サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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 金木は柄にもなく焦っていた。隣には金木の首筋に顔を埋め匂いを嗅ぎまくっている少女、笛口雛実。一見ただの少女に見える雛実だが、人間の数倍の力を持つ喰種(グール)であり、地下室に監禁されていた雛実が金木の寝室にいるということは、雛実を監禁していた張本人である金木の命を狙っているとしか考えられなかった。

 

 「研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん研さん」

 

 「君は何をしているんだ…?」

 

 金木の名前を呟きながら匂いを嗅ぎまくっている雛実に金木はそう問いかけた。

 

 「何って、研さん成分を補給しているんですよ?」

 

 歪なと形容するのがふさわしい笑顔を浮かべながらそう答える雛実。その姿は未だ13歳の少女とは到底思えなかった。

 

 「僕は君を食べようとしたんだぞ」

 

 「私が研さんに食べられば、私の肉が研さんに取り込まれて研さんの身体を構成するんですよ、嫌がる訳ないじゃないですか」

 

 雛実の言葉にさしもの金木も絶句する。金木はサイコパスではあるが、病んではいない。雛実の考えは金木には理解しえないものだった。

 

 「はい、どうぞ」

 

 雛実の腕が金木の口元に差し出される。この数日大量の喰種(グール)の肉を摂取した雛実は元々の素質もあってか、RC細胞値が飛躍的に上昇している。金木は食欲に負け、雛実の腕にかみついた。

 

 「っ!?」

 

 雛実の肉を一口喰らった金木の脳内に衝撃が走る。柔らかさ、味、何を取っても今まで食べてきた喰種(グール)の肉とは比べ物にならない。金木はこのまま雛実を全て食べ尽くしてしまいたい衝動に襲われるが、どうにかそれを抑えて雛実の腕から口を離した。

 

 雛実は金木に肉を食べられたことがそんなに嬉しかったのか金木の名前を呼びながら悶えており、話の状態ではなさそうだった。

 

 「おそらく僕の推測通り血中のRC値が高まれば高まる程、肉の味も上がっていくが、RC値が高くなれば高くなる程、赫子の強度なども上がり戦闘力も高くなる。どういう訳だか分からないが、僕に喰われることを嫌がるどころか喜んでいる彼女に喰種(グール)の肉を与え続ければ彼女の血中のRC値は上昇を続け、僕は一部分とはいえ美味しい肉をいつまでも食べ続けることができる。更に彼女の戦闘力が上がれば、喰種(グール)を狩るのが楽になる。一石二鳥どころの話じゃないな」

 

 「雛実ちゃん、君は僕の家畜になるんだ」

 

 「はい!」

 

 常人ならドン引き確実である家畜宣言に満面の笑顔で元気よく頷く雛実。

 

 「兎に角、まずは服を買わないとな」

 

 雛実の服は数日前、喰種(グール)捜査官に襲われたときに着ていたもののままで、至る所に血による染みができてしまっており、到底外に出ることができる服装ではない。金木はスマートフォンを取り出し、通販サイトを開くのだった。

 

 

 

 

 

 それから数日後の深夜、金木と雛実は13区へと赴いていた。金木は雛実の世話をするために大学で授業を受けるとき以外は家に籠りっぱなしだったので、13区に来るのは1週間ぶりのことである。

 

 黙っていれば気弱な優男風の金木とまだ幼い雛実を御しやすいと見たのか、髪を派手な色に染め顔の至る所にピアスを開けた男たちが数人、金木達へと近づいていく。

 

 「君たちい、ここは危ないんだ。夜中にこんな裏道を歩てたら俺らみたいな「うるさいな」」

 

 リーダー格なのか先頭に立っていた男が2人に話しかけるが、話の途中で雛実の背中に現れた赫子によって叩き潰された。残った男たちは突然のことに驚きながらも各々の赫子を出し戦闘態勢に入るが、半分は雛実の赫子によって叩き潰され、残りの男たちは金木の赫子によって腹を貫かれた。

 

 因みに雛実は両親の赫子である鱗赫と甲赫を両方とも受け継いでいるばかりではなく、聴覚や嗅覚と言った感知能力が異常に高く、そのRC値の高さと合わせ既に金木をしのぐ戦闘能力を手にしていた。

 

 褒めて褒めてといったオーラを出す雛実の頭をひとしきり撫でてやった後、2人は食事タイムへと入る。既に雛実の肉といった絶品の肉を手にしている金木だが、普通の喰種(グール)の肉も金木にとって不味いものではなく、自分をしのぐ戦闘能力を持つ雛実を御する力を手に入れるため体内のRC細胞を増やすためにも喰種(グール)の肉を摂取するというのは大事なことだった。

 

 文字通り骨の髄までしゃぶりつくし、食事を終えた2人は新たな獲物を求め更に奥の道へと姿を消す。結局、この夜10人以上の喰種(グール)がその姿を消したという。

 

 

 

 

 

 金木と雛実が13区で喰種(グール)を狩りを行っていると同じ日の夜、あんていくの2階の1室、そこには従業員たちが全員揃っていた。

 

 「糞!あれから1週間も経つのに未だ雛実の情報が1つも手に入らないなんてっ!」

 

 やり場のない怒りをどこにやればいいのか分からず、そう毒づく霧嶋。

 

 「もう、白鳩(ハト)に捕まってるんじゃ…」

 

 そう呟いたのは金髪リーゼントの髪型が特徴的な男、古間円児。

 

 「…古間さん」

 

 「けど入見の感知能力があっても影も形も見つからないんだ。最悪の状況というのを想定しておいた方がいいだろ」

 

 「そうね…、ヒナミちゃんが襲われて1週間も経つ。まだ小さいあの子が1人で1週間も逃げきるのはかなり厳しいはずよ」

 

 そう言うのは黒髪を背中にかかるまで伸ばした女性、入見カヤ。

 

 部屋中に重苦しい雰囲気が漂う中、徐に芳村が口を開いた。

 

 「今日CCGの支部の掲示板に貼られている喰種(グール)の捜索情報を見てきたけど、ヒナミちゃんの捜索情報は未だ取り下げられていない。CCGも未だ彼女の行方を掴めていないということだよ」

 

 「じゃあ、なんでヒナミが見つからないんですか!?」

 

 「考えられるのは1つ。ヒナミちゃんは、白鳩(ハト)でもあんていくでもない第三の存在に囚われれている」

 

 「!?」

 

 その瞬間、何故か霧島の頭の中に1人の男の顔が浮かび上がる。金木研。つい最近まで人間だったのにもかかわらず、人間を食べることに躊躇がなく更には喰種(グール)まで食べたがる危険な人物。もし、あの日に金木と雛実が出会っていたら…。これは霧嶋の勝手な想像に過ぎない。勘違いだったらそれでいい。霧嶋は、明日金木と繋がりがあるであろう永近に会いに行くことを決意した。

 

 

 

 

 同時刻、CCG20区支部。真戸と亜門は割り当てられた会議室でスクリーンを前に話し合っていた。

 

 「これは…」

 

 先程までスクリーンで流れていたのはCCGからもほど近い駅に設置されている防犯カメラの映像。そして、そこには先日取り逃した喰種(グール)の少女と大学生くらいの青年が連れ立って歩いている姿が映し出されていた。

 

 「ククク、ようやく見つけたぞ喰種(グール)…。男の方は誰なのか分からんが、人間だろうと喰種(グール)を匿っている時点で同罪だ…。あの娘が両親のクインケで殺されるときの顔が今から楽しみでしょうがないよ…」

 

 

 

 


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