救いのカタチ   作:神話好き

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六月

巽完二のサウナが隣にできてしまったのは、非常にまずい。いつ狙われるか分からないというのもあるが、一番の問題は鳴上君たちにこの塔の存在がばれてしまうことだ。さんざん悩んだ末、出雲に相談したところ、いとも簡単に場所を変えてくれた。手遅れになる前で本当に良かった。

「お話を聞かせてもらってよろしいでしょうか?畦倉弥勒さん」

問題が解決して晴れやかな気分で本屋に赴くと、男装の少女に声をかけられた。テレビで見たことがある、たしか探偵王子と呼ばれていた。名前はそう、白鐘直斗といったっけ。

「驚いたな。こんな場所で有名人と会うことになるなんて。それも、僕に用事があるとは」

「僕のことを知っておいででしたか。一応自己紹介をいたしますと、僕は白鐘直斗。このたびの連続殺人事件について捜査をしています」

言いきってから軽く一礼をする。

「実は今、巽完二さんが失踪しているんです。知ってましたか?」

ああ、やはりそういうことか。どうやら三年前の事件について調べたらしい。嘘をついて余計に警戒させるのは避けたいな。かといって本当の事も話せない。

「完二君とは三年前以来会ってないんだ」

「三年前、ですか?」

「おや、調べたんじゃないのかい?だから僕のところに来たんだろうと思っていたんだけど」

「いえ……出来れば詳しくお聞かせ願えますか?」

僕の考えは見当外れだったようだ。しかし、では何故僕のところに来た?

「いいけど、ここでするような話じゃないんだ。場所を変えてもいいかな」

「構いません。では、公園はいかがでしょうか。先ほど通った時には誰もいない様子でしたし」

「いいよ。それじゃあ行こうか」

それでは、と言って先導する直斗君。無言のまま公園に向かって歩き続ける二人。丁度いい、僕の疑問を聞いておくチャンスだ。というか抑えきれない。

「白鐘君はさ、どうして王子なんて呼ばれてるんだい?」

「それは世間が勝手に付けた呼称です。探偵家業をする少年と言うのが物珍しかったのでしょう」

「んー、僕が聞きたいのはそういうことじゃなくてね」

前を向いたまま話していた直斗が立ち止り、こちらを見る。その瞳には若干の怯えに色が見える。心が疼く。

「なんでしょうか」

「いや、ごめん。なんでもない。僕の勘違いだったみたいだ」

「そうですか……」

怪訝な顔でこちらの様子を観察する直斗君。性別、彼女の心の闇はそこに在るようだ。意外と完二君と話が合うんじゃないだろうか。

「ああ、思い出した。なんで僕のこと調べようと思ったのか聞きたくて。これから話す事以外では、あまり完二君とは接点もない。どういう経路で僕のところにたどり着いたのか知りたくてね」

重苦しくなってしまった雰囲気を吹き飛ばすために、軽いノリで話を切り出した。

「そういうことでしたか」

納得するように頷くと再び歩き出しながら言葉を続ける。

「鳴上さんですよ。失踪した天城雪子が発見された後、彼らの仲間に加わりました。それだけならば不自然はないんです。もともと里中千枝とは親友だったようですし。しかし、巽完二は違います。失踪の直前、特に親しくもないはずの彼の家を訪れたり、彼を付け回していたりしたようです。彼らはこの事件に何らかの形で関わっている。僕はそう思っています」

「それだけ聞くと、僕はあまり関係なさそうに聞こえるけど?」

「天城雪子が学校に復帰してすぐのことですが、あなたがジュネスのフードコートで彼らと会っているのを目撃した人がいるんですよ」

「ああ、なるほど。あの時の事か、確かに話を聞く限り僕も怪しいか」

「ええ、ですがあなたは何も知らないようですね。とても何かを隠しているようには見えない」

僕の本性を隠すための技は、無事に探偵を欺き通せたようだ。

「じゃあ、後は三年前の話を話すだけかな」

「ご協力感謝します」

他愛ない話をしながら公園へと向かった。

 

・・・

弥勒が白鐘直斗に自分の過去を話している時、鳴上たちによる巽完二救出作戦も佳境を迎えていた。

「もうやめようよ、嘘つくの。人をだますのも、自分をだますのも、嫌いだろ」

頬をうっすらと紅潮さながら完二のシャドウが言う。

「やりたいこと、やりたいって言って、何が悪い?」

「それとこれとは……」

完二同士の会話を鳴上たちは黙って聞いている。

「僕は君のやりたいことだよ」

「違う!」

完二は右手を振り回しながら怒る。少しの間二人の間に沈黙が降りる。不意にシャドウが語りだした。

「女は嫌いだ……偉そうで、我がままで、怒れば泣く、影口は言う、チクる、化ける……気持ち悪いモノみたいに僕を見て、変人、変人ってさ……で、笑いながらこう言うんだ」

言ってる方も聞いている方も苦しそうな顔をしている。それは紛れもない本心だからだ。

「裁縫好きなんて、気持ち悪い。絵を描くなんて、似合わない。男のくせに……、男のくせに……、男のくせに……!」

だんだんとシャドウの声色が本人の者へと近づいていく。

「男ってなんだ?男らしいってなんだ?女は怖いよなぁ……、あの人とは違って僕のことを非難する!」

「やっ、やめろ!それ以上は言うんじゃねぇ!」

「三年前のあの日、嫌われ者だった僕を何も言わずに助けて、笑いかけてくれた。かっこいい、憧れの人」

「黙れってんだ!」

恍惚の表情のシャドウと、大声を出して威嚇している完二。誰がどう見ても虚勢だと分かるくらい、今にも崩れ落ちそうだ。

「男がいい……男のくせにって言わない、あの人みたいな男がいい」

「ざっ…けんな!テメェ、ひとと同じ顔してフザけやがって…!」

「キミはボク…ボクはキミだよ…、分かってるだろ…?」

「違う…違う、違う!テメェみてぇのが……俺なもんかよ!!」

「ふふ…うふふふふふふ…。ボクはキミ、キミさァァ!」

その一言をきっかけに、完二のシャドウの放つ威圧感が膨れ上がる。褌をした筋骨隆々のシャドウへと変身し、その衝撃で完二を吹き飛ばす。

また一つ、真実に近づくための戦いが始まった。

 

・・・

昼休み、僕が屋上にいるとドアが開く音がした。

「最近多いな、屋上来るのはやってるのか……?」

ボヤキながら振り返ると、そこには見知った顔があった。鳴上君を含めたメンバーに完二君が加わっている。

「珍しい組み合わせだね」

誰もいないと思ってたようで、こちらから声をかけると驚いていた。特に完二君が。

「畦倉先輩!?どうしたんですかこんなところで?」

「先輩が一人でいるところなんか、初めて見たッスよ」

「僕としてはそんなつもりはないんだけどね。ここにはよく一人で来るんだよ。雪子ちゃんの時もそうだったろう?」

ねっ、と雪子ちゃんに顔を向ける。

「完二君と話すのは、あの件以来かな。懐かしいね」

「うす…。あの時はお礼も言えずにすみませんっした」

突然頭を下げる完二君を見ながら、里中さんと雪子ちゃんは、敬語……ぷぷ……。と言いながら笑いをこらえている。

「頭を上げてよ完二君。あれは僕がやりたいようにやった結果だ。お礼が欲しかったわけじゃないよ」

これは偽らざる本心だ。それこそが、僕の異常である証明でもある。

「でもっ!先輩は怪我を――」

「ストップ。せっかく久しぶりに話すんだ。暗い話は無しにしようよ」

完二が勢いに任せて話す前に阻止する。

「っ!すみません……」

「いいよ。でもそうだな、どうしてもお礼がしたいって言うなら、今度ご飯でもおごってくれるかな?それであの件はおしまい」

何の話か分かっていない鳴上君たちは不思議そうにこちらを見ている。

「それじゃあ、みんなの邪魔しちゃ悪いし、僕はこの辺で失礼させてもらうよ」

いつもの軽い笑みを作り、屋上のドアへと向かう。

「それと、さっきの話。どうしても気になるようなら、完二君か堂島さんに聞くといいよ。僕が話していいって言ったなら、きっと話してくれるから」

ギイ、と音を立てドアを開け、僕は屋上を後にした。

「さて、これからどうなるのか」

自然と先ほどとは違う笑みがこぼれた。

 

・・・

それから十日ほど経ったある日。いつものようにバイトに勤しんでいると、出雲が話しかけてきた。

「そういえば、俺の考えは伝えたけども、弥勒がこの計画をどう思ってるか聞いてなかったよな?」

ついつい無視してしまった。驚きすぎて脳が空耳だと判断したようだ。

「おーい、弥勒?」

「いきなりそういう話をするのはやめろ。心臓止まるかと思ったわ」

「大丈夫だって、あと一時間くらいは何の騒ぎもないはずだから」

「また、なんとなくか?」

「そうそう。だから大丈夫だ」

会話としておかしいのはさておき、その言葉の通りなら、あと一時間で面倒事に巻き込まれることになるらしい。とても聞きたくなかった。

「しかし、どうって言われてもな。現状、おそらく鳴神君と一緒にいる四人が、自分と向き合うことが出来ただろう。それはとても幸福なことだ、大半の人が一生出来ずに終わる。他にもいろいろあるけど、僕としては、どちらかと言うと賛成。刀って感じかな」

その時にならなきゃ分からないが、人の望みが虚飾の世界ならば。それもまたよ良し、としてしまうだろう。

「結局、命を懸けなきゃ本当に欲しいものには手が届かないらしい。それをあらためて実感したよ。案外、僕は皆と変わらないのかもしれないね」

「なるほどなー。っとお客さん来たみたいだ。行ってくる」

話を聞くだけ聞いて、出雲はさっさと去って行った。

「コーン!」

「ん?」

振り返ると狐がいた。

「コーン!」

もう一度吠えると、すりすりと体を擦り付けてきた。懐かれているみたいだ。ダキニテンの効果だろうか?

「ほら、こっちにおいで」

とんとん、と自分の膝とたたくと狐は指示通りに飛び乗ったあと、うずくまって昼寝を始めた。

 

・・・

客足も無く。膝の上の狐を撫でているだけの時間が過ぎ、もうすぐ出雲が言った一時間後だ。その時、

「逃げんなテメ……このッ!」

聞き覚えのある声が外で響いた。この声は完二君だろう。狐はビクッと体を震わせて飛び起き、そのままどこかへ行ってしまった。

「く、来るな!」

「るっせ、んなの聞く馬鹿が……」

様子を窺うと、鳴神君たちに加えなんと足立さんまでいるようだ。

「と、飛び込むぞ!僕が車に轢かれても、いーのか!?」

喚き散らすように言うのは見覚えのない男。チェック柄の服にジーパン、首には大きなカメラを掛けている。

「な、なんだそりゃ…!?」

花村君を含めた全員が呆れたような顔をした。足立さんが焦ったようにみんなを止めている。見てしまった以上どうにかするとしようか。僕は、店の奥から非常用の刺又を引っ張り出し、こっそりと男の後方へと回り込んでいく。

「槍とは違うけど、まあ、どうにかなるだろう」

男の道路を挟んだ丁度真後ろに立つと、車の流れが切れたのを見計らって飛びかかる。

「ふっ!」

柄で膝の裏を突き、崩れ落ちる男の胴体をU字部分で拘束した。何が起きたのか分からずに目を白黒させている。

「大人しくしてください、抵抗は無意味です」

「きっ、君ね、善良な一市民にこんな乱暴なマネして……」

「うるさいです。営業妨害なので御用となります」

絶句した。僕がとてもいい笑顔だったからだろう。

「では、足立さんでしたっけ?確保をお願いいます」

「う、うん。分かったよ」

「では、僕はこれで」

刺又を手に去っていく途中、あの人は怒らせないようにしよう、という言葉が聞こえた気がした。

「しかし、次の標的はもしかして久慈川りせなのか?」

でなければ、張り込みをしていて先ほどのような人物に会うことはないだろう。

「また知り合いとは。イゴールが言ったように鳴上君と僕の運命は、絡まってるようだ」

ため息をつきながら休憩スペースに戻ると出雲がいた。

「あっ、おかえり」

「おかえりじゃねーよ。いきなり消えやがって」

「俺としては、会うのはご遠慮願いたいもんでね」

「だろうよ。なんたってイザナギだからな」

「痛いところを突くね、弥勒は。次言ったら晴れの日のバイト人員がまた減るからな」

「それだけは勘弁してくれ」

皮肉のつもりが地雷を踏んだらしい。本気で出来るから性質が悪い。こいつが店員を減らしたせいで、家にいる時間よりもガソリンスタンドにいる時間の方が長いのだ。

「さて、今日はもう上がりでいいから。弥勒も様子を見てこいよ」

「人は見たいように見るって奴か。僕はそれはもう知ってるよ。今さら見るほどのものじゃない」

「何言ってんの?俺は久慈川りせでも見て来いって意味で言ったんだけど」

「………ああ、そうですか」

意味もなく、かっこつけたようなことを言ってしまった自分が恥ずかしい。

「ん?」

出雲が眉をひそめる。

「一足遅かったみたいだ。今、テレビの中に久慈川りせが入った。」

「なんだって?」

商店街の方へと顔を向けると、一台のトラックが走り去っていった。あれは見覚えがある。運送業者のトラック。そうか、テレビを荷台に積んでいるのか。あれならばいきなり人が消えるのも納得の話だ。じゃあ、足立さんはなんなんだ?分からない。断片的ながらも情報が集まってきた、早いところ一連の事件の全容を暴かなくては。

 

・・・

その夜。案の定、マヨナカテレビが始まった。

「マルキュン!りせチーズ!みなさーん、こんばんは、久慈川りせです!」

薄暗いピンクな光の満ちた部屋の真ん中にりせが現れる。この時点でなんとなく察した僕は、力が抜けたように崩れ落ちた。

「僕が小さいころ遊んでた人はどうしてこうなるんだろう……。まさか、あの真面目だったりせちゃんまでもが、こうなってしまうとは」

目頭が熱くなる。このままでは変人量産工場とか言われてしまいそうだ。主に出雲から。

「前回よりはまだ、入りやすいかなぁ……」

マヨナカテレビでは、ストリップがどうとか言っている。聞いていると悲しくなるので、僕は今回のダンジョンについて考えることにした。

「いきなり行って手痛い反撃を食らうのはもう御免だし、今回は少しばかり準備してから行こうかな」

明日あたりベルベットルームに行って、マーガレットさんに制御の練習に付き合ってもらおう。出雲?あれはダメ、強すぎる。切り札きって本気で戦っても軽くあしらわれた。

「どうやら、鳴上君たちはターゲットの基準に目星がついていそうだったし、今度、それとなく聞いてみようかな」

マヨナカテレビが終わり、画面が暗転する。

「……念のため、魅了の効かないペルソナを装備しておくか」

完二のシャドウを思い出し、冷や汗を垂らしながら僕は呟いた。

 




ダキニテン(荼枳尼天)は、日本の神道における稲荷と習合しており、狐に乗る像は日本発祥のようです。
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