救いのカタチ   作:神話好き

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八月

僕は現在、再び黒い外套と帽子に向き合っていた。言われるまで全く気が付かなかったが、この装備壊滅的にダサいらしい。ジュネスのフードコートであの時の話をしている鳴上君たちが、全員口をそろえてあの恰好はない、と言っていた。あの団体の中での謎のペルソナ使いの評価は、無口でものすごく強い変人ということになってしまっている。この遺憾ともしがたい事態に対し、僕は急遽衣装替えを敢行することにしたのだ。とはいえ、全身を覆えて、顔もある程度隠せる衣服となると、なかなかに難しいものがある。

「仕方ない。今回はこれで行くしかないか……」

ダサいのが分かっていながらも人前でこの装備を着るのは、かなり苦痛だ。羞恥心がヤバい。出雲に相談したら予想通り、死ぬほど笑われた。……もう死んでる訳だが。

「存在がばれた以上、僕の事を探ってくるだろうな。今回は共闘になるかもしれないけど、ホクロの少年が犯人じゃないと分かったら、一番に疑う対象は僕になる」

自分に言い聞かせるように言う。僕が普段からやっている、ミスをしないようにする方法だ。現状確認を念入りにすることで迂闊な行動を取らないようにする。

「前回と違って前線に立つ。顔への被弾は即アウトだ。極力攻撃を受けないように立ち回ろう」

独り言もとい確認事項が終わり、前回と同じ装備を着こむ。いつも通りに愛用の槍を持ち、テレビへとのめり込んでいく。落下するような感覚にもいい加減慣れたもので、音もなく塔の頂上へ降り立った。

「今回、マーカーは無い。一気に登り切って、そのまま突入。加勢がいるようなら加勢する」

マーカーがないのは、鳴上君たちがいつ僕が来てもいいよう、常に入口に見張りを立てていたからだ。おかげで一度もダンジョンに入ることが出来なかった。

「シャドウは全部無視して突っ切るしかないか……」

軽く準備運動をしながら首を捻る。

「マリシテン!」

あやふやな影のようなペルソナが現れる。よく見ようとすればするほどに、ぼやけて見える。陽炎の神格である。回避力に特に優れたペルソナで、弱点となる属性にはそれぞれ、真、見切りを持つ。

「よーい、スタート!」

山のように襲い掛かってくるシャドウの群れをかいくぐり頂上を目指す。止まらずに駆け上がらなくては、押しつぶされてしまいそうだ。

「これは……なかなか辛い道のりになりそうだ」

ボヤキながらもただひたすらに頂上を目指して駆ける。

 

・・・

やっとの思いで頂上手前の扉までたどり着くと、鳴上君御一行が、今まさに先に進もうとしているところだった。壊滅的にダサい恰好の不審者が、肩で息をしながらこっちを見ている。驚きを通り越して笑えるようだ。雪子ちゃんが涙目になりながら笑いをこらえている。泣きたいのは僕の方だ。

「どうにか……間に合ったか……」

「来てくれたのは嬉しいけど、まさか、一階から上がって来たのか…?」

信じられないものを見るような目つきをしている。

「そうなるかな。こちらとしても正体が知られるのは避けたいから」

ようやく息も整い、普通に会話ができるくらいに落ち着いた。

「なぜ正体を隠したがる?」

鳴上君が目を細めて問いかけてくる。

「事件が解決したら教えるよ。それよりも今は先に進もう」

両掌を上に向け、適当にはぐらかす。嘘は言っていない。この事件が解決するまでには僕の正体もばらすつもりだ。

「……分かった。それより口調が前と違わないか?」

「ああ、こっちが素なんだ。前回の時にそこの彼女に見破られちゃってね、隠しても仕方ないと思ったから戻したんだ」

こちらを観察するように見ているりせちゃんを指さしながら言う。今も嘘がないかどうかを見てるようだ。

「今回、僕も前線で戦おうと思うんだけど、いいかな?」

「あっ、ああ。構わねえけどよ、前回のアレみたいなのは勘弁しろよな」

花村君の顔が引き攣っている。アレと言うのは、火生三昧の事だろう。

「安心していいよ。あんなのそう簡単に使えないから」

一同ほっと胸をなでおろしている。僕は、あんなのを連発する危険人物だと思われていたのか。

「今回の主力は『マイトレーヤ』。僕の最初のペルソナ。攻撃、援護、回復の出来る万能型さ。器用貧乏とも言うけどね」

軽く笑ってからその場にいる全員を見渡す。

「胡散臭いのは承知の上だけど、よろしく頼むよ」

「いや、こっちこそ悪かった。それと遅れたけど。前回は助かったよ。ありがとう」

どういたしまして、と返しながら僕は扉を開いた――つもりが開かなかった。あれ?困惑していると、鳴上君が僕の横に立ち。黒い玉を掲げた。それに合わせて扉が開き、僕は多大なる羞恥心を覚えた。今度は雪子ちゃんだけではなく、みんな笑いを堪えている。

気を取り直して鳴上君を先頭に扉の奥へと入る。

「やぁーっと見つけたっ!!あそこ!」

里中さんが大声を張り上げた。前方には、ホクロの少年とそのシャドウが向き合っている。急いで駆け寄る。

「テメェが久保か!野郎、歯ぁ食いしばれッ!」

「待て、完二!…なんか様子がおかしい!」

ホクロの少年は地団駄を踏んでいる。

「どいつもこいつも、気に食わないんだよ…だからやったんだ、この俺が!どうだ、何とか言えよ!!」

怒鳴り散らす少年の言葉を、シャドウは眉一つ動かさずに聞いている。

「たった二人じゃ誰も俺を見ようとしない。だから三人目をやってやった!俺が、殺してやったんだっ!!」

鳴神君たちは互いに顔を見合わせている。

「な、何で黙ってんだよ…」

「何も…感じないから…」

今まで黙っていたシャドウが口を開く。

「なに言ってんだ!?意味分かんねーよテメェ!!」

確かに明らかに様子がおかしい。

「な、なによ…?どっちがシャドウ?」

「僕には…何もない…僕は、無だ…。そして…君は、僕だ…」

「なんだよ…なんだよ、それッ!オレは、オレは無なんかじゃ…」

苦しそうに喚く少年は、さながら子供が駄々をこねているようだ。僕はいつでも戦闘に入れるように臨戦態勢へと移行する。眼前では特別捜査本部のみんなと少年の会話が続いている。少年が倒れ、シャドウに力が集まり始める。悲鳴とともに巨大な赤ん坊型のシャドウが現れた。

「くそっ…結局こうなんのかよッ!」

「みんな、頑張って!こいつ倒せば、事件解決は目の前よ!」

戦いが始まると同時に、シャドウの周りをブロックが覆い、剣を持った人型になった。

「僕は…影…。おいでよ。…空っぽを、終わりにしてあげる」

「外側を崩さないと本体へは攻撃できないみたい!」

りせのアナライズを聞き次第、動き始める。普段から連携を取っている中で僕は異物だ。呼吸がつかめるまでは、援護に徹するとしよう。

「マハスカクジャ!」

全員の命中、回避が上がる。様子を見てみると、各自ペルソナを出しつつ、見事に連携をとって戦っている。これは確かに、僕とは違う強さだ。イゴールが言っていた絆のワイルドと言うヤツだろう。

「これは下手に邪魔しないほうがいいかな?」

そう思って下がろうとした時だった。

「十秒後にデカい一撃頼む!」

まさかと思い見てみると、全員がしっかりとこちらを見据えていた。

「了解!」

大きな声で返事をし、ペルソナを付け替える。

「インドラ!」

赤い髪と髭と携えた褐色の巨人が現れる。体中には千の眼。その手には金剛杵を持っている。

「うわぁ…またヤバそうなのが出てきたなぁおい……」

「花村、そんなとこ行ってる場合じゃないってば!巻き込まれないように離れないと!」

五秒前、四、三、二、一。

「マハジオダイン!」

耳をつんざく轟音が鳴り響き、シャドウに直撃すると、一瞬にして外装が剥がれ、中の赤ん坊が出てきた。

「今だ!総攻撃チャンス!」

雷が収まるのを確認すると、リーダーの言葉に反応して一直線に赤ん坊へと向かう。恐ろしいほどの連携だ、これを相手に立ち回るのは至難の技だろう。

「チャージ」

僕は次の機会に備え、準備を始める。案の定、勝負を決めきる前に外装が再生していく。鳴上君と目が合い、互いにこくんと頷く。

「さっきよりでかいのを打ち込む!十秒後だ!」

十秒の間こちらに注意が向かないように、僕を除く全員が攪乱を始める。

「オラァ!こっちだ、来いよッ!」

一番、大柄なタケミカズチを中心に、迫ってくるブロックの欠片や、爆弾を排除する。

「皆、散れ!」

攻撃の発動直前、一斉にシャドウから離れる。

「プララヤ!」

その瞬間、敵シャドウの足元から光の爆発が巻き起こり、再び外装を消し飛ばすことに成功した。

「イザナギ!」

その一瞬を逃すことなく、イザナギの剣が赤ん坊を捉え、今度こそ完全に撃破した。

 

・・・

その後、少年が目を覚まし、ジュネスのテレビから外に出た。客の視線が痛いが、今更逃げるわけにもいかず、ぐっと我慢している。記憶が混乱しているようで、詳しい話は何も聞けずじまいのまま、警察に引き渡した。

「足立さん、嬉しそうだったね…」

「まあ、これで…俺らの役目も終わりって事かな…」

事件を解決した皆だが、その表情は暗い。

「さて、それじゃあ、話を聞かせてもらえるか?」

僕へと視線が集まる。

「何が聞きたいんだい?話せることは限られてるけど、可能な限り話すよ。と言っても、あまり多くを語れるわけでもないんだけどね」

「目的があるって言ったよな。それは一体なんだ?」

いきなり確信を突いてきた。

「大雑把に言うと、救ってあげたい人がいるんだ。そいつを救うのが僕の目的さ」

「救うだって?」

女性陣の目つきが怪しく光と、三人が集まってこそこそ話を始めた。恋人だとか愛人だとか不吉な単語が飛び交っている。

「それがなんで俺たちを助けることになるんだ?」

「それは言えない」

「君の正体は誰だ?」

「それも言えない」

「そうか……それじゃあ最後の質問だ―――この後の打ち上げくる?」

内心ドキドキしていた僕は盛大にずっこけた。

「い、いや、遠慮させてもらうよ。僕は部外者だからね、君たちは君たちで楽しむといい」

「どうしてもか?」

断っても食い下がってくる。皆いい笑顔をしている。押し切る気満々だ。このままではまずいので、僕も切り札を切ることにする。

「実は僕、マヨナカテレビの録画できるんだよね」

その魔法の言葉により、僕は無事に帰宅することが出来た。

 

・・・

その後、大した出来事もなく八月も終わりを迎えようとしていた。僕は、やることもないのでベルベットルームに赴き、マーガレットさんと修行をしていた。

「そんな大雑把な攻撃では当たりませんよ」

身体能力を強化したうえで繰り出した僕の突きはあっさりと躱され、カウンターに一撃入れられてしまう。ペルソナでの直接攻撃なしでやってもこれだ、出雲よりはましだが、勝てる気がしない。

「ぐ、っ」

いい一発を鳩尾に貰いうずくまる。立ち上がれない。

「これで私の二十戦二十勝、これ以上は危険です。今日はここまでにしましょう」

「ありがとう、ございました」

なんとか立ち上がり、フラフラのまま礼をする。特別捜査本部の皆と肩を並べて戦ったから分かる。今のままの僕では勝てない。それほどまでにあの連携は脅威だ。相対するだろう時に備えて、打ち勝つだけの力を身につけなくてはならない。

「まあ……」

その決意に惹かれたかどうかは定かではないが、僕の頭上に新たなペルソナカードが浮かんでいた。

「おめでとうございます。目の前で見るのは初めてですが、どうやら新たな力を得た様子」

「マハー・ヴァイローチャナ」

それが、僕の手にした新たな力の名だった。




マリシテン(摩利支天)   物 火 氷 雷 風 光 闇
              無 無 無 弱 弱 ― ―

インドラ          物 火 水 雷 風 光 闇
              耐 耐 ― 吸 ― 無 ―

マハー・ヴァイローチャナ  現在ステータス不明
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