ハイスクールD×D ―魔法使いと龍―   作:shellvurn 次郎

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どうもこんにちわ。
生存していますよ。
それと、そろそろ一人称視点には限界が来ていたので、今話から書き方が変わります。ご注意ください。やはり一人称視点は難しすぎますね。俺ガイルの作者は文才の塊ですな


No,LVI

 ペンドラゴン家の長女、ルフェイ・ペンドラゴンは問題の魔法使いに遭遇したのち、フェンリルとゴグマゴグとともに仲間の元へと帰還した。転送魔法陣から3人は出現した。その近くには今代の白龍皇ヴァーリ・ルシファー、ペンドラゴン家の子息にして戦いに身を投げているアーサー・ペンドラゴン、三蔵法師の弟子、孫悟空の子孫である美猴である。

 

「ただいまもどりました」

 

「ああ、お疲れ」

 

 戦いから帰還したルフェイを全員で出迎える。

 

「あら?ヴァーリ様、ジャンヌ様と黒歌様はどちらに?」

 

「お二人なら、町に出かけていますよ。たまには羽を伸ばしたいだそうです」

 

 ジャンヌ、黒歌は年頃の少女である。このような戦いの最前線にいて息も詰まるのは当然だ。ましてや、今となってはテロリスト扱い。いつ討伐されてもおかしくはないのだ。

 

「もうっ!ひどいですわお二人ったらっ!どうせなら、私も誘ってくださればよかったのに!!お兄様っ!お二人はどこへ?」

 

「ふ、二人ともここから西へ少し離れた町へ行きましたが」

 

「ありがとうございますっお兄様!!」

 

「あっ、待ってくださいルフェイ!!」

 

 ルフェイは二人の居場所を兄から勢いで聞き出し、すぐに飛び出していった。

 

「ふっ、行ってしまったな」

 

「ヴァーリ、見ていないで止めてください」

 

 妹を一人で行かせるのは心配なアーサーはヴァーリに言う。

 

「おうおうおう、妹がそんなに心配かぁ?アーサー。シスコンここに極まりだな」

 

「黙っていてください、美猴。今すぐその汚名を撤回すれば今の発言は水に流します。」

 

 シスコンなどと不名誉極まりない肩書を払拭すべく、美猴に剣を向ける。その美しく、神々しい宝具の力が美猴の背筋を震え上がらせた。腐っても妖怪である美猴にとっては聖剣の権能には相性が悪いものがある。

 

「おいおい待て待て冗談だっつーの」

 

 実力では逆立ちしてもアーサーに歯が立たない美猴はアーサーに頭がどうしても上がらない。ヴァーリチームでの扱いは微妙である。

 

「まあ待て、アーサー。仮にもペンドラゴン家の長女だ。そのルフェイが簡単にやられることはないだろう。それに、ジャンヌと黒歌が行った町は遠くはない。すぐに合流できるはずだ」

 

「・・・・そうですね」

 

 すかさずヴァーリがこの場を諫める。このチームのリーダーだけあって、メンバーをうまくまとめている。アーサーもその言葉に落ち着きを取り戻した。

 三大勢力から離反し、様々な相手と戦い、狙われる立場にありながら、緊張感もない。伝説の白龍皇を有するこの集団は、実にフリーダムという言葉がお似合いである。

 

「今頃、曹操たちはあの魔法使いと一戦を交えているころだな」

 

「ええ、そういえばヴァーリ。あなたもその魔法使いと戦ったと聞きましたが」

 

 ヴァーリは曹操から送られた刺客を尋問したことを思い出しながら言う。

 

「ああ」

 

「どうだったのです?」

 

 アーサーとて、強者との闘いを求める人間。ヴァーリと戦ったという相手には興味を抱かざるを得ない。

 

「奴は強かった。おそらく、俺は奴に劣るだろう」

 

「―――本当なのですか」

 

 ヴァーリほどの存在をもってしてもかなわなかったと言わんばかりであった。アーサーは驚きを隠せない。

 

「もちろん俺も、あの魔法使いも力の片鱗を出したに過ぎない。だが、俺には奴が違和感だらけにしか思えなかった。何か、別の力を持っていそうでな」

 

「白龍皇であるあなたがそこまでいいますか」

 

「ああ。直観だがな、アルビオン、君はどう思う?」

 

『今の時点では何とも言えんがな。だが、私とて奴のような違和感だらけの人間は初めてだ』

 

 いまだに正体の知れぬ存在は、ヴァーリたち全員にとって興味深い存在であった。それは百戦錬磨の白龍皇アルビオンも例外ではなかった。その魔法使いはいま、日本の京都で一苦労しているところであった。

 この魔法使いの全容が知れる日は近い―――――――――――

 

――――◆◇◆◇◆―――――

 

 ところ変わって、ここは京都。英雄派を名乗る不法集団と一戦を交えたイッセーはどうにも気が気ではなかった。一夜明けてもなお、その懸念がイッセーの中を渦巻いている。そんな見慣れないイッセーをドライグが見逃すはずがなかった。

 

「ね、ねえイッセー。どうしたの?そんなにそわそわして。何かあったの?」

 

「いや、何かあったとかじゃないんだ。」

 

「どうしたの?」

 

 イッセーはドライグには言っていなかった昨日の出来事の続きを始めた。

 

「昨日言ってなかったが、邪龍とそのお姫様がここにきてんだよ」

 

「ええ・・・・・なんで邪龍(あいつら)が来てるのよ?」

 

 ドライグにとって、邪龍というのはどちらかといえば苦手な存在である。今となっては邪龍たちは丸くなっているほうではあるが、それでもであった。ドライグはあからさまに嫌そうな顔をした。

 

「知らん。気づいたら居やがったんだよ。全く。想定外だ」

 

「えっと、私からしたら冷や汗しかかかないのだけど」

 

 ドライグはこの京の妖怪たちが邪龍にとても強い警戒心を持っている事情を知る者だ。それゆえにイッセーの心配がよく分かった。

 

「とにかく、やつらは今のところ大人しくお姫様のエスコートをしているようだ。京の妖怪たちも、皮肉なことに全く気付いてないが」

 

「そうなの。ま、とにかく大人しくしててほしいよね。あいつらが暴れだしたらめんどくさいから。にしても、変わったわよね、あいつら」

 

「まあ、俺と最初に戦ったあいつらがああなるとはな」

 

 相対的に普通のドラゴンよりもさらに戦いと強さ、ときには残虐さを求める。それはイッセーが初めて邪龍と対峙した時だった。しかし、今は変わった。邪龍という存在を知っており、長く生きるドライグは邪龍の変化には内心驚きであった。しかし、それ以外の要因もあるようだった。なんにせよ、イッセーは英雄派と邪龍たちが対面するという面倒なことが起こる前に片づけなければならなくなったのだ。

 ちなみに、アジ・ダハーカ、アポプス、クロウ・クルワッハ、アーシャは本来イッセーが受け取るはずであったゲオルク・ファウストからの招待状に入っていたチケットでこの地に来ていることをイッセーが知るのは少し先の話・・・・・

 

 

――――◇◆◇◆◇――――

 

 

 英雄派に攻撃を仕掛ける日、それがこの日であるが、イッセーはひとまずヤトと合流した。京に侵攻した英雄派たちを退けるべく集まった戦力はざっと十数人といったところだ。あまり多いとは言えない。しかし、その中には月夜、九重といった姿も見られた。

 

「イッセー殿、我もいくぞ」

 

「九重、いいのか?」

 

 幼いながらもその心に秘めた覚悟がイッセーにも伝わる。

 

「行くでござるか」

 

「ああ」

 

 イッセーを含めた京の部隊は敵の根城への一歩を踏み出したのであった。向かう先は京都の文化財のひとつ、二条城であった。イッセーたちが二条城前に到着する。しかし、中には入ることができない。

 

「イッセー殿これは・・・・」

 

「ああ、ヤトが想像していることで間違いない。あの神滅具(ロンギヌス)の力で全体を覆っているようだな」

 

「どうするでござる?」

 

「仕方ない、力尽くで突破する」

 

 イッセーが絶霧(ディメンション・ロスト)による結界を吹き飛ばそうとする。が、イッセーが結界を破壊する前に紫色の霧がイッセーたち一向を囲んだ。間もなくしてイッセーたちはある場所に一瞬で転移をした。いや、させられたといったほうが正しかった。イッセーたちの目の前には先日戦闘となった相手、英雄派が待っていた。

 

「やあ、みなさん。ごきげんよう。意外と来るのが早かったね、びびったよ。結界を壊されると面倒だから勝手ながらこちらに来てもらった」

 

 強制的に中に入らせたゲオルク・ファウストIV世は手を広げながら言った。

 

「母上!!」

 

 九重はゲオルクIV世の背後にいるものしか視界に入らなかった。この京の長、八坂であった。九つの大きな尾がみられる。それが八坂である証拠であった。八坂は魔術の類で拘束されていたのだった。意識はなく、外傷などはイッセーたちの目には見られたなかった。まずそこでほっとするのであった。

 

「おやおや、これは姫君までこられたのですか。ご足労ありがとうございます」

 

「貴様・・・・ふざけるなっ!!母上を返せっ!!」

 

 九重は敵意をむき出しにして曹操に怒鳴った。

 

「勇ましい限りです。しかし、申し訳ないですが八坂殿にはもう少々実験にご協力いただきます。ゲオルク」

 

「了解だ」

 

 曹操は相も変わらず九重を敵とも認識していなかった。曹操はゲオルクになにやら指示をだした。ゲオルクは何やら不可解な術式を発動させた。

 

「うっ・・・・ぐっ、が、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 突然、八坂は苦しみだした。

 

「母上っ!?」

 

 美しく、妖艶であった人間の姿が一瞬にして獣へと姿を変える。大きさが数十倍にもなった。金色の毛並みをもつ狐。これが、西の大妖怪、九尾の狐の真の姿であった。

 

「おおっ!!なんと素晴らしいっ!これほどの力かっ!!」

 

「ははっ、龍王下位の力があるのは本当らしいね」

 

 曹操とゲオルクは笑みを浮かべた。あきらかに悪いことを考えている顔であった。たいして、イッセーを率いる京の自警団はその姿に目を見張る。イッセーとヤトは見慣れた光景だった。しかし、八坂の真の姿、そしてその力を目の当たりにした自警団は驚かざるを得ない。初めて見るその光景に圧倒されたのだ。今の自警団はあの事件以来から発足されたが、それゆえに若い妖怪が多いのだった。

 だが、その娘である九重と月夜は驚いてばかりではいられない。自分の母親が苦しむ姿を見たいわけがなかった。

 

「おのれ・・・どうして、こんな・・・」

 

「九重、下がっていなさい」

 

「?お、お姉さま?」

 

「わたしが、私たちが母上を取り戻す。これ以上は何を言っても無駄よ」

 

 月夜はその着ている着物からどこに隠しているの、という量の札を取り出しながら言った。そしてその札は紫色の呪詛を垂れ流している。凄まじい力であるが、怒りのあまりに力が制御できていなかった。

 

「その通りだ。ここで奴らの下らん目的をつぶすぞ」

 

「ふふ、力づくでこの地にいる異邦者を叩きのめすでござる」

 

「その前に月夜。気持ちはわかるが、その感情は表に出すな。あいつらは腐っても英雄派、あの人数でケンカを売りまくってる連中だ。余分な感情は付け入る隙を相手に与えてしまうぞ」

 

「っ・・・申し訳ありません」

 

「謝ることはない。経験だ」

 

 イッセーは年長者として月夜の弱い部分を指摘した。気を取り直して、イッセーたちは英雄派たちに向き直った。

 

「よし、では初手は俺がやる」

 

 イッセーは英雄派に向けて魔法陣を展開した。複数の魔法陣からなる光の収束砲が英雄派たちを襲った。英雄派たちがその攻撃を躱す。イッセーたちは全員散開し、それぞれの相手を追った。

 

「拙者の相手は貴殿でござるか」

 

「そのようだね」

 

「はははっ!んじゃ俺の相手はこのきれーなねーちゃんかっ!面白れぇ!!」

 

「ふん、下品な」

 

「やあ、また戦えることを楽しみにしてたよ、アンブロジウス」

 

「そうだな、ゲオルクIV世!!」

 

 ヤトとジーク、ヘラクレスと月夜、イッセーとゲオルクがそれぞれ対峙した。

 

「おやおや、相手を先に取られてしまった。全く、仕方ない。では、俺はこちらの妖怪さんたちと遊んでいよう」

 

「くっ、九重様!離れていてください!!」

 

 ひとりだけ忘れ去られた曹操は妖怪たちと対峙した。

 

「いくでござるよ、紅桜・・・・・・・」

 

「ほう、それが君の剣か。見たところ妖刀にようだ」

 

「その通りでござる。それは魔剣でござるな。それも、かなりの脅威を感じるでござる」

 

「魔剣の最上位にあたる武具、魔帝剣グラムだよ。君にこの魔剣の恐ろしさを味合わせてあげよう」

 

 ヤトとジークフリートはすさまじい速度で移動しながら剣戟を交わす。どちらも最初は小手調べといったところで余裕が見える。剣の特性や能力も使用していない。

 

「我が妖気を吸え、紅桜」

 

 ヤトは自身の操る妖刀に命令を下す。すると、紅桜の刀身が怪しげな紫色の色を纏った。そしてそれは周囲に影響を及ぼしかねないオーラを発した。同じ剣士としてジークフリートはその異様さをすぐに悟った。

 

「恐ろしいね。見た感じ触れただけでもアウトだ」

 

 ジークフリートはそれだけの危険を感じながらも笑ってすました。

 

「グラム、僕たちも力を見せよう」

 

 魔帝剣グラムも刀身から力を発する。その魔帝剣本来の力と龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の呪いはドラゴンであるヤトに少なからず影響を及ぼした。

 

「ぐっ、やはり、龍殺し(ドラゴンスレイヤー)は少しばかりきついでござる」

 

 力の一端をここで見せたところで両者は再びぶつかった。

 

「はあっ!!」

 

 ところ変わって英雄の末裔、ヘラクレスとの戦闘に入ったのは京の自警団の隊長である八坂の長女、月夜である。月夜は自身の妖力を最大限に発揮した妖術、古くから続く陰陽道、気を扱う仙術を駆使して攻撃する。ヘラクレスに向けて妖術を記述した札を飛ばし、術を発動させる。

 

「ぐおっ!!」

 

 ヘラクレスはその妖術をもろに受けた。しかし、その鍛え抜かれた肉体はその妖術をもろともしなかった。妖術や仙術などを駆使して相手との距離をとる戦術をとる月夜にとってやりにくい敵であった。

 

「へへ、まだまだだなっ!!」

 

 ヘラクレスは攻撃を受けてもなお距離を詰める。

 

「くっ、これならどうですか!」

 

 月夜は妖術に加えて仙術を織り交ぜた術をヘラクレスに向けて攻撃した。

 

「ぐぉっ!!ゴホッゴホッ・・・・やるじゃねぇか。だが、まだまだだなっ!!」

 

 仙術は気を扱う。それゆえ、その影響は身体の調子に深く影響する。ヘラクレスはそれを食らってもなお、動けるほど頑丈であったのだ。

 

「これでも駄目だというのですかっ!!」

 

 

 戦闘が繰り広げられている中で、イッセーはそのままの勢いでゲオルクに拳をふるった。しかし、それは神器、絶霧(ディメンション・ロスト)によって阻まれる。霧によって視界不良となったところにゲオルクはカウンターとばかりに雷の魔術を放つ。イッセーはそれを気配と凄まじい反射神経で避けた。

 

「ははっ、今のを避けるか。ほぼ見えてなかったはずだというのに。魔法使いの体力じゃないね」

 

「そりゃ、そりゃどーもっ!!」

 

 イッセーは空中で慣性に逆らって空中で静止し、体勢を整える。その刹那に魔法陣を展開した。人間業とは思えないほどの速さで攻撃を繰り出した。

 

「ぐっ!!」

 

 ゲオルクはその攻撃をすべて防ぐことはできず、いくつかの攻撃をその身に受けた。

 

「やるね・・・・ちょっとあぶなかったよ」

 

 ゲオルクは攻撃を食らってもまだ涼しい顔をしている。さほどダメージにはなっていなかった。

 

「そういえば、ここで実験をするとか言っていたな」

 

「ああ、確かにそういったね」

 

「この京は世界のなかでも特殊だ。この京の土地特有の力を使って何かしようとしているわけだな?」

 

「その通り。全く博識だね。ここは存在自体がもはや完成された術式といってもいい。そのおかげで霊力、魔力、揚力があふれている。だが、それゆえに様々な異形の存在を引き付ける。その地脈のパワーと九尾の狐は切っても切れない関係だ」

 

「・・・・・・・」

 

 イッセーとゲオルクは相手に攻撃をしながら会話をするという高度なことを先ほどから続ける。互いに攻撃は当たらない状態であった。

 

「よって、その力を利用してこの地にグレートレッドを呼び出すのさ」

 

「なんだと?あの真龍をだと?」

 

「その通り。本来なら龍王たちを数匹使って龍門(ドラゴン・ゲート)を開くのが理想なんだけどね。かと言って龍王を捕らえるのは我々だけでは骨が折れる。そこでこの地を借りることにしたのさ」

 

「あの真龍をどうするつもりだ?」

 

「別に同行したいわけではないが、捕らえて生態調査などをしようかと。龍喰者(ドラゴン・イーター)を試してみるのもいいかもしれないしね」

 

 イッセーは内心、あの龍を捕らえるのは逆立ちしても不可能だと断言した。しかし、それ以上に龍喰者(ドラゴン・イーター)という言葉が引っかかる。

 

龍喰者(ドラゴン・イーター)だと?それはドラゴン・スレイヤーのことか?」

 

「はは、おおむねその通りだ。どうだい?面白そうだろう?これで僕らの仲間になる気になったかな?」

 

「なるほどな、ようはおかしなことを企てているということはわかった。だが、その気はないさ」

 

「そうかい、それは残念。では、力尽くでも仲間にしよう」

 

 ゲオルクはここで攻撃のテンポを変えた。銀色の物体が現れる。イッセーはその魔法の正体を理解した。

 

「ファウストお家芸の錬金魔法(アルケミカ)かっ!」

 

「錬金魔法は得意でね」

 

 ゲオルクは自身で自負する言葉の通り、空中の分子や原子から金属などを錬成していた。鋭い剣のごとくするどい物理攻撃がイッセーを襲った。実体のある武具であるので速度は遅いものの、それでもかなりのスピードで迫る。

 イッセーはこれまでと違う攻撃を体術だけでなく、防御魔法陣で防ぐ。

 

「さらにっ!!」

 

 ゲオルクはさらに錬金魔法を発動させる。イッセーの背後に西洋の甲冑を身にまとった騎士が現れる。これも金属で構築されたものだった。

 

「くっ!」

 

 錬金術による騎士がその剣を振る。その凄まじい速度はイッセーの防御魔法陣を打ち破った。その剣がイッセーの肌をかすめる。すかさず騎士から距離をとり、体勢を整えた。

 

「どうだい?錬金魔法もなかなかだろう?」

 

「そうだな。だがな、悪いがお前らには速攻でかえってもらわねばならない理由があるのさ」

 

「ほう?それはどういったものかな?」

 

 イッセーの後ろにはいつのまにか曹操が聖槍を肩に担いでいた。

 

「曹操、悪いがアンブロジウスは僕の相手なんだが?」

 

「そういわないでくれ、ゲオルク。俺の相手は遊んでいたらもうばててしまったんだ」

 

 イッセーが仲間のほうを見ると数十人の集団があおむけで倒れていたり、膝をついていたりとギブアップしていた。やはり、月夜抜きでは曹操を相手にするのは難しかったようだ。

 

「ちっ、仕方ない。ここからは二対一だ」

 

「さあ、続けよう」

 

 曹操とゲオルクは一斉にイッセーに攻撃を再開した。ゲオルクと曹操は常にイッセーを囲みながら放った。イッセーは片方の攻撃を避けても片方の攻撃が絶え間なく向かってくる状況だった。曹操は最強の神滅具(ロングヌス)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を、ゲオルクは自身のお家芸である錬金術を駆使してイッセーを着実に追い詰めていった。そして、曹操の操る聖槍の刃はイッセーを捕らえた。

 

「くっ!」

 

 鈍い音とともにイッセーの右腕が宙を舞った。イッセーにはその右腕を奪取するという選択肢はない。すぐにその場を凄まじいスピードで離れた。

 

「ちっ、あの一撃で畳み込めると思ったのだが一筋縄ではいかないようだ」

 

「だが、あの深手では勝敗は決まったも同然だ」

 

 たとえ達人といえども腕を失った状態で二人の相手をするのは至難の業である。しかし、イッセーは何事もなかったかのように涼しい顔をしている。腕を斬られたというのに全く同様をしてない。

 

「ふぅ、腕をちぎられたのは久々だな。少々油断をしたな」

 

「ははは、強がるのはよし―――――なんだと!?」

 

「っ!?これは驚いた」

 

 曹操とゲオルクは驚きを隠せなかった。なぜなら、自分たちが確かに腕を切ったはずだったのが、イッセーの右腕がもとにすっかり戻っているからだ。

 

「驚いたね・・・そんなレベルの治癒魔法まで使えるとはねこれで、ますます仲間に欲しくなったよ」

 

「だが、状況は変わっていない。次こそ畳み込む」

 

「どうかな。そちらこそ、禁手(バランス・ブレイカー)を使わないつもりか?」

 

「まあな。俺の禁手(バランス・ブレイカー)はまだ未完成なんでね。とはいっても、使うわずともなんとかしてみせるさ」

 

「そうかよ」

 

 (仕方ない。あれを使うとするか。)

 

 イッセーは自身の体に魔法をかけた。これは、赤龍帝由来の力である。ゲオルクと曹操は攻撃の手をやめない。しかし、イッセーの動きが先ほどとは違っていた。ゲオルクの攻撃を簡単にすり抜け、ゲオルクが危険を知覚した時にはすでにイッセーは目の前にいたのだ。

 

「ぐっ!動きが変わった?!」

 

 ゲオルクはイッセーの拳をギリギリのところで魔法で受け止めた。あまりの速さに神器(セイクリッド・ギア)を扱う暇などなかった。

 

「貫け」

 

「ごはっ・・・・・・」

 

 ゲオルクの防御魔法陣を簡単に貫き、複数の槍がゲオルクの体を穿った。風穴の空いた傷口から大量の鮮血をまき散らしながら地面に墜落する。

 

「よくもっ!」

 

 ゲオルクを仕留めてできたこの隙を曹操は見逃さなかった。イッセーの背後から曹操は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を急所となる心臓に突き刺した。曹操はとどめを刺したと確信した。しかし、イッセーは曹操のほうを振り返るとニヤッと笑った。その顔に曹操は戦慄した。

 

「残念、こっちだ」

 

「っ!?」

 

 イッセーはいつのまにか曹操の背後を取り返していた。それと同時に背後からイッセーは曹操に向けて闇の魔法、魔槍をはなった。魔槍は曹操の右腕とわき腹を穿った。右腕が宙を舞う。曹操はすぐさま距離をとった。しかし、ダメージが大きく、地面に膝をつく。曹操はかろうじて宙に舞った自身の右腕を回収した。

 だが、どちらも瀕死の状態なのは見るまでもなかった。

 

「どうだ?まだやるか?さすがの英雄様でも人間である以上、その傷では満足に戦えないだろう。それとも、禁手(バランス・ブレイカー)で奇跡を起こすか?」

 

 勝負は決まったかに見えたが、曹操とゲオルクは懐から液体の入った瓶を取り出した。それらを傷口に振りかけると煙を上げて見る見るうちに傷がふさがっていく。曹操のちぎれた腕も切り口に振りかけてくっつけることで完全につながった。

 

「ほぉ、そんな珍しいものも調達していたのか。用意がいいな」

 

「知っていたか、フェニックスの涙。これほど持っていてよかったと思うものはないね。これは闇市場で手に入れたのさ。金さえ払えば売ってくれるのさ。これを精製しているフェニックス家の者たちは俺たちのようなテロリストに使われているとは思ってないだろうね。これは何かと持っていると便利だ」

 

「知っているさ。そもそも俺はそれをとっくのとうに手に入れている」

 

「なに?」

 

「ちなみに俺は前戦った悪魔から鹵獲して量産化したがな。もう十分な量を確保している」

 

「恐ろしい男だ。我々がこれを手に入れるのにかなり苦労したのだがな」

 

「運がよかったのさ。たまたま殺した悪魔が持っていたからな」

 

 傷を癒した曹操とゲオルクは立ち上がる。あれだけの傷をきれいに消してしまうフェニックスの涙の効果はすさまじいものであった。曹操とゲオルクの戦意はまだ失っていない。

 

「まだ続けるか?」

 

「当然だ」

 

「それはいいのだが、いいのか?俺ばかりに気を取られていて?」

 

「なんだと?」

 

 イッセーの視線の先、それは確保した九尾、八坂であった。先ほどから八坂の大妖怪としての力が放出されていた。しかし、それがどんどんと弱まっていっているのだ。そして、大妖怪だった壮大な姿はどんどんと変化していき、最初の人間の姿に戻ってしまった。曹操は手はずとの齟齬が生じていることに動揺し始めていた。

 

「どういうことだ、ゲオルクっ!」

 

「おかしい、今回の実験のための術式は研鑽を重ねた。術式の自動化も完ぺきなはずだ」

 

 動揺を始める二人をイッセーは苦笑しながら言う。

 

「あの術式、たしか妖怪の力を引き出すだけじゃない。この京の地の地脈の力を引き出す術式でもあった。ほかにも様々な効果をもたらす。はっきり言って素晴らしい術式だ。よくこの地を理解しているようだ。そうとう研鑽と分析をしたのではないか?」

 

「ならばなぜっ!」

 

「ふっ、流石にあの術式を解除するために戦いながら分析をするのは少々骨が折れたぞ」

 

「ばかなっ!ならお前は、俺と戦いながら術式を解いていたというのか!?」

 

「ああ。お前らの生死はさして関係ない。俺の目的はお前らの実験を阻止し、早くこの地から立ち退いてもらうことだ。鞍馬、九重!今のうちに奪還しろ!」

 

「了解。さ、姫様」

 

「あ、ああ!!」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔をしている曹操とゲオルクを横目に、イッセーは鞍馬と九重に指示を出した。鞍馬と九重はすぐさま八坂の元へいき、保護をする。

 

「母上っ!母上っ!!」

 

「んん・・・・」

 

 九重が必死に八坂に声をかける。

 

「大丈夫です、姫。八坂様は気を失っているだけです。妖力は弱くなっていますが問題ありません」

 

「くっ!どうする曹操。八坂姫を奪還されたぞ。我々の主目的がこれでは果たせない」

 

「・・・・・・」

 

「ぐぁっ!!!」

 

 主目的を果たせなくなった曹操とゲオルクのそばに悲鳴を上げながら落ちてきたのは剣士、ジークフリートであった。刃による切り傷だらけで血だらけであり、切り傷のいくつかは変色していた。

 

「ふふふ、なかなか楽しめたでござる。魔帝剣グラム。龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の魔剣は脅威だったでござるよ」

 

 イッセーのとなりにはジークフリートを空中から叩き落した本人、ヤトが下りてきた。ヤトは少々の切り傷があるのみでジークフリートとの実力の差が現れていた。そのジークフリートはグラムを地面に突き刺し、体を支えながら立ち上がる。

 

「ゴホッ・・・・・・・・凄まじいよ。してやられた。さすがは日本神話の龍の一角をなす夜刀神だ。ゲオルク、フェニックスの涙はあるかい?」

 

「あるにはある。が、ヘラクレスも使うとなればこれで打ち止めだ」

 

「サンキュー」

 

 ゲオルクからフェニックスの涙を受け取ったジークフリートはそれらを自身の体にかける。煙を上げて傷をみるみるうちに消していく。しかし、傷が消えてもジークフリートから苦痛の表情は消えない。

 

「くっ、傷は消えるが、流石にあの妖刀の呪いが痛むな・・・・・」

 

「はぁ、はぁ、がぁっ、クソッ!あの女結構やりやがる。ゲオルク、俺にもだ」

 

「ハイハイ、」

 

 ヘラクレスも同様に治療をする。一方、ヘラクレスと戦闘した月夜はかなり消耗をしている様子だ。

 

「月夜、平気か?」

 

「はい、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・大丈夫です」

 

 両者は再びにらみ合った。曹操は険しい顔をしながら今回の敵、イッセーをにらんだ。

 

「やられたな・・・・・・八坂姫を奪還され、実験が失敗した今ここにとどまる理由もない・・・・引き際だ。ゲオルク」

 

「・・・・・了解」

 

 ゲオルクは絶霧(ロスト・ディメンション)で霧を発生させる。霧は英雄派一派を包み、虚空へと消えていく。その間、ゲオルクは消えて見えなくなるまでイッセーをにらんだままであった。

 

「終わったか」

 

「そのようでござる」

 

 イッセーはこの事件が収束したことにほっと一息をついた。

 

「(もし英雄派が邪龍たちとここで遭遇したら本当に面倒なことになっていたな・・・・・)」

 

 内心、邪龍たちと英雄派が遭遇しなかったことに最も安心するのであった。それはそれとして、今回の戦いを乗り越えたヤトと月夜に声をかける。

 

「ヤト。あの魔帝剣グラムを受けたのだろう?やせ我慢もほどほどにしろよ。治療してやる」

 

「イッセー殿、すまないでござる。正直立っているのもやっとでござる」

 

「月夜もだ。その傷だらけの状態で屋敷に返すわけにはいかないからな」

 

「はい、お願いします・・・・」

 

 イッセーとヤトたちはこの事件の後処理をすることになるのであった。




申し訳ございません。投稿に時間がかかりました。
ちなみに、せーいち君は沖縄でやったそうです。(次話で公開)

今執筆中の小説に加えて、新作を同時並行するか、もしくは一本に絞るか。参考までに意見を。

  • 同時並行でもよい
  • 今の小説に絞る
  • 今のを少し停止して新しい小説を投稿
  • まかせる

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