ナタリアの手を引いて外へ出る俺を、パープルシスターが追ってくることはなかった。
だからといって、武器を捨てられるほど安全なわけじゃない。
この世界にはまだ、俺たちを狙ってくる可能性のある者がたくさんいる。
魔弾はまだ俺の手元にあって、いつケイやチカがやってくるかわからない。魔弾を欲しがっているだけではない。犯罪神という異質をこの世から消し去るために。
手段や考え方は違えど、彼女たちもまた、世界を維持しようとしているのだ。愛する女神のいない、こんな荒れ果てた人の中で。
世界はまだ、女神を必要としている。女神のいた世界のままでいようとしている。
俺たちが戦っている相手は、そんな世界、そんな時代だ。
女神だけに頼るだけじゃない世を創るには、人が自分の力で立ち上がらなければならない。いまこの時代にも、歴史を変える力を持った強い人間も、流されるだけの弱い人間もたくさんいる。一人の力が作り出す奔流は人々に影響を与え、この世界は良いほうにも悪いほうにも変わっていくだろう。
俺も変わることが出来るだろうか。銃を手放すことが出来ないままでいる俺が、どこか落ち着ける場所を見つけられるだろうか。
「ねえ、ベクターのこと、妹のこと、話して?」
ある日、ナタリアにそう言われた。
俺かお前が死んだら話す。そう言ったが、死ぬ気がなく、死者を語るべき俺に、その約束はいまや意味のないものになった。
だから、俺は躊躇なく話すことにした。とはいえ、俺は話すことが得意じゃない。それに、死んでいった者の想いを噛み砕くのにはまだ時間がかかる。
待ってくれと言っても、ナタリアはしつこかった。
それでいいから、話して。これまでのことを知って、これからのことを考えるために。
空っぽだったナタリアの中に、少しでも俺たちの物語を伝えられることが出来るのならと思って、俺はしどろもどろしながら話をした。
俺のこと、妹のこと、妹が感じたこと。それは実際のものとは異なり、俺が感じた「きっとこうだろう」という経験と感情の産物。
それでも、それは一つの真実としてナタリアに語り継がれる。
死者のことを語るなら、死者以外のものが語るしかない。代弁者が継いでいくその話は、少しずつ曲がり曲げられていくだろう。だが、それしかないのだ。亡き死者を、残すべき骸を、変わり行く時代に置き去りにしないためにも。
だから俺は語り続ける。この世界と俺の命が続く限り。
ここまで書いて、俺はペンを置いて一息ついた。
最初は、俺の気持ちを整理するために書き始めたものだったが、過去のことを書き終えたいまも、俺が何をしたいかなんてのはわからない。
この旅を経て、何を失って何を得たか、振り返ってもわからない。
結局、犯罪神は消え去った。だが、また復活してしまうかもしれない。誰かの大事な人を器にして、その生を台無しにしてしまうかもしれない。
ナタリアは、多くを失ってしまった。それでも、彼女は俺に会えてよかったと言ってくれた。記憶が奪われ、感情も侵され、その存在すら利用されるだけでも、人は死なない。生きている限り、人は生きることが出来る。犯罪神がいなくなってなお、何も戻らないナタリアはそう言った。
全てを失っても、無くなったわけではない。長い時間をかけて、ナタリアは死にゆくまで生きたいと願う一人の少女になりつつある。
俺たちがやったことは、破壊の先延ばしなのかもしれない。だが、ナタリアの「普通」への一歩、俺がその役に立てたら、と思う。あの凄惨な旅が、外を知る一歩になってくれたら、と。
俺は再びペンを持ち、頭を切り替えた。ここからは、これまでのことではなくて、ここからのことを書かなければいけないからだ。
ここまで読んだなら、もうわかるだろう。
俺はお前を殺すことが出来る弾丸を持っている。いまこれを書いているときも、俺の手にはお前を殺す手段がある。
だが、今はこれを使う気はない。
俺がリーンボックスで弾丸を撃ち込まれたとき、あるいは犯罪神が俺を乗っ取ろうとしたとき、斃れてしまおうかと思った。
時に、人に依頼されて。時に、人に利用されて。時に、俺自身が望んで。どんな形でも、戦ってきた。もういいじゃないか、ここで終わりにしよう。そう思って、堕ちてしまおうと思った。
だが、死んだ者、生きている者の顔がちらついて、それを許してくれなかった。なにより、俺自身が許さなかった。
復讐も、代弁も、希望も、何もかも中途半端なままで、何も残せなかった。世界も自分も恨みながら、俺はなにも跡を残せていない。このまま終わって、ナタリアを置いていくわけにはいかない。
お前も、やるべきことが、やりたいことがあるんだろう。
この街をどう思うか。お前は俺に訊いた。お前が守る世界を自慢するのではなく、まるで窺うように。それはまだ、お前がプラネテューヌを理想の街として見ることが出来ていないことだと、俺は思う。
この世界には、まだまだ女神を恨む人間がたくさんいる。それすらも包み込んで、お前は進むつもりだろう。茨の道だと知りながら、姉たちとの約束を守るために。
おそらく、どこまでいってもお前は自分を許すことはできないだろう。
それでも、お前に救われた人間がいるはずだ。いまこの世界に、お前を愛する人間も憎む人間も星の数ほどいる。
そんな矛盾で理不尽な世界をまとめて守ったのは、女神パープルシスターであるお前自身だ。
俺は世界を巡りながら、その末を見届けよう。
今はまだ、お前を殺す気はない。だがもし、ありえないことだが、お前が世界に仇名す存在になった時は、容赦なく殺しにいく。
だけど、覚えておいてほしい。
お前が世界を守ろうとする限り、俺はお前に味方する。呼んでくれれば、すぐに向かう。
俺は「