救いのカタチ   作:神話好き

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三月

三月二十日。今日は、とうとう鳴上がこの町を去る日だ。この町に来て、仲良くなったみんなに挨拶回りをしていると、ふとジュネスが目に付いた。

「最後だし、少しだけ寄っていこうか」

特別捜査本部の集まりで使っていたフードコート、いろんな事を思い出す。この一年、本当にいろんなことがあった。そんなことを考えながら、鳴上は無意識のうちに自分の使っていた席についていた。

「おっ!」

「奇遇クマ…いやもうコレ運命だね!」

花村とクマがやってきた。

「あー、やーっぱ来てたんだ!」

「思い出の場所だもんね、特捜本部」

続いて里中と天城が。

「へへ、先輩!やっぱ、いたっスね!」

「ここに来れば、みんなもいる気がして」

「明日、駅に見送りに行くってことにはなってましたけど…。なんか、落ち着かなくて。ここに来ちゃいました」

最後に後輩組が合流し、全員がそろう。それだけのことなのに、なぜだかとても嬉しい。

「なーんか結局、そろっちまったし、なんか食うか」

「おー、肉食べようか!肉!花村のおごりで!」

「肉、肉、ほんとうるせーな…」

その後、花村のおごりでいろいろと注文し、思い出話に花を咲かせた。

「でもさ、結局あたしたち畦倉先輩の友達って見たことないよね」

「そういや、そうッスね」

「いずれ分かるかもなんて、意味深なこと言ってたね」

「今まで、放置してきたけど。弥勒さんがどうやってペルソナ能力手に入れたのかも謎だし…」

「いや、それを言うなら鳴上君もでしょ」

なんだか、少しだけ引っかかる。みんなも難しい顔をしている。

「あー、やめやめ。今はもっと楽しい話をしようぜ」

「それもそうッスね」

雰囲気が暗くなるのを嫌った花村が、話題を変えた。

「それじゃ、クマ。何か言いたい事とかねーのか?」

「おお、陽介にしては気が利くクマね!」

「お前はいちいち俺を貶めなきゃなんねー病気なのか!?」

あはは、と笑い声が響き、クマの話が始まった。

「クマ、こっちの世界に来て、ホントに楽しかったクマ。」

「お前の場合、存在自体が楽しげだよな。実際はまあ…楽しいばっかじゃなかったけど…でもこんな充実してた事…今まで無かった」

花村が感慨深そうに語ると、他のみんなもそれに続く。

「長かったのか…それとも短かったのかな…。もう…こんな風に集まって、うんうん唸って推理したりする事も、ないんだね…」

一瞬だけ沈黙が下りるが、それはきっと悪いものじゃなく、それぞれ、今年一年を振り返っていたのだろう。

「思い出…誰かに話したいって思っても、有り得ないことだらけで、誰も信じないよね。ああ…畦倉先輩は別だけど。思えば、そういう事の一番最初は、千枝がマヨナカテレビを教えてくれた時かも」

「オレも里中から聞いた気がすんな。里中はウワサ、何処で知ったんだ?」

思い出したように一つの疑問が浮かぶ。最後の真実へと到達するためのピース。この一連の事件の真の黒幕への鍵。

「誰っていうか…風の噂?女子は結構試してる子居たし」

「なら、一得最初に言い出したのって、誰なんスかね?」

「さあ…偶然体験しちゃった誰かとか?」

「マヨナカテレビなぁ…考えてみれば、アレが全部の始まりだよな。て言うか、犯人捕まって霧は晴れたけど、気になる事、ナニゲに色々消えてないよな。話蒸し返すようで悪いけど、畦倉先輩の事とかさ。それに、向こう側も、未だに霧まみれだしさ」

「うむむ…また誰か、ワケの分からんヤツが悪用するかもしれんクマ」

推理しようにも情報が足りなすぎて、まだよく分からない。

「確かあの、アメノ…なんとかって怪物、言ってたよね。自分が力を授けた…って」

「虚ろの森を渡る力を会得せし物に、私はそれを授けた…。要するに、ペルソナ能力に目覚めた物に、テレビに入る力を与えたという事でしょう。役者とするために」

直斗の推理を聞いていると、いくつか疑問が出てきた。

「あれ…そういや鳴上君、何にも無いうちから、もういきなりテレビに手潜ったんだよね?てことは、微妙に例外…?てか、そうだ、足立と生田目、それに畦倉先輩は!?あの三人も、ペルソナ云々より、テレビに入る力の方が先だよね?十一月のアレ以前に、畦倉先輩がマヨナカテレビに映ったなんて話、そういえば聞いたことないもん…」

里中の言葉が、鋭いところを突く。

「え…じゃ、先輩やあの三人は、何か別のきっかけって事?」

「なら先輩、ぜってーなんか思い当たる事、あるハズっしょ?なんかねんスか?」

「少し待ってくれ、思い出してみる」

そう言うと、鳴上は黙り込んで心当たりについて探り出した。自分だけが例外…。ペルソナの覚醒よりも先に、テレビに入る力を授けられた…?一体いつ?思い浮かばない。そして、俺だけじゃない、足立や生田目もだ。思考がループしてしまっている。分からない分からない。そんな時、ある手紙のことを思い出した。足立からの手紙だ。

「マジかよ…!?」

予想外の差出人に、花村が驚いている。声には出していないが、他のメンバーも同様だ。

「ってことは、これ…拘置所から!?」

とりあえず読んでみることにする。内容はこうだ。

「突然の手紙に驚いてると思う。伝えておきたいことがあって、これを書いています。こういして生き延びた事で、分かった事もあるので。僕のゲームは…確かに終わった。あの時、キミたちに言われた通り、この世界のルールに従おうと思ってる。ただ僕は交流の身で、自分じゃ何も後始末が出来ない」

後始末、という言葉に直斗がピクリと反応した。

「だからせめて、キミたちが事件について考える助けになれればと思う。実は一つ気になってる事がある。そもそもの、事の発端…マヨナカテレビについてだ」

タイムリーな話題に、今度は直斗以外の全員も目を見開いている。

「よく考えたら僕は、警察で噂に触れる前…町へ来てすぐに、誰かから教わった気がする。生田目の調書の隅にも、似たような事が書かれてて、気になったのを覚えてる。でもそれが誰だったのか…思い出せないんだ。僕と生田目はどっちも力を得た人間だから、何かあるのかもって…ただ何となく思った。たったこれだけの事、役に立つかどうかわからないけど…助けになれば嬉しい」

足立の手紙はこれで終わり。

「畦倉先輩を探そう!」

まだよく分からないが、確信した。事件は解決したが、まだ、全てを知ってるわけじゃないと。鳴上の声を聞いて、それぞれ町に散って行った。

 

・・・

みんなに畦倉先輩を探してもらっている間、鳴上は別方向から捜査をしていた。それは、自分の事だ。なぜ自分が力を持っているのか、いつ手に入れたのか、それを調べていた。その時だった。商店街を歩いていると、青い扉が目に付いた。

「そうか、ベルベットルーム!畦倉先輩もワイルドの力を持っていたじゃないか!?」

何か聞けるかもしれない、そうと決まれば。急いで扉を開けて中に入った。

「ようこそ。ベルベットルームへ…。いかがなされましたかな?」

目の前にはいつも通り、イゴールとマーガレットが座っている。

「貴方はもはや謎を解き明かし、降りかからんとしていた災難をはね除けられた。この上、私共に何用でございましょう?」

「二つ、聞きたいことがある」

「ふむ。伺いましょう」

イゴールは興味深そうにこちらを見ている。

「畦倉弥勒。という人を知っているか?」

「ええ、もちろん存じておりますとも。あの方は真に得難い客人でございました」

「今、どこに…?」

やはり、畦倉先輩もこの部屋の利用者だったようだ。

「あの方は、私共の予想をはるかに超え。今は旅の終点にて、その時を待っておられます」

イゴールが言葉をぼかすということは、きっと答えられない事なのだろう。旅の終点。意味はてんで分からないが、そんなものこの一年の間、何度も経験してきた。

「それじゃあ、もう一つ。気になる人物がいるんだ」

町を駆けまわり、得た情報、奈々子が思い出させてくれた、この町に初めて来た日の事。

「ほう…まだ何か釈然とされない事がおありと?はて…なんでございましょうな」

どこか嬉しそうに腕を組みなおすと、虚空に手をかざす。

「どれ…ではひとつ、貴方の感じておられるものが何か、見てみると致しましょうか」

目の前の空間が光り輝き、ガラスの破片のようなものが飛び回っている。

「これは…」

普段、あんまり感情を読ませないマーガレットが目を丸くして驚いている。それほどの事態だということだ。

「ほう、驚きましたな…。これらは、虚ろな噂に惑わされず、物事の本質を見抜く力の断片でございます。なるほど…やはり貴方がいらした事には意味があったようですな。そして、彼はこうなることを信じておられたのでしょう。つくづく、興味が尽きない」

未だかつて見たこと無いように嬉しそうにクックと笑うイゴール。正直少し怖い。

「では、私も役割を果たすと致しましょう」

笑い終えたイゴールが再び手をかざすと、ガラス片は集まり、一つの光り輝く水晶へとなった。

「それは、旅路の中で貴方が育んだ力の結晶…。あらゆる虚飾を払い、嘘を打ち消し、真実を照らし出す宝珠でごさいます」

ゆっくりとこちらに水晶が寄る。見晴らしの珠を手に入れた。

「真実とは、自分がじかに見て、考えて、自ら選んだところにだけ現れるもの。貴方のゆく先に、真実につながる道があると、信じる事です」

「フフ…素晴らしい。どうやら貴方は、私共の予想を超えた、旅路の真の終点を見せて下さるようだ。そして、彼もまた同様に。さあ、お行きなさい。全ての始まりのきっかけの場所へ…。彼もそこで首を長くして待っていることでしょう」

「ありがとう。イゴール、マーガレット」

鳴上はそう言うと、振り返らずに部屋を後にした。行くべき場所は分かった。あの日、始めに来た場所。それは、

「ガソリンスタンドだ!」

 

・・・

「出雲、そろそろ来るぞ」

降りしきる雨の中、僕はガソリンスタンドの屋根の上にいた。

「本当に弥勒の言った通りになったな。俺としては信じてなかったんだが」

「僕としては来てもらわなきゃ困るんだよね。少し、用事もあることだし」

「用事?なんだそれ、聞いてないぞ」

「大した用じゃないよ。事の間際に少し時間をもらうだけさ」

これが最後になるかもしれない。それなのに僕らの口からでる言葉は、普段となんら変わらない。緊張感の欠片もない距離。

「さて、俺はそろそろ迎えようと思うけど、弥勒はどうする?」

出雲が顔を向けると、向こうの方から八つの人影が近づいてくる。鳴上たちだ。

「僕は頃合いを見て登場するよ」

そう、と短く言って出雲は店先に立った。僕も準備しておかなくちゃ。そう言って、この日の為に出雲からもらった槍を取り出す。ものすごい力を感じたため、名前を聞いてみたら、天沼矛と言われた。本人は笑いながら言っていたが、冗談になっていない。それが本当なら、僕は島を作れることになる。

「早いな、もうあの姿に戻ったのか」

ふと出雲の方を見ると、すでにガソリンスタンド店員の格好ではなく、本来の姿である白装束へと戻っていた。興奮した完二君が詰め寄ろうとしたところで、出雲の前へ刺さるように槍を投擲する。

「なっ!?」

突然飛んできたという事実よりも、それが槍だという事実に鳴上君以外の全員は驚愕する。

「下がってもらおうか」

底冷えするような声を出す。僕は屋根から飛び降りると、先ほど投げた槍の上に降り立つ。

「畦倉先輩……」

「ごめんね。あんなのでも僕の友達なんだよ」

「イザナミが友達…ですか…?」

「僕はシャドウでも救うかもしれないって前にもいったろう。それが神様に変わっただけの話さ」

みんなが困惑している中、唯一冷静な鳴上君が話しかけてくる。とても助かる。

「話を聞かせてもらっていいですか」

「もちろん。その為にここに来たんだからね」

僕は槍を引き抜いて一歩下がり、出雲の隣に立つと話し始めた。

「そうだな。まずはイザナミについでの神話を知っているな?大まかな話でいいんだけど」

「イザナミ…日本神話に出てくる国生みの女神ですね。カグツチを生んだ際に傷を負って死亡したのち、黄泉国まで迎えに来た夫イザナギにその姿を見られて逃げられ、黄泉国に閉じ込められた。大まかに言うとこんな感じですか」

博識な直斗君がみんなを代表して答える。

「そうだね。みんなはそれを聞いてどう思った?」

「どうって、なんか可哀相だなって……っ!?」

「そう、そうだよ。神話はそこで終わり。こいつは永遠に救われないままだ。僕はそれが許せなかった。そういう話さ」

「でも、だからって…今、少しだけ味方するのが畦倉先輩の言う救いなんスか!?」

「そうじゃないんだ完二君。その為の手段も手に入れてある。僕がここに立ってるのは、最後に君たちと話をしたかったからだよ。これから僕は―――僕の命を使ってこいつを救うつもりだ」

その言葉に誰一人として反応できなかった。

「それじゃあ、僕たちは行くよ」

出雲の手を取ると、僕たちは霧のように消えた。後には呆然とした特別捜査本部のメンバーが取り残されていた。

 

・・・

黄泉比良坂の最奥にて、僕は出雲と二人、無言のまま鳴上君の到着を待っていた。

「来たね」

「そのようです」

短くそれだけ言葉を交わし、扉の方を見る。塔の時を思い出すような展開だ。今回は僕が一人じゃないのだが。鳥居を超え、鳴上君たちがこの部屋に入ってくる。

「意外と速かったね。もう少し時間がかかるかと思ったよ」

槍をくるくると振り回しながら出迎える。対する鳴上君たちは無言のまま僕の言葉を聞いている。

「今回の件、まだ僕は主役じゃないんだ。少し、引っ込んでるとするよ」

そう言って、出雲の後ろに控える。

「はるばる、ようこそ…」

「また会ったな、全ての元凶さんよ!」

「あなたが最初にテレビに入る力を与えた。マヨナカテレビを作ったのもそうだ。そして、噂が広まる発端を作った…間違いありませんね?」

出雲と鳴上君たちの会話が始まる。今回の一連の事件、その全てを明らかにするために、幾多の虚飾を乗り越えてとうとうここまでたどり着いだのだ。

「ひとつだけ、思い違いをしている。君らがマヨナカテレビと呼んでいるもの…。確かにあれは、人の心をここに引き込むためのちょっとした装置。だが、あそこに何が見えるか決めてたのは、常に君たち自身だ…。人間の持つ、抑圧された心と、それを除きたい周囲の人間の心…。見せたい存在と見たい存在がある。だから、呼応する窓を授けた。それだけに過ぎない。悪趣味だが否定は出来ないと言ってくれた人間もいましたしね」

一瞬、出雲がちらりとこちらへ目を向ける。そういえばそんなことを言った気もするな。

「すべては君たちのため…君たち人間が望んだ世界を作るためだ」

話は佳境を迎え、出雲はその動機を語り始める。時は近い、正真正銘最後の戦いまであと僅か。落ち切る前の砂時計を見てるようだ。

「言ったはずだ。君たちの望みは、霧に包まれた世界だと!」

「そんなことはない!」

メンバー全員の意見を代表するように、鳴上君の声が響く。その声に続いて、次々と自らの意思を示していく。この一年で、あの八人が育んできた尊いものが、彼らの背中を後押しする。

「俺たちの未来は俺たちで決める!誰にも選ばせたりなんかしない!」

その一言を最後に出雲も臨戦態勢に入る。僕は、白い拘束具を身にまとい巨大になった出雲の横に並び立つ。塔の時と同じだ。もはや言葉はいらない。

「出雲」

「ええ」

最初で最後の、僕と出雲の共闘が始まった。

 

・・・

「イザナギ!」

最初に動いたのは鳴上だった。僕の持つマハー・ヴァイローチャナを使わせないようにするためだ。その一撃を槍で受け止め、足を払う。体制を崩したところに槍を向けると、すでに目の前には進化した直斗のペルソナ、ヤマトタケルが迫っていた。

「ダイコウフショウ!」

鉄壁の守りで攻撃に備える。しかしそれは、ヤマトタケルに対するものではない。体制を立て直した鳴上が、さらに追撃を仕掛けてくる。あえてその剣を受け、袖をつかむと、大雷が鳴上とヤマトタケルを僕ごと飲み込んだ。

「まずい!先輩もろに食らったみたい!完二、救出お願い!」

こちらの狙いを察したりせが指示を飛ばす。しかし、出雲の相手ですでに手一杯であり、なかなか僕の元までたどり着くことが出来ない。そんな中、二発目の大雷が降り注ぐ。

「ぐっ…!?」

袖を掴まれたまま動くことが出来ない鳴上が苦悶の声を上げる。

「耐久レースだ!僕は全力で鳴上君を抑える!」

「ダメだ!こっちの攻撃が通らねえ!」

鳴上救出の為に、出雲の攻撃を止めようと奮闘しているが、まるで効果がない。そして、三発目の大雷が、僕らを襲おうとしたその時だった。

「これは……っ!?」

鳴上から光の珠が飛び出し、あたりを照らす。突然の出来事に気を取られている僕の隙を突き、掴んでいた袖を切り落とし離脱する。しまった、と思い追いかけようとすると、それどころではない事に気が付く。

「なんだと…」

出雲の拘束具が外れ、冥府の王としての姿に戻っている。おそらくあれが、鳴上君のこの旅路で得た答えのカタチなのだろう。

「できれば…この姿を弥勒に見られるのは避けたかったですが…。こうなっては仕方ありません。君たちがどれほど小さな存在なのか、教えてあげよう」

出雲から僅かな怒気を感じる。気合を入れなおす。さっきと同じ手段は通用しないだろう。彼らに見せてないペルソナは六体。うち一体は、そういうものではないから除外するとして、出し惜しみは無しだ。

「コンゴウリキシ!」

二体一対、筋骨隆々の戦士が現れる。その手には金剛杵を持っている。今度はこちらから攻めさせてもらう。自らをペルソナに投擲させ、ものすごいスピードで鳴上に迫る。ペルソナを出す暇がないと判断した鳴上は、剣で受け止めようとする。あと少しと接触するいうところで槍を地面に突き刺すと、その反動を使って鳴上を飛び越える。最初から狙いは、サポート役のりせだ。

「アマテラス!」

槍を振りかぶると、目の前を炎の壁が遮った。しかし、その程度では止められない。多少のダメージを覚悟で炎を突っ切りながら槍で薙ぐと、キンっと金属音が鳴り、槍が止まった。

「ロクテンマオウ!」

槍を受け止めたまま、完二のペルソナは腕を振りかぶる。そういう事なら受けて立とう。

「金剛発破!」

力と力が真正面からぶつかり合い、粉塵が巻き起こる。どうやら、力比べは互角のようだ。互いに静止したまま止まっている。その隙を逃すわけもなく、鳴上、花村、直斗の三人が跳びかかる。

「甘いっ!」

花村の苦無を石突きで弾き飛ばし、体制を低くしながら鳴上の剣を受けた。

「うおおお!」

背後で完二が雄たけびをあげ、つい振り返ってしまう。罠だ。

「ヤマトタケル!」

上空から直斗のペルソナが襲いかかる。一瞬早く行動し、直撃を避けることはできたが、これは……毒か。

「ジュロウジン」

牡鹿を引連れ、手には瓢箪と桃を持っている頭の長い老人が現れた。

「アムリタ!」

ジュロウジンから放たれた光が、毒を消し去る。明らかに直接攻撃系ではないペルソナを前に、一旦様子を見ているようだ。今日は運がいい。

「ヒートライザ!」

しまった、という顔をする鳴神たち。だがもう遅い。以前とは比べ物にならないほどの速さで距離を詰める。時折降ってくる大雷が、戦闘の激しさを際立たせている。

「インドラ!」

狙うは弱点がある二人の内の一人。相手からしたら突然目の前に現れた、そう錯覚させるくらいの動きだった。槍で素早く足を払い、倒れ込んだところに雷による一撃を叩きこむ。

「ジオダイン!」

「いやー!そんなの食らったら死んじゃうクマ―!」

目の前でムンクの叫びの様になっているクマを、間一髪のところでスサノオが弾き飛ばす。しかし、問題ない。これで花村は回復するまで動けなくなるだろう。

「ぐああぁぁッ!」

無差別に降り注いでいる黒雷と比べてもなお強力な雷が花村を襲った。倒れ伏す花村を見届けることなく、僕は弾き飛ばされたクマを追いかける。

「スズカゴンゲン!」

その進路に鎧を着た千枝のペルソナが立ちふさがり、クマの方へと完二と直斗が向かう。それを確認すると、元の位置へと踵を返す。案の定、今まさに花村の回復を開始した雪子がいた。

「ヴァルナ!」

現れたのは、青い肌をした水神。

「ブフダイン!」

どうにか直撃は避けたものの、大ダメージを負わす事には成功した。追撃の槍を振り下ろすと、鳴上がそれを受け止める。これは…危機を感じ取った僕は、袖を掴もうとする鳴上の腕をどうにか躱す。後ろを振り向くと、予想通りに四人が僕を狙って迫っていた。

「ヴァーユ!マハガルダイン!」

完全に包囲されてしまう前に、突風で僕を含めた全てを吹き飛ばす。幸い、風属性が効かない花村は、現在無力化に成功している。互いに距離が空き、向こうの体制が整う前に、普通に使える範囲内での、一番の切り札を切る。

「ブラフマー!」

四つの顔。四つの腕に、赤い肌。水鳥に乗り、手にはそれぞれ、数珠、聖典、小壷、笏を持っている。ここで一気にたたみかける。

「ブラフマーストラ!」

水晶でできたような虹色に輝く螺旋槍が投擲され。大爆発を巻き起こす。ブラフマーがもつ固有スキルだ。威力はメギドラオンのそれをしのぐ、神話伝承にふさわしい一撃が、特別捜査本部を襲う。その爆発の中。僕は、爆風を利用し、真っ直ぐにこちらへと跳びかかってくるイザナギを見た。

「があッ!?」

剣による渾身の一振りが僕を捉え、僕は崩れ落ちた。

「けど…僕たちの勝ちだ。時間稼ぎは終わった」

『幾千の呪言』が鳴上たちへと襲い掛かる。鳴上を庇って次々と仲間たちがやられていく。

「残念だよ…こんな幕切れになるなんて…」

そしてとうとう、鳴上自身も飲まれていった。そして…

「有り得ない…個の意思が、人の総意を超えるというのか!?」

強い輝きと共に、鳴上のペルソナがその姿を変える。

「どういうことだ…なぜ私と互角なんだ…」

掛けていた眼鏡を捨て去り、ペルソナカードを握りつぶす。

「伊邪那岐大神!」

現れたのは、白い特攻服を身にまとった国生みの父。

「幾千の真言」

鳴上のその言葉と共に、無数の光が出雲を貫く。光が消えると、もはや体が崩れていく出雲の姿があった。

「そこまでにしといてくれないか?」

僕は、鳴上君に声を掛ける。

「畦倉…先輩」

僕がこれからどうするの、なんとなく分かっているのだろう。珍しく、泣き出しそうな顔をしている。

「そう悲観しないでよ。これは僕自身も望んだことなんだから」

いつも通りに笑いかけててを伸ばす。

「最後だ。まだ僕の事嫌いじゃないと思ってくれるなら、握手をしてくれないかい?」

カツン、カツンと音を立てながら歩み寄っていく。

「センパイ、ホントに行っちゃうクマか…?」

「ありがとう、クマ君。でも、もう決めたんだ」

「なら…なら、仕方ないクマね!」

涙をこらえながら手を差し出すクマ君と、握手を交わした。

「畦倉先輩。あなたのような人と出会えたことを、僕は誇りに思います」

「それは光栄だ。なら僕は、これからも直斗君が誇れるようにあるとしよう」

「短い間でしたが、ありがとうございました」

冷静を装いながらも手が震えている直斗と、握手を交わした。

「みっ、弥勒さん、うぅ…」

「泣かないでくれると嬉しいな、りせちゃん。最後にもう一度、昔の様な笑顔を見ておきたいんだ」

「わっ、分かり、ました」

涙を流しながら笑っているりせちゃんと、握手を交わした。

「畦倉先輩…俺、なんて言ったらいいのか分かんねーけど。先輩の事絶対忘れませんから!」

「花村君、君はこの一年で一番成長したよ。自信を持って、これから先も頑張ってくれ」

「はいっ!」

僕の事を記憶に刻むように見つめている花村君と、握手を交わした。

「畦倉、先輩…」

「里中さん。君は君のやり方で、たくさんの人を助けてあげればいい。約束してくれるかい?」

「もちろんです!見ててください。あたし、頑張りますから!」

とびっきりの笑顔を向けてくれる里中さんと、握手を交わした。

「畦倉先輩!いままで本当にお世話になりましたッ…!」

「完二君。君はとても優しい子だ。もっと自分に自信を持っていいんだよ。分かったね?」

「ウス!」

涙を流しながら礼をしている完二君の手を取り、握手を交わした。

「畦倉先輩。私は、もう一人で嘆くことはしません。先輩が安心できるように、生きてゆきます」

「そうだ、それでいいんだよ。雪子ちゃんは昔から、一人で頑張り過ぎるところがあるからね」

「今まで、ありがとうございました!」

珍しく声を張り上げた雪子ちゃんと、握手を交わした。

「畦倉先輩」

「鳴上君。君は本当に素晴らしい人間だ。みんなと絆を育み、あらゆる困難を乗り越える。僕には出来なかったことだよ。誇っていい」

「俺の、自慢の仲間たちですから」

いつもと変わらずに笑う鳴上君と、握手を交わした。

「おや……」

「これは……」

その時、ピシリという音がして、『世界』のアルカナカードが現れた。

『我は汝…汝は我…。汝、新たなる絆を見出したり…』

「良かった。鳴上君たちには迷惑かけたからね。これでこれからも、助けになれるみたいだ」

自然と優しい微笑みが漏れる。とても気分がいいみたいだ。

「それじゃあ、僕は行くよ。君たちに出会えて、本当に良かった」

嘘偽り無い感謝の気持ちを伝えると、僕は、出雲へと向けて歩き出した。今にも消えてしまいそうなほどに、弱弱しい。

「待たせてゴメン。じゃあ、始めようか」

「……ええ、お願いします」

複雑な表情をしている。参ったな、そんな顔しなくてもいいのに。

「釈迦牟尼仏」

その名を呼ぶと、僕の体は光を放ち、やがてそれは現れた。見るもの全ての心を揺さぶる、圧倒的な救いのカタチ。

「僕は、絶対に救われないものを救う光になろう」

消えそうな出雲を抱きしめると、その身を覆う穢れが僕へと移る。全ての穢れを失った出雲は、もはや黄泉津大神ではなく、ただの国母出雲へとなっていた。有り得ない奇跡。あらゆる法則を捻じ曲げ、僕はそれを成し遂げた。案外、あっけないものだな。神になるというのも。

「本当にこれで良かったのですか?…これではただの身代わり。あなたが救われないではないですか……!」

人となった事で、感情の抑制が甘くなったせいか、出雲は涙を流している。

「違うんだよ、出雲。僕は分かったんだ。ずっと、僕はなんでこんなにも救いたがるのか疑問だった。でも今なら分かる。僕は、誰かが救われたときに、自分も救われるんだ」

それが僕の救いのカタチ。歪な僕だけが持つ真理。

「だから、僕は君が救いを感じていれば、それで幸せなんだ」

「そう、ですね…別れに涙は不要です。弥勒を私の間には特に」

そう言って、微笑んでくれる出雲が、本当に愛しい。やはり、僕には出来過ぎた友達だ。

「出雲、君の未来に幸多からんことを。それじゃあ、暫くのあいだ、お別れかな。僕の一番の友達」

「ええ、また会える日を楽しみにしています。私の唯一の友達」

淡い光が僕を包み、霧と一緒に僕の体は消滅した。

 

・・・

「そうして僕は、救われないものを救うという概念になったんだ。救いのカタチは存在によって変わる。君も分かってるだろう」

「ええ、十分に分かっています」

「だからってこれはありなのか!?」

僕は現在、ガソリンスタンドで働いている。あの後、確かに消滅した僕は、数秒後、出雲によってこの世界に召喚された。格好つけて別れた分、とても恥ずかしい思いをしたのは、記憶に新しい。出雲曰く。初めて出来た友達を生贄に捧げてのうのうと生きてる、それは一生私を蝕むでしょうからね。だそうだ。広義すれば、確かに永遠に救われないだろうが、そんな簡単に呼び出せていいのか、と突っ込みたくなるような話だ。まあ、事情を知ってるからこそできる方法な訳だけど。

「私を助けたのです。最後まで責任を持っていただきますよ」

「いや、まあ、それはいいんだけどさ。お前そんなキャラだったっけ?」

これはこれで一つの救いのカタチ。そうして僕の、いや、僕と出雲の一年の物語は幕を閉じたのだった。




コンゴウリキシ        物 火 氷 雷 風 光 闇
               耐 耐 弱 反 ― ― ―
 
ジュロウジン         物 火 氷 雷 風 光 闇 
               弱 耐 ― 弱 ― ― 弱

ヴァルナ           物 火 氷 雷 風 光 闇
               ― 耐 吸 弱 ― ― ―

ヴァーユ           物 火 氷 雷 風 光 闇
               ― 弱 弱 ― 吸 ― ―

ブラフマー          物 火 氷 雷 風 光 闇
               ― 耐 無 吸 耐 反 反

釈迦牟尼仏          ステータスとかはないです
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