Fate/Abysswalker   作:キサラギ職員

9 / 9
こうですかわかりません


FGO編その2

 橋のたもとにて一同は一時休息を取っていた。

 

 「なるほどね。一通りの事情は理解したわ。したつもりよ。ええ。魔法である並行世界の運営をたまったまの偶然できちゃったってことね。運営なんて表現おこがましいけれど。宝くじ並みの確率を引き当てたってことね」

 

 なぜかご立腹の所長ことオルガマリーは、自分のことを離してくれない大狼の顔面に拳を叩きつけていた。どうやら騎士と共に現界した大狼は擬似的なサーヴァントであるらしく、そのことに不満はない。むしろ幸運だった。騎士の話を聞けば聞くほどどう考えても平行世界からやってきたアーサー王としか思えない。ポッと出のマスター候補でしかも遅刻に居眠りまでかました男が引いたことが余程悔しいのだろう。

 幸運だったのが、平行世界のアーサー王―――自らをアルトリアと名乗った乙女は、規格外とも言える神秘を宿していたことだろうか。世界の始まりと共に発生した騎士の眷属の一人としては、歴史の重荷からすれば、かの騎士王と同格あるいはそれ以上の神秘性であり、見えるステータスもAぞろいという使い勝手の良さ。肝心の宝具の名前が見えないことを除けば。

 

 「先ほども申した通り、自分の宝具の使い方がよくわからん。元の世界では真名解放なる概念などなかった。武具が使い手を認めた段階で自然と使えるものだからな」

 

 騎士アルトリアはつい今しがた襲い掛かってきた骸骨の群れを蹴散らしたあとというに息を乱していなかった。あろうことか自分について説明しながら敵をなぎ倒していくのだ、マシュの出る幕も無い。

 元の世界。火の時代の世界とでも言おうか、武具が使い手の“能力”を認めるかどうかが、その武具の真の力の解放条件であった。まったく概念の違う世界の英霊を呼び出してしまったことの弊害が起きていた。

 オルガマリーはふんふんと頷いてみせると、自分の唾液塗れになった顔をハンカチでよくこすり、ごわごわとした毛皮の塊を再度殴りつけた。

 

 「わかったからこのでかい毛皮の絨毯どこかにやってくれない!? むさくるしくて仕方ないのだけれど!!」

 「所長!」

 「なによ!」

 

 マシュが場の空気を知ってか知らずかわくわくしつつ挙手していた。

 

 「私にもその狼さん触らせてください!」

 「ええいやっかましいわぁ!」

 『フォーウ!』

 「あ、フォウさんが嫉妬を焼いています」

 

 そして二体のケモノが出会った。というよりはじめて目を合わせた。

 

 『……』

 『……』

 

 お互いがお互いに何かを察したのか、会話でもしているのか、巨大な一匹と小さい一匹が見詰め合っている。

 

 当初オルガマリーは見上げるように巨大な狼に睨まれてあわわしか言わず硬直していたが、その狼が馴れ馴れしく襟首を噛んで運ぼうとした辺りで正気に戻った。なぜか大狼はオルガマリーの顔を舐める、毛並みに埋もれさそうとするなど妙に馴れ馴れしく、現在オルガマリーは伏せている狼の顔と足の間に挟まれていた。抜け出そうともがくと子犬を運ぶが如く服を噛まれるので抵抗をやめていた。

 

 「はっはっはっはっ………シフに気に入られるとは面白い魔術師だ。余程弱きものに見えるのだろうな」

 「弱い……私が?」

 「うむ。シフは群れで一番弱い仔として捨てられたのだ。優しい子でな、弱っているものを見捨てられないのだ。実は患っていたりはしないか? 今も昔も女性というのは思わぬところを患う」

 

 オルガマリーは何を言われているのかわからないときょとんとしていたが、理解すると顔面を湯沸しよろしく真っ赤にさせた。

 

 「弱くなんてない!  それにおあいにく様だけど健康です! どっちかというとそこのド素人マスターのほうが……!」

 『はいはいそこまで! 悪いけど――――サーヴァントの反応が急速に近づいている!』

 「サーヴァントですって!?」

 

 マシュが立香を守るように盾を構え、シフが地面に突き刺さっていた特大剣を抜き構え、アルトリアが腰を上げ兜を被りなおした。

 

 『これは………だめだ多すぎる! 囲まれている! 反応検出。アサシンのサーヴァント……数は……十? 二十? まずい……無茶だ!』

 

 夜陰を切り裂き、青い装束に相貌を悟らせぬための仮面を被った集団が死人のように歩み寄ってくる。数は実に数十はくだらない。不自然なことに全身は光を受け付けない闇色のヘドロに汚染され、輪郭線があやふやなものになっていた。

 弓を持つものがいる、剣がいる、布製のタリスマンを持つものもいる、素手のものもいれば、杖を構えているものもいる。

 

 「マスター。マイロード。呼び名云々の議論はしていなかったから、ここはご容赦を。マスター、指示をお願いします」

 「あ、ああ!」

 

 アルトリアが盾を構えたまま背後の主を呼ぶ。指示するまでもない。包囲を突破しなくてはならない。

 

 「先輩、私を使ってください……!」

 

 マシュがその特徴的な十字盾を構え背後に目線を配った。

 立香は拳を握り締め宣言した。

 

 「任せた。勝ってくれ!」

 

 二名の騎士――もとい一人は素人だが――が前に出る。マシュはすぐにカバーに入れる位置へ、アルトリアは遠慮するでもなく包囲網に接近していく。

 ロマンの焦燥感に満ちた通信が新しい情報をもたらす。

 

 『別の反応を検出! これは……ランサー!?

 

 「く、ぐぐ……どうしてこんなことに……」

 「シフ。魔術師殿を任せた。“あいつ”の相手は私がするべきだろう」

 

 シフがきゅーんと悲しげに鳴くとサーヴァントの圧力を前にたじろぐオルガマリーを守るように剣を宙に放り投げ、牙をガキンと鳴らしつつ噛み直した。

 

 「時空の果てで再会したことは喜ばしいのだが―――なあ王の刃よ」

 『―――――――』

 

 理性を失っているのか、言葉は不要とでも言いたいのか、汚染された暗殺者の群れから一人の人物が歩み出る。目にも鮮やかな金色の武具と、闇中でも光を切り裂かんばかりの残忍な銀色の武具を構えた白仮面だった。

 アルトリアが武器を構えた。マスターたちとの会話で覗かせていた柔和な笑みはそこにはなく、戦士としての表情が仮面として被られていた。

 

 「往くぞ、王の刃。狼の狩りを知るがいい」

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 

 肉片が飛び散った。

 

 「――――シイッ!」

 

 騎士が咆哮を上げた。

 盾を水平に、肩に担いだ剣を正面に照準し、脚力のみで宙に飛び上がり纏わり付く矢群がかするのも構わずに動いていた。それはもはや剣術ではなく、死地に追いやられた獣が見せる足掻きにも似ていた。着地と同時に数体を吹き飛ばし、水平なぎ払いから派生する斬り下がりで魔術をくじき、行きがけの駄賃よろしく宙で一体の暗殺者の頭部を足で蹴り潰しながらビルの壁面へと飛びつく。

 暗殺者の数人が放つ魔術の矢―――この世界の魔術とは異なる理論で構築されたそれが、青白い閃光伴い騎士へ殺到した。

 

 「――――――!!!」

 

 声にならない絶叫が騎士の小柄から発せられる。声量のあまり、火の粉が宙で短い命を終えていた。

 ビルの壁面が陥没した。ソウルの矢を盾で受けつつ斜め上方から突進し、魔術師らを剣の一刈りで殺す。刃圏に入るまいと撤退する暗殺者たちはしかし、風を伴い疾駆する騎士の突進で地面の砂と化していた。

 

 『チッ! 新しい反応―――これはランサー!? サーヴァントが複数……これは……“何かが狂った”状態なのか!?』

 

 横合いから殴りつけるようにして薙刀を構えた眷属が飛び出してきた。大振りな一閃はしかし暗銀の盾の表面を滑るだけに止まったが、続く機関砲かくや放たれる猛連打についに盾の防備が崩される。

 

 「ハ―――――ハハハハハハハ モラッタ」

 

 ぞぶり、と肉を引き裂く厭な音が戦場に響く。敵であるランサーの大振りな武器がついにアルトリアの腹部を捉えていた。

 

 「ク」

 

 だが、騎士はにやりと笑う。

 曰く騎士アルトリア――アルトリウスは強靭な意志により決して怯まず大剣を振るえば、まさに無双であったという。たかが腹を貫かれたといって、それが何だというのだ。槍ならまだしも薙刀をねじ込まれているということは間違いなく内臓がやられているはずだったが、あろうことか、相手の肩を掴み刃を深く埋没させていく。白い頬が紅潮し、額から汗が落ちる。えづくように吐息を漏らしながら、蠱惑的に笑う。

 

 「ク ははははははっ! どうした槍兵? 今私は機嫌が悪い。果てろ」

 

 アルトリアの兜がずれる。鋭利に尖った犬歯が覗く。美麗な顔立ちが歪んでいた。

 そうして槍兵は武器を手放し撤退という選択肢を取るよりも早く、アルトリアに首筋を噛み切られていた。喉仏から動脈さらには頚椎までをもぎ取られる。血を抑えようとよろめきながら数歩下がる。

 騎士が自らの腹部から武器を抜くと、槍兵に一太刀浴びせかけた。そして返す刃で首を斬って捨てる。

 

 「ああ、待っていたぞ。キアラン」

 『………』

 

 決定的な隙を狙い背後から強襲をかけるかつての同胞の投げナイフを、回避することもなく受け止める。右肩、胸、鎧の表面で跳ねるそれが落ちるより早く蹴り飛ばして弾丸として射出した。

 暗殺者は飛来する脅威を事も無げに首を軽く傾けるだけで回避する。

 

 『   』

 「おおおっ!」

 

 正面突き。自らの血を浴びた剣にて突進した。

 暗殺者はそれを踊るように剣で受け止め、力を受け流しこまのように回転しながら懐に飛び込もうとする。騎士のそれが剛の剣術ならば、暗殺者の剣は柔だった。

 

 『    』

 

 暗殺者が唐突にバックステップを踏んだ。多量の魔術を帯びた火炎弾が大地の表面を蒸発させた。

 

 「はん、獣の類かと思えば(つわもの)だったとはな。手ェ貸すぜねーちゃんよ」

 

 ふわり、と重力を無視した動きで戦場に一匹の男が迷い込む。ゆったりとした装束を身にまとった高貴な雰囲気の男だった。しかしその場にいるものは気が付いていることだろう。身にまとう空気こそ王族や貴族のそれだが、放つ威圧感は戦士のそれであると。

 暗殺者―――王の刃キアランがあたりに視線をやった。大勢いたはずの王の刃らは大半が倒され、戦闘不能状態。騎士アルトリウスが前衛をこなし、後衛に徹することができたマシュの役割分担が功を奏したのか。

 

 『   』

 

 キアランの姿がかすんでいく。手勢を失い不利になったことを悟ったか。輪郭線が失われ、ついに消えうせた。

 敵の襲撃が止んだ。アルトリアは全身血まみれのまま青髪の男と相対し、マシュと立香はほっと一息ついていた。

 

 「うう……こんなの私の役割じゃないわよ……このけむくじゃらの犬っころ……ただじゃおかないわよ……首輪つけて鞭でしつけてやるぅぅ……」

 

 なぜかオルガマリーはシフの背中の上で放心状態に陥っていた。ガンド撃ちの姿勢で固まっているあたり、背中に乗せられ連れまわされたのだろうか。




尾張! 平定! 解散! じゃあ勝手に切り取ってもよいぞということじゃ(明智)

キアランが呼ばれたりしてる聖杯戦争もあったんだよきっと!
シフが所長にべったりなのは一番弱く見えるというか既に死んでるせいもある
じゃああとは有能なマスターに書いてもらうから……(バイクに跨りつつ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。