三ヶ月ぶりの更新です申し訳ありません。やはり三つは難しいですわ。
まぁ、そんな事は置いといて、今回は色々分かるかもしれません。それでは楽しんで行って下さいな。
昔々、今の人達が聞いたら目眩がしてしまうほど遠い昔。語るものが途絶えてしまい、消えてしまった数多くある話の一つにこんなものがある。
ある所に、一人の男がいた。
その男はヤクザの世界で頭目として生きる男だったが、その筋で生きる者としても少し変わっていた。
大きな声でよく笑い、困った人や弱い人を助け、悪事を働く不届き者には裏で酷い制裁を加える。所謂侠客と言われる類のもので、警察のような役割を果たしている事もあってか街の人々からよく慕われていた。組の仲間達もまた、街を愛し、人を愛するその男を同じように慕っていた。
しかし、数年経った後にその男は死んでしまった。何者かに暗殺され、住んでいた屋敷を焼かれてしまったのだ。無論死体は黒い炭になり、巻き込まれた仲間と判別がつかなくなった。街の人はその死を悲しみ、街をあげてその死体を丁寧に弔った。男は英雄扱いされ、屋敷跡には慰霊碑が建てられる程になった。
だが、ある片目が潰れた男の出現により、その扱いは崩される事となる。死んだ男の腹心と称したその男は、街の人も、仲間にも知らない英雄の裏の顔を語り始めたのだ。
曰く、奴は裏社会を牛耳りたいがためにこの街に入り込み、表で街の連中の懐柔する傍ら裏では博打に武器の密輸、女や奴隷の売り買いに要人の暗殺等思いつく限りの悪逆を尽くしてきた。更に裏切り者や自分の思い通りにならない奴は例え街の人であろうと容赦せず、男でも聞いただけで震え上がるような拷問の末殺したそうだった。恨み辛みが募りに募った果てに奴は死んだ。奴が殺されたのは当たり前、この世から悪がまた一人滅んだんだ。いい加減目を覚ましなさいと、男は諭すように皆に語った。
語った男は、仲間の中で嫌われていたのでその話を信じようとはしなかった。が、事情を知らない街の皆は次第に語った男を信じるようになり、各地に残る男の残滓を抹消するようになった。その結果、組の残党は男を除いて一人残らずいなくなり、男は真の英雄として街に君臨し、組がいた頃と比べて悪者が減り、その活躍は後世まで語り継がれた。
他方、死んだ男はその嫌な噂だけが一人歩きし、いつしか本来の名前すら忘れられ、最後には存在そのものが妖怪として扱われ始め、今も人々に恐れられたとさ……。
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三尺坊と言うのは、言ってしまえば妖怪の山にある私達天狗達の区画の一つだ。
上位の天狗しか入る事は許されず、入るには許可が必要なくらい厳しい警備が敷かれている。つまりは上位天狗専用の会社みたいな物で、下っ端クラスの天狗達の憧れの場所となっている。
「……これはこれは。今日のご用件は?」
「鞍馬天狗様に用だ。仕事の報告をしに来た」
「かしこまりました」
通常の妖怪では門前払いを食らう筈なのに、駒次郎さんは用件を伝えただけですんなりとその入り口を通ってしまった。普通は用があるとしても、そこから更にいくつかの質問をされる。
「……あの、駒次郎さん。貴方の上司と言うのはもしかして……」
「うん? そうだ、お前らんとこの上司と同じ、鞍馬天狗だよ」
のらりくらりと歩きながら、同じ調子で駒次郎さんは答えを返す。やる気のない、ゆらゆらぬらぬらとした歩き方ではあるが、その姿に一部の隙もなく、満遍なく辺りに気を配っている。
「しかし……天狗でもない貴方がどうして天魔様と知り合いなのですか?」
再び尋ねると、駒次郎さんは頭を描きながら難しそうな顔で笑った。
「あー、まぁ色々あったんだよ。強いて言うなら昔からお世話になっている人って感じかな」
なんと、あの天魔様にそんな人がいたとは知りもしなかった。これはもう少し取材をしてみれば面白い記事が書けそうだ。
「へぇ、因みにいつ、どうやって知り合っーー」
「おっと、どうやら目的地に着いたようだ」
そう言って駒次郎さんが指を指す。その先には、神殿のような大きめの、私達が見慣れた神社のような建物があった。
外の世界の清水寺と言われる寺院を真似たそれは、妖怪の山で最も切り立った崖に建てられており、敷地内には少し広い舞台もある。そこから飛び降りて一気に空へ舞い上がるのは、他の妖怪では味わえない程の多幸感と充実感を運んでくる。
意図的に話題を逸らされ、私は不満そうな顔で駒次郎さんを見るが、彼は分かっていそうな上でそれを黙殺し、またもゆらゆらとした足取りで階段を登っていく。絵になりそうなその動作にも少しイラっとして、私はムッとした表情で駒次郎さんの所まで飛んで行った。
「ちょっとー、答えてくれてもいいじゃないですかー。露骨に話をなかった事にしないで下さいよー」
「悪いけど、俺はあんまり自分の事を語るのは好きじゃないんだ。この質問に関して、俺は黙秘権を使わせて貰うよ」
「そう言われると益々燃えますね。一天狗の記者として、貴方の事を色々知りたくなってきましたよ」
「おいおい、俺は喋りたくないって言っているんだぜ? 嫌がる相手に無理やり取材を強要するのはプライバシーの侵害って奴じゃないのか?」
苦笑しながら彼が尋ねる。その裏に大人しく引いてくれと言う懇願も混じっていたが、さっきのお返しとばかりに私はこう答えた。
「私の前ではプライバシーなど無力です。新聞のためなら、例え相手に嫌われるような事をしてでもスクープを探し出します」
「なんだそれ。理不尽すぎやしないか?」
「それが記者と言うものです。しつこい烏に絡まれたのが貴方の運の尽き。貴方が地獄の果てに連れていかれても、私は追いかけて貴方のことを取材しに行きますから覚悟しておいて下さいね?」
「なんてこったい。俺はとんだ面倒事な奴に助けられたのか……」
頭を抱えながら溜息を吐いた駒次郎さんを見て、私は思わず笑顔になる。
面白い
そんな事を思っているうちに、私達は長い階段を登りきり、中へと続く大きな門の前に着いていた。
「まぁいい、その話は後だ。これから鞍馬天狗様に報告しに行く。何聞いてもいいが、くれぐれも俺の個人的な質問をするのはなしにしてくれ」
門番に話しかける前に、駒次郎さんは私の方に振り返り、私に厳しく釘を刺した。
「……ちぇっ、分かりましたよ」
不承不承と言った感じで頷きながら、私は彼に見えないよう、背中で中指と人差し指を交差する。異国に伝わる魔除けの一種らしいが、全てを受け入れる幻想郷でこれをやってもバチは当たらないだろう。
駒次郎さんが門番と手続きをしている間、私は天魔様に聞く質問の事を考え始めていた。
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「そういえば、駒次郎さんから見た天魔様って、どんな感じなんですか?」
綺麗に清掃された廊下を歩きながら、私は駒次郎さんにそう問いかける。
ある程度広く作られた廊下ではあるが、上位天狗は意外にも多く、今も沢山の天狗が忙しなく行き来している。自分達のテリトリー故、皆普段は隠している羽を思う存分広げているせいで歩きにくい筈だが、今は駒次郎さんが壁になっていてある程度歩きやすくなっている。私を慮っての事なのは見てわかるのだが、「理不尽に慣れるためだ」と、それを指摘すれば言うかもしれない。その優しさがなんとなく嬉しくて、私は心の中で笑顔になった。
「そうさなぁ……俺が子供の頃からの付き合いって事もあるが、基本優しくて面倒見がいい。後少し堅物な印象を受けるかな」
私の方へ表情は向かず、それでも恥ずかしそうな感じで駒次郎さんは頭を掻きながら答えた。
やはり彼も、私達と同じ感覚を受けるのか。
彼女は……天魔様は、我々天狗の民をとても良く思っていらっしゃる。少々真面目で堅物だが、それでも他の上位天狗に比べたらまだ柔軟だし、弱い者と接する時も物腰柔らかな姿勢は崩さない。私達をまとめ上げる上位の天狗の中でも憧れている者は数多く居て、私もその一人である。
「今、自分と同じ感想を持ったって思っただろ?」
不意に駒次郎さんが振り返り、覗き込むように私を見つめる。細いが、それでも大きく開かれた二重の目に刺され、何より心を読み当てられた事もあって私は言葉に詰まった。
それを知ってか知らずか、駒次郎さんはと大きく、面倒臭そうに溜息を吐き、再び前を向いて歩き始めた。
「分かるよ。鞍馬天狗がお前らの種族をとても愛していて、誰とでも丁寧に接するのは俺もこの目で見てきているんだ。あれがあの人本来の性格なのは知っているし、この先も変わる事はないだろうよ。ただ……」
そこで彼がまた大きな溜息を吐く。合わせるように「ただ?」と聞くと、その態度のまま再び口を開いた。
「あの人は俺の事になると少し……いや、結構性格が変わるんだ」
「と、言いますと?」
「なんて表現したらいいのかな、とにかく俺に対してめちゃくちゃ過保護になって、その割に色々と無茶苦茶な要求をしてくるんだ」
駒次郎さんの意外すぎる言葉に、私の目は丸くなった。あの四季映姫と同じくらい真面目あの方が、こんな何の変哲もなさそうな男に執着するなんて有り得ない。
「有り得ないって顔してるな。まぁ確かに、あの人は人前では態度とか殆ど変えないから、そう思うのも無理はないけど」
苦笑しながら駒次郎さんは振り向いてそう言った。
「……私は信じませんよ。あの方に限ってそんな事起こらないですから」
「いいさ。言っても信じて貰えないのは分かっていたからね。どちらにしろ、答えは自分の目で確かめた方が早い」
そう言って駒次郎さんは先にある部屋の一室を指差す。目の前には「執務室」と書かれたドア。どうやら話題の天魔様の所まで来たらしい。
「俺だ、駒次郎だ。あんたに依頼された仕事の報告をーー」
ドアをノックした駒次郎さんが用件を言い終わる前に、食い気味な「どうぞ入って下さい」が重なる。その凛とした声の主が天魔様である事に、私の目は驚きで更に丸くなった。いつもの天魔様は、一呼吸置いてから入るように声を掛けるはずなのに、どう言う事なのだろう。
同情の表情を浮かべた駒次郎さん促され、彼の後に続いて部屋に入ると、凛とした美しい顔に眼鏡を掛けた天魔様の姿が見えた。机に向かう天魔様は、私達ですら羨むような紫烏色をした黒の髪を一つにまとめ、それが書類を書くたびにゆらゆらと揺れる。華奢で小さな、体とはアンバランスなほど大きな羽は、天狗として永く生きたという証を誇示するように誇らしく広がっている。
暫くの間、天魔様は書類の一つと睨み合っていたが、私がドアを閉めたのと同時に顔を上げ、真っ直ぐに駒次郎さんを見つめた。
「随分と遅いですね。いつもなら時間通りに来るはずじゃないですか。一体どうしたと言うんです?」
澄んでいて柔らかな声から発せられる、僅かながらの苛立ち。天魔様が怒っている時は、大抵こんな風に言葉の端に自分の感情を滲ませる。何ら変わらない、普段私達が見ている天魔様そのものだ。
「あー、これにはちょっとした訳があるんだよ。その、実はな--」
「訳? 何があったんですか。まさか任務に失敗したとでも言うのですか?」
「いや、そう言うのじゃなくてもっと下らない--」
「下らない? 一体何が下らないと言うんですか? 貴方がそうやって言い澱むってことは、私に後ろめたい事があるからでしょう? 私に隠し事は無駄ですよ。さぁ話してみなさい。何を隠しているんです? 任務に失敗した事ですか? それとも……」
駒次郎さんが困惑したように答えようとした。その隙につけ入るように天魔様は立ち上がり、近づいて矢継ぎ早に言葉を続ける。
納得のいかない説明にはとことんまで追求する。これも怒った時の天魔様によく見られる癖だ。
もしかして駒次郎さんは単に天魔様が嫌いで、私に天魔様の負のイメージを抱かせようとしているのでは? そう思ったその時、
「任務の途中で大きな怪我をして、それで私に要らぬ心配をかけたくないという事ですか?」
「……は?」
素っ頓狂な私と駒次郎さんの声が重なる。予想と斜め上の質問に、私達は思わず呆気にとられてしまった。慌てて口を塞いだが、どうやら天魔様は私の方には気づいていないらしい。同じく怪訝に思っているであろう駒次郎さんに同じ調子で話し続けた。
「あらあら、よく見たら貴方泥だらけじゃないですか……成る程、私には分かりますよ。貴方は昨日の仕事で華山椿と戦い、なんとか仕留めたものの負傷。夜が更けていた事も相まって明日まで現場で待機しようと考えた。ところが意外にも傷が深く、朝になったら処置をした腕が痛み出した。しかし、真面目である貴方の性格上、報告しないと気が済まない。だから痛みが引くのを待ってから這々の体でここに来た……そう言うところでしょう? 華山椿が厄介な敵である事は知っていましたが、貴方にここまでの深手を負わせるとは思っても見ませんでした。私の判断ミスですね。申し訳ありません。でも、だからと言って黙っているのは良くありません。貴方の
「話を最後まで聞け! 仕事の道具をなくして探してたら寝過ごしただけだ! あんたは本当にお節介が過ぎる! 俺があんな奴に傷つけられる程ヤワじゃない事は知ってるだろ!?」
「こら、何度も言っているではありませんか。慢心することは即ち失敗に繋がると。何より貴方が大きな怪我をして帰ってきて、最悪死んでしまったらどうするんです? それを考えただけで母は夜も眠れなくなってしまいます」
「俺がいつあんたの子供になった! そもそもこの仕事を依頼したのはあんただろ!? これ以上勝手な真似をするなら--」
……空いた口が塞がらないとはこの事だろう。普段は冷静沈着な天魔様が、ここまで暴走気味にお節介を焼いているのは初めてだ。話を最後まで聞かない事もさることながら、何より恐らくは血の繋がりがないであろう駒次郎さんに向かって堂々と母と言う事も、私自身の驚きに拍車をかけている。
しかし、このまま放っておけば彼らの言い争いだけで日が暮れてしまう。なんとか正気を取り戻した私は、右手を上げながらおずおずと後ろから顔を見せた。
「……あのー、お二人共、積もる話もあるとは思いますが、取り敢えず一旦落ち着きませんか? 」
私の声に気がついたのか、天魔様は興奮気味の表情を引っ込め、いつもの冷静な声で私に話しかけた。
「おや文、いたのですね。音もなく現れるものだから気がつきませんでしたよ」
どれだけ駒次郎さんに釘付けだったんだろうか……半ば呆れながらそう思っていると、「こいつは初めっから俺と一緒に居たよ……」と駒次郎さんが私に変わって返してくれた。
「おや、そうでしたか。お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません……それで、貴女はどうしてここに?」
ここで自分の目的を天魔様に話すと、天魔様は納得したように頷いて苦笑いを浮かべた。
「成る程、実に貴女らしい理由ですね。分かりました、答えられる範囲で取材に応じましょう」
「やったー! ありがとうございます天魔様!」
最初に見た調子のままだったらどうしようかと不安だったが、この物分かりの良さはそのままだったらしい。だが、なんだろう。どこか引っかかる所はある。まぁ、多分気のせいなのだろうが。
「それでは尚の事立ち話ではいけませんね。さぁ、どうぞそこに座って下さい。ついでに駒次郎もご一緒しても構いませんよ」
「俺はついでかよ……」
そんなこんなで、私は駒次郎さんと天魔様に向かい合う形で椅子に腰掛けた。
運ばれたお茶に口をつけ、ほぅと一息ついた天魔様は、柔和な表情で私を見つめた。
「それで? 文は私に何を聞くんですか?」
「はい、そこにおります沼田駒次郎さんの正体と、天魔様との関係を詳しくお聞かせ願いたいと--」
「ちょっと待て! 俺言ったよな? 個人的な事は聞かないでくれってお前と約束したよな!?」
先程まで同じようにお茶をすすっていた駒次郎さんが、驚いて私に噛みつきかかって来た。勿論そう来るだろうと予想はしていたので、惚けたように私も返す。
「はて、そうでしたっけ? 仮に駒次郎さんとそのような約束を交わしたとしても、所詮は口約束ですから実質的な権限はありません。よってこの約束は無効となります」
「駒次郎、諦めなさい。屁理屈を言わせたら文の右に出るものはいません。何より口約束でなく、媒体として記録していなかった貴方の責任です」
私と天魔様からの一斉射撃を受けた駒次郎さんは、「理不尽だ……」と悔しそうに歯噛みしながら渋々席に座った。少し可哀想な気もするが、こうでもしなければ欲しい話は聞き出せない。この世はずるい人が勝つように出来ているのだ。
気を取り直して取材を始めようとした時、天魔様がジトリとした目で駒次郎さんを睨み始めた。
「と言うよりも駒次郎、まさか貴方、初対面の方に自己紹介すらろくにしていなかったのですか?」
「当たり前だ! 仕事が仕事だし、新聞に載ったなんて日にゃ今度はこっちが奴らに始末されかねんわ! 鞍馬天狗、あんたそれを分かってて言ってんのか!?」
駒次郎さんが怒鳴り返した瞬間、私自身にはっきりとした疑問が浮かび上がって来た。始末? 奴ら? 一体どう言う事だろうか。と言うより、そんなおっかない人たちに狙われる彼は何者なのだろうか。
「勿論分かっています。しかし私は貴方の、いえ、
貴方達? それじゃあ駒次郎さんには仲間がいるって事? だとしたら、その仲間達も彼と同様にその奴らとやらに始末される危険がある。もしかすると、彼が命を狙われる理由はこの仲間達に原因があるのではないだろうか。
「あのなぁ……何が好都合かはさておき、信頼しているなら尚の事過保護になるのをやめろよ。俺はそこまでやわじゃないしさ」
「それとこれとは話が別です。子の心配をするのは母親の務めですから。」
「だからあんたは俺の母親じゃねぇってあれほど--」
先程から天魔様が言っている母親とはどう言う意味なのだろう。面識があるとはいえ、ここまで肩入れするのは流石におかしい。
あぁだめだ。これ以上は耐えられそうにない。私は二人の会話を遮って矢継ぎ早に質問責めにした。
「ちょっと待って下さい。色々と聞きたいことが山積みです。奴らって誰なんですか? 始末されるって誰に? そもそも私は、駒次郎さんが誰かに始末されるような人には到底思えません。確かに彼の体からは微かに妖力が感じられます。が、パッと見た感じ私には駒次郎さんがそんな悪人だとは考えられないのです。そんな彼が、どうしてそんな方達に狙われる可能性があるのですか?」
有無を言わさない速さで繰り出される私の質問に、駒次郎さんとの話が途切れた天魔様は困惑してしまった。何とか私を制止させると、コホンと咳払い一つして再び元の落ち着いた表情に戻って私を見つめた。
「そんなに急かさずとも大丈夫ですよ。貴女が仰る疑問の殆どは、彼の真の正体を知る事で解明されますから」
そう言って天魔様は、駒次郎さんの方へ目線を合わせる。向けられた駒次郎さんは「しょうがねぇなぁ……」とため息混じりに呟くと、さっきまでとは違う、如何にも鋭そうに見開いた目で私を見つめ、口を開いた。
「んじゃ、改めて挨拶をしよう……。俺は、生まれも育ちも外の世界。名を沼田駒次郎と言い、妖怪の山を統べる天狗が一人、鞍馬天狗直属の始末屋。三度の飯より趣味のチェスが好きな、ぬらりひょんというしがない妖怪さ」
若干芝居掛かった口調で、駒次郎さんは口上を述べた。天魔様が面白そうに微笑んでいる。多分、彼はいつもこの口上をこんな調子で述べているのだろう。
私も天魔様にならって笑うべきだったかもしれない。しかし、この時の私にはそれが出来なかった。目の前にいる彼が、今まで散々におちょくって来た沼田駒次郎さんが、私が追っていた始末屋の正体で、しかも
心なしか、彼の体から発せられる妖力が大きくなった気がして震えが止まらない。駒次郎さんが意図的に発しているのか、それとも私の勘違いなのか、それすらも分からないまま、それでもこれ以上怒らせたらまずい事は本能から警告しているから、私はただ俯いているしか方法がなかった。
「以後よろしくな、文々。新聞編集者兼記者、射命丸文さん?」
駒次郎さんの笑顔が、何処と無く邪悪に見えた気がした。
はい。色々分かるかもと言った割には何も分からないまま終わってしまいました。申し訳ありません(二回目)
次回は彼の正体について色々語りたいと思います。いつになるかは分かりませんが、ゆるりと待っていただけたら幸いです。