魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

26 / 69
 ふと、こう思ったりもするのです。これは本当に、■■なのかな?――――と。



第25話:重ねた心に芽生えるモノ

Side:なのは

 

 携帯電話のアラームが鳴り響いている。それはつまり、朝の6時を告げているという事で、眠りから目覚めて学校へ行く準備をしなければいけません。何時も通りなら寝起きを渋っているところですが、左手が鎮痛剤を求めて疼くので素直にベッドから身体を起こし、部屋を出て階下へと降りました。

 

 その後、家族への挨拶や洗顔や朝食や投薬や身支度を済ませ、『翠屋』の開店時間の都合で出発が早いお母さんとお兄ちゃんを見送り、お姉ちゃんと晶ちゃんは少し遅れて私立風芽丘学園へ、私とレンちゃんはその10分後に家を出ました。尤も、私の行き先は聖祥大学附属小学校で、レンちゃんは私立風芽丘学園なので、道中で別れてしまいますが……。

 

 それから通学バスの停車場所で暫し待ち、やって来たバスへと乗り込んで最奥の席を見遣ると、何時もの様にアリサちゃんと“すずか”ちゃんが其処に座っていて、何故だか懐かしく感じてしまいました。

 

「お早う、アリサちゃん。すずかちゃん」

「おはよー、“なのは”。……で、その怪我は如何したのよ?」

「お早う、“なのは”ちゃん。それ、大丈夫なの……?」

「えっと…………」

 

 取り敢えず、二人の間にある空席へと座ると、程無くしてバスが出発しました。さて、如何言い訳をしたものでしょうか? 「電話で話して無かったけど、実は決闘を少々……」と正直に言ったところで現実味が薄いですし、根掘り葉掘り聞かれたくは無いので、火傷をしたと偽った後は徐々に話題をずらして行き、アリサちゃんや“すずか”ちゃんの休日の話を聞いたり、相槌を打ったりするのでした。

 

 

 

 何時も通りの日常。

 

 

 

 私達が、守った物。何だか何時も通り過ぎて、戦っていた事の方が夢の様に思えてしまいます。でも、あの戦いは実際に起こった出来事で、この左手の傷や痛みが何よりの証なのです。嗚呼、本当に……。日常から遠い所へと来てしまったんだなと、しみじみ思いました。

 

 

 

~~

Side:桃子

 

 本日も、喫茶『翠屋』は大盛況――――ではありますが、時間帯によって客足も客層も変わるのは当然の理で、お昼のピーク時を過ぎてしまえば空席もかなり目立つ様になって来ます。尤も、一息を吐けると言っても午後5時以降は、帰宅中の学生や会社員、そして買い物客も訪れるので、その時間帯に向けてケーキやシュークリームの仕込み等、色々と準備が待っていますけれども。

 

「母さん、ちょっと良いか?」

「あら、如何かしたの恭也?」

「午後2時に、3名で予約しているハーヴェイ様なんだが……」

 

 珍しく言い淀む、我が息子。ただの予約キャンセルなら、此処まで苦虫を噛んだような顔をする事は無い筈なのだけれど……。もしかして、苦情かしら? とやきもきしている間に考えが纏まったようで、漸く口を開いてくれた。

 

「実は偽名で、“なのは”や俺達が協力していた時空管理局の艦長さんと、その部下なんだ」

 

 えーと……。子供達やスクライアさんから話を聞いているので、大まかに何が起こって、如何終わったのかは知っているけれども、それに関わった別世界の組織の方が何故、偽名を使ってまで此処に来たのか? 確かに、判断に困るところよね。

 

「それに来ているのは二人だけで、最後の一人は母さんの為に取ったらしくてだな……。如何する? 何なら俺も立ち会うか、代理で対応しようと思うんだが?」

「そうねー……」

 

 多分、大丈夫だとは思うけど、そうやって心配してくれるのなら無碍にする訳にも行かないので――――

 

「私だけで大丈夫よ。その代わり、ホールの方を御願いしても良いかしら?」

 

 其処なら、仕事をしながらでも予約席の方まで目が届くでしょうし、妥協案としては、まずまずだと思うのだけれど。

 

「了解。任された」

「それと、水も三人分宜しくね?」

「承知」

 

 そして私は、厨房のスタッフに30分くらい来客対応をする旨を伝えてから、予約席として押さえてある端のテーブル席へと向かったのでした。

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

 1時間程前、唐突に“なのは”の御母堂へ挨拶と謝礼をしに行くから、護衛宜しくねといった旨を艦長に告げられ、言われるが儘に付いて来たのだが……。実際のところ、その内容は想像とは程遠いモノであった。

 

 まず定型的に挨拶を交わした後、艦長は事件解決に協力してくれた“なのは”達の功績を紹介しつつ感謝すると共に、負傷に対する治療と保障の約束、そして功績を鑑みた便宜を図る用意がある事も伝える等々。ただの挨拶や謝礼と言うよりは、負傷した局員もしくは殉職した局員家族の元へ上官が赴く、アフターケアと呼ばれる行為に近しいと思えてしまったのだ。

 

 艦長。貴女は何を考えて、その様な事をしたのですか? そして何故、我々の不備や非を認めずに話を進めたのですか? 何故……?

 

「それは勿論、交流を深める為よ。そして私達は、当時の状況下において最善を尽くしており、不備や非と言った物は存在しないの。分かるかしら?」

 

 分かる筈が無い。仮に、最善であったとしても“なのは”は負傷しているし、彼女が住む世界に被害が出ているのは事実だ。それなのに、此方に一切の不備や非が無いなんて、そんな馬鹿な事が――――

 

「では、もっと噛み砕いて説明をしましょうか……。この件に関して、私や部下達が招いた人災は1つとして無い。つまり私達は、不必要に下げるべき頭や、掛けるべき言葉すら持たない第三者的立場であり、決闘による“なのは”さんの負傷についても、彼女が望んで得た単独行動権により自己責任となる。そして何より、此処は97番目の管理外世界。故意でなければ損害を補償したり、復興を支援する義務も権利も許されてはいないの。法を知悉する執務官なら、これぐらいの事は思い付くのではなくて?」

 

 だからって、何もしない訳には……。

 

「ええ。ですから、“プレシア・テスタロッサ”の悪行は歴史編纂(へんさん)委員会に働きかけて早急に犯罪史へ明記して貰いますし、事前に違法研究の罪で彼女を逮捕出来なかった無能な広域捜査部と、ロストロギア輸送の手配が杜撰(ずさん)だった遺失物管理部に対しては、定例報告会で追究する予定です。――――クロノ執務官。正義でありたいのなら、正しく悪を憎みなさい。そうでなくては、巨悪と戦う以前に心が折れてしまうわ」

 

 違うんだよ、母さん。そんな風に割り切って、悪を断罪するだけの冷たい正義なんて、まるで機械じゃないか……。平生の貴女らしくもない。

 

 確かに、悪は憎むべきだと思う。けれど人々の思いや、被害を顧みない正義など最早ただの私闘でしかなく、其処に大義名分など有りはしないのだ。やはり貴女も、普通を装いながら変わり果ててしまったのですか……?

 

 父さんが殉職した、あの日からずっと。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 本日は、とても平穏に過ぎて行きました。登校し、朝の会を経て午前の授業を受け、お昼休みに会話で花を咲かせ、午後の授業が終われば帰りの会を経て、送迎バスへと乗り込み帰路へ着く。――――そんな()()()()()()に違和感を抱いた私は、きっと如何かしてしまったのでしょう。

 

 奇跡も魔法も無い、人体の神秘だけが其処にある世界を生きていたのですから、それは当然なのかもしれませんが、魔法の無い()()()という物は白日夢の中を歩いているかの様で、浮世離れとはこの事かと錯覚しそうになります。

 

 このまま、人目を(はばか)らずに飛んで行ってしまおうか。

 

 そんな事を思い浮かべつつも自重して、何事も無く帰宅しました。それから何時もの様に御風呂へ入ったり、宿題をしたり、レンちゃんと晶ちゃんが作った夕食を食べたり、日課となりつつある魔法の鍛錬でもしようかと思った頃、『翠屋』の店仕舞いを済ませたお母さんが帰って来ました。

 

「お帰りなさい、お母さん」

「ただいま、“なのは”。ちょっと良いかしら?」

「うん。今は大丈夫だよ」

 

 何か手伝って欲しいのかと思い、居間にあるソファーから立ち上がって駆け寄りましたが特にそういう事では無いようで、売れ残り品が入っているであろう手提げ箱を此方へ渡しつつ、1つだけ質問をしてきました。

 

「実は今日、管理局のリンディさんって言う方と御話をしたんだけどね。――――」

 

 要するに、リンディ提督とクロノさん御一行が『翠屋』に電撃訪問をした挙句、私が治療内容の一部である“傷痕の整形手術を断った”という経緯をそれと無く説明したので、お母さんはその事に疑問を抱いてしまったらしいのです。

 

 しかし何故と問われましても、それに関してはお父さんを筆頭に、お兄ちゃんやお姉ちゃん達にも責任の一端が有りまして……。

 

「あのね、お母さん。こういう傷は、名誉の負傷って言うんだよ?」

 

 鍛錬で付いてしまった傷。害意から、誰かを守って付いた傷。試合で避け損ねたり、受け損ねたりして付いた傷。そんな数々の傷を負って尚、直向(ひたむ)きに剣士として生きる家族の姿を見て育ったのですから、傷や傷痕に対する忌避感などは全く無く。むしろ敬意を払う対象でもありました。

 

 そんな誇らしい傷が、自分にも付いている。故に、消したくはありませんでした。然れども、相応の痛手と激痛を受けましたので、『傷は増えないに限る』と思う今日この頃です。

 

「“なのは”ったら、其処は士郎さんに似ちゃったのね……。分かったわ。但し、あまり無茶をすると、お母さん泣いちゃうからね?」

「はーい」

 

 その後、クロノさんへ熱烈なラブコール(問い(ただ)しの念話)を掛けたのは語るまでもありません。ええ、全く。

 

 

 

 

 

 それから、それから…………。

 

 

 

 

 

 私は、平穏となった日常と非日常の狭間を行き交い、そんな日々を謳歌していました。平日は学業に専念し、双方の都合が良ければ手土産(『翠屋』のスイーツ詰め合わせ)を片手にアースラへ出張して、クロノさんやフェイトさん、そしてアルフさんとも気晴らしの為の模擬戦をしたり、雑談をしたり、時にはエイミィさんやリンディ提督と御茶会をし、またある時はスクライアさんから魔法を教わったり、逆に社会実習がてら『翠屋』での働き方を教えたり等々。

 

 しかしながら、そんな楽しい日々も長くは続かず、遂に別れの日になってしまいました。4月20日、早朝4時半、臨海公園の外周にて。それが、別れの挨拶に指定された日時と場所の為、頑張って3時半には起床して準備し、お兄ちゃんとお姉ちゃん、そしてスクライアさんと一緒に家を出て、指定時間の10分前くらいには到着する事が出来ました。

 

 それから2分も経たない内に魔法陣が出現し、クロノさんとフェイトさん、そしてアルフさんの3人が転移して来ました。尚、その際にクロノさんから苦言が一言。

 

「君ら、少し早過ぎやしないか?」

「その辺りは国民性ですので、如何か悪しからず……」

「なるほど……。理解した」

 

 そんなこんなで予定より早く始まりましたが、開始早々にフェイトさんと私の二人だけとなり、他の人達はやや離れた場所へと離れて行きました。如何やら気を遣ってくれたようです。とはいえ……、別れの言葉を告げるというのは実のところ“初めて”の事でして、何から話せば良いのか戸惑ってしまいます。

 

「ねぇ、フェイトさん。向こうへ行ったら、暫くは裁判で忙しくなるんだよね?」

「うん。それから先は分からないけど……、当分会えないと思う」

「そっか……。寂しくなっちゃうね…………」

 

 一応、手紙やビデオメール等をアースラ経由で送るつもりですし、3ヶ月後にはミッドチルダへ観光がてら、フェイトさんの元へ会いに行く予定ではありますが、どちらもリンディ提督の裁量次第なので胸三寸に納めておきます。

 

「…………ミス高町。君に2つだけ、御願いがあるんだ」

「私に出来る事なら、何なりと」

 

 そう答えると、フェイトさんは髪を結わえている細い黒のリボンを2つ解き、此方へと差し出しました。これはひょっとしたら、ひょっとするのでしょうか?

 

「このリボンは、とても大切な人から貰った物なんだけれども……。預かっててくれないかな?」

「それは責任重大だね……。了解なの」

「ありがとう、ミス高町。必ず取りに行くから……」

 

 両手で丁寧に受け取り、纏め、ポケットの奥へと仕舞い込んだところで、フェイトさんは2つ目の願いを告げる前に1つだけ、不穏な前置きをして行きました。

 

「2つ目は、断ってくれても構わないけれど…………」

「うん。取り敢えず、言ってみてよ」

 

 無理なら素直に断り、無茶で済むのなら応相談となりますが。

 

「君の、ファミリーネームを貸して欲しい」

 

 …………如何やら、応相談の案件みたいです。

 

「えっと……。詳しく御願いします」

「私には戸籍が無くて、更に言うとファーストネームしか無いんだ……。だから、裁判に合わせて戸籍も作る事になったんだけど、名乗るべきファミリーネームはドクターのしか無くて……。それはちょっと、嫌だから…………」

 

 なので、どうせ名乗るのなら“高町”の姓が良いと。此方で名乗るのなら問題かもしれませんが、向こうの世界で勝手に名乗る分には影響無いでしょうし、おそらく大丈夫のような気もします。――――多分、きっと。メイビー。

 

「使っても良いけど……」

「けど……?」

「私からも、2つだけ御願いしても良いかな?」

 

 折角なので流れに便乗して、此方からの要望も通す事にしました。尤も、無理難題を吹っ掛ける訳でも無く、預かったリボンの代わりに私物のリボンを貸すので其れを代用して貰いたい事と、呼び方を変えて欲しいという至って素朴な願いです。

 

「“ミス高町”じゃなくて、例えば“なのは”とか“なのはちゃん”とか……」

「それじゃ……、“なのは”で」

「有り難う、フェイトちゃん」

「“なのは”も、私の呼び方を変えるの……?」

「お友達なら、やっぱり“フェイトちゃん”って呼んだ方がしっくり来るから、こっちにしようかなって」

 

 そも、私にとっての“~さん”は、適切な距離を保ちたい時に使う敬称の1つなので、そろそろ切り替えたいなと思っていたのです。……まぁ、些細な自分ルールでしかありませんが。

 

「ねぇ、“なのは”……」

「如何したの、フェイトちゃん?」

「私も、“なのは”ちゃんって呼んだ方が良いのかな?」

「フェイトちゃんは、むしろ“なのは”だけで良いと思うよ」

 

 その方が多分、カッコカワイイような気がしますし。それから私は、物質転送魔法で自宅から白いリボンを2本取り寄せ、フェイトちゃんの髪を結ってあげました。かつて、私がしていた物よりも髪の量が多く、且つ長いので大変でしたが、その甲斐有って見事なツインテールが出来たところで、別れ時が迫って来てしまいました。

 

 一度集合し、クロノさんの提案で写真を幾つか撮った後、私は名残を惜しみつつスクライアさんに【レイジングハート】を返却しました。2週間足らずの戦いを共にしただけの仲とはいえ、【レイジングハート】は唯一無二の愛機と思える程には頼もしいデバイスでありました。

 

「今まで有り難う、レイジングハート。一緒に戦えて嬉しかったよ」

[- Me too. Thank you so much. -]

「それじゃ、“なのは”さん。長老との交渉が成立したら、届けに行くよ」

 

 果たして【レイジングハート】が、スクライア一族の元で魔導師の育成や作業用に使われるのと、私の様な優れた魔導資質しか持たない子供に使われるという選択肢の内、どちらが最善なのかは分かりませんが、其処は運命の女神――――ではなく、スクライアさんに委ねてみたいと思います。

 

「うん……。ただ、そうじゃなくても偶には来て下さいね、ユーノさん。お兄ちゃんや、お姉ちゃんが寂しがると思いますので」

 

 武人ではありますが、その辺りの感性は人並みですから。

 

「今、僕の名前を…………」

「はて、何の事でしょうか?」

 

 呆然としているユーノさんは、さて置き……。お次は、クロノさんの元へと向かいます。短い間ですが、共闘したり色々と手配してくれたりと、良くして貰った御恩があります。尤も、向こうはそれすらも職務の1つとして割り切るでしょうし、私もあまり気に掛けない様にしているつもりです。

 

「クロノさんには、御健勝と御多幸を御祈りしておきますね」

「他部署に飛ばされそうな挨拶は、勘弁願いたいんだが……」

「ですが、別れの挨拶って大凡その様な内容では……?」

 

 離れていても健康には気を付けてとか、頑張って下さい等々。

 

「まぁ、良いだろう。其方にも、御健勝と御多幸があらんことを。話は変わるが……。艦長から魔法の訓練用や、万が一の護身用にとレイジングハートの代替機となるデバイスを預かっているんだ。如何か、それを受け取って貰いたい」

 

 そう言って手渡されたのは、カード状の待機形態をしているデバイス。名を【ルーンライター】と言うインテリジェントデバイスらしいのですが、提督クラスとなると予備のデバイスの1つや2つは無駄に支給されるそうで、これもその消耗品の内の1つなのだそうです。

 

「ちなみにこれ、その万が一の事態で壊してしまった場合は大丈夫でしょうか?」

「故意でなければ、な。尤も、その場合は君が大丈夫じゃなさそうだが……」

「私も、そうならない事を祈っています。宜しくね、ルーンライター」

[- Nice to me to you. Boss. -]

 

 思ってもみなかった贈り物を頂いてしまいましたが、気を取り直して次はアルフさんの元へ。しかしながら、それ程の深い仲ではありませんし、フェイトちゃんの個人的な友達といった感じの他人(使い魔さん)なので、淡々と済ませて行きます。

 

「アルフさん、向こうでもお元気で」

「ああ、そっちもね。それと、色々と有り難う。あんたには、感謝してもしきれないよ」

「如何致しまして」

 

 そして最後は、フェイトちゃんと向き合いました。別れの挨拶というよりは、再会を祈念する言葉の方が良いかもしれないと思いつつも、やはり寂しさが込み上がってしまって……。言葉にし難い代わりに、何となく抱き着いてみました。

 

「如何したの、“なのは”……?」

「んー……。フェイトちゃん、温かそうだなって」

 

 もうすぐ5月ですが、早朝は冷え冷えとしていますし、何より此処は海風が吹き付けて来ます。不意に人肌が恋しくなったとしても、何ら不思議ではありません。そんな誤魔化しを知ってか知らずか、フェイトちゃんは優しく抱き返してくれました。

 

「それなら、“なのは”の方が温かいよ」

「そうかな……?」

「うん、そうだよ。“なのは”の方が、とっても温かい……」

「ねぇ……、フェイトちゃん。今度会ったら沢山話をして、沢山遊ぼうよ。何処かに行ったり、美味しい物を食べたり、ゲームや模擬戦とか色々と」

「良いね、それ。楽しみにしてる……」

 

 思い付きの行動から、ずっとこうしていたい程の幸福感に満たされてしまいましたが、時間が時間なので仕方無く誘惑を断ち切り、フェイトちゃんをやんわりと引き剥がした後は、見送る為に少しだけ距離を置きました。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、既にユーノさん達との別れを済ませたようで、如何やら私が最後のようでした。

 

「あ、クロノさん。リンディ提督やエイミィさんにも、有り難う御座いましたと伝えてくれませんか?」

「伝えるまでも無く、多分見ていると思うんだが……」

 

 そう言うや否や、2つの空間モニターが空中へと出現しました。

 

[> あら、分かってるじゃないクロノ。それじゃ、“なのは”さん。また何時か、ね? <]

[> “なのは”ちゃん。何時か休暇取って『翠屋』へスイーツ食べに行くから、その時は宜しく~ <]

「はい。御待ちしております」

 

 空間モニター越しの別れも済ませたところで、フェイトちゃん達の足元で転移魔法が展開され、空色の魔力光がきらきらと輝き出しました。これで、本当に離れ離れとなってしまう……。そう思うと、涙腺が緩んできてしまって自制するのが大変でした。やはり見送るのなら、笑顔のままで見送りたいものですから。

 

「さようなら、“なのは”。きっと何時か、君に会いに行くよ」

「うん。さようなら、フェイトちゃん。――――」

 

 

 




――――またね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。