FGO<Fate/Grand ONLINE>   作:乃伊

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>> [1/2] 合流、離別、あるいは再動

 

[PM 21:10]

 

 ズシャアアアッ、と地面に盛大なブレーキ痕を残しながら、ケモミミはクー・フーリンの目の前で疾走を停止した。

 

 とーぅ!

 

 俺はケモミミの肩からずるりと滑り降りると両手で魔女を抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこの体勢だ。俺の両腕の隙間から、重力に引かれて彼女のスカートの布地が垂れ下がる。スリットからチラ見えする太ももが月明かりに白くまぶしい……!

 

「さて、私の仕事は終わりだな。確かに二人揃えて送り届けたぞ」

 

 ケモミミは、俺を載せていた肩の汚れを払うようにしながら言う。

 そんなバッチィもの触ったみたいにさぁ……。芸術(なまあし)審美によって回復した俺の心がまた微妙に傷ついた。が、まだそれに耐えるだけの精神的余裕は残っている。というかむしろ、そういう潔癖な感じは悪くない。そういう直接的な接触を嫌う女にベタベタくっついていたという事実が、何というか、プレミア感あるよね……! うん、すげぇよアンタ。

 俺は割り切ったので、素直にケモミミを褒めるフェーズへと移行した。実際マジで速かった。ターミネーター(シュワルツネッガー)かな?って感じの爆走だったからね。結局正体は分からずじまいだが、間違いなく足の速さで人類史に名を残した英霊と見た。最初死にかけたのだって、最早いい思い出と言っても過言じゃない……。

 

 そんな感慨にふける俺の鼻先をかすめて、クー・フーリンの迎撃をすり抜けた炎弾が落ちてくる。うわアッチぃ! とっさに飛び退いた俺の高くもない鼻先が焦げかけていた。ルーン弾幕薄いよ!?

 

「流れ弾くらい自分でかわせよな……。つーか、いい加減その魔女連れて移動するぜ。リヨンでカルデアの連中が待ってるからな」

 

 もうそこまで話進んでるんだ? 仕事早いな、オルガ。

 OK、さっさとこんなトコからはずらかろう。あ、でもちょっと待って。

 

 ……アンタはどうする? 俺はケモミミに尋ねた。尋ねながら、視界に浮かべたシステムウィンドウでミッション一覧をざっと確認する。ケモミミアーチャーに対する討伐ミッションは特になし。そもそもこのオルレアンでケモミミの仕業だろう「矢の雨」に襲われたプレイヤーは大勢いたけど、下手人は報告されてなかったからな。敵対しようもなかったということだ。そして今の状況なら運営(カルデア)だって味方NPCとして扱うだろう。もちろん、アンタが共闘してもいいって言ってくれるならだけど。

 俺は同意を求める。

 ケモミミはにべもなく断った。

 

「やめておこう。私は私の好きにさせてもらう。────復讐も服従も、もうたくさんだ」

 

 ……そうか。だったら仕方ねぇな。ま、あとしばらく俺たちはリヨンの方でファヴニールとやり合ってるからさ、気が向いたら加勢してくれや。

 ケモミミは俺の言葉に返事することなく、ぴょんと一飛びでリヨンと逆の方角へ飛び去った。

 俺はクー・フーリンに向き直る。よっ、と気合を入れて気絶しっぱなしの魔女様を抱え直した。

 じゃ、行くか。

 

 

>> [2/2] 良貨、悪貨、あるいは奇貨

 

 プレイヤーがファヴニールと直接対峙するのはこれで二度目だ。

 この間の敗戦でその巨体相手に手も足も出せないまま敗走を余儀なくされたプレイヤーたちは、その失敗から何も学んでいなかったわけではない。直接殴り合うのが無理だというのは考えるまでもなくハッキリしていたし、であればアーチャークラスのプレイヤー確保を含め、遠距離攻撃手段の拡充が必要なことは自明だった。同時にセイバー、ランサーあたりの近距離戦闘特化クラスの連中を中心に、新兵器が急速に導入されることになる。

 

 ま、全部俺がオルレアンの牢屋に入ってた間の話だから、俺も見るのは初めてなんだけど。

 

 クー・フーリンのルーン射撃を背にリヨンへ駆け込んでいく俺たちを援護するように、市街地の本陣からファヴニール迎撃に出てきたプレイヤーたちが手に手に『それ』を携えて陣形を組んでいく。

 

「アァァーートラトォーーーール!!!」

 

 どこぞのクランリーダーと思しき、知らないプレイヤーが叫んだ。

 その手には細く長い投げ槍と、それを引っ掛けて飛ばすための投槍器(アトラトル)が握られている。テコの原理で槍を投げ飛ばす原始的な構造の兵器だ。どれくらい原始的かというと、大昔マンモスを狩るために使われていたとか、アステカ神話の神様が槍投げするときに使ったとか、そういうレベルの代物である。アステカの神様ってアレよ、とあるシリーズに出てくる金星光線ブッパしてくるやつの元ネタね。要はファヴニールが神話伝承に出てくる竜だから同じく神話にも出てくるような武装で対抗しようってことかしらん。……いや、単に構造が単純だから用意するのが簡単だったとか、そういう話だろうな……。

 

 ともあれプレイヤーの人間離れした馬鹿力で投げ放たれた投槍は、ヒュルヒュルと風切り音を立てて回転しながらファヴニールへと飛んでいく。

 ……効いてるのか、あれ?

 効果の程は知らんが、足止めか嫌がらせくらいにはなると信じて、俺たちはリヨン市街へと走っていく。

 結局、聖杯の回収とやらが具体的に何を指すのか分からずじまいなのは不安だが、まあマシュさんに聞けばなにかしら分かるだろ。

 

 

 

◆◇◆

 

 

「こっちだ! 急いで!」

 

 瓦礫だらけの市街地へ走り込んだ俺達を、聞き覚えのある声が出迎えた。プレイヤー集団の中から見知った顔が歩み出てくる。リツカ! 背後にはマシュさんと清姫もついてきている。

 ナイスタイミングだ! 俺はお姫様抱っこしていた魔女様を運営(マシュさん)に投げ渡して納品した。

 ヘイ! パース! 後は任せた! ミッションクリアー!

 

「ええっ!? ま、待ってください!?」

 

 人間一人分の質量を押し付けられてワタワタしているマシュさんを横目に、任務完了した俺は続けざま雑談休憩(インターミッション)へと突入する。

 ようリツカ、チャットは普通にしてたけど直接会うのは久しぶりだな。こっちも大変だったんだって? ああ、ログ読む暇なくてさ……そんなきっちり把握してるわけじゃないけど。いやスマンて。俺だってこんな急展開するとは思ってなかったからさァ。あれでしょ、運営アナウンス的には今日でこの特異点終わらせろーみたいな感じなんでしょ?

 

「君のおかげでね」

 

 いやいや。違うぜリツカ、こいつは成り行きってやつなんだよ。

 俺は変なことしてないのに元のシナリオが勝手に壊れたの。

 

 何事かと周囲を取り囲むプレイヤーの珍奇の目を無視して、俺は自己弁護しようとした。だがその流れで行くとデオンさんにシナリオ崩壊の罪をおっ被せることになるので、それはそれで不本意だなと思い、まあ何だ。俺にできたのはウニャウニャモゴモゴと不明瞭な謙遜の言葉をリツカに返すことだけだった。

 デオンさんが悪いわけじゃないんだ。でもね、俺が悪いわけでもないの。俺は頑張ったんだよ。頑張ったんだけど、なんかもうメチャクチャだなって。話の流れが止まらなかったの。ね。だから結果は仕方ないってことで過程を見て評価してくれないか。

 

「え? だって魔女を捕まえたんだよね? そりゃあ、褒めるよ。うん。すごい!」

 

「……マシュさん? あれなる安珍様(ますたぁ)の御友人は敵の首魁を生け捕りにする武功を挙げたのでしょう? それなのに、どうして悪いことをしたような口ぶりなのですか?」

 

「さあ……? 先輩のご友人にこう言うのもなんですが、正直あの人の考え方はよく分かりません……。というか清姫さんが反応しないということは、あれ本当に本心で言ってるんですね……」

 

 他の二人はともかく、リツカの返事からは邪心が感じられない。純真か? なぁ。そういうことなんだよな。やっぱ最後に信頼を勝ち取るのは誠意ある態度と友情ってなわけよ。分かる? お前らに言ってるの。ナ?

 

 俺はグリンと首を180度回転させ、背後から俺達を追いかけてくるプレイヤー共を睥睨した。ここに来るまでの道中で俺たちを見つけて付いてきた連中だ。

 

 魔女様を速攻で運営関係者(マシュさん)に預けてなかったら、コイツらは全力で俺から魔女様という名の報酬フラグを奪い取り(エナり)に掛かっていただろう……。そういう嫌な信頼があった。そしてその闇属性の信頼に応えるように、周囲のハイエナ未遂勢どもは俺に対してブーイングを返す。ブー! ブー!

 

 ……ハァー? こんなとこでチンタラやってた奴らの言葉なんて聞こえませんけどォ?

 つーか報酬アナウンス楽しみだなァ、運営さんお仕事まだかなァーーー!?

 

 俺は素早くその場で屈伸した。この煽り、VRでやると煽り入れてるはずの俺がスクワットする羽目になってめっちゃ間抜けなんだけど、それってどうにかなりません? かと言って手軽さだけを求めると、だったらフ■ックサインでいいじゃんみたいな話になるんだよ。そこまで下品なことはしたくないの。でも煽りを正当化できるタイミングなら煽りたい。しかしそもそも煽り行為自体が下品では?と聞かれたら「そうだね」と返さざるをえないので、品性とは一体何だろうね…‥?

 

 そんな悩みを抱えた俺の頭上を、どこからともなく飛来したガンドが複数通り過ぎていく。報酬独り占め行為を企む俺を妬んだプレイヤーによる呪いの魔弾だ。あるいは、朝から丸一日戦い続けてきたところへ裏ボストレインしてきた俺に対する怒りの魔弾かもしれない。

 

 事情はともあれ、俺を取り囲むプレイヤー連中が徒党を組んでいるせいか、あるいはファヴニール接近により市街地も戦場判定を食らっているのか、どうもこの場は混雑時のフレンドリーファイア情状酌量が適用されているらしい。おっと、足元にもガンド! 俺は華麗にジャンプ回避しようとした。だがその瞬間、やや高め狙いで横から飛んできた別のガンドにぶち当たって撃墜された。しびびびび……。

 

「ウェーイ!」

 

「「「ウェーーーイ!」」」

 

 俺を撃ち落としたゴミどもが歓声を上げる。状況把握用に開いていた広域文字チャットがファヴニールと関係ないところで速度を増して爆速で流れていく。あっという間に今の切り抜き動画が投稿された。LOLじゃねーんだよ。笑ってる暇があったらさっさとファヴニールの尻尾なり何なり切りに行ってブッ殺されてこい。役目でしょ? ていうかお前らがそうやってログ流すから、俺ァこっちの状況がさっぱり分かんねンだけど。誰か説明してよ役目でしょ。

 

「なんでこの人スタンしながらこんな偉そうに喋れるの……?」

 

「事情が分かんねーってのはむしろこっちのセリフだろ」

 

「まずあのクソでかドラゴンをここまでトレインしてきた経緯を説明しろや」

 

 俺を取り囲んだ知らない人たちが再びブーブーと文句を言った。俺は反論を試みる。

 成り行きですゥー! 俺はみんなが来るまでオルレアンでダラダラしてるつもりだったのに、なんか突然邪悪なピタゴラスイッチみたいな流れで同士討ちが始まったんで、命からがら逃げてきたんですゥー!!

 

「被害者ムーブに全力出したせいで魔女(ラスボス)を生け捕りにするくだりが一言もないのは草生える」

 

「なんでだろう、そのピタゴラ装置とやらを起動したのはコイツだっていう確信がある」

 

「え、マジでこの人いつもこんななんです?」

 

「リハク野郎はリハク野郎だからな……」

 

「闇属性の信頼があるよね」

 

 知らない人たちから俺への評価がひどい。

 そんな、昔ちょっとプレイヤーイベントとかの企画で無茶しただけじゃん……。運営がイベントをやってくれないから、せめて俺たちでやろうぜみたいなノリでさぁ。俺としては、素人の素朴な手作り感でいいから季節の行事なんかをみんなで共有したいって気持ちがメインだったわけ。でも、こちとらVRMMO初心者でしょ? いや『FGO』が世に出るまでVRMMMO初心者じゃない人なんか存在しなかったんだけど。しいていうなら「なろう」とかでそういう小説書いてた作家さんくらい? とにかく、やっぱオンラインイベント経験者みたいな人たちとも連携して盛り上げたいよねっていう事情があった。そこで手を組んだのがカネさんみたいな検証勢だ。『FGO』の検証勢って、リアルでもそういうお仕事してるのかなって人とか、VRじゃなくても昔ゲームの検証作業やってましたみたいな人が結構いるわけじゃん。それで、その人達が検証用に制作した機材を借りたり協力者集めの伝手を紹介してもらったり、色々お世話になったんだよ。でも、そもそも向こうは『FGO』の検証がしたいっていう目的があるわけでさあ。俺たちもせっかく協力してくれるんだからWIN-WINの関係を目指したい。そうすると、必然的にプレイヤーの限界を試すような方向にイベントも進むよね? 分かってくれるだろうか分かって欲しい。

 

「……急にぺらぺら喋るやん?」

 

「イベント参加者が一方的にLOSEの関係なんですがそれは」

 

「【カル甲田山】*を忘れたとは言わせないぞ……! あのイベントのせいで、何人死んだと思ってる……!?」

 

 いや、そうは言いますけどね?

 基本プレイヤーイベントって企画側の手弁当だからアンケ取ってもあんまり悪く言う人少ないし、逆に悪く言う人はクレーマーかってレベルで理不尽な事言ってくるしで、正直何が求められてるのか把握しにくいとこはあるんだよ。的を射たコメントってやつの難しさな。完璧な参加プレイヤーがいないように、完璧な企画プレイヤーもいないんだ。ゆるすこころの大切さ。

 ……ていうか【カル甲田山】、あれ企画したのは俺じゃねーから! いや確かに俺も多少は手伝いましたけど! 

 

 参加プレイヤー全滅イベント主催者の濡れ衣を着せられた俺は憤慨した。

 くそう、マキジさんめ。凶悪イベントを主催したばかりか、俺の知らないところで俺の悪評の原因になるなんて酷いことを! 正直自分も別なイベントで似たようなことをした記憶はあったが、今この場で言及されてないなら特に問題ないと思います。

 

 まあいい。わかった。わかったよ。これ以上この話を深堀りされたくなかったので、俺は降参の意を示すことにした。

 一連の流れについてはちゃんと動画撮ってあるから。この戦いが終わったら編集してアップするんでそれ見て判断してくれや。

 

「いいや、今やれ」

 

「すぐやれ」

 

「むしろ無修正でアップしろ」

 

 いや無茶でしょ。ここ戦場ぞ? 戦場で敵が目の前にいるのに動画投稿始める兵士がいたら、そいつは重度のSNS廃人かなんかだよ。

 

 知らない人たちは本格的に議論(レスバ)モードに入ったのか、更に何か言い返そうとする。

 だがその瞬間、一際大きな咆哮が響いて大地が揺れた。

 

「こっちに来たぞーーーッ!!!」

 

「アーチャー! 第一次、第二次の迎撃配置が全滅した! 増援に向かえ、アーチャー!」

 

 お、ファヴニールさんのリヨンご到着じゃん。ナーイスタイミング!

 ガンドによるスタンも切れていたので、俺はガバっと勢いをつけて起き上がる。知らない人たちと言い争っている間に、リツカたちはいなくなっていた。魔女様もいない。どこに連れて行ったんだろうな?

 

 まあ、戦いが終わってからマシュさんにでも聞けばいいさ。自分の責任は果たしたからな。俺はその辺に転がっていた剣を掴み取る。スケルトンあたりが装備していたものらしく、赤く錆びつき刃こぼれが酷い。こんなものを売ってもカネにならないので放置されていたのだろう。だが、鈍器の代わりくらいにはなりそうだ。

 

 へへっ、久しぶりの実戦だな。

 あれ、そういやクー・フーリンは? あいつもう戦い行ったの? 俺を置いて? マジ?

 あ、でもパスでなんとなく居場所分かるな。じゃあ現地合流か~。

 

 ま、そういうわけで、ちょっとファヴニール殺してくるから。

 俺はピッと指を立てて知らない人たちに別れの挨拶をし、爽やかに駆け出した。

 お前らもあんま人のことばっか気にしてないで、気持ちよく戦おうゼ!

 走り去る俺の背中に一際大きな(ののし)りの声が響いた……。

 

*
1-12(前)参照

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