好き好き京ちゃんマジあいしてる   作:山荘

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妹の方

「おっ、また夫婦揃って飯食ってる」

 

 清澄高校の食堂にて、同じテーブルで向かい合って昼食を取っていた須賀京太郎と宮永咲は何時もの如くそう揶揄された。

 

「嫁さんですけど!?」

 

「違いますけど」

 

 咲は即答した。

 京太郎も即応した。

 咲はぐぬぬと顔を歪めた。

 世はなべて事もなかった。

 

 

 

 宮永咲は須賀京太郎に恋をしている。それはもう熱烈に。

 出会いは中学一年の頃、小学校から進学して、人間関係も全てと言わないが一部リセット。それと同時に思春期特有の気恥ずかしさに、咲生来の人見知りも加わって、クラスメートにろくたら話掛けなかった。

 向こうから話掛けられてもどう対処したらいいのか分からず、素っ気ない対応。そうこうしている内にクラス内でのグループ、そのおおよその枠組みも決まってしまって。中途から入るには難しくなってしまった。

 そうなると咲のようなコミュニケーション能力が不全がちな人間からするともうお手上げである。元来人見知りなのだから小学校時代から友人は少なく、持ち上がりで同じ中学に入った友は雀の涙。その証拠にクラスに小学校からの友達は一人も存在しなかった。

 こうなってしまっては最早咲が取る手段は一つしかない。休み時間の度に自前の小説を広げて、外界を遮断するポーズを取る。あくまでポーズである。こうすることによって「私は静寂を愛する文学少女なんですけど? この孤独は自ら欲したものなんですけど?」という無言のアピールを示すことが出来た。誰がその発信を受け取っているのか分からないが。

 だが、そんな文学少女(笑)咲ちゃんに話掛けてくる奇特な人間がいた。言わずもがな、京太郎であった。

 

 須賀京太郎。髪は金髪高身長、顔は男らしさの中にどことなくあどけなさが残る二枚目で、そのくせ中身は二枚目半というよくよく考えたら凄まじいスペックの持ち主であった。

 珍稀な髪色が人権を得まくり跳梁跋扈するこの世界において金髪は置いておこう。しかしそれを差し置いても咲からすれば残りの要素だけで天敵に近しい。後日分かったことだが上記のステータスに更に「スポーツマン」が付随する。どう考えてもクラスの中心人物キャラだった。今風に言うと陽キャである。陰に潜む咲とは相容れぬ存在のはずであった。

 

 が。

 

 グループ作りに乗り遅れた立場からすれば、そういったクラスカースト上位の人間に引き上げて貰わねば追い付くことが出来ないのもまた事実で。

 しかもこの須賀京太郎という男、上位者から下位に向けての「弄り」という角度からの接触ではなく、同じ目線に立った、ものすごい優しい話の仕方で。

 イケメンで、スポーツマンで、優しくて、親身。

 咲は思った。

 

 惚れてまうやろ。

 

 と。

 というか惚れた。

 そして今に至る。

 

 

 

 想いは中学から高校になっても変わらない。寧ろ積み重ねた分だけ強くなっている。既に咲はこと京太郎に関してのみ引っ込み思案であることを止めた。それすなわち、自称嫁である。私は京ちゃんの嫁であると公言して憚らぬようになった。アグレッシブ咲さん誕生である。

 

「そういえば京ちゃんはもう部活って決めたの?」

 

 日課である公然での嫁宣言を果たした昼食を終え、咲と京太郎は教室に戻り残りの昼休みを駄弁って消化していた。

 

「ああ、もう入った」

 

「ふぅん、ハンドは清澄にはなかったよね。今度はハンドとはまた違うスポーツ?」

 

 素知らぬ顔を装ってはいるが内心では興味津々である。というか、内心を津々が突き抜けて外面にまで貫通している。

 

「いや、麻雀部」

 

「へぇーそうなんだじゃあ私も入るね」

 

 即答であった。

 今回ばかりは京太郎も断る理由がなかった。

 

 

 

 放課後、麻雀部部室にて。

 

「……あー。鴨? ……いや……新入部員連れてきたぞー」

 

 京太郎はその連れを何と表現するべきか頭を捻らせた結果、なんとも穏当な着地を済ませて部室に入った。傍らには咲もいた。違う世界線では後から促されて入って来たというのに、しかしこの世界ではアグレッシブ咲さんだったから。

 新入部員、それも大会に参加するために出来れば女子、それが喉から手が出るほど欲しかった麻雀部部長、竹井久は「でかした!」と言おうとして言葉に詰まった。

 勲一等であるはずの男子部員の腕に、可愛らしい少女がくるりと巻き付いていたからだった。

 

「ええと、彼女さん?」

 

「違い」「そうです!」

 

 否定の言葉は食いぎみの肯定に取って食われた。

 

「新入部員の須賀咲です。よろしくお願いします」

 

「……妹さん?」

 

「違います嫁です」

 

「嫁さん違います妹違いますこちら宮永さん家の咲さんです」

 

「……ええと」

 

 頭の回転が中々に素早い久でも、流れるような展開に思考が縺れる。

 

「……とりあえずよろしくね?」

 

 ひとまず全部うっちゃって、悪待ちの彼女は二人を部室内に招き入れた。

 

 

 

 女子女子女子、女子である。麻雀部内の女子比率は極めて高い。咲はぎりぃと歯を鳴らした。実際は鳴っていない。そうした、という咲自身による脳内イメージだ。代わりに絡めた腕をより一層強く胸元にかき抱く。「当たってるんですけど?」と言われれば「当ててんのよ」と返せる程度の密着度だった。悲しいかな膨らみはささやかに過ぎて、京太郎からしても「なんかやわっこいなぁ」程度の感想しか持てない平原が咲の胸部にはあった。

 同時に、ここ数年で磨き抜かれた咲の「京ちゃんスカウター」を発動させる。これは京太郎に関するありとあらゆることを数値化することが出来る咲の特殊能力であった。本家のスカウターと同じくらい頻繁に壊れるのが珠に瑕。

 

「お、おー。咲ちゃんかー。わたしは片岡優希、よろしくなー」

 

 少しばかり引きながらも挨拶をしてくるちんまい少女を咲は見る。

 

 ――元気っ子タイプかな。異性との交遊関係を簡単に作れそう。でもその分友人関係から進展する可能性は低そう。それに胸も……。うん、驚異度20くらいかな?

 

 一部分ブーメランがぶっ刺さるような感想を浮かべつつ、咲のスカウターは女子一人一人を恋敵となりうるか測定する。

 

「うん、よろしくね。片岡さん」

 

「ゆーきでいいじょ。わたしも咲ちゃんて呼ぶから」

 

「分かった、優希ちゃん」

 

「そんでこっちが……」

 

「……原村和です」

 

 優希から促された驚異の胸囲をおもちの少女が浅く頭を下げる。向けられる視線は冷ややかだ。

 

 ――潔癖なのかな。男性ギライもちょっと入ってるかも。……でも全てを補って余りあるあのおもち、おもち! ……胸囲度、じゃなくて脅威度は85かな。

 

「よろしくね」

 

 脅威度に比例して非礼も増す。シャー、と耳と尾っぽを立てて威嚇する猫のようだ。

 

「で、わしが染谷まこ。二年の副部長じゃ。実家は雀荘をやっとるから、暇があったらよろしくの」

 

 ――眼鏡だ……。京ちゃんは眼鏡萌えだったっけ? その線はまだ確かめてなかったなぁ。今度伊達眼鏡掛けてみようかな。……うーん、この人は何処と無く京ちゃんと似た雰囲気がありそうな。要らない苦労を背負っちゃうような。……脅威度は、45くらい?

 

「よろしくお願いします。染谷先輩」

 

「まこで構わんよ。と言っても先輩をいきなり下で呼べっていうのはちょいときついかの」

 

 はは、と笑うまこに対して咲もまた笑みを返す。

 

「私が部長の竹井久、三年よ。あらためてよろしくね、須賀咲さん」

 

 ――うん、この人はいい人だ。脅威度はもう0でいいんじゃないかな……!

 

 早速スカウターが壊れた。そういえばこの人学生議会長だな、とか、黒ストッキングのエロティシズムは脅威だ、とか一切合財放り投げて、味方だよね、うん、味方。と決め打ちしている。

 須賀じゃないっす。冗談よ。という京太郎と久の会話も右から左に抜けていって。

 まずは試しに一局打ちましょうか。上の空ながらもどうにかその言葉だけは拾えた咲は、夢遊病患者のように、あるいは誘蛾灯に誘われるかのように、雀卓に着いたのだった。




短編だから此処で終わってもいいという素晴らしさ。
眠気限界。
照の方は何時か書いて多分それで終わりです。短編だからね!

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