FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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ここから少し時系列を遡ります。
主人公が魔女とお話したりデオンさんが実力行使に出たりした日の、裏で起きていた話。


1-16

> [1/1] ザ・ロンゲスト・デイ・オブ・オルレアン①

 

[AM 10:00]

 

 暦の上では7月が近づき、夏の暑さは一日一日と一層苛烈なものへ移り変わっていく。青々とした空に輝く太陽は、まだ朝だというのに十分過ぎるほどの光と熱を地上に撒き散らしていた。

 既に天高く登りつつある陽光の中で始まった戦いは、じりじりと熱されていく空気の中で、その激しさを増し続けていた。

 

 死者の街と化したリヨンを攻める寄せ手の中軸を担うのは、フランス王軍。将軍ラ・イールの指揮のもとに無人の城壁を越え、リヨン市街の中心部を目指して進軍する。一方、その道を塞ぐように待ち構えるのは武装した死者の群れ。アンデッド兵だ。

 

「投石用意ィ」

 

 指揮官のがなり立てるような声に、兵たちはめいめい拳大の石を手に持ち、あるいは手投げ用の投石機に丸く磨かれた石を装填して次の命令に備える。

 

「放てぇッ!」

 

 バラバラと唸りを上げて、質量が飛ぶ。

 十分に勢いを加えられた投石には、人間の手足を容易く砕くだけの威力がある。腐りかけた死者が相手ならば尚更だ。貫通力に特化した弓や弩を使うよりも、こちらの方が死者相手には効果的であることを、フランス軍の兵士たちもこれまでの戦いの経験から学んでいた。

 投石の直撃を受け、武器と思しき錆びついた剣や槍を腕ごと地面に落とされた死者が多数。足を砕かれた者は地べたに転がり怨嗟の呻きを上げている。

 

「大盾ェ、進めっ!」

 

 敵に痛撃を与えたとみて、指揮官は前進の命令を下した。

 だが、それでも死者の行動は止まらない。武器を無くした者は血まみれの腕を振りかぶりながら前へと進み、足を無くした者は地面を這いずりながらもガチガチと不揃いな黄色い歯を鳴らす。

 

「不浄がっ!」

 

「化け物めっ……」

 

「主よ、救いたまえ……!」

 

 王軍の兵士たちは、迫りくるおぞましい死者に向かって口々に祈りの言葉を唱える。大盾を構えた屈強な兵士を前衛に押し出すと、その後ろから槍で突き、払い、盾役が死者に組み付かれるのを防ごうとした。兵士たちに伝えられた役割はただひとつ、戦線を押し上げ続けること。

 

「そこ通りまーす! ちょっと空けてくださーいッ!」

 

 そうして大盾を壁にして作り出される生者と死者の拮抗状態を、戦線に介入したプレイヤーとサーヴァントが死者を破壊・無力化することで崩していく。魔物相手に一方的に有利な戦闘を進められるのは、練度の高い戦闘職プレイヤーとサーヴァントのみ。彼らが敵を殲滅する間、他の者たちは敵を引きつけ時間を稼ぎ続ける必要があった。

 

「GRRRRRRR!」

 

『北東からワイバーン来ます! 3体!』

 

『対竜装備アーチャー、カウント3で斉射いきます! なるべくスキル温存よろですっ……3! 2! 1! どうぞっ!』

 

 同時に空から飛来するワイバーンを後衛プレイヤーの放つ矢が牽制し、あるいは致命傷にならないまでも傷を負わせて動きを鈍らせる。

 

「よっと」

 

 その矢の雨を一切気にすることなく、青いローブをまとったクー・フーリンが人混みを割って高く高く跳躍し、ワイバーンの(くび)を蹴り砕いた。反動で更に跳び上がったルーン魔術師は、その手の杖を勢いのままもう一匹のワイバーンの背に突き立てて地上へ落とす。前衛プレイヤーがそれを囲んで(とど)めを刺す間に宙へ刻んだルーンが炎弾となり、瓦礫の山から立ち上がった骸骨兵たちを一網打尽に焼き滅ぼした。

 

「っと……こいつはキリがねぇな」

 

 着地したクー・フーリンはそう呟いて、フランス軍の後方で護られている音楽家(アマデウス)の様子を伺おうとした。直接戦闘に不向きなアマデウスは、今日の戦いにおいては(もっぱ)ら支援と索敵を担当している。

 

 その視界の片隅を斥候(アサシン)と思しきプレイヤーが走っていく。が、瓦礫の中から伸びてきた腐りかけの手に足を捕まれ転倒した。驚愕に目を見開くプレイヤー。次の瞬間には、その足を掴んだ手ごと上空のワイバーンが起こした強風に吹き飛ばされてしまう。黒い靄と化して消滅したプレイヤーは、1キロほど離れたフランス軍宿営地に敷設されている召喚サークルに転送されたことだろう。

 

(功を焦るのは分かるが、ちっとばかし(はや)りすぎだな)

 

 クー・フーリンは僅かに眉根を寄せる。プレイヤーの「死に戻り」は確かに強力ではあろう。だが、そればかりに頼ってこうも容易く死んでいくようでは話にならない。

 瓦礫と住人たちの死体で埋め尽くされたこの街は、彼らプレイヤーにとって非常に相性が悪い戦場だ。他の戦線と異なりリヨン攻略戦だけがこれほどまでに長引いたのは、その攻め手がプレイヤーという特性を持つ者たちだったからに他ならぬ。

 

(……倫理(エシック)フィルタ、か)

 

 プレイヤーは、現地住民の死体をうまく認識できないのだ。『FGO』がゲームとしての殻を被っているゆえに、そのプレイヤーである彼らは、R-18Gに抵触するようなグロテスクな物体(オブジェクト)に対して何らかの認識阻害を組み込まれている。……おそらくは、現地民(NPC)の腐乱した死体を瓦礫として誤認するように。

 

 クー・フーリンのマスターは廃集落の瓦礫の量が多すぎることからその辺りの事情に気づいたようだが、勘の良いプレイヤーの中にも既に同様の認識は広がっているのだろう。動きの良いプレイヤーほど、不自然な位置の瓦礫からは距離を取って戦っているのが見て取れた。

 

 たとえプレイヤーが認識できなくとも、恨みと怨念の蓄積した戦場に放置された死体は、いずれ魔を帯びて蘇る。そのときになって初めて敵の出現を認識するのでは、あまりにも遅すぎるのだ。そう、致命的なほど。

 

(それでもフィルタリングを()めねぇってんだから、カルデアの魔術師連中も大概過保護なことだ)

 

 先程プレイヤーを吹き飛ばしたワイバーンが身を翻して甲高く叫ぶ。戦意が高い。

 ワイバーンの突撃(チャージ)に備えるべく、クー・フーリンは足元の地面に新たなルーンを刻んだ。歯ごたえのある敵とは言いにくい相手だが、魔力消費を可能な限り抑えて戦う必要があると思えば退屈はしない。プレイヤー風に言うなら縛りプレイというやつか。

 ただでさえ令呪を使い切っている上に、牢屋の中でも勝手に死にかけては自分の構成魔力(ライフポイント)を失っていくマスターだ。追加の魔力供給は期待できない戦いとなるだろう。

 

「ま、この戦いが終わったらそろそろ迎えに行ってやるかねぇ……」

 

 

 

[AM 11:45]

 

 この戦いにおいて、運営からプレイヤーに提示された任務(ミッション)は2つある。

 

 1. リヨンを支配するサーヴァント『鉤爪のアサシン』を撃破せよ。

 

 2. リヨン市街に身を隠している、『竜殺しのサーヴァント』を捜索・救出せよ。

 

 加えて、友軍NPCとして参戦するフランス兵を可能な限り多く生存させることで追加報酬が発生することもアナウンスされていた。

 これらの指示は戦闘・捜索・護衛の担当を分担しつつNPCと協力してミッション遂行することを意図しているように思われる。だが、そう簡単に済む話ではないということをプレイヤーたちは理解しつつあった。

 

「ボス戦、探索、NPC護衛。どれをミスっても総崩れになりかねないのが辛いところだな」

 

「だったら速攻で終わらせてやらぁっ!」

 

「あっ馬鹿!」

 

 血気に任せて集団から飛び出していったプレイヤーが、50メートルほど走った先で突然地面に倒れて魔物たちにたかられる。同クランの仲間と思しき数人が救出を試みて返り討ちにあわされた。塵となって消滅する彼らの構成粒子の残り(かす)が風に吹き散り、風下にいた別のプレイヤー集団へと降りかかる。鬱陶(うっとう)しげにそれを振り払う黒髪の男に、傍らの女が囁いた。

 

「──市街中央エリアに向かわせていた使い魔は全滅。随伴させていた者たちもライフを全損し、宿営地のサークルへと転移したようです」

 

「分かった。こちらはこのまま進めよう。どのみち使い魔は乱戦に向かないのだし、彼らには十分休息を取ってから戻るように伝えておいてくれ」

 

「承知しました」

 

 男たちが位置するのは、集団の中央からやや後方。敵との戦いに逸るプレイヤーとは対象的に殊更ゆっくりと歩を進めるその姿は、普段周囲のプレイヤーたちが彼らに対して抱くイメージとは少し異なるものだった。

 彼らの名は【陰陽】。

 攻略組と呼ばれるクランの一つ、その中でも個々人のプレイヤースキルに特化した集団として知られる者たちだ。

 

「……だが、良かったのか? 先の戦いでは私のわがままに君たちを付き合わせてしまった。私が魔女相手に負け戦を仕掛けなければ、【陰陽(うち)】はもっと大きな戦果を得られたはずだ。ならば今回は……」

 

「反省なさったのですか?」

 

 言いながら、女は視線を目の前の男、すなわち【陰陽】のクランリーダー・カナメの胸元へと向けた。そこには、首から一枚の看板がぶら下げられている。

 

 『わたしが戦犯です』

 

 伝奇小説から抜け出してきたような怜悧な造形のカナメに似合わぬ間抜けな文言は、先ごろのファヴニールとのレイド戦において、彼が敵方の魔女と戦うためにクランメンバーもろとも突出した挙げ句、1 on 1(タイマン)で惨敗したことへの罰であった。生産系クランが売り出している、罰ゲーム用パーティグッズである。お値段298QP。

 戦犯(カナメ)は彼女の問いに、普段と変わらぬ神妙な顔で返事する。

 

「反省……と言うべきかは分からないが。だが、冷静にはなった。『FGO』はMMO(マルチプレイヤー)として作られたゲームだ。私一人が満足するためにあるものではない」

 

 なるほど、要するにまだ反省の言葉(ごめんなさい)を言う気はないと。

 女はクランチャットに<<罰ゲーム延長>>とだけ短く書き込みを加える。当然それをチェックしている一人でもあるカナメの顔が、ギシッと引きつった。

 

「待ってくれないか。どうやら君と私の間には何か誤解があるらしい」

 

 何やら弁明を試みるリーダーを無視して、女は後方を見やる。ゾンビの群れに、飛竜3。

 

「誤解を解きたければ、せめて次はより良い戦いを。【陰陽(われわれ)】のおよそ半分は、貴方の剣に惹かれて所属しているようなものなんですから。……ワイバーンが来ましたね。露払いをしてきます」

 

「……了解した。すまないね、【双つ腕(フタツカイナ)】」

 

 【双つ腕】と呼ばれた女はカナメとの会話を打ち切ると、彼の承諾を背に集団の後方から飛来するワイバーンへ向けて駆け出していく。腰と背中に(くく)り付けた4つの鞘の中から、華奢な両手で2本の剣を選び引き抜いた。

 左手の剣が道を塞ごうと現れたゾンビの突き出す汚れた指を斬り落とし、その勢いのまま彼女は身体を回すと続けざまに片足の腱を切断する。そして速度を一切落とすことなく、地に崩れ落ちる死者の脇をすり抜けていく。敵の撃破を目的としない、損害を最小限に抑える立ち回り。

 

 双つ腕の名が示す通り、彼女の戦闘スタイルは二刀流。

 しかし、プレイヤーとしての彼女を規定するクラスはセイバーではない。

 彼女のクラスは、キャスターだ。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 カナメの妹(両儀式)が両儀家の家督を継いで、それなりの歳月が過ぎている。その日々の中で、どのような経緯を辿ってか、彼女の剣を知るものがちらほらと現れだしていた。

 ……恐ろしいことだとカナメは思う。彼女に刀を抜かせるような出来事など、そう滅多にあって良いものではない。

 だが同時に、妹は随分丸くなったのだろうとも思われた。部屋に引きこもりきりのカナメには具体的な事情を知る由もないが──少なくともその事実が意味するのは、そんな恐ろしい戦闘に居合わせながら、剣を振るう両儀式を視認していながら、見逃され生き延びた者がいるということなのだから。

 

 

 そして一方で、『FGO』には俗に武術チートと呼ばれる問題がある。「現実」で修めた武術をゲーム内で行使できることによるプレイヤー間の戦力不均衡。カナメは、その体現者の一人として知られていた。

 

 いまや廃プレイヤーの一角として名を馳せる彼は、初めて『FGO』にログインしたときから、己の身体に染み込んだ剣術をこのゲームのために使うことをためらう気などまるで無かった。現世……実家への義理など大してないし、それで両儀の手の内の一つや二つが割れたところで、あの妹ならば何とでもするだろうという気持ちがあったからかもしれない。そもそも、今は西暦2015年。七夜、巫淨、浅神──そして両儀から成る退魔四家は、伝え聞くかつての隆盛からは見る影もなく衰退し、その分家や末裔も市井に紛れて久しい。既に退魔が退魔として生きるべき時代でもないのだろう。

 

 そんなことを考えながら剣を振るっていれば、いつしか彼の剣に惹かれる者が集まり、やがて一つのクランを成した。すなわち【陰陽】。

 カナメの素性を知ってか知らずか、そのクランは廃人と呼ばれる逸脱者を多く抱えることになる。彼の送る視線の先で半身になって右手の剣を構え、長い黒髪をたなびかせながらワイバーンを待ち受ける双つ腕もその一人。現実では、刀鍛冶の家の出だと言っていたはずだ。

 

 

 ──【刀崎】という家系を、カナメは知っている。

 

 骨師とも呼ばれる刀鍛冶の一族だ。

 普段はごくごく普通の鍛冶師として暮らす彼らだが、最高の使い手に巡り合った時、己の腕を差し出しその骨で以て骨刀をつくるという。

 確証は何一つ存在しない。けれど、なぜか彼女はそうなのだろうという確信があった。

 

 ──【双つ腕】という名前。現実でも古い鍛冶師の家の出らしいのに、信仰しているであろう金屋子神に嫌われるとされる女性のアバターを使うこと。二刀流という両腕の存在を誇示する戦闘スタイル。

 

 彼女がそれらを選んだ理由(わけ)を。そして彼女がなぜ仮想現実へ没入(『FGO』をプレイ)するに至ったのか、カナメはあえて問いかけようなどとは思わない。おそらくはろくでもない理由なのだろう。多分、自分と同じくらいには。

 

 双つ腕が手ずから対ワイバーン用に調整した右手の剣が、突撃してくる竜の翼を見事に切り裂いた。彼女が装備する四本の剣は、それぞれ個別の用途が定められている。双つ腕はそれらを敵に応じて使い分けることで非戦闘職(キャスター)クラスの不利を補っていた。

 姿勢を崩して瓦礫の山へ突っ込むワイバーンから大きく距離を取った彼女は、再びカナメのもとへと駆け戻ってくる。

 

 翼を破壊すれば、ワイバーンの脅威は大きく失われる。今は経験値のためにトドメを刺すことに時間を割くよりも、少しでも早くプレイヤー全体を市街の中心部へ進めるべきだと【陰陽】は考えていた。

 

(リヨンに潜む敵の首魁……鉤爪のアサシンは神出鬼没。結局のところ、奴を味方サーヴァントに押し付けてからでなければ探索は進まないだろう)

 

 街へ入ったときから使い魔を偵察に送り出してはいるものの、やはり成果は(かんば)しくない。

 先日のファヴニールとのレイド戦で改めて痛感したことだが、このゲームはプレイヤー側に勝ち目のないシチュエーションを平気で投げつけてくる節がある。事実上の負けイベントなのに、プレイヤーの技量が足りないのが悪いと言わんばかりに切って捨てるような無情さが。

 それを思えば、この街で与えられているミッションも本当に達成可能なものか疑わしいところではあろう。

 そしていずれにせよ、今日の戦いはまだまだ先が長いのだ。ならば、今は消耗を抑えて進むべきだと思われた。

 

(まあ、それも私個人の考え方に過ぎないが)

 

 そんな思考を断ち切るように、遠くの方で大きな音がして、建物が崩れた。砂埃が高く舞い上がるその奥で、巨大な人型の影が緩慢に動いている。遠目にも目立つ、不格好なまでに肥大した両腕。そして巨人の周りの建物にも奇妙な造形の人影がいくつか。

 周囲のプレイヤーたちが彼らを指差し、ざわめく。異形のキャラメイクで戦闘の最前線に立つ者たち。あれは……

 

半魔巨人(ネフィリム)のアバター……やまいこさんが来ているか)

 

 それなりに名の知れたプレイヤーだ。VRMMOというゲームシステムの性質上、人体の構造を外れた異形のキャラアバターは扱いが難しく、実戦レベルで運用できる者は限られている。現状メリットも少なく、ほとんど趣味か酔狂の領域に近いものだ。それゆえにか、マイノリティーたる異形の攻略組プレイヤーたちは内輪での連帯を重視する傾向があった。

 おそらく、彼女の所属する異形プレイヤーのクランはこちらとの協調を望むまい。互いが互いを別働隊と割り切れるならば話は早いが、そんな行儀の良い連中でもない。

 何かアクションを取るべきか? そう考えた、そのとき。

 

(……?)

 

 カナメは、ふと前方の道端に転がる瓦礫に「嫌な感じ」を覚えた。即座に迂回する進路を検討し、採用。手振りでクランのメンバーたちにも同じことを伝え、後続への伝言を依頼する。彼らがそこを通り過ぎてしばらくして、背後からプレイヤーたちの戦闘音が響いた。やはりアンデッドが潜んでいたらしい。

 

「何度見ても、どうして敵がいると分かったのか全く分かりませんね」

 

 再び彼の傍らに並んだ双つ腕が、感心したように呟いた。

 

「感心ついでに君がその剣の1本でも貸してくれれば、迂回せず私が処理するだけで済むんだが」

 

 カナメは理由を明言することを避けた。聞かれたところで、あの瓦礫が()()だったからだ、としか返しようがないからだ。

 ただ、話を逸らすことだけが目的の返答だったわけでもない。ファヴニール相手の撤退戦の後、ジャンヌたちを追ってリヨンに急行した彼のクランには、物資補充の時間など存在しなかった。魔女との戦いで愛用の剣を失ったカナメもまた、然り。今、彼の手には敵のアンデッドから奪ったばかりの玩具に等しい朽ち錆びた剣が一振り残るだけだった。

 装備に困窮するクランリーダーの言葉を受けて、双つ腕はニコリと微笑んだ。そして言う。

 

「──はい? 絶対に嫌ですが?」

 

「ああ、そう……」

 

 彼女の荷物に大量の予備の剣が詰め込まれていることをカナメは知っている。刀剣の製作と収集は彼女の実益を兼ねた趣味でもあるからして。

 だが、それでも双つ腕の答えは変わらない。

 結局のところ、それがたとえ戦場であっても、相手が利害関係を同じくするクランの仲間だとしても。個人主義極まる『FGO』廃人プレイヤーの間において、武器の貸し借りなど成立するわけがないのであった。

 




◆やまいこ
 月姫ファンディスク『歌月十夜』に収録されている読者投稿シナリオ「黎明」(作:(現)丸山くがね氏)より、山瀬舞子。
 異形アバターのみで構成されたクランに所属し、総勢41名のメンバーで活動中。
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