救いのカタチ   作:神話好き

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十月

直斗が回復し、特別捜査本部の新たなる一員となった今日。先月からみんなをもやもやした気持ちにさせていた議題について、詳しく話し合うことになった。もちろん、謎のペルソナ使いは畦倉弥勒説である。

「畦倉先輩があのペルソナ使いだって可能性はどれくらいあるんだ?」

なんとなく嫌な雰囲気の中、リーダーの鳴上が口火を切る。

「僕が話したのは一度だけなので、彼の人となりはその時の会話と、三年前の事件の資料でしか知りません。もっと詳しく調べてみないと、何とも言えませんね」

「つってもよぉ。話してる感じが、普段の畦倉先輩と全然違ったぜ」

続いたのは直斗と完二。

「大体、ホントに畦倉だとしたら、正体隠す理由が分かんねェ。俺たちに協力を求めればいいだけの話だろ」

「完二の言うとおりだな。あんなに良い人が悪い子とするなんて考えらんねーよ」

花村が頭を掻きながら言う。

「それに、ホントに何も知らなさそうだったよ。雪子助けた後、誘拐って口滑らせちゃったとき、本気で訝しんでたもん」

「そうだよね。あれが演技とは思えない」

「じゃあ、その後にペルソナ使いになったとか?」

りせが、顎に手を当てながら頭を捻っている。完二も同様だ。

「でもでも、あの人すっごく強かったクマ―!」

「だな。俺たちより後にペルソナ使いになったとは考えにくい」

議論を重ねれば重ねるほどに、別人に思えてくる。しかし、どこかに引っかかる。それは、三年前の事件を、本当の意味で知っている鳴上と直斗だけが持つ、小さな小さな疑念。

「ああー!そういえば、雪子を助けようとしてテレビに入った時、一面焼け野原になってたことあったよね!?」

「りせちーのシャドウの時に使ったあれか!」

とてつもない威力の一撃だった。確かにあれなら納得できる。しかし、

「天城先輩を助ける前、ですか…」

直斗が難しい顔をしている。弥勒が偶然残した痕跡は、図らずも謎のペルソナ使い特定を難攻させていた。

「少し、引っかかってることがあるんです。僕が、畦倉先輩と会った時のことは知っていますか?」

みんなが頷く。先月、本人から直接聞いている。

「あの時、僕は注意深く観察しながら話を聞いていたんです、些細な変化も見落とさないように。何も知らないと言った彼に、嘘をついている気配を微塵も感じませんでした。ですが彼は、天城さんが誘拐されたということを知っていた。どういうことだかわかりますか?」

若干二名と一匹は理解していないようだが、つまりはこういうことだ。

「畦倉先輩は嘘をついてる、そういうことだよな」

「ええ、その可能性はあります。僕は、幼いころから多くの人間を観察してきましたが、あれほどまでに完璧に欺かれたのは初めてです。皆さんの話がなかったら、おそらく気づかないままでした」

「……マジか?じゃあホントに畦倉先輩ってこともあり得るのか!?」

「でもよく考えてみると、目的が『助けたい人がいる』って畦倉先輩っぽいかも…」

「ああー、まどろっこしい!俺、ちょっと聞きに行ってきますよ!」

「ちょ、完二!ストップ、ストーップ!」

今にも走り出して行きそうな完二をりせが間一髪で止める。恩人が疑われているのだ、無理もない。

「完二、少し落ち着け」

「……うす」

「…僕は、畦倉先輩に話を聞いた後、警察に残っている彼の資料を調べました」

話の流れを変えるために、直斗がゆっくりと口を開く。おそらくそれは、完二たちの知らない、その後のことまで含めた話だろう。

「直斗、そこから先は俺が話すよ」

直斗を含めた全員が、驚いたような表情でこちらを見ている。

「鳴上先輩…どうして、いや、そうか。堂島さんから聞いたんですか?」

「そうだ」

これは気分のいい話ではない。特に完二には辛い話になるかもしれない。

「三年前の事件。畦倉先輩を取り調べしたのは伯父さんなんだ」

「伯父さんって、堂島さん?でもそれ、なんか関係あるんですか?」

「伯父さんは取り調べの時、よくもまあ、そんな無茶をしたもんだって言ったらしいんだ。その時畦倉先輩が言った言葉は、そんなことないですよ、これくらい刑事さんもやるでしょ?だ」

すでに知っていた直斗以外のメンバーは青ざめている。まるで、でたらめな作り話のような話だ。この時の弥勒はまだ、自分が普通だと思っていた狂人だ。

「不審に思った伯父さんはいくつか質問をしたらしい。目の前で飢えてる人がいたら、自分が餓死するのを承知の上で、笑顔で食料を渡す。そういう人だったって。それを見るに見かねた伯父さんが、一つ一つ、子供に向かって教えるように、常識を刷り込んだんだ。初めのころは、ストレスで自分の腕を、血が出るまで掻きむしったりしたって話だ」

話が終わると同時に、沈黙が下りる。全員、声も出ない様子だ。特に完二は、手に力が入り過ぎて震えている。

「俺、情けねぇッス…。あの人は、俺と違って優しくて、誰からも好かれてて、ヒーローみたいな人だと勝手に思ってッ!」

絞り出すような声だ、拳からは握り過ぎて血が出ている。

「心のどこかで、きっと何でも出来る人なんだって。そう思っちまってた……そんな訳ねェのに!」

「私も…。あの日、屋上で助けてだなんて喚いて…そんな権利、ある訳なかったのに。なんてひどいことを」

「俺だって同じさ…。親切にしてもらっておいて、畦倉先輩だから、で何も知ろうとしなかった」

懺悔するように言葉を紡ぐ。この半年間の記憶が身を焼いていく。

「私だって、困った時の畦倉先輩作戦とか無神経な事言っちゃった…」

「あ、あたし。人の為に頑張れるのは良いことだと思います、なんて……それなのに、逆に励ましてくれて」

里中に至っては今にも泣きだしてしまいそうだ。

「あの人が、今もまた誰かの為に自分を犠牲にしようとしているなら、俺は止めたいと思う」

陰鬱とした雰囲気の中、鳴上の声が響く。その瞳は強い意志を宿している。あの人を大事に思うなら、俯くなと、それを彼は望んでいないのではないかと、そう問いかけるような目だ。

「まずは、畦倉先輩と話そう。謎のペルソナ使いとか抜きにしてだ」

その一言で、特別捜査本部のこれからのは決まった。

 

・・・

中間テストも終わり、もうすぐ文化祭という今日この頃。僕は常に五人の視線にさらされていた。りせちゃん、完二君、花村君、里中さん、雪子ちゃんの四人だ。話しかけてくるでもなく、ただ見てくる。しかし決して視線は合わせようとしない。尾行のつもりなのだとしたら、確実に才能はない。探偵にだけはならないほうがいいだろう。

「どうしようか……」

全く状況がつかめない。正直、僕はとても困惑している。謎のペルソナ使いが僕だとばれる要素もないし、かといって話しかけるのを躊躇されるようなことをした覚えもない。

「こんにちは、畦倉先輩」

後ろから声を掛けられる。この声は鳴上君だ。

「こんにちは、鳴上君。こんなところでどうしたんだい?」

「文化祭の準備で、ところで花村を見ませんでしたか?用事があって探してるんですけど」

「ああー…、ほら、あそこ」

そう言って、曲がり角の方をそれとなく指さすと、例の五人が顔を覗かせていた。

「そういうことですか…」

五人を見ると、呆れた顔をしている。鳴上君なら、この状況について何か知ってるかもしれない。

「なんで、ああなったか分かる?」

「ええ、一応、まあ…そうですね。えーと、ちょっと待っててください」

そう言い残すと、鳴上君は急に走り出した。あっという間に四人の元までたどり着き、隠し持っていたビニールテープで捕縛してしまった。いやー、とか待ってくれとか悲鳴が聞こえる。そんな事などお構いなしに、五人を連行してきた。堂島さんの甥なだけある。

「お待たせしました。ほら、お前ら、しっかりしろ!」

喝を入れられびしっと背筋を伸ばす。

「まずは俺から、謝らなきゃいけないことがあります。三年前のことを、堂島さんとのことを、みんなに話しました」

ああ、なるほど。そういうことか。それなら、僕に話しかけられなくなっても仕方ない。

「……そうか。幻滅したかな……?僕は君たちが思ってるように、素晴らしい人間とはほど遠い」

「そんな事ねェっス!」

完二君の言葉に合わせて、口々に僕の言葉を否定する。少し、面食らってしまう。

「と、とりあえず屋上行こうか!」

ものすごく注目を集めだしたので、場所を変えることにした。

屋上へと出ると、一人ずつ順番に謝罪が始まった。僕の異常の事を知りもしないで好きかってなこと言ってごめんなさい。だいたいこういった内容の話だった。

「僕が勝手に隠してるんだ、君たちが気づかなくても悪いことなんて一つもないさ。お礼がしたいなら、笑っててくれればいい。それだけで十分だよ」

「弥勒さ~ん……」

「ほら、泣くなって。それ以上泣くなら、女王様ごっこの事とか話しちゃうよ?」

「わ、分かりました、だからどうかそれだけは!」

「ならよし。さて、みんなもいいね?あんまり謝られると、僕も困っちゃうよ」

軽い調子の声で言う。誰かが泣くのはあまり好きじゃない。

「良かった。丸く収まったみたいですね」

ギイ、とドアが開き直斗君が入ってくる。どうやら、僕たちの会話を、全部聞いていたようだ。

「直斗君じゃないか。六月に会って以来かな?」

「ええ、その節はどうも。それで、一つ聞きたいのですが、僕って男っぽくなですか…?」

「……鳴上君たちから聞いたのかな?」

「はい。そうです」

ここは下手にごまかさないほうがいいだろう。

「僕は昔から、人の悩みみたいなものがなんとなく分かるんだ。それが普通だと思ってたから、説明しろって言われても困るんだけどね」

「そんなことが……」

目を丸くして驚いている。直斗だけではない、鳴上君たちも全員だ。まあ、普通はこんな微妙な能力持ってるやつなんかいないしな。僕も自分以外見たことない。

「でも、今の君からはあんまりそういう感じがしないかな。なにかあったのかな?」

「そうですね……いい仲間が出来ました」

気持ちのいい笑顔を浮かべたとても直斗は輝いて見えた。その後、巡回していた先生に発見されるまで話に花を咲かせた。そして翌日。

「何だこれは……!?」

掲示板には、ミス八校、女装大会!!の文字があり、参加者のところには、花村陽介、巽完二、鳴神悠、そして僕の名前が書かれていた。マジか。やられた。

「非常にまずいぞ。僕の人生史上最大のピンチだ」

出雲にだけは見せてはいけない、爆笑しながら写真を撮って、翌日からガソリンスタンドに展示しかねない。

「どうか晴れますように」

この日、家に帰ってから、大量のてるてる坊主を作った。小学生以来の事だった。

 

・・・

10/31(月)晴

「今日、さむいね」

夜のニュースを奈々子と一緒に見ている。

「それでは、次のニュースです。環境を考える会代表香西氏が、市内の小学校を訪れ、霧の影響を現地調査しました。稲葉氏ではここ数年、頻繁に濃霧が発生していますが、原因がよく分かっていません。市内では霧の原因について憶測が飛び交い、体への影響を不安視する声も上がっています。ですが市は、霧が人体に害を与える事は考え難いとしており……殺人事件等による、住人の不安心理の表れなのでは、との見方を示しています。これを受け、香西氏は、事実関係をはっきりさせるため、現地の小学校を訪れました。霧の中でも元気に遊ぶ子供たちに、体調や心の不安等について尋ねたという事です…」

テレビの中では、清潔感のある身なりをしたアナウンサーがニュースを読み上げている。

「あ、この人、がっこうに来たよ」

見覚えのある顔がニュースに映ったようで、奈々子が驚いた顔をする。

「調査を終えた香西氏は、コメントを発表しています。現代は、些細な環境の変化にも目を配り、政治に反映させていかなければならない。今日私はある生徒と話したが、その子は風評に惑わされず自分の言葉で話していた。六年ほど前にも、同じように小学校へ訪問した際、同じように、自分の言葉で話している子供が確かにいた。本来は、我々大人こそが、そうでなければならない。我々は常に、子供たちの未来を管理する必要がある。…香西氏はこう述べました」

ニュースは続いている。

「…っくしゅ!」

くしゃみをした奈々子が顔を顰めている。

「あたま…いたい…」

奈々子の顔が赤い。おでこを触ってみると、やはり熱があるようだ。とにかく、早く休ませよう。薬を飲ませ寝かせてやる。うわごとの様に話す奈々子とたくさん約束をした。やがて、奈々子は眠りにつき、夜は更けていった。




思ったより長くなったので、ペルソナ紹介は完結してからにします。
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