Harry Potter Ultimatemode 救済と復活の章   作:純白の翼

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第36話 4年生修了

あれからどれ位寝たのだろうか。もう真夜中になっていた。あれから1日経ったのか。今でも思い出す。ゼロ、イドゥン、エックス、セドリックと一緒に行動したあの夜の出来事が。

 

誰かが俺の顔をタオルで拭っている。薄目を開ける。ウィーズリーおばさんが俺の所に来ていた。エリナの所にはシリウスがいた。

 

「母さん。もう大丈夫かい?」

 

「何とか落ち着けたわ、ビル。ハリーとハーマイオニーには、感謝しかないわ。私達家族でも気づかなかったロンの変貌に気付いて止めようとしてくれたんですもの……あら?ファッジの声が聞こえるわね。」

 

ウィーズリーおばさんが囁いた。それからしばらくして、病棟のドアが開かれた。それもバーンと乱暴に。スヤスヤと寝ていたエリナは起きてしまった。

 

「え?何々?火山の噴火?」

 

「寝ぼけ過ぎだよ、エリナ。」シリウスが優しく言った。

 

ファッジがドカドカと入って来た。後ろには、全ての寮監の先生とリーマス、アドレー義兄さん、キットがいた。

 

「ダンブルドア!説明して貰おうか!」

 

辺りをキョロキョロと見渡すファッジ。俺、エリナ、シリウス、ウィーズリーおばさん、ビルの姿を見るや否やこちらに近付いて来た。

 

「ダンブルドアはどこかね?」

 

「ここにはいらっしゃいませんわ。」

 

ウィーズリーおばさん、怒った様な口調で返した。

 

「コーネリウス!ここは病室なのですよ!少しお静かに――」

 

その時、ドアが再び開いた。ダンブルドアがさっさと入って来たのだ。

 

「何事じゃ?コーネリウスよ。わしは忙しい身での。それに、ここで騒いでは病室で寝ている者達にとっては迷惑になるじゃろう?」

 

「何が忙しいだ!その割に悠々自適としている癖に!私は、私は魔法省大臣だぞ!」

 

「……そうじゃのお。コーネリウスよ。しばらく見ない内に、その――随分と自信を付けたようじゃの。」

 

「当たり前だ!!私はもう、あなたに何もかも助言を受けるだけの無能な大臣ではない!」

 

その台詞からして、見事な小物っぷりと無能を晒している気がするが敢えて言わない様にしようかね。

 

「何の証拠も無い癖に、例のあの人が蘇った!?バカバカしい!クラウチを病院送りにした凶悪な犯罪者は戯言を吐いた直後に消滅するし!!例のあの人以上の脅威が来るとも言ってたし!」

 

「全て本当の事じゃよ。君もあの場にいたのにも関わらず、それを黙殺する気かね?」

 

「クラウチの息子は狂っているんだ!ムーディに化けていた!?我が省が長期間かけて計画したイベントの裏で暗躍!?ルシウスの長男の失踪は自分が手引きしていた!?挙句に例のあの人の復活なんて!!!」

 

「嘘ではない。真実薬を使って分かった事じゃよ。そしてヴォルデモートの復活には、それ以上の危険な組織の陰謀も絡んでおったのじゃ。あ奴の破滅を願ってのお。」

 

「そんな!」ウィーズリーおばさんが驚く様に言った。

 

「犯罪者の戯言だ!ダンブルドア!!あなたはそんな人間の言葉を鵜呑みにする気か!?ええ!!?」

 

ファッジが喚く様に言った。

 

「勿論じゃよ。そうでなければ辻褄の合わん部分も出て来るからのお。それに、真実薬なんて使わなくてもあの者はわしらの前に現れて説明しておったじゃろう。そして証人なら、まだ2人おる。エリナ・ポッターとグラント・リドルじゃ。」

 

ダンブルドアがエリナの方をチラッと見た。

 

「あなたはその――あの狂人と、たかが10代半ばの少年少女の証言。それだけで判断したいと?」

 

「今の所はそれしかないからのお。2人が優勝杯に触れた後のやり取りに関しては、わしの部屋で一部始終を話そう。」

 

そこからの会話は平行線だった。ヴォルデモートの復活と、それ以上の組織の暗躍が始まっていると主張するダンブルドア。それに対して全部狂言だと否定するファッジ。意見が見事に別れた。

 

エリナとグラントが死喰い人の名前を挙げても、全員身の潔白が証明されているからと無視した。キットとアドレー義兄さんは、もうファッジに何を言っても無駄だと悟った様だ。

 

「ダンブルドア、あなたは本件に関してエリナの言葉を信じるというわけですな?」

 

「彼女だけではない。グラントの証言もある。これらは全て、辻褄が合っておる。」

 

「色々と情緒不安定な所があるとか、考えられないのかね?」

 

「まさか大臣。あなた、リータ・スキーターの記事を熟読していますね?」

 

俺が聞いた。ファッジは、思わずたじろいてしまった。が、また表情を元に戻す。

 

「だとしたらどうするのかね?君の妹は、蛇語使いじゃないか。そして、学校のあちこちで妙な発作を引き起こす。蛇語を使えるという事は、闇の魔法使いだという証だ。そして、兄である君も……!!!?」

 

ファッジは、これ以上何も言わなかった。いいや、言えなかった。キットとアドレー義兄さんが、覚醒状態の魔力を解き放って威嚇したからだ。

 

「エリナの傷跡が痛んだ事を言いたいのじゃな?コーネリウス、額の傷跡はあの子の頭脳を乱してはおらぬよ。ヴォルデモート卿が近付いた時に、もしくは何かしら強い感情が働いた時に彼女の傷跡が痛むのだとわしは信じておる。」

 

ダンブルの冷静な態度に、ファッジは少しばかり後退った。だが、それもすぐの事である。意気地な表情は変わらない。

 

「呪いの傷跡が警鐘となるなどという話は聞いた事がない!エリナ・ポッターは蛇語を使えるんだ!!ダンブルドア!それなのに信用出来ると言いたいのか!?」

 

「何て愚かな……コーネリウス!恥を知りなさい!」

 

マクゴナガル先生が、怒りで身を震わせながらそう言い放った。それだけじゃない。フィールド先生にスプラウト先生、スネイプ、シリウス、リーマス、キット、アドレー義兄さん、ウィーズリーおばさんも然りだった。俺達生徒の方も、ファッジのその態度を見てある者はドン引き、ある者はゴミでも見る様な目、またある者は殺してやるという態度になっていたのだった。

 

「うるさい!ここにいる全員がおかしいんだ!そして、私の14年を壊そうとしている!私が、私が築き上げた14年を!!」

 

「おい。アドレー。」

 

「何だい?キット。」

 

アドレー義兄さんは、2つの眼が保管された液体カプセルをじっくりと見つめながらキットと話のやり取りをする。

 

「あのおっさんの現実逃避ぶりを見てると、ジジイがこの国の魔法界を見限るのも無理はねえなって、俺は思うんだわ。」

 

「まあね。悪い意味で平和ボケしてしまうとこういう事態になるのは避けられないからね。そう言った意味では、我々ロイヤル・レインボー財団は脱しているともいえるね。」

 

「ハリー。」

 

「どうした?エリナ。」

 

「ファッジさんって、少し小心者だけど根はあの人なりに優しいんだって、ボク思ってたのに。」

 

「こんな所で大人の醜い部分を晒さないで欲しいと思うのは俺達だけかな?エリナ?」

 

「すまないね。目を覆い隠しても良いけど?」シリウスが言った。

 

「申し出は有り難いけど、これからの経験に必要な事として見ておく事にするよ。ありがとう、シリウス。それにリーマス。」

 

「ハハハ。ハリー。君らしいね。」リーマスが少し笑いながら言った。

 

またファッジの幼稚染みた戯言をじっくりと聞く。

 

「吸魂鬼をアズカバンから取り除けだの、巨人と手を組めだの!ダンブルドア!この私の政治生命を殺す為にそんな事を言ってるんだな!大臣職を追われるだけじゃない!もう2度と――」

 

「あ奴の脅威が完全に過ぎ去った後、君は紛れもない!最も勇敢で偉大な大臣として名を残すじゃろう!そしてコーネリウスよ!まだ分からないのかね!?このまま傍観していただけであれば、魔法界どころか、全ての世界そのものが無くなってしまうのじゃぞ!」

 

ダンブルドアの言葉をじっくり聞く俺。確かに的を得ている。が、ダンブルドア。やはりアンタは教育者として不向きだな。時々、他の人間を駒の様に扱う姿勢がある。速い対処が必要になるとはいえ、誰もアンタみたいな即断即決が出来るわけじゃない事を忘れている。これでは本末転倒なのさ。

 

「正気の沙汰じゃない!狂っている!私の城を無くさせてたまるか!そこまで言うなら、宣戦布告として受け取ってやるぞ!」

 

ファッジ以外の医務室にいる全員が、ファッジを睨み付けていたり、軽蔑の視線を送っていたりしていた。

 

「目を瞑ろうと言う決意がそれほど高いのであれば、コーネリウス。袂を分かつしか無いようじゃ。」

 

威嚇でも無く、ただ淡々としていた口調だった。

 

「そ、そうか!ダンブルドア!私に逆らうというのなら…………」

 

「わしに逆らうのはヴォルデモートじゃ。それにTWPFの首領マクルト、アルカディアのリチャード・シモンズもじゃよ。この巨悪に君が立ち向かうというのであれば、我々は同じ陣営じゃ。」

 

ダンブルドアのこの発言で、アドレー義兄さんとキット、シリウス、リーマスは眉を顰めた。今までの事があっただろうから、勝手に自分をダンブルドアの陣営に引き込むなという態度になっているのだろう。

 

「こんな狂った連中と一緒にいられるか!魔法省へ帰らせて……」

 

スネイプがダンブルドアの前に出た。そして、ファッジに自身のめくった左腕を突き出した。ファッジは、思わず怯んでしまった。

 

「大臣。これを見るが良い。闇の印だ。先日の夜には、黒く焼け焦げて、もっとはっきりしていた。互いに見分ける為の手段でもあり、召集する為のものでもあった。あの人が誰かの印に触れれば、すぐに『姿あらわし』で馳せ参ずる事になっていた。カルカロフが、何故逃げ出したと思う?この印は、今年度に入ってから鮮明になって来ていた……あの人が戻って来る事を知ったのだ。だからカルカロフは、闇の帝王の復讐を恐れて失踪した。自分だけが助かる為に、多くの仲間を売ったのだから、歓迎される筈が無い……我輩は、ダンブルドアにより完全にその後の身の潔白が証明されており、なおかつあちらの事情にも精通している。」

 

スネイプからも後退りしたファッジ。言った意味が分かってないらしい。スネイプの腕の印に嫌悪感を感じている様だ。

 

「…………ダンブルドアも、先生方も。さっぱりだ!一体何をふざけているのやら。そ、そうか!ホグワーツ全体で私を大臣職から追放する気だな!ふんっ、聞くまでも無かったな!私はこれで帰らせて貰おう!学校の経営で明日連絡をさせて貰うぞ、ダンブルドア……あぁ、そうだ。その前に。」

 

エリナと、近くで寝ていたグラントの傍に袋をドサッと置いた。金貨がジャラジャラ言っている。

 

「エ…………ポッター。そして、そこで寝ているリドルにも伝えておくと良い。君達の賞金だ。受け取ると良い。」

 

山高帽をグイッと被り、ファッジはドアをバタンと閉めて部屋から出て行こうとしたが、イドゥンは何かを決心した様にファッジの前に立ち塞がった。

 

「ファッジ大臣。これだけは言っておきますわ。」

 

微笑んでいるが、内心軽蔑しているのは容易に想像出来る。

 

「何かね?いつも誤解を招くような真似ばかりをしでかす者の子供が。私に何を?」

 

「その言葉。あなたへの最後の敬意として、記憶の底に忘却しましょう。ファッジ大臣……過ぎた保身は自分のみならず全てを破滅に追い込む。気付いた時には、もう何もかも失っている。その事を、良く覚えておくと良い。」

 

普段のお嬢様口調から、鋭い視線を交えた静かな怒りの口調と化していた。ファッジは、イドゥンのその姿勢に思わずたじろいてしまった。そして、逃げる様に魔法省へと帰っていった。

 

「あそこまでの清々しいクズっぷりを見てると、いっその事滅んだ方が良いんじゃねえのか?」

 

「それは否定しない。あのファッジという男。学校というのは行政の干渉を受けない機関だという事に気付いてないんだ。要は、教育と洗脳は紙一重なのさ。キット。もうここに用は無い。我々ロイヤル・レインボー財団は、独自の行動させてもらうとしようか。帰ろう。」

 

「おいハリー。また会えんのは数日後になる。ま、それまではホグワーツでゆっくりしてろよ。夏休み、みっちりと鍛えてやるからよ。」

 

「じゃあね。夏休みに。ホグワーツからの預かり物を手に入ったし。」

 

アドレー義兄さんが微笑みながら言った。

 

「分かってるよ、キット。アドレー義兄さん。今はさよならだ。」

 

キットとアドレー義兄さんが帰ろうとドアに手を伸ばそうとした。が、ダンブルドアが立ち塞がった。そして、声を掛けた。

 

「アドレーよ。君のご両親と長兄の事でロイヤル・レインボー財団がわしを快く思ってないのは十分承知しておる。じゃが、今はそうも言ってられないのじゃ。闇の時代を迎えさせない為にものお。だから事が済んだら、わしらをどれだけ憎んでくれても構わぬ。本当に……本当に今回だけじゃ。前回のような失敗と悲劇は繰り返さない様にすると絶対誓おう。いいや、誓わせておくれ。じゃから、君の方からわし達と協力してくれるようにアランに掛け合っておくれ。頼む。どうか……どうか。」

 

ダンブルドアが懇願する様に、アドレー義兄さんにそう言った。しかし、アドレー義兄さんは険しい表情となってこう告げた。

 

「ダンブルドア校長。私は、組織の上層部ではありません。それは、兄上や姉上も一緒です。ロイヤル・レインボー財団でそれを決めるのは、お祖父様と各国の支部長、それに幹部の方々だけ。財団の方針の決定の権限までは、私は持ち合わせていない。」

 

あくまでも感情的にならない様に、事務的に返すアドレー義兄さん。もうロイヤル・レインボー財団は、英国魔法界を既に見限っているからな。

 

本当は、ここには来たくなかっただろう。長兄のアルフレッドさんを平気で死に追いる様に仕向け、そして自分の両親を殺したスネイプだっている。これで怒りをぶつけない方がよほど立派だ。それに今は、俺がいる事もあって気持ちを抑えてくれて、今回ホグワーツに来てくれたんだ。感謝と申し訳なさで気持ちがいっぱいだよ、今の俺はそれしか。

 

「それでも、孫である君の言葉なら傾けてくれる筈じゃよ。」

 

「今回ホグワーツに来るまでに、あなたの事を調べましたよ。私の感想はこうです。こんな状況になるんだったら、お祖父様があなたを恨むのも無理は無いと。」

 

「……」ダンブルドアが苦い顔をする。スネイプも罪悪感に満ち溢れている表情となる。

 

「不死鳥の騎士団諸共、以前のやらかしをやっておいて、あなた方を我々が文字通り潰そうともしないだけでもかなり温情だとは思わないのですか?虫が良過ぎですよ。それを肝に銘じて行動した方が良いですよ。」

 

「何が愛だ!何が悔いているだ!犯罪者を匿っているだけじゃねえか!!!大を生かす為に、小を切り捨てやがって!いたずらにヴォルデモートなんて生かしておくから、こんな事態になったんだろうが!」

 

キットが、ダンブルドアに本気の怒りを見せてそう言った。でも、キットのあの怒りよう。ただ単に、会話をして不快になっただけの理由ではない気がする。まさか、ジジイはあの男の事をキットに直接話したのか?だとしたら、知らなかったとはいえジジイは地雷を踏んだのか。

 

「おい!それ以上、先生様に暴言を吐くんじゃねえ!」

 

「ハグリッド!やめるのじゃ!」

 

「ここは医務室なのよ!やめなさい!」

 

ハグリッドが、ダンブルドアとマダム・ポンフリーの言葉を無視してキットに襲い掛かる。掴もうとするが、キットは魔法なんて使わずに徹底した構えの脱力とスピーディ且つ滑らかな動作で跳ね退けてしまった。床に叩き付けられるハグリッド。

 

「す、凄い。」エリナが小声で言った。

 

「エリナ。キットは、マグルの軍隊格闘術を身に付けているんだ。あれは、ロシアの合気道とも言われるシステマだよ。」

 

「ゼロ。よく見ておいた方が良い。マグルの技術を完璧に習得した魔法使い程、厄介な存在はいないよ。特に、その境地に達したローガー家はね。」

 

「ああ、分かってるさ。あのキットって人、まるで弓術と少林拳を身に付けた兄さんみたいだったな。」

 

フィールド兄弟の会話が聞こえる。

 

「1つ言っておくぜ、デカブツ。力任せが通じるのは、格下の雑魚だけだ。技を持った同等以上の敵には勝てねえよ。それにな、これはテメエだけには限らないんだがな。魔力を持っているだけで、自分を無敵・最強だと勘違いしている魔法使いの寿命なんて短いのさ。」

 

キットは、アドレー義兄さんに目配せする。呆れながらも、アドレー義兄さんは頷いた。

 

「それでも、今後ハリーに必要なある物を戴いた事に免じて、全面的な協力は兎も角、拠点の提供くらいであれば私の方から掛け合いますよ。では、本当に失礼します。キット。今度こそ行こう。世界中に散らばった上層部の方々に、ヴォルデモートの復活とアルカディアにTWPFの活動が本格化して来た事を早急にご報告しなければ。緊急会議を開く様に伝えよう。」

 

「ああ。分かってるぜ。本格的に3つの組織、特にTWPFが動き出すんだからな。あいつらの方が、最も化け物染みてるんだ。これから、忙しくなるぜ。」

 

アドレー義兄さんとキットは出て行った。流石に、ここにいる全員の空気が悪くなった。

 

「アルバス。」マクゴナガル先生が心配そうに言った。

 

「ロイヤル・レインボー財団が加わるだけでもかなり事は有利に運ぶのじゃが、わしらが前回の戦いで作ってしまった根っこが余りに深過ぎるのお……そのツケを払う覚悟は出来ておるが、今このタイミングは勘弁してほしいと思ってるのが本音じゃよ…………とにかく、他にやるべき事がある。モリーや。君とアーサーは頼りに出来ると考えて良いかの?」

 

「勿論ですわ。ダンブルドア。ファッジがどんな魔法使いか、アーサーは良く分かってますわ。」

 

「アーサーに連絡を。真実が何なのかを理解出来る者を説得するには、アーサーが格好の立ち位置にいる。」

 

「僕が行きます。すぐに出発をしますので。任せてください。」

 

ビルが立ち上がって出て行った。

 

「ミネルバ。マダム・マクシームをわしの部屋に来る様に言っておくれ。」

 

「ええ。そうしましょう。マダム・マクシームも、自分の生まれに踏ん切りをつけるべきですからね。」

 

マクゴナガル先生はそう言って、部屋を出て行った。

 

「ハグリッドよ。大丈夫かの?」

 

「ええ。大丈夫です。」

 

「早速任務を与える。君にしか出来ぬ事じゃ。」

 

「分かりました。行って来ます。」

 

ハグリッドは、医務室を退出した。

 

「さて。シリウス、リーマス、セブルスよ。君達の名付け子達は仲良くやっておる。彼らを見習って、信頼を確固にすべき時じゃ。」

 

シリウスにリーマス、それとスネイプは向き合っている。スネイプの方は、特にシリウスの方へこれ以上の憎しみは無いという目つきで睨み合っている。それは、シリウスも同じだ。リーマスに関しては、出来ればここにはいたくないという顔をしている。

 

「握手だ、スネイプ。これっきりだがな。」

 

「貴様の姪と甥に免じて、この場ではそうしてやる。全てが片付いたら、すぐに解消はされるがな。」

 

「全く。ぶれないね、2人共。まあ、形だけでも良いからやっておこうか。」

 

リーマスが手を差し出した。スネイプがそれを乗せ、最後にシリウスが犬のお手をするかの様にそうしたのだった。

 

「姉ちゃん。伯父さんが犬のお手みたいになってる気がする。」

 

「否定はしませんわよ。」

 

ブラック姉弟が少し離れた所で会話していた。エックスは、もう元気そうだった。

 

「当座はこれで十分じゃな。では、シリウスにリーマスよ。君達2人には早速、昔の仲間に厳戒態勢を取る様に伝えておくれ。」

 

「で、でも――」

 

エリナが困惑した様に言った。分かっている。2人にはいて欲しいって事くらい。俺も同意見だ。

 

「またすぐに会えるさ。」シリウスが、俺とエリナに向けて言った。

 

「約束しよう。そして、何があっても私達は君達の味方だって事も。今は、私達だけにしか出来ない事をやる。ハリー。」

 

「……」

 

「私とシリウスがいない間、エリナを頼むよ。」

 

「…………分かってるさ。リーマス。」最初からそう決めてたんだ。

 

「2人共……ヴォルデモートは復活早々勢力を大きく減らされたとはいえ、脅威そのものは去ってない。出来るだけ急いだ方が良いよ。行動は、早くするに越した事は無いからね。行ってらっしゃい。」

 

俺にエリナ、シリウス、リーマスで手を握り合った。それを済ました後、シリウスはイドゥンとエックスを見る。3人で頷き合い、シリウスはリーマスと共に部屋から出て行った。

 

「フォルテよ。闇払いで説得の出来そうな者に声を掛けてくれないかの?」

 

「兄さん……。」ゼロは、戸惑いを隠せない。今のゼロの気持ちは、俺には良く分かる。

 

「大丈夫だ。私は死にはしないし、何があってもゼロを守り抜くと決めているから。それでは、行って参ります。」

 

フィールド先生は、ゼロに安心感を与える様な笑みを浮かべ、静かに去っていった。

 

「セブルス。君に何を頼まねばならぬのか、もう分かっておろう。もし、準備が出来ているなら……もし、やってくれるなら……」

 

「大丈夫です。行って来ます。」

 

「うむ。それでは、幸運を祈ろう。」

 

スネイプは、随分と青ざめて見えた。それでも、覚悟を決めたかの様に無言で立ち去った。まさか。やはりスネイプは……いいや、事実が変わるわけじゃねえんだ。今まで通りの態度を俺は貫いてやるまでだよ。

 

「エリナ、ハリー、グラント、ゼロ、イドゥン、エックス、セドリック、マリア。8人共、お大事にのお。ではモリーや。後は頼みましたぞ。」

 

ダンブルドアも退出した。残ってるのは、入院している8人。フレッドとジョージ、ジニー、ウィーズリーおばさん、ハー子、ネビル、そしてマリアだけだった。

 

「グラント。1000ガリオンは全部あげる。これからの学用品とか生活費に充てて。」

 

エリナがボソッと言った。

 

「お、俺も遠慮するぜ。スマイルもそこそこ金持ってるし、俺自身も無駄遣いしそうで怖えしよぉ。」

 

どうやら、2人共金は要らないらしい。俺もそうなんだがな。腐るほど持ってるし。ゼロは、羨ましそうな目で見ている。が、あれは2人だけの物だから取ってはいけないと自制している。

 

「ゆっくりとおやすみなさい。エリナ、グラント。しばらくは何か他の事を考えるのよ……欲しい物は何かとか考えなさいな。」

 

ウィーズリーおばさんは、2人に優しくそう言った。

 

*

 

同時刻。某国某所。どこかの暗い場所。両側に牢屋が存在する。そこには、様々な人間が収容されていた。その間の通路を平然と歩く3人の姿が見えた。ドローレス・アンブリッジの姿をした、正確には編み出した秘術で彼女の身体を乗っ取ったリチャード・シモンズ、バーティ・クラウチ・ジュニア、ドラコ・マルフォイである。

 

「フフフフフ。ドラコ。あなたは選ばれた人間よ。」

 

後ろを振り向かずにドラコにそう告げたリチャード。

 

「フン。そんな事、僕にはどうだって良い。それよりもだ。さっさとアンタの言う力って奴を僕にくれ。その為に、僕は来たんだ。」

 

挑戦的な口調でそう返すドラコ。その本心は、とりあえずスパイ活動の第1段階は完了だなと安堵の気持ちとなっている。

 

ジュニアが眉を顰めてドラコに杖を向けようとするが、リチャードが制する。

 

「シモンズ様!コイツは!!」

 

「元気があってよろしいのよ、ジュニア。私の為に怒ってくれるのは本当にありがたいけど、気にしないで頂戴。」

 

「分かりました。」

 

それでも、ドラコに報復を何時か行ってやると心に誓ったジュニアであった。

 

『これで、直系ではないけどブラック家の血を色濃く継いだ魔法使いの身体は、私の物同然よ。これからの2年半が待ち遠しいわあ。』

 

不敵に笑うシモンズであった。

 

*

 

翌日の夜、俺を始めとした8人は退院した。ハー子とネビルの話によれば、入院した8人に出会っても、本人から言い出さない内は無理に聞いてはならんとダンブルドアが朝食の席で言ったらしい。ヴォルデモートの事についてはともかく、ホグワーツの裏側で起こった事は、関わった当事者しか知らない事になるだろう。俺達6人で、そう決めたのだから。質問はされなかったが、その代わりヒソヒソが絶えなかった。

 

談話室に戻った時。いつもなら3人分の荷物が置いてある筈だ。だが、今は俺とネビルの2人分しかない。ロンは、必要最低限の物しか持って行かず、残りもウィーズリーおばさんが帰る時にまとめて持ち帰ったのだ。

 

「何か……広く感じるな。」

 

「本当なら3人用だからね。今はさ。ほら、僕とハリーの2人だけだもの。」

 

「だな。」

 

フィールド先生が回収し、受け取ったロンの杖をローブから取り出して握りしめる俺。

 

「来年は、荒れるぜ。ネビル。魔法省はあの手この手で干渉してくるだろうし、変態ヘビも勢力を大きく減らされたとはいえ、本当に忠実な奴らは、まだアズカバンで生き残っている。その中には、お前の…………お前の両親を再起不能にしたレストレンジ共もいる。だから……」

 

「分かってるさ、ハリー。それ以上は言わなくて良いよ。祖母ちゃんがいつも言ってたんだ。例のあの人は、絶対に戻って来るって。覚悟なんて、もうとっくに出来てるさ。それを僕は受け入れるだけだよ。そして、勝って見せるよ。」

 

俺とネビルは無言で向き合う。そして、互いに拳を突き出してこれからの戦いの健闘を祈り合った。

 

時は、家に戻る前夜まで進む。エリナ、ゼロ、グラントの3人が空き時間を利用して、ハグリッドの所へ向かった。マダム・マクシームと仲直りし、ダンブルドアからの仕事をこれからすると言った。何なのかは教えてくれなかったが、ゼロの予想では巨人と同盟を組む為だろうとの事だそうだ。

 

トランクに荷物を詰め終え、大広間に向かう。今回は、レイブンクローが優勝し、寮対抗杯を獲得した。だが、飾り付けが無い。黒い垂れ幕になっている。

 

『素直に祝える筈も無いよな。』

 

ふと、スリザリンの席を見る。主に4年生だが、全員意気消沈している。無理もないな。今頃ドラコが、命がけの任務をしに行ったのだから。

 

全員が座ったと同時に、ダンブルドアの演説が始まった。だが、今までとは違って重々しいものである。

 

「今年も、終わりがやって来た。今夜は、色々と皆に話しておきたい事がある。」

 

大広間を見渡すダンブルドア。これから話すのは辛い現実だ。あって欲しくは無かった。だが、いつか来るものだと予想出来た。

 

「ヴォルデモート卿が、復活した。」

 

その言葉を聞いて、全く音がしなくなった。だが、ザワザワと騒ぎが大きくなっていった。

 

「それと同時に、それ以上の巨悪、アルカディアと終わりを生み出す者と呼ばれる組織も本格的に動き始めた。」

 

皆、もう何が何だか分からないそうだ。

 

「魔法省は、わしが皆にこの事実を伝える事を良しとしておらん。皆の両親にはわしが話したという事で驚愕なさる方もおられるじゃろう。その理由は、ヴォルデモートの復活を信じられぬから、又は皆の様に年端のゆかぬ者に話すべきではないと考えるからじゃ。じゃが、わしはこう思う。大抵の場合、真実は嘘に勝ると。アルカディアと終わりを生み出す者は、ヴォルデモートを打ち滅ぼす暗躍をする裏で、それぞれドラコ・マルフォイとロナルド・ウィーズリーを自らの陣営に招き入れたのじゃ。」

 

グリフィンドールとスリザリンの席がざわついた。ドラコの取り巻き達は、動揺している。

 

「そして、その3つの脅威を教えてくれた人物が2人おる。グラント・リドルとエリナ・ポッターじゃ。」

 

殆ど全員がエリナとグラントを見る。だが、すぐに視線をダンブルドアへと戻した。

 

「2人は、辛くも3つの組織からの手を逃れたのじゃ。勇気を振り絞って、お辞儀にうるさいヴォルデモートと戦ったのじゃ。そう言う勇気を、2人は示してくれたのじゃ。わしは、2人を讃えたい。」

 

ダンブルドアが立ち上がり、ゴブレットを上げた。殆ど全員が、立ち上がって乾杯した。席に着いてから、次にダンブルドアは語った。三大魔法学校対抗試合の目的を、そして世界を揺るがす巨悪と戦うには揺るがぬ絆が必要だと。そう言い終えて、食事が始まった。

 

帰宅当日、ボーバトンとダームストラングは帰っていった。それぞれ、馬車と船で。

 

汽車で新聞を読む。コンパートメントは、俺とエリナの2人で確保した。近くには、他の仲間が確保している。やはり、新聞には何も書かれてないか。とことんまで魔法省は、保身に走る気満々だなと感じた。

 

「そう言えばここ最近、リータ・スキーターの記事が載ってないけど、どうしたんだろう?」

 

菓子を食っていたエリナがふと思い付いた様に言い出した。

 

「フィールド先生がゼロから渡されて、色々な実験材料として使ったらしいぜ。当分は、記事を書く気力も失せたらしい。」

 

「へえ。」

 

「そういやエリナ。グラントと一緒に、優勝賞金をフレッドとジョージに渡したんだってな。」

 

「うん。ギャンブルに勝ったのに、踏み倒されちゃったんだって。だから、笑いや楽しみを提供して貰おうと思って、あの2人にあげたんだ。グラントも是非って賛成してくれたの。」

 

「そっか。」

 

キングズ・クロス駅に着き、ダーズリーの元へ帰るエリナを見送った。

 

「…………」

 

「…………」

 

エリナが一旦振り向いた後、俺と視線を合わせた。そして、互いに頷いた。また遠くない日に会おうと。

 

『来るものは来る、来た時に受けて立てば良い。例えそれが、何者であろうとも。待ってろよ、TWPF。俺の取り巻く因縁に、終止符を打ってやるからな。』

 

俺も、ロイヤル・レインボー財団が手配した車で、家まで帰って行ったのだった。新たな決意を胸に。

 


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