

 

「──今宵は、ここまで」

 

◆◇◆

 

 そして、夜が朝に代わる(プレイヤーは死に戻る)

 

 夢の邂逅は記憶から失われる。目覚めれば、男はまた仮想の現実(リアル)を生きるだろう。女は、それを夢の(とばり)の奥から眺めもしよう。

 しかし二人が夢の外に出会うことはない。

 少なくとも女はそれを望まず、男はそれを覚えてさえいないのだから。

 たとえジル・ド・レェの邪視と深淵の狂気が、男の心に忘却すら越える瑕を刻み込んだとしても、男の性向は夢に出てきた女に思いを馳せるような人間とは程遠いものであったから。

 

 ──契約は未だ為されず。

 

 男は死に、女と出会い、生き返るたびに夢の女からお定まりの別れの言葉を告げられる。

 ゲームは続く。彼らが挑むのは、フランスを襲う邪悪なる竜の災禍。

 そう。再び、()()に代わるまで。

 




◆清姫の軌跡:
 主人公が掲示板に情報を流す
 →【陰陽】が清姫と接触し情報交換
 → マスターの存在を知った清姫、安珍探し開始
 → 嘘つきマスターを焼きながら北上、戦場に到達
 → ティンときた!

◆【夜】:
 FGO第一部は、王たちの物語でもあります(フランス王家、ローマ皇帝、イアソン、モードレッド、狂王、獅子王、ギルガメッシュ、魔術王……)。というわけで、真性一般人の主人公に代わって王の話をする担当に来ていただきました。主人公の魔力を食ってるけれど、夢から出てくる気とかは毛頭ない。死ねば会えるのでわりと頻繁に顔を合わせてはいる。

◆途中のアレ:
 ラフム語の逆。「qkde」←「たのしい」→「かちみらとにに(T A N O S I I)
 7章プレイ中、この語法?を採用していたSFCの『ガイアセイバー』というゲームを懐かしく思い出しておりました。日本語にすると下記のとおりです。

>>>>>> [6/6] アラビアの 夜の 種族 ①

 薄暗い部屋、きらびやかな布に覆われた寝台に、ひとりの女がある。
 
「また、死んでしまったのですね──」

 女は泣き崩れるように微笑んだ。
 死者を悼むように。あるいは、知人の帰りを出迎えるように。

 面紗で隠された顔から、エメラルドの瞳だけを覗かせ……かすかに見える肌は、夜の色を宿していた。

「──しかし、これでは言葉を交わすこともできませんから」

 薄布の奥で、女の唇が妖しく(まじな)いの句を紡ぐ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。