間違えた鼠はまた間違えるのか。   作:ぼんやり。

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彼は死ねたのか。

誰にも解らない。


00:終わってまた始まる

何の変哲も無い街中。彼方此方では、笑い声が聞こえる。

 

どうして、と誰かが言った。誰だったっけ。ああそうだ、元仲間(あちらがどう思っているのかは知らないけれど)の、シリウス・ブラックだ。声を怒りに震わせ、目の端を吊り上げ、ただ、どうしてと再度ぼくに問うた。

 

わからないとぼくはただ笑った。もう疲れていた。そう、疲れていたのだ、ぼくは。

 

何時まで続くのか解らないこの戦いに。日々誰かが何処かで、または身近で死んでゆくその状況に。耐えられなかった。ぼくは怖くて怖くて堪らなくて。苦しくて。勿論他のみんながそうでない事が無い。しかし、人一倍臆病で、卑怯で、ちっぽけな自分は、知りながらも、怖くて。何時殺されるのか解らない。終わるのかも。

家に残してきた父さんと母さんが、殺されないとは限らない。それを思うと、不安と恐怖で頭がいっぱいになって。

 

その上、同意とはいえ『秘密の守人』という役目を背負ってしまった。その時点で既に精神はぼろぼろになりかけていた。

 

俺の役目を押し付けるようで悪いが、頼んだ。

……ううん。悪くないよ。ぼく、頑張るからね、シリウス。

 

あの時作戦を伝えられた時の、シリウスの言葉が蘇る。

 

きっとぼくは妥協の末に選ばれたのだろう。リーマスは人狼であったし、そこへ更に重荷を被せる訳にもいかなかったのだ。だから妥協を重ねて、ぼくが選ばれた。そう考えると、何故か納得したっけなあ。

 

「おい、ピーター!……ワームテール!!聞いているのか!?」

 

いつの間にか思考の海に浸っていたらしい。シリウスの声に、ハッと意識が目の前の状況に戻る。

そうだ、今ぼくは追われていたのだ。……秘密の守人の役目を放棄し、『例のあの人』もとい、闇の帝王『ヴォルデモート』に、ジェームズ達の居場所を売ったことで。

 

ぼくが裏切ったのだと知ったシリウスが、ぼくを追い掛けてきた。実を言うと、死喰い人達にも追われる立場となっていたので、疲れなんてものはもうとっくの昔に限界を迎えていて。食事はおろか、睡眠もろくに出来ずにいたので、更に疲れは増すばかり。

……全部自分が招いたことなのだけれど。そんな自業自得と言えるこの状況に、笑いさえ出てくる始末。

 

「……ねえシリウス。……ごめんね」

「は?何言って、」

 

突然謝りだすぼくに、意味がわからないと眉をひそめる。

それを見ながら、変わっていないところもあったのだとまた笑って、すうっと息を吸って、それから、

 

「見損なったよシリウス!君がジェームズとリリーを殺しただなんて!!」

「!?おいピーターッ!!何言ってるんだ!」

「近づかないで!酷い、酷いよ、信じてたのに!!」

 

段々と騒がしくなってくる街中。何事かとマグルが足を止めている。

 

何故だろう、涙が出てくる。

 

「もう嫌だっ、お願いだから、自首してよ!」

「ピーター!」

 

シリウスが掴みかかってくるのを、ぼくは怯えた表情で、後ずさる。そして。心の中で、呪文を唱える。

爆発が起こり、その最中で、親指を切って、シリウスの方へ飛ばして、鼠に変身し、騒ぎに紛れその場から離れる。最後に見たシリウスの顔は、茫然としていた。

 

ばいばい(ごめんね)シリウス。親愛なる友よ。

 

 

それからぼくは長い長い間逃げ続けていた。偶然にもとある一家のペットとして、暮らすことは出来ていた。が。ここで問題が生じる。

 

次の飼い主であるロンが、あの二人の子供、生き残った男の子として有名なハリー・ポッターと、友人になったのだ。しかも三年生になって、よりにもよってシリウスがアズカバンから脱獄したのだ。それに、教師には学生の頃主にジェームズとシリウスと対立していたスネイプが居たし、今年やって来たリーマスも、不安の種で。

もしシリウスが12年前のことをバラしたら?ただのペットのぼくが、裏切り者のピーター・ペティグリューだと、バレてしまったら。

 

それが怖くて堪らなくて、更には行動を共にしているもう一人の子が飼っているペットの猫が、動物擬きであるぼくに勘づき、狙ってくる。

 

余計に心労は溜まってゆくばかり。また、逃げてしまった。今度は猫に罪を被せた。

 

 

 

そして。とうとうぼくの正体は暴かれた。だからまた逃げた。

 

何時までぼくは逃げるんだろう。何処まで逃げれば安心して眠ることが出来るんだろう。どうすれば。

父さんと母さんは、もうとっくの昔に死んでいる。理由は心から来る病気だとかで。看取れずに、死んでしまった。

 

友達なんている訳がない。

 

故にぼくは。『例のあの人』のところに、行くしかなかった。頼れる人なんて、他にはもう居なかった。

 

 

 

それから何年かして。ぼくは漸く、死ぬことが出来た。

 

ハリーを殺すように命じられ、でも、ふと、思ったのだ。どうしてこうなったんだろうって。もしあの時、役目を放棄しなかったらって。だから。殺すことに戸惑って。それで手に見限られて。あの人に貰った手に首を絞められた。

苦しくて苦しくて。息が、出来なかった。はくはくと口を地上に上がった魚のように開けたり閉めたりして。

 

男の子が、戸惑ったようにぼくを見ている。

 

みんなの、守りたかった子が。成長した姿で。ゆらゆらと瞳を揺らして。

 

薄れゆく意識の中。これでやっと死ねる、と思いながら、ただ昔を思い出していた。

 

そして。死んだ筈、だった。

 

 

「ここ、何処……?」

 

見慣れない景色。見慣れない人達が目の前を通り過ぎて行く。ひらりと何処からか紙が上から降ってくる。どうやら新聞のようだ。落ちたそれを見る。そこに書かれていたのは。

 

『虎、またも出現。今度はヨコハマに』

『交番爆破、ギャングの仕業か』

 

 

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