FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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> [1/1] ザ・ロンゲスト・デイ・オブ・オルレアン②

 

[PM 13:15]

 

「──戻りました! 休憩入ります!」

 

 もう何度目の往復になるだろうか。リヨン中心市街地へ向かう軍勢の最前列で続く、兵士たちと死者との攻防に割って入って撃退しては機を見て他のプレイヤーと交代(スイッチ)するという繰り返し。その幾度目かの戦闘のあと、休憩のため後方に戻ってきたリツカは、その場に腰を下ろして大きく息を吐く。肉体的疲労があるわけではないが、戦闘の中でHPは避けようもなく削られていくし、何よりプレイヤーではない人々に被害が出ないよう立ち回るのは、非常に精神的負担の大きい仕事だった。

 そこに、左右から差し出されるふたつのカップ。

 

「お疲れさまです、先輩。お水をどうぞ」

 

「安珍様、冷たいお水をご用意いたしました。ささ、ぐいっと一口に」

 

 リツカが顔を上げれば、目の前には美貌の少女が二人。マシュ・キリエライトと清姫。リツカと契約を結んだ、心強く信頼できるサーヴァントたち。ところで彼女たちはたった今まで自分と一緒に最前線で戦い、一緒に後退してきたはずのに、一体いつの間に水なんて用意していたのだろう……? リツカは深く考えないことにした。

 

「ありがとう、二人とも。助かるよ」

 

 さて。そう言ってはみたものの、果たしてどちらのカップから手を伸ばすべきか。リツカの片手には自身の得物である槍がある。短槍とはいえ長物を地面に置くのは、明らかに周囲のプレイヤーたちの邪魔だった。

 ゆえにカップを受け取れるのは片手、一度にどちらか一方のみ。ここ数日は仲良くしてくれているらしいマシュと清姫だが、変に順番を意識させるようなことはしたくない……!

 リツカが思案した、そのとき。

 

「フゥー、ゾンビ共をぶち殺してきたぞッ! 僕はしばらく休憩だ! ……ん? 水あるじゃん。ひとつ僕にくれよ」

 

 横合いから影が差し、スッと手が伸びてきた。呼応して、サッとカップを引くサーヴァンツ。

 カップを掴めず、空を切る手。

 

 ──沈黙が流れた。

 

「……」

 

 ああ、いよいよ面倒なことになったぞ……。

 

 そう思いながら、ちらりとリツカは視線を横に流す。手を伸ばしたままの姿勢で、ヒクヒクと強張った笑みを浮かべるリーダーが立っていた。

 

 ……顔は笑っているが、明らかに苛ついている。いつもは軽やかに風になびくワカメヘアーも、心なしか逆立っているように思われる。漫画だったら額に青筋の一つも浮かんでいるような状態だ。

 

「リツカ、お前さぁ。自分の使い魔くらいちゃんと(しつけ)ておけって……ムグっ?!」

 

 しかし次の瞬間、何事か言いかけたリーダーの口に一升瓶が突っ込まれた。

 

「はーい、リーダー。給水タイムですよー! 熱中症予防には水分だけじゃなく糖分塩分もしっかり補給していきましょうねー」

 

「ゴボ、ゴブっ!? グブァ! ブゥッ!!」

 

「セオさん!?」

 

 後ろから突如リーダーを羽交い締めにし強制水分補給を行い始めたその女性は、リツカのクラン仲間のセオだった。

 苦しみ藻掻くリーダーをプレイヤー特有の握力でがっしり固定しつつ、いつもと変わらぬニコニコ笑顔でリツカに言う。

 

「もう、リツカくん。駄目ですよ。そうやって人前で見せつけてると、周りの目の毒なんですから」

 

「いや、見せつけてたわけじゃ……」

 

「ブファ! ッッッ……セオッ! おおおお前! ぼ、僕を殺す気か!?!」

 

 地上で溺死する寸前の状態から辛うじて拘束を振りほどき生還したリーダーが、咳き込みながら怒鳴りつける。リツカは、いつぞやマシュに蜂蜜酒の酒瓶を口へ突っ込まれたことを思い出して苦笑する。セオは素知らぬ顔でしらばっくれた。

 

「ソンナコトアリマセンヨー。あーあ、せっかく作った経口補水液(スポドリ)なのに、こんなにこぼしちゃって」

 

「やり方ってもんがあるだろ!? だいたい、こんなもん一体いつの間に」

 

「エミヤさんが作ってくれたんですよ。ねー?」

 

 そう言って、セオは自分の背後に無言で立つシャドウサーヴァントに笑いかける。黒一色の影から表情を伺うことはできないが、どことなく誇らしげなようにリツカには思われた。

 セオの様子に毒気を抜かれたリーダーは仕方なさげに舌打ちし、そのまま口周りに残った液体をぺろりと舐める。

 その顔が、軽い驚きのものに変わった。

 

「チッ……。…………うん? 美味いな、なんだこれ」

 

「あ、分かります? 配合まで全部エミヤさんにおまかせだったんですけど、水と砂糖と塩くらいしか使ってないはずなのに、こんなに美味しくできるんですねー。わたし感激しちゃいました」

 

 ……そういえば、聞いたことがある。一流の料理人は、お湯と塩だけで美味しいお吸い物を作れるという……。

 いつぞや友人から教わったムダ知識がリツカの脳裏をよぎった。真偽の程はさだかではない。でもこの場で口に出したら隣のきよひーに焼かれる予感がするので、たぶんいつもの嘘だと思う。

 

「はい、リツカくんもお疲れ様。いやー、それにしても今日は夏日ですねぇ」

 

「えっと……ありがとうございます」

 

 ぽん、とカップを手渡されたリツカは、先程までの葛藤を一瞬忘れて、勢いに流されるままそれに口をつけてしまった。

 喉を流れ落ちる冷たさ、そして爽やかな塩味と甘味に、心がすぅっと洗われたような気持ちになる。

 

「あ、美味しい」

 

「でしょう?」

 

 一方、そんな様子のマスターをぐぬぬという表情で見つめるサーヴァントが二人。清姫とマシュはどちらともなくそれぞれ自分のカップの中身を一息に飲み干すと、それを料理上手な影の弓兵へと差し出した。

 

「──わたくしにも一杯、いただいてよろしくて?」

 

「す、すみません。わたしも……」

 

 弓兵はニコリともせず──仮に笑ったとしても影一色では分からなかっただろうが──どこからともなく新たな一升瓶を取り出すと、慣れた手付きで二人のカップに液体を注いだ。その所作は見る者が見れば完璧なボトル捌きであったのだが、未成年相当の少女二人がそれを知ることはない。お酒は20歳になってから。ゆえに二人はただ挑むような気迫でカップを口に運び、ややあって目を見開くと、悔しげに呻いた。

 

「む、むぅ……。これは……清姫さん」

 

「…………悔しいですが、此度は分が悪いと言わざるをえないようですわね……。ですが!」

 

 ビシィッと清姫はシャドウ・エミヤに指を突きつける。

 

「これで勝ったと思わないでくださいましね! 良妻(サーヴァント)の本分は料理だけにあらずなのですから!」

 

 そう言って、ふんすと鼻息荒く踵を返す。その片手は、しっかりとマシュの鎧の襟元をつまんでいた。

 

「あっ! ちょ、ちょっと、清姫さん!?」

 

「作戦会議をいたします! 次の戦闘で、あっと驚く戦果を見せてさしあげましょう!」

 

「い、いえ、その、先輩抜きで作戦会議してもあまり意味が……」

 

()()()を尽くすのです! 最善(べすと)を! 牛の忍耐、蛇の執念、豹の行動ですわ!」

 

「牛と豹を仲間に加えてから言ってくださいぃ~……」

 

 マシュが建物の影へと引っ張られていく。

 

 

 ……そんな二人を苦笑しながら見送るリツカの表情が、急に引き締まった。

 視界には無機質な赤色のシステムメッセージ。

 

 

【!WARNING!】【MISSION UPDATE】

【討伐ミッション】【『鉤爪のアサシン』を撃破せよ】

【討伐目標が発見されました】

 

【SERVANT】【ASSASSIN】【鉤爪のアサシン?】【Lv.???】

 

【勝利条件:鉤爪のアサシンの撃破】

【敗北条件:『竜殺しのサーヴァント』の消滅】

【特記事項:味方NPCの生存数に応じた追加報酬】

 

 

 情報が共有されたのだろう、今しがた物陰に移動したばかりのマシュと清姫が駆け戻ってくる。

 

 リツカは二人にうなずき、敵サーヴァントの出現地点であるリヨンの中央市街地に向けて駆け出した。

 

 その頭上では、進軍を始めたときまだ山裾(やますそ)にあったはずの太陽が既に天頂を過ぎ越している。

 リヨン攻防戦。戦いの本番は、これからだ。

 

 

 

[PM 13:24]

 

 

 リヨン中央部にある広場には、奇妙に積み上げられた『瓦礫』が怪物じみた影を作っていた。

 

 その瓦礫の山の上に立ち、侵入者を見下ろす痩身の男が一人。両手から伸びる鉤爪は血に濡れ、その顔は道化師のような仮面で覆われている。

 

「La-lalalala……」

 

 眼下にひしめくプレイヤーたちの喚き声がまるで聞こえていないかのように、男は歌曲らしき一節を口ずさむ。

 そしてバサリと飛び降りると同時に、大剣を振りかざして真っ先に駆け寄ってきた奇抜な格好(カルデア戦闘服)の女を右手の鉤爪で一突きにした。

 

「えぇッ!?」

 

 その速度に反応できなかったのか、信じられないものを見るような目のまま、女は黒い魔力の塵となって溶けていく。

 美しくない断末魔だと男は思った。

 

「醜き者を私は呪う。ゆえに私をこそ私は呪う。────死にに来たか。醜き者共よ」

 

 侮蔑と挑発を込めた言葉にプレイヤーたちの怒号が返り、そして殺戮が始まった。

 

 

 

[PM 13:27]

 

 

 最初に接敵したプレイヤーたちの集団が全滅するのに、三分も掛からなかった。

 

「Lalalala……」

 

 アサシンは歌いながら鉤爪を振るう。殺しながら歌い続ける。

 なるほど、これがプレイヤーというものか。アサシンは主たる魔女から伝えられた敵の陣容について思い出していた。人間にしては力が強く、反応も早い。だが、それでもサーヴァントたる彼を相手取るにはあまりにも鈍重だった。

 

 作り物じみた容姿は論外。声質も評価に値しない。その上、動作までも(のろ)く美しくないというのなら──

 

 せめて、散り際くらいは美しく。

 

「舞い散りなさい」

 

 そうして、その場にいた最後のプレイヤーの心臓を彼の鉤爪が貫いた、その瞬間。

 頭上に、巨大な金属の塊が落ちてきた。

 いや。それは──おそらくは「盾」であるのか。

 大振りに殴りつけてくる巨大な質量を飛び退いてかわせば、その盾の持ち主は不釣り合いに細身の少女であるのが見て取れた。少女は叫ぶ。

 

「清姫さんっ!」

 

「見ていてくださいましね、安珍様!」

 

 アサシンが回避するのを読んでいたのか、まさに彼の着地したその場所に、()()と唸りを上げて火球が飛来する。再び飛び退いて火球の出どころを見やれば、そこにはまた別の少女の姿があった。

 

「シャァァァァ……」

 

「清姫、反撃に備えて」

 

 奇襲を(かわ)されたことが悔しいのか、東洋風の装いに身を包んだ少女は蛇のような威嚇の声を漏らしている。盾の少女と、蛇の少女。彼女たちはアサシンと同じサーヴァントであるようだった。その後方で彼女たちに支持を出しつつ槍を構える青年は、噂に聞くサーヴァントを従えるプレイヤーという手合だろうか?

 

 敵対するサーヴァントとそのマスターの出現。それ自体はアサシンに何の驚きも与えなかった。

 想定されていた脅威を、ただ主たる魔女の命じるままに殺し去るだけだ。

 

 周囲からは、他のサーヴァントと思しき気配が近づいてくるのが感じ取れる。彼の宝具が多数を相手取れるものとはいえ、あまり目の前の相手に時間は掛けられないか。仮面の奥で、アサシンの唇が冷たく(わら)った。

 

 

 ──ならば聞け。我が天使の歌声を。

 

 

 魔力が渦巻き、彼が先刻まで立っていた『瓦礫(シタイ)』の山が(うごめ)き出す。

 その骨肉が鍵盤となり、筐体となり、超自然の暗い炎を纏う巨大な構造を作り出した。パイプオルガンと呼ぶには異形にすぎる存在。それはまさに「呼吸をしない怪物」とでも言うべきものであり、アサシンはその前面に(しつら)えられた演奏台の上に立つ。

 

「歌え……歌え我が天使。【地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)】」

 

「ッ! マシュ、宝具を!」

 

「了解です、先輩! 真名、偽装登録──!」

 

 

 少女が盾を構える先で、異形の楽器が破滅の音を響かせて──

 

 

「【死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)】!!!」

 

 

 ──濃密な死の気配を纏う、異なる旋律によって掻き消しあった。

 

 

「!? これは……」

 

 アサシンは困惑する。宝具が打ち消されたことにではない。

 彼の意識はただ、彼の歌を掻き消したその音色が、()()()()()()()()()()ことに戸惑っていた。

 

「やれやれ……。音楽に載せる感情は自由だと言うけれど、先だっての魔女といい、こちらの彼といい、こうも怒りだとか憎悪だとかネガティブな感情ばかり聴かされるとね。葬送の楽隊だってもう少し陽気にやるものだぜ?」

 

「茶化さないの。アマデウス」

 

「おっと、怒られてしまった。こいつは失礼」

 

「もう!」

 

 その音色を奏でた乱入者──金色の長髪の音楽家と、馬鹿でかい帽子を被った貴族風の女。共に、サーヴァント。

 

 ……いや、待て。あの貴族風の女は、音楽家の名をなんと呼んでいた?

 

 アマデウス?

 

 アマデウスと言ったか?

 

 ……アマデウスと、言ったのか。

 

 その名は……。

 

 

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。その名は、音楽に生きる者ならば知らぬ者はない。

 

 かつて、在りし日のアサシンが彼の歌姫クリスティーヌをプリマドンナとして導いた舞台。オペラ『ファウスト』。

 その作曲者であるシャルル・グノーに大きな影響を与えたのもまた、天才モーツァルトの遺した音楽であった。

 

 誰もが知り、誰もが認める不世出の天才が、今、時を越えて己の前に立っている……。

 

 その事実が、アサシンの中で不可解な感情を呼び起こそうとしていた。

 

 

 

 

 アサシンは、これまで自らの音楽的才能に疑いを持ったことはなかった。ただその生まれ持った容姿の醜さと、その醜さゆえに彼を(うと)む者たちだけを憎んで生きてきた。だからこそ、才色兼備なる美しきクリスティーヌを求め導いたのだ。

 だが、その音楽的天才性はどれほどのものだったのか? 十年に一人、いや二十年に一人?

 そこらの凡俗との圧倒的隔絶は言うまでもあるまいが、しかし、かのアマデウス(神に愛された男)と比較したならば……。

 

(────否! 否!!!)

 

 アサシンは大きくかぶりを振って、眼前の天才を強く睨みつける。

 プレイヤーたちのことも、先に仕掛けてきたサーヴァントの少女ふたりのことも、魔女の命令さえ、既に彼の意識からは消え去っていた。

 

「お前は。私を殺しに来たのか、アマデウス」

 

 アマデウスは目を細めた。

 

「いいや? 僕はただ、このフランスの有様を何とかしてやりたいだけだ。その過程でたまたまこの戦場を訪れたに過ぎない。あいにく君が何者かは知らないが、わざわざ殺しに来てやるほどの因縁も思い入れもありはしないな」

 

「──そうか。私の『演奏』を聞いてなお、お前は、この私に対して()()()()()()()()()()()()というのだな」

 

 語気を強めるアサシンに向かって、アマデウスは片眉を上げて言う。

 

「それはまあ、そうさ。人を傷つけるためだけの音楽なんて、そんな七面倒臭いやり方、僕ならゴメンだね。そういうことがしたいなら、そら、そこらの兵士どもと同じく剣でも槍でもその手にとって自分の中の野蛮さに身を任せるがいい。その方がずっとシンプルというものだ」

 

「……」

 

 この男は……。

 

 アサシンは、そのとき己の内に生じた感情が何であるのか判らなかった。ただ、その不明な感情が一瞬の内に恐ろしい勢いで膨れ上がり、かつて経験したことのない黒々としたもので己の精神を染め上げようとしていることだけを認識した。既に狂気の中にあるはずの、この魂を。

 

 ──それは、あるいは嫉妬とでも呼ぶべき感情だったのかもしれない。

 

 それが、そんな卑俗な言葉で片付けられるような単純なものでなかったとしても。

 かつてアサシンが、愛する女(クリスティーヌ)の恋人であった(ラウル)に抱いた嫉妬の情とは異なるものであったとしても。

 

 「オペラ座の怪人」に登場する仮面の男ファントムは、作中において音楽的天才として現れる。その醜い顔貌や凶行に至る精神性については多くの瑕疵が挙げられよう。しかしクリスティーヌを導く「天使の声」としてのファントムは、音楽家としても指導者としても、間違いなく一人の天才であった。その指導に誤りはなく、歌姫は目覚ましい成長を遂げた。

 

 だが──彼女には、()()()()があったのではないか?

 

 私は、本当に、あのクリスティーヌの才能のすべてを引き出せていたのだろうか。もしかしたら、あのオペラ座の誰一人にも文句を言わせぬだけの歌姫としてクリスティーヌを完成させることが出来たのではないだろうか。麗しきクリスティーヌから主役の座を奪った恥知らずの女を、シャンデリアの下敷きにする必要もなかったほどに。

 

 例えば、彼女を導いたのが目の前の天才(アマデウス)であったなら……?

 

 一度抱いた疑心は、毒のように魂を犯す。ならば。ならばこそ。

 鉤爪のアサシンは、オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)は、仮面の奥で強く己の歯を噛み締める。

 

 私は、この天才を(たお)さねばならない。

 

 私が「天使の声(ファントム)」であるために。

 クリスティーヌを導くに相応(ふさわ)しい存在であると証明するために!!!

 

 

「我が名はファントム。我が魂はここに。我が声はここに……」

 

 呟く声と同時、魔女との契約を通じて聖杯から与えられた魔力がファントムの身体を通して溢れ出し、黒く渦を巻いた。闇の中から、再び彼の宝具たる異形のオルガンが姿を表す。互いの宝具にして生き様たる「音楽」を以て勝負を決し、彼我の優劣となす。それが、ファントムの中に根付いてしまった疑念を打ち払う唯一の方法だった。

 

「どうやら本格的にやり合うしかないようだ」

 

 応じるように、アマデウスが臨戦態勢を取る。

 

「ここは僕たちで引き受けよう。リ……プレイヤーの君たちは『竜殺し』の探索を進めてくれ」

 

「わかった……行こう、みんな!」

 

「はい!」

 

「わたくし、今回なんだか良いとこ無しですわ……」

 

 去っていくサーヴァント二人に、ここまで事の成り行きを見ていたプレイヤーの一部も追随する。

 マスター・リツカと彼のサーヴァントとの関係は、いまだ公に明かされてはいない。カルデアの意を汲んで言葉を濁したアマデウスから見れば、時間の問題だろうとも思われたが。

 いずれにせよ……この場になお残ったプレイヤーには怪物たちの相手を手伝ってもらうとして、サーヴァントとの戦闘そのものについては同じサーヴァントが立ち向かうのが筋というものだ。

 

 アマデウスは指揮棒を取り出し、傍らの貴人(マリー)に一礼して願う。

 

「──マリア、この演奏を貴女に捧げます。ともに歌っていただけますか?」

 

 マリーは華のように微笑み、彼に答えた。

 

「もちろんよ、喜んで!」

 

 

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