主人公が本を出す話
私がトゥナの隠れ家で自動操縦をさせ、適当に回っていてくれと言うと彼は不思議そうな顏・・・いや、不思議そうな様子を見せた。
「目的地は無いのですか?」
そう思われても仕方ないではあるが、今回は探索は目的じゃない。仕事があるとは言え、暇も多い私なら今じゃなくてもこの海の探索はできる。
と言うか、私はいつもアクアヘブンで記事を作ってから送ることの方が多い。
「・・・キャプテン?」
私が何もせずにぼーっとしていたからだろう。ドルフィンが声をかけてきた。
今この静かの海の西、トゥナの隠れ家に居るのはリラックスのためだ。
「すまないね。とにかくトゥナの隠れ家に限らず浅いところを回ってくれればいいんだ」
「何故でしょうか。」
こいつ前より質問増えたな。とにかく今から私は本を書く。
キシラ環礁に関する記録だ。
それを伝えると、ドルフィンまた質問をしてきた。
「ビルの事ですか。書けるのでしょうか。」
ウィリアムグラバーことヘンリーピルグリム、いや、これも偽名かもしれない。とにかく彼のことを書いても誰も信じはしないだろう。そりゃそうだ。
『行方不明だった彼は海と融合した。』
試しに考えてみたが、やはり意味不明だ。
「いや、ビルの事じゃないよ。ここの生態系とか伝承とかさ。運良く写真が撮れたメガトロンとかのね。」
「生態系の発表は学者がするべきでは。」
「それは実際の論文はケメルマン氏とかに任せるとして、こっちでは『いたと思われる』程度のことさ。」
「なるほど。」
ドルフィンのそっけない返事をつまらなく思いつつ外を見回す。
しらべの海だ。
ここもなかなか思い出深いところだ。
「ドルフィン。オルゴールとダニングの石碑を通ってくれないか」
「イエッサー、キャプテン。」
1分ほどでオルゴールにはついた
クジラのヒゲが使われたオルゴール。
前にも形容した気がするが、まるでクジラが仲間を呼んで居るようだ。
「それも書いたらどうでしょうか。」
声が漏れていたらしい。私はすかさず「そうしよう」と答えた。
この際、もともと書くつもりだったなんてどうでもいいだろう。
ダニング島のあたりでも同じ話をした。この男のロマンを誰か理解してくれないだろうか。
そう独り言を言うと、
「分かります、キャプテン。ダニング氏がここに自らの夢を残そうとしてくれたこと。」
と、帰ってきた
一番理解してくれなさそうな者からの理解で、少しビックリした。
・・・
リラックスしすぎてしまったらしい。気づけば寝ていた。
目が覚めたのは啓示の海だった。
あいも変わらずに惑星が浮いて居る。さすがにこれは書けないか・・・。
いや、むしろなんだこれって意表を突けるかもしれない。
"惑星『のような物体』がタンガロア山を中心に回っている。"
って具合だ。
そしてささやきの海へ向かう途中にあるビングタウン跡。
ここも不思議な場所だ。
「やはりここも書きますか?」
私はもちろんと答え、そのまま祈りの海へ向かわせた。
やはり不思議で、うっすら怖い。
浅瀬を回るだけでいいとは言ったが、やはり気になる。
「ドルフィン、神殿へ頼む。」
「イエッサー。」
ゆっくり高度が下がっていく(深度だったかな?)
そしてグソクムシだらけの入り口を通って、神殿に入っていく。
相変わらず不気味な、でも何故か心が安らぐところだ。
『声』はもう聞こえないが、何かが私を呼んで居るのかもしれない。
そこに向かう術が断たれただけで。
もちろんこの選択に後悔はない。
ジェシカの一方的な会話も、ケメルマン氏の愚痴も、無愛想なドルフィンも、こちらを煽ってくるグラバー氏のログも、なくなると寂しいのだ。
神殿内のシンガーと交信して、その場を後にした。
この神殿もやはり書こうか・・・
何故かここにあるのではなく、海中に沈んだのであろう神殿として書けば、大抵の人は信じてくれるだろう。
「キャプテン、次はどうしましょうか。」
「そうだな・・・人魚の三窟に向かってくれ。」
「イエッサー、キャプテン。」
人魚の三窟・・・こんなところなら本当に人魚が居るかもしれない。
そう思わせる浮世離れしたイメージがある。
一番下の穴はドルフィン一号がいるが、そのほかの穴は入ったことがない。
上の穴に入ると、マンモスが凍り漬けになって居た。
これを書いて信じる者がいるのだろうか・・・。
いや、一応書こう。
だってここにあるのだし。
二つ目の穴に入った。思い出した。そういえばここは一号のいる穴と間違えて入ったことがある。
その時には、木箱で入れなかった・・・が、今回は入れた。
奥は赤い水で満ちていた。もしかしてミームか?
さらに進むと、突然ドルフィンの中に曲が流れ始めた。
よく聴くと、これは前ジェシカが聴かせてくれた民謡「創生 母なる海」だ。
いや、そのアレンジだ。
「ドルフィン、これは何だ?」
「受信した微弱な電波です。2008年リリースの「創生〜母なる海〜arrange version」だと予想します。」
「じゃあ2年前の曲か、随分最近だな。だけどどこから受信したんだい?」
「この先の陸からです。それ以上は絞りかねます。」
「そうか・・・じゃあこの赤い水は・・・」
「ミームです。何故ここに満ちているかは不明です。」
「そうか・・・ありがとう。」
そう言って私はそこを後にした。
「キャプテン、次はどうします?」
「もう頭の中でまとまったからね。アクアヘブンに戻ろう。」
「イエッサー、キャプテン。キシラベースに帰還します」
ドルフィンがキシラベースへ向かい始めた。
「ところでキャプテン、タイトルはどうするのでしょうか。」
啓示の海でキシリアンストーンヘンジ(もちろんこれも書く予定だ)を見つめているとドルフィンが声をかけてきた。
私は少し考えてから答えた。
「
そう答えたが、ドルフィンは腑に落ちないらしく、こう答えてきた
「キャプテンの職は記者です。」
まさかそれを突っ込まれるとは。すぐさまそれに答えた。
「別に潜水夫は僕の事じゃないさ。ここに来た潜水夫や、ビルのことを込めてだよ。」
「論理的に納得できません。アトラスの柱を抜けた人物はキャプテンとビルだけです。どちらも潜水夫はではありません。」
そう来たか・・・さっきはダニングのことわかってくれたくせに。
「なんでもいいだろう。とにかく潜水夫の休日だ。」
「そうですか。キシラベースに到着しました。」
私はドルフィンから降り、私の机に向かった。
「あら、記事書いてるの?」
ジェシカだ。本を書くと説明したら見せてくれと言われ、原稿用紙に書いた文を見せた。
「・・・全然ダメね」
「どう言うところがダメなんだい?」
「海の神秘って感じがしないわ。UFOの目撃情報があったことも書きましょうよ。あとあの場所に神殿が沈むのはおかしいわ。きっとあそこでできたに違いないわ!!」
何かのオカルト本と間違えていないだろうか。
私は考えておくよとだけ言って、作業に戻った。
「ジェシカくんに聞きましたぞ。本ですとな?」
「ええ。この海に関する本です。」
「ほうほう。見せていただきたい。」
ケメルマン氏に原稿用紙を渡す。
「うーむ・・・いまいちですな。」
「どう言うところでしょうか。」
「第一にアクアヘブンの最新の研究機器について書かれていないのが納得できませんなぁ。それとあそこで神殿が沈むのは不自然ですな、きっと見間違いです。それに人魚の三窟。あそこにマンモスなど沈んでいるわけがありません。あそこだけ部分的に冷たくなるわけがありません。それにこの惑星のようなもの。これは誇張しすぎでは。土星のような岩など輪が付いているではありませんか。ありえません!それにタンガロア山を中心に回るなどありえません。あそこでは渦型海流が発生しているなど聞いたことがありませんぞ。それにドルフィンに搭載されたNasuや、海中のソノブイにも触れていただきたい。グラバー氏の残した最高の研究機器ですぞ!!それに極め付けはメガロドン。いるわけがない!たかがか化石で何を言ってるのですか!きっとホオジロザメと見間違えたのです。加えてクジラのオルゴール。これもロマンチストすぎますぞ。海流によってネジが・・・ん?」
「えっと、急ぎの用事があるので・・・。」
「ふむ・・・そうでしたか。」
何かの研究資料と間違えていないだろうか。
適当にごまかしてその場を去った。
この本は無事完成するのだろうか・・・。
ちなみに、ドルフィン一号の前に訪れるとログが一つ解除されるのに私が気づくのはまだまだ先の話である。
見る人なんていないだろうけど。そんなに有名じゃないアクアノーツホリデイを全く有名じゃないサードニクスが二次創作してもねえ・・・
ここまで見てくれてありがとうございました!