>>> [1/3] 焼け跡にて
あれだけ赫々と燃え盛っていた炎も、やがては消える。
脱力感が限界突破した結果、生まれたての子鹿が生きるのを諦めたような有様で地べたに座り込んでいた俺だが、やっと一息つくことが出来た。
「おう、お疲れさん」
「ああ、そっちもね……」
「なんだ、腰が抜けたか? ま、初めてにしちゃ悪くなかったぜ」
「……処女喰った男みたいな台詞やめろ……」
くそ、なんだこの脱力感は。ゲーム中の感覚が
「ほら、立てよ。まだ終わっちゃいないからな」
「……ありがと」
クー・フーリンに助け起こされて立ち上がってみれば、前方では逆にリツカがマシュさんを助け起こしている。凄いなお前。そして、なんてことだ。俺はクー・フーリンへの礼の言葉もほどほどに悲嘆の意を露わにした。俺たち男と男の奇妙な友情タッグに対して、あちらの二人は少年少女のキャッキャウフフ青春ペアだ。同じゲームをプレイしているはずなのに、こんなにも絵面が違う。
「あっちが羨ましいかね? じゃ、俺たちも男同士、女を口説きに行くとしようや」
そう言うクー・フーリンに連れられて、ウィッカーマン跡地へと歩き出す。女? ……ああ、アルトリアか。まだ生きてるんだな。戦闘で弱らせたら【契約】できるとかそういうシステム無いだろうか。令呪使っちゃったから無理か? うーん、ありそう……。
……俺たちプレイヤーが操作するキャラクターアバター
要は、「自分」の定義を拡張しているんだ。
考え方自体は難しい話じゃない。世の中には
マスター=プレイヤーの意を受けて、サーヴァント=NPCが動く。クー・フーリン氏を見る限りどこまで俺の意向に従ってくれるかは分からんが、まあその辺は友情を深めれば多少はマシになるだろうと思いたい。
サーヴァントはプレイヤーと一蓮托生の第二の自分みたいなもんだから、当然令呪も使える。【契約】したマスターとサーヴァントは、【パス】を介したラインとやらで直に繋がってるらしいからな。
……直結、ねぇ。ますます男と契約したくなくなってきたぜ。
>>> [2/3] 黄金の別離(響かず)
「見事だ」
リツカたち二人を追い越した先、ウィッカーマンが焼け落ちた跡の黒焦げの地面にアルトリアが立つ。一見無事だが、かなり消耗しているのが見て分かった。
……分かった? ナンデ? 俺は思わず頭をかきむしった。
くそっ、知覚が影響受けてるじゃないか! 俺の目を弄ったな!? 【契約】すればサーヴァントの知覚能力を共有できるってことかよ……便利機能を無断で実装するんじゃねぇ!
「おい、セイバー。まだやるのか?」
いや、今はアルトリアが優先か。
クー・フーリンの言葉を受けて、大ボス様は口元を歪ませた。まだやる気か? 俺はクー・フーリンの背後でシャドーボクシングを繰り出し戦意旺盛であることをアピールする。アルトリアは言った。
「フッ、止めておこう。存外に良いものが見れたからな」
「良いものだと?」
聞き返すクー・フーリンを無視して、アルトリアは視線を俺たちの後ろにやった。その先には、追いついてきたらしきリツカとマシュさん。そして更に後ろには、さっきの大魔法ウィッカーマンで決着がついたと判断したのかゾロゾロ近寄って来るプレイヤーたち。大団円を見届けに来たってとこだろう。
……あれ、そういえば上に飛ばされた連中遅くないか? これイベント終わる流れだぞ?
「マシュ・キリエライトと言ったな。守る力……なるほど、『弱き者のために』ということか。あの高潔な騎士らしい」
どの高潔な騎士だ。伏線か。
「──フ。結局、どう運命が変わろうと、
そう言うアルトリアの全身が金色の光エフェクトに包まれ始めた。ホーリーな感じ。
「どういう意味だ。テメェ何を知ってやがる」
クー・フーリンの再度の問いかけに、今度はアルトリアも応じた。
「クー・フーリン。そしてカルデアの貴様らも……いずれ知る。グランドオーダー。聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりだということをな」
「オイ待て、そりゃどういう……」
困惑するクー・フーリン。その全身が金色の光エフェクトに包まれた。超ホーリーな感じ。
……オイ待て、そりゃどういうことだ。こっちの台詞だ。
「チッ、時間切れか……悪いな、ここでお別れだ。後は任せたぜ。次は……ま、縁があったらまた会うだろ。じゃあな!」
そして黄金の光に包まれた二人は、まるで成仏する如くスーッと消えていったのであった……。
……え、【契約】終了? 俺の令呪は?
>>> [3/3] Fate/Grand Order
パン、パン、と手を打ち鳴らす音が聞こえる。ゆっくりとした拍手。ボスを倒したタイミングでのそれは、典型的な黒幕ムーブと言えるだろう。
──どうでもいい。
大聖杯が放つ光を逆光にして人影が立つ。リツカを護るようにマシュさんが進み出た。
──そう、それだよ。なんでマシュさんだけ残ってるの!?
せっかく【契約】したサーヴァントに突然の成仏をカマされた俺は、まだ失意から立ち直れていない。そこそこ信用していたはずの右腕を失ったかのような気分だ。あるいは、コンビニバイトに無断でシフトをブッチぎられた雇われ店長のような気分と言ってもいい。
クー・フーリン……。付き合いは短かったが、俺は嫌いじゃなかったぜ……! 次に会ったら違約金だ……!
パン、パン、パン、パン。
そんな俺の思いとは無関係に、拍手の音はいやに大きく響く。つい先程まで暴力的なド迫力戦闘SEで戦場を賑わせていたNPC二人が去ったことで、大空洞はずっと静まり返っていた。
そして、徐々に近づき、その姿が視認できるようになった人影の正体は……全身緑コーディネートの男。
緑色のコートに、緑色のシルクハット。ボサボサの長い髪の毛がファーみたいになって背中まで伸びている。コートの袖口と襟元には、こちらは本物の黒いファー。ズボンをキュッと締める膝丈のブーツ。あとその紫色のネクタイ、なんかめっちゃトゲ生えてるんですけど……。
──えっ、何そのネクタイ。
俺は失意を一瞬忘れ、少し笑いそうになってしまった。慌てて口を噤む。ふう、危うく場の空気を壊すところだったぜ。
……で、こいつ黒幕!? お前ファッションセンス尖ってんな!
「いや、まさか君たちがここまでやるとは。……計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」
やべぇよ……やべぇよ。
黒幕氏のネクタイから生えてるトゲが光を反射し輝くたび、俺の腹筋がダメージを受ける。さっきのアルトリアみたいなファンタジー系の衣装と違い、なまじ現実っぽい服装なだけ違和感がすごい。ほら、VRだとどうしてもリアルの感性が適用されちゃうからさ……。
カルデアが提供する卓越したVR技術によって二次元の魔法を失いざわつく俺たち。それを満足気に眺めた黒幕系男性へと、マシュさんが問う。
「レフ教授……どうして貴方がここに?」
おっと、黒幕の名前は【レフ教授】ね。科学者系か。
『レフ教授だって!?』
さっきぶりだな、謎の声。相変わらず姿は見えないが……。
『レフ君だと?』
謎の声追加。この声は聞いたことがある……お前ライオンマンだな!?
『レフ!? なんで貴方がそこにいるの!?』
更に追加。今度は女だ。っていうかそんなに皆でレフレフ連呼しなくても分かるから!
『レフ』『レフレフ』『レフ?』『レフ―……』『レッフ―!』
ほら見ろ、ゲーム内掲示板でよく分からないノリのやり取りが始まった。お前ら何語だそれ。
一見静かに、しかし裏では大いに盛り上がっている俺達をレフは見下ろし、歯を剥き出しにした。そして、その細い糸目を大開きにして
「屑が……!」
直後、沈黙。
そして、レフ語で埋め尽くされかけていた掲示板が、爆発的な勢いで加速を開始する。
『”屑”いただきましたー!』
『見下し系キタコレ』
『悪の科学者はそうこなくちゃな!』
「ブハッ!」
掲示板を見ながら笑いだしたと思しき馬鹿に、俺は無言で【ガンド】を打ち込んだ。笑いたい気持ちはとてもよく分かるが……。今は黒幕様のお話タイムだ! もう話し始めたんだから黙って傾聴しろオラッ! OHANASHI中の発言は非音声のみ可!
俺たち以外にも、そこかしこで空気の読めないお喋り連中が口を塞がれ引きずり出されていく。
黒幕様はモニタの向こうでお喋りしてる訳じゃないので、同じ場に居合わせる俺たちも協力して……まあ根本的に危機感足りないから緊迫感とかそういう空気は醸し出せないかもしれないが、変に騒いだり話の邪魔しないようにするくらいは心掛けないとね。
こういう状況での会話は非公開チャットか文字チャット、あるいは掲示板で。VRMMO特有の迷惑行為とマナーである。
レフ教授みたいに音声で喋る相手の場合、下手すると本当に話が聞こえなくなるからな。情報不足は致命傷になりうる。ま、それでイベントが詰んだって話までは聞かないが……。運営アナウンスやシステムメッセージと同じように字幕を視界に出してくれればいいのにね。
……さて、もういいだろう。
黒幕のお話中に声に出して喋りだす馬鹿は粗方いなくなったらしい。レフ教授はそんな俺たちの様子を気に留めることもなく、渋カッコイイ声で話を続けようとする。傾聴傾聴。
「カルデアの連中がマスターとも呼べぬ屑を量産していると思えばこそ、私も笑って見過ごしてきたのだが……それもここまでにしておこう」
「レフ教授!? 一体何を……」
おっとマシュさん。運営マスコットキャラの美少女シールダー・マシュさんがレフ教授に話を投げた。知り合い設定。背後の人間関係を匂わせてくるやり取りだ。
「ああ、マシュ。マシュ・キリエライト。君もご苦労だったね。こんな連中のお守りをさせられて、さぞ迷惑だったろう。だが、もう苦しむ必要はないのだよ。人類は既に終わっているのだから」
「……え」
驚き、固まるマシュさん。そこに謎の声(女の方だ)が響く。
『レフ! 貴方……何を言っているか分かっているの!?』
「勿論だよオルガ。君たちに対処すること自体が労力の無駄だと判断したのは私だがね。……こうも五月蝿く喚かれると……お前たちのカルデアごと爆破でもしてくれば良かったと思わされる」
『レ、レフ……?』
謎の声(女)はオルガっていうのか。うちのクランにもそんな名前のやつが居るけど。最近忙しいらしくてしばらく見てないが、どうしてるんだろう……。
で、あとはライオンマンと謎の声(男)か。イベント最終盤に至って一気に登場人物が増えてきたな。
と、レフが片手を掲げる。その手の上にあるのは、眩しく輝く金属カップみたいな物体だ。
なんだあれ? イベントクリアおめでとうのトロフィーか?
レフは俺たちに向かって言った。
「折角だから、死にゆく君たちにも見せてあげよう。これは聖杯だ。魔力を湛える願いの器……私が使えば、こういうこともできる」
そう言った途端、突然【聖杯】が光を放つ。レフの後ろの空間が歪み始めた。徐々にナニカが姿を現してくる。
……それは、太陽みたいな真っ赤に燃える星だった。メテオという文字が頭に浮かぶ。あれ、俺たちにぶつけてきたりしないよね?
「フフフ。こんなものを特等席で見られる君たちは本当に幸運だ。上にいた君らのお仲間とは違ってね。数ばかり多くて面倒だったものだから、少し眠ってもらったんだよ。
ゆえにこれは、この私から無意味な生存を果たした君たちに対する、無益な戦いへの報酬と言ってもいいだろう。だからログアウトなどはしないでくれよ? それでは面白くないからね……」
『プレイヤーが動かないとは思っていたが、君の仕業だったのか!?』
「フム。君らしい憤慨だとは思うがね、ロマニ。そんなことより君には今すぐ気にすべきことがあるだろう?」
レフの会話に出てくる怒涛の新情報で掲示板は沸いている。色々話してくれるサービス精神旺盛な黒幕でありがたい……。っていうか上の連中、黒幕の犠牲になってたのか。マジ災難だな。そして【ロマニ】、謎の声(男)の名前と思われる。これで謎の声が全員判明したことになるわけだ。
「あれは、カルデアス……!」
燃える星を見てマシュさんが呟いた。
「そうだ、マシュ。この赤く燃える球体こそ、未来を観測するための地球モデル・カルデアス。……フフ。さあ、質問だ。君は、これが一体いつの地球か分かるかね?」
「……!?」
マシュさんが困惑している。掲示板もだ。
【カルデアス】、燃えている地球……。普通に考えれば、46億年くらい前に地球が出来てから冷えるまでの間ってことになるだろう。雨が降って海ができて……。年代は、ちょっと覚えてないな。
レフは言葉を返せないマシュさんを見下ろし、嘲笑った。
「……時間切れだ。落第だよ、マシュ・キリエライト。では答えを教えてあげよう。……これは、『2015年7月31日現在の地球』だ」
「!?」
おおっと? また凄い話が出てきたぞ。
あれが……現在の地球? え、地球燃えてんの? やばくない? リアルの俺も燃えてることになりますけど……あ、リアルの肉体情報は遮断されてるから実際どうなってるのか分かんねえや。ゲームシステムを利用したメタ演出か? 凄いこと考えるな。
プレイヤーたちがざわめき始める。レフは心底愉快そうに嗤う。マシュさんは、苦しげな表情でレフを睨んでいる。その傍らにはリツカ。距離が近い。かなり。
……そのとき突然、俺は黒幕氏が主張する「地球が燃えている可能性(ゲーム内から検証不能な演出)」よりも差し迫った問題に思い至った。
マスターとサーヴァントは一蓮托生。みんなのアイドルNPCマシュさんを掻っ攫われたことを知ったら、他のプレイヤー共が妙な考えを起こすかもしれないっていうことに。
サーヴァントとの【契約】の条件の一つは、多分「互いの同意」だろう。同意に必要なのは【パス】が繋ぐ魔力によって視覚化される紐帯、つまり絆、ゲーム的に言うなら友好度とか親密度ってやつだ。このユーザーアンフレンドリーなゲームでそれを望んだとして、「はいそうですか」と簡単に友好度を上げられるわけがない。そもそも複数のマスターとの【契約】が可能かどうかも不明だ。
だが一部のプレイヤーは、【契約】について知ればマシュさんとの絆を欲しがるだろう……マシュさんの意に反してでも。そうなったら、俺一人では二人に群がる連中に対処しきれない。くそ、うちのクランの奴らは本当どこに……。
……ん?
苛立ちながらフレンド欄を確認した俺は、少し困惑した。クラン員が、
「……さて。忠告しておいて何だが、ここまでにログアウトを試みた愚か者がいなかったことは、私にとって中々に期待外れではある。いや。カルデアの諸君、君たちが何かしたのかね? ログアウトを封じたりでも?」
『……』
レフの言葉を受けてか、ログアウトを試み、それが出来なかったという報告が次々と掲示板に上げられる。ログアウト禁止? 演出にしても、本格的に傍若無人になってきたな。俺は暇人だからいいけどさ。
「おい、ふざけんな! 俺はこの後用事あるんだよ! せっかくこんなクソイベに付き合ってやってたのによォ! 聞いてんのか!? ア゛!? さっさとログアウトさせろやゴラァ!」
ガラの悪いプレイヤーが怒鳴り声を上げる。レフはゴミを見るような目で見返した。
「ハハハ、何と愚かしいことか。マシュ、これが君の守ってきた者だ。無意味だとは思わんかね? まあ、今更な話ではあるか……既に燃え尽きている貴様らに意味などあるはずもなし。用事? ハ、屑がそんな心配をしなくて良くしてやったのだから、むしろ善行と言えるだろうよ……!」
黒幕が楽しそうで何よりだ。
そして一通りプレイヤーを馬鹿にして気が済んだらしいレフは、その笑みを消して俺たちに向き直る。スッと姿勢を正すと、仰々しくお辞儀をした。
「──では、改めて自己紹介をしよう。私は【レフ・ライノール・フラウロス】。貴様たち人類を処理するために遣わされた【2016年担当者】だ。
……一時とは言え、共にカルデアで過ごした者として最後の忠告をしてやろう。
未来は消失したのではない。焼却されたのだ。カルデアスの磁場でカルデア、そしてカルデアのシステムに精神ダイブしたプレイヤーの精神は守られているだろうが、その肉体は、外部世界もろともこの冬木と同様に燃え尽きている」
待て、急に色々話しすぎだ、理解が追いつかない!
「……お前たちは、自らの無意味さ、自らの無能さ故に! 我らが王の寵愛を失ったが故に! 何の価値もない紙くずのように燃え尽きるのだッ!」
そう言ってレフはもう一度歯を剥き出しにして嗤った。同時に、洞窟全体が嫌な音を立て、地面に亀裂が走る。
『まさか……特異点がもう保たないのか!?』
「では、さらばだ。オルガ、ロマニ、マシュ……そして何も知らずに死んでいくマスターたち」
そしてレフは、テレポートめいたエフェクトを残してその場から消え去った。同時に、あの赤く燃える地球も宙に吸い込まれるように掻き消える。
……後に残るのは、洞窟が揺れる感覚と、崩壊を予想させる不吉な音ばかり。
プレイヤーのざわめき。ざわめき。ざわめき……。
俺は。
──俺は、急に不安になった。
これは、本当に大丈夫なのか? これは……『FGO』は、ゲームだったはずだ。でも、だったらこの不安感は何なんだ。VR? 冗談だろ。この、まるで……本当に世界が滅んでしまいそうな感覚が……VRだと?
俺はログアウトを実行する。エラー。再試行。エラー。再試行。エラー。エラー。エラー。
「ッ!?」
突然、足元が崩れた。洞窟が崩壊しかけている。気づけば、プレイヤーたちは洞窟の入口目掛けて一目散に逃げ出していた。俺が遅れた? 地割れ。俺の立っている場所から入り口までのルートが大きく裂けた。飛び越えるのは……無理だろう。
──そうだ。死ねば脱出できる。地上の【柳洞寺境内】に
それは、突然の思いつきだった。刺激的な戦闘やイベントからの流れでこんな地殻変動にまで巻き込まれて、俺は少しおかしくなってしまったのかもしれない。VRが与える感覚はちょっと現実的すぎるからな。
俺は手に持っていた剣を自分の首筋に当てた。考えてみれば、こういう自殺は初めてのことだった。
リツカとマシュさんの姿が見えない。地割れに呑まれてなきゃいいが。まあ、サーヴァントのマシュさんがついてるんだから大丈夫だろ。
ふと気がつけば、周囲は静まり返っていた。このエリアにはもう誰もいないように思う。……俺は、深い洞窟の底でただ一人きりだった。
完全に逃げ遅れたっていうことだ。そういえば、システムメッセージも沈黙しているな。アルトリア撃破のアナウンスもない。運営は何をしているのやら。
……じゃあ、死ぬか。
俺は目を閉じ、勢いをつけて、自分の首筋を刺し貫いた。痛みはない。ただ、視界が暗転する。
暗転する────
[???/???] Fate/Grand ONLINE
────コード実行:【アルス・ノトリア】
────【載録の時来たれり、其は全てを
────こうして、始まりの旅が終わった。旅人は次なる旅立ちを待ち、今は眠る。
新エリア:第一特異点【オルレアン】が開放されました。
新機能:【使い魔】が実装されました。
新機能:【クラス】を追加しました。
新機能:【令呪】が使用可能になりました。
新機能:【刻印】が付与されました。
あとがきは活動報告に。