救いのカタチ   作:神話好き

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十二月

目を覚ますと白い天井が目に入った。状況がよく分からない。僕はなんでここにいるんだっけ?

「鳴上君たちと戦って…それから…、そうだ、運び出して…それで?」

そこで記憶がぷっつりと途切れている。マハー・ヴァイローチャナを使った反動だろう。協力無比なあの力は、人の身には大きすぎる。全快状態の僕でも、一分と持たない。

「どれくらい寝てたんだ?」

上半身だけを起こしながら首を捻っていたら、看護婦さんが様子を見に来た。

「あら起きたのねぇ。先生よんでくるわぁ」

「あのっ、今日って何日だか分かりますか?」

「今日?えーっとねぇ、十二月五日よぉ。あなた、十五日も眠ったままだったのよ」

マジか。せいぜい三日くらいだと思ってたら、月跨いじゃってたのか。いろいろと面倒なことになりそうだ。っと、まずは鳴上君のところに行かなきゃならないかな。

「それじゃあ、大人しくしててねぇ~」

手を振りながら看護婦さんが病室を後にする。これはチャンスだ。看護婦さんには悪いけど、脱走させてもらおう。堂々と歩いて外にでる。こういう時は堂々としてれば、大抵どうにかなるものだ。

「さて、どこにいるのやら。とりあえずジュネスあたりに行ってみようかね」

街中歩き回り、ついに発見した場所は、何と愛屋。大穴にもほどがある。がらりと扉を開くと、やはり特別捜査本部のメンバーがそろっていた。

「よかった。みんなそろってるみたいだ」

「畦倉先輩!?」

声を掛けると驚きながら駆け寄ってくる。

「もう、体は大丈夫なんですか?」

「いや、さっき起きたところだよ。抜け出して来ちゃった」

「来ちゃったって…」

花村君が呆れた顔をしている。

「僕も、これほど長く寝込むとは思ってなかったからね。みんなを運び出した後、すぐに僕も倒れ込んじゃったみたいだし、みんなの事が気になってさ」

「ああー…。やっぱ原因は俺たちっスよね」

「というより、最期に使ったあのペルソナだね。こうなるって分かってて使ったんだから自業自得だよ」

笑いながら言う。あれは、自爆特攻のようなものだ。ブレーキが壊れてる僕にとっては使える武器な訳だが。一同、思いだしたのか、苦笑いをしている。

「見たところ、みんな元気みたいだね。よかったよかった。里中さんと完二君の事は特に心配だったんだよ。あの塔では、酷な事をしてごめんね」

「あっ、頭上げてください!あたしなら、大丈夫ですから!」

「俺も大丈夫っスよ。目を逸らすのは畦倉先輩を否定することになるっスから」

「なら良かった。っと忘れるところだった。君たちに言っておかなくちゃならないことがあるんだ」

暫く眠っていたせいで、まだよく働いていないようだ。その為に病院を抜け出してきたようなものだろうに。

「なんですか…?」

「そんなに緊張しなくていいよ。敵対しようとか、そういうのじゃないからさ」

「それじゃあ何を?」

不思議そうにこっちを見ている。

「もう一人の犯人についてだよ」

「知ってたんですか!?」

ガタっと音を立てて僕以外の全員が立ち上がる。

「僕も僕なりにいろいろ調べていたのさ。君たちとは少し違った方法をとってね」

マヨナカテレビの中で張り込みとかのことだ。出雲情報も入っているから、あまり迂闊に情報開示はできないが。

鳴上君が、みんなに何かを目で訴えかけると、全員が一斉に頷く。

「それは……足立さんですか?」

驚いた。まさか、自力でそこにたどり着いてしまうとは。捜査が難航していると予想して、抜け出してまで来たのに。

「その反応は当たりのようですね。でも、一つ疑問があります。畦倉先輩は、どうやってそのことを知ったんですか?」

「簡単だよ。雪子ちゃんの時、自由に使える時間のほとんどをあの世界で過ごしたのさ」

「なるほど…単純な作戦だけに効果も高い、という訳ですか」

「そういうこと。霧が最も深くなる日、ギリギリまで張り込みしてたら、足立さんが現れたって感じかな、っと…」

そこまで話したところで、ふらついてテーブルに手を突く。参った、流石に無茶しすぎたみたいだ。

「大丈夫ですか!?」

一番近くにいた雪子ちゃんに支えてもらって、どうにか立て直した。無理に笑って取り繕うも、バレバレなようだ。

「ちょっと、疲れただけだから。言わなきゃいけないことも伝えたし、僕はそろそろ病院へ帰るよ」

グラスに映った僕の顔色は、危ないと思うくらいに悪い。

「みなさん、送っていきましょう。足立さんもおそらく病院にいるでしょうから」

それから先のことは、ぼんやりとして、あまり覚えていない。

 

・・・

見覚えのある部屋に入ると、案の定、足立はそこにいた。

「誰だッ!!?…ああ、オマエらか。しつこい奴らだな…」

いつもの情けない表情は無い。全てを馬鹿にしたような笑みを浮かべている。一瞬、本当に足立なのか分からなかったほどだ。

「観念しろ!」

「うっとおしい餓鬼だな…」

「質問に答えろ!!お前が山野アナをテレビに放り込んだのかって訊いてんだ!」

大声で叫ぶ花村に対し、煽るように笑う足立。

「あれは、事故だよ。暴れるからしょうがないでしょ?」

簡単に自供するが、悪びれた様子が全くない。身勝手でどす黒い足立の話が続く。山野真由美を殺した話、小西先輩を殺した話、久保美津雄をテレビに入れた話、そして生田目の話も。

「目的…?別にないよ、そんなの。ただ僕には出来たし。面白いから…まあ、それが目的?」

それが足立の全てだった。てんで理解できない。足立は、ただ面白そうだから人を殺したというのだ。言うことを言った足立は消えて去った。この町がもうじき霧に消えるという、不吉な話を残して。

「この町が霧に消えるだって…?そんなの有り得るかよ」

「でも、なんか自信満々だったよ…」

「ケッ!どっちにしろあの野郎をぶっ飛ばせばそれで済むことだぜ!」

一理ある。しかし、それで本当に全てが解決するのだろうか?

「ねえ、あんまり頼るのはよくないだろうけど、弥勒さんなら、何か知ってるんじゃないかな?」

「センパイクマか?そういえば起きてからボクだけまだ一度も会ってないクマ!」

「今までだって、困った時にはそうして来ちゃったところあるもんね…」

「ですが、今のところそれしか手段がないのも事実です」

「そうだよねー…あたしたち負けちゃったし。そこらへん聞いてもいいものなのかな?」

やはり、あの人の存在は皆の中で大きいようだ。それは鳴上自身もそう思っている。

「とにかく一度会おう。愛屋で会った日から、お見舞いにも行けてないからな」

全員、首を縦に振り、明日の予定は、畦倉先輩のお見舞いに決まった。

 

・・・

あの日の脱走を期に、僕の入院生活は地獄と化した。どういうことかと言うと。相室の人が出来たのだ。その名も堂島遼太郎。そう、堂島さんである。十五日も寝たきりになるような無茶をして、怒らないはずもなく。朝起きては注意をされ、昼食を採りながら注意を受け、夜寝る前にも注意を受けた。意外と説教好きなのかもしれない。そして、自分は無理して仕事しようとして悪化させるもんだから、看護婦さんたちに、見張り役を任されてしまった。どうしたもんかと思っていると、コンコン、と病室のドアがノックされ。聞き覚えのある声が聞こえた。

「失礼します」

「どうぞ」

現在、堂島さんは外出中なので、僕が答える。

「お体は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。もう少し体力が戻ったら、退院できると思う」

「良かったです。弥勒さん、ほっといたら無茶するって、あの塔で嫌って言うほど見せられましたから」

「あの塔の事は、僕にも一応理由があっての事だったんだけどね…」

頭を掻きながら苦笑して見せる。興味深そうに、みんなが耳を傾ける

「足立さんと話したかな?」

「………はい」

ああ、やっぱり。ものすごい嫌悪感を感じる。

「あの人も僕ほどじゃないけど異常だからね。普通の人が話すとおかしくなっちゃうこともあるんだ。だから、あの塔は、いわば予行練習ってやつだよ」

僕にも経験がある。三年前の事件で僕をボコボコにした暴走族だ。あれ以来、彼らはどこかおかしくなってしまったらしい。

「あの時、そこまで考えていたんですか…?」

「大したことじゃないよ。僕は、足立さんの存在と本性を知ってたからね。君たちを衝突するだろうとは思っていたのさ」

「畦倉先輩。あなたはどこまで知っているんですか?」

話が核心にせまる。なるほど、これを聞きに来たのか。困ったように笑うと、大きく息を吐き言う。

「何が聞きたいんだい?」

鳴上君は申し訳なさそうな顔をする。しまったな、怒ってると思わせちゃったか。

「もうすぐ…この町が飲まれると、足立が言ってました」

「本当だ。情報の出どころは言えないが。確かだ。でもそうだな、真実を求め続けつ君たちなら、いつかたどり着くかもしれないね」

前半はともかく、後半はよく分からないのだろう。みんなそろって首をかしげている。

「分からなくていいさ。というより分かっちゃったら僕が困る」

冗談を言うようにおどけてみせる。

「それもそうクマね!」

「やあ、クマ君と会うのは塔以来だね。久しぶり」

「お見舞いに行けなくてごめんなさいクマ…」

「いいよいいよ。見たところ、前より何かがよくなったみたいだ。きっとクマ君、頑張ったんだね」

「やっぱりセンパイはいい人クマ―!陽介とは大違いクマ」

「そこで俺を引き合いに出すなよ!」

笑い声が漏れだし、だんだんと雰囲気が明るくなっていく。クマ君には感謝しないとな。穏やかな雰囲気のなか、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。きっと僕はこんな空気が好きなんだろう、そう思った。

 

・・・

未だにマハー・ヴァイローチャナ使用の影響を受け、身動きの取れない僕は、最後の戦いに参加することが出来なかった。とても申し訳ない。しかし、そんな僕の力を借りずとも、鳴上君たちは、見事アメノサギリを打ち倒して足立さんと捕まえ、一連の事件の解決に成功した。

「どうだ出雲。僕の言った通りになっただろ」

「ええ、そのようです。一応の決着は着きましたね」

クリスマスの夜、僕は珍しく本来の姿の出雲と一緒にいた。あの白装束、寒くないんだろうか?

「後は、私のところまで到達することが出来るかですね」

「してもらわなきゃ困るさ。僕としても、お別れくらいはしたいからね」

「やはりそういう方法になりましたか……」

出雲が眉をひそめる。

「分かっていたことさ。詳細は見てのお楽しみ。時が来たら分かるよ」

自分が死ぬと言いながら、僕の笑顔は一片の曇りもない。

「この一年は本当に良い一年だったよ。ただ本能の赴くままに救うことだけを繰り返してた人生に、意味が出来た。そして何より、初めて友達と呼べるものが出来た。まあ、あんまり性格良くないのが難点だけど」

「お互い様です。あなたは嫌味の言い方を覚えたほうがいい。あれでは喧嘩を打売っているのと変わりませんよ」

「いいんだよ。どうせ出雲にしか言わないんだから」

「それはそれで問題がある気もしますが…まあ、いいでしょう」

何気ない会話が心地いい。後何回、こんなふうに話す機会があるのだろうか。

「ねえ、弥勒。私は今でも十分救われてます。やめることはできませんか?」

本心からの言葉だろう。蔑まれ、裏切られ、呪いの国に君臨する女神。それが、僕と同じように、他愛ない会話で救われる。本当に、僕たちは引き合うべくして会ったようだ。

「でも、だめだ。それはで出来ないよ」

僕は首を横に振る。

「僕は、無償で救いを与えるものだけど、出雲だけは特別に、友達だから救うんだ」

「……それは光栄なことですね。私も、あなたと出会えてよかったと、心からそう思います」

ぬるま湯のに浸かるような時間が、ただただ過ぎていった。たった一年間の奇跡を名残惜しむように。




次回、おそらく最終回です
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