英雄王《偽》の英雄譚   作:課金王

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11話

ギルガメッシュの計画にない動きを始めた同盟と連盟の両軍について現場のエストニア軍から報告を受けたエストニア政府。

政府のトップはさっそく、連盟と同盟の本部に連絡を取った。

電話がつながると電話とつながったスクリーンから二人の人物の姿が映る。

 

「一体どういう事なのです!!貴方達は計画書の内容に賛同したのではないのですか!?」

 

『いや、なに。

ただの手違いだ』

 

『そうとも。我々も困っているのだよ』

 

怒れるエストニア政府のトップの声を涼しい顔で受け止める本部のトップにいつまでも居座る老人たち。

老人たちの余裕の態度に激しく罵った後で、受話器を力の限り床へと投げ捨てたくなる衝動に駆られるがエストニア政府のトップであるジェームズは責任と国民の未来の為に堪えた。

ここでコイツ等に暴言を吐いた所で意味はないのだ。

 

故に彼は手のひらに爪を食い込ませるほど握りしめ、こちらが少しでも有利になるように情報収集を行う事にした。

 

「手違いですか……その手違いで《王者》を敵に回すのですか?

もしや彼の親友達を味方に付けましたか?」

 

『フハハハハ!!あんな年老いた英雄達に、あの化け物が倒せるわけなかろう!

さすが緑豊かな事だけが取り柄のエストニア。

小国(・・)らしい小さな考えですな!!』

 

『いやはや、どうしたらそのような浅い考えに至るのか教えてもらいたいものです』

 

爪をさらに食い込ませて怒りを飲み込むジェームズ。

彼は老人たちから得た情報を整理する。

大笑いするこいつらの余裕は、かの英雄達ではないらしい。

しかし、今現在で確認されている武器では王者に傷をつける事すら叶わない。

Aランクはすべてを暴力でねじ伏せる埒外の存在であるからこそのAランクなのだ。

 

そんな怪物と渡り合えるAランクは世界にそうは居ない。

KOKで活躍する騎士ならば、既にこの戦争に参戦しているだろう。

だったら彼とその親友を除けば……裏の人間。

 

しかも、王者を倒せる可能性を秘めた……いや…まさか…。

 

「まさか……《解放軍(リベリオン)》を雇ったのですか!?」

 

自分の至った考えを老人たちに問うジェームズ。

その問いに老人たちの表情は変わった。

 

『まったく!さっきから何なのだね!?我らは小国のエストニアと違って忙しいのだ!!

これ以上は付き合ってられん!!』

 

『そうだ!!わざわざ電話をとってやったのに無礼な!!我らはこれで失礼させてもらう!!』

 

優位な立場でしか交渉をしてこなかった老人たちの『余裕』と言う名の仮面が剥がれたと同時に怒声と共に、ブツリと切れた電話とスクリーンの映像。

ジェームズは何も映っていないスクリーンを睨み付けると、皮膚が破れた痛みと血が止まらない手をそのままに、ギルガメッシュへ向けてプライベート回線による連絡をとった。

 

 

 

――――。

 

 

 

ジェームズから連絡を受けたギルガメッシュは驚愕した。

嫌がらせは予想していたが、まさかテロリストを利用してくるとは思わなかったからだ

 

電話を切ったギルガメッシュは贋作であるデブガメッシュがテロリスト、もしくは同盟か連盟に敗れる最悪の未来を危惧し、対抗手段をとる。

 

「まさか、出陣の命令を出してすぐにこんな連絡が入るとは……。

ちょうどいい。これがどれだけ使えるか試してみるとしよう……」

 

自分の目の前の空間にバビロンを展開したギルガメッシュを不思議そうに見守る兵士とエーデルワイス。

彼らが見守る中、ギルガメッシュが両手で取り出したのは筒のようにヒモで縛られた7つのスクロール。

 

「スクロール解放。《竜牙兵》」

 

ギルガメッシュが言葉と共にスクロールを前に放り投げると、全てのスクロールのヒモがほどけてすぐに消失した。

スクロールが消失すると駆け出す、デブガメッシュの背後に骨で構成されたゴーレム、《竜牙兵》が70体召喚される。

 

このスクロールは、ゲームに登場する魔女メディアの魔術が封印された低ランクのドロップアイテムだ。

効果は発動者のレベルに応じた強さを持つ、《竜牙兵》を召喚して戦闘のサポートをさせたりアバターにもよるが、宝具発動までの壁にするなどの使い道はある。

ただ、《竜牙兵》が役に立つのは初期までだ。

すぐにジル・ド・レェやアヴィケブロンからドロップされる《海魔》や《ゴーレム》のスクロールにとって代わられ、売っても二束三文にしかならないその場で捨てられる悲しきアイテム。

 

持っているのはビギナーのアバターか、ギルガメッシュの様なコレクター気質のある課金兵、もしくはアバターのレベルに依存する《竜牙兵》を強化アイテムで極限にまでステータスを上昇させて活躍させる奇特な考えを持つ者達のみ。

ちなみに、魔女メディアやセミラミスの召喚する《竜牙兵》は彼女たちの魔術レベルによってステータスが上昇するだけではなく、翼が生え、武具まで装備して戦闘中には厄介な壁としての本領をサーヴァント相手に発揮する事が出来る。

 

「どこまで戦えるか分からないが、壁にぐらいはなるだろう。

進め、《竜牙兵》よ!我が敵を蹴散らし、踏み砕け!!」

 

命令(オーダー)を受けた骨で構成された兵士達はデブガメッシュ達に追従する形で走り出す。

 

「さて、(オレ)達も行こうではないか」

 

「はい、ギル。あなたに勝利を」

 

デブガメッシュ率いる骨の軍団を見送った二人は、形だけの味方である連盟と同盟の連合軍へと駆けだした。

 

 

――――。

 

 

ギルガメッシュが駆け出した頃、戦場近くの森を先行する一団があった。

 

「ようやく…帰れるんだな」

 

「ああ、この戦争……我々の勝利だ」

 

「あの三大英雄の一人である、王者が参戦するんだ、質も量もこちらが勝っている。

もしかしたら今日中に終戦するかもな」

 

「他愛なし」

 

「おい、まだ確定した訳じゃないんだ。

いくら王者が来るからって油断していたら死ぬぞ」

 

彼等の緊張は《王者》の参戦を聞いてから、適度に緩んでいた。

一週間以上前ならば戦場に行くだけで胃が悲鳴を上げていただろう。

なのに、今では軽口を叩いている。

 

そんな男達にイラついているのが二人の学生騎士。

西京(さいきょう)寧々(ねね)滝沢(たきざわ)黒乃(くろの)だ。

 

こいつらは何もわかっていないとプロの騎士達を睨み付ける彼女達。

奴ら…特に、《地上最強のデブ》に至っては本気なんて一回も自分たちに見せてはいない。

こちらは殺す気で戦っているのに、向こうはハエを祓うような動作で自分たちを跳ね退ける。

 

そこに殺気も敵意もなく、あるのは面倒くさいという表情のみ。

《サムライ》に至っては無表情だ。

自分たちに殺す価値はないと言わんばかりに幻想形態で意識を刈り取る。

彼等にとって自分たちとの闘いは作業だと二回目の戦いで確信した。

 

そんな天と地ほど離れている相手に、()勝って(・・・)いる?

馬鹿も休み休み言ってくれ。

数に入らない所か、寧ろ自分たちは《王者》の足手まといにしかならない。

 

いや、そもそも《王者》は西京寧々の師である《闘神》の盟友であり、最強の騎士の一角。

加勢として認識してもらえるか怪しいところだ。

 

「デカ女。アイツらが先走ったら、私は撤退する。」

 

「ほう?虫唾が走るが、同意見だな。

殲滅戦(・・・)が得意な《王者》の居る戦場に行けと言う命令に何の疑問を抱く事なく、目の前で呑気な会話をしている馬鹿共と心中するのはごめんだ。

巻き込まれない内に早々に離脱するさ」

 

二人が先行する一団と少しな離れた後方の部隊に聞かれないよう会話する中、森を抜けて少し先まで進んでいた男達が立ち止まった。

 

「なんだよ……あれ」

 

震える男の声に異常を察知した二人は男達の居る場所まで近づき、寧々と黒乃は目の前の光景に唖然とした。

尋常ではない速度で(デブ)(サムライ)が骸の軍団を率いてこちらに向かって来ているのだ

こうして驚いている間にも距離はどんどん詰められていく。

 

「おいおい…あれはなんの冗談だ?チビスケ」

 

「知らねぇよ……あの女の力じゃないか?デカ女」

 

冷や汗を流しながら、前方の敵を睨み付ける二人。

 

「どうした、逃げないのか?」

 

「はっ!?分かっているくせに聞くんじゃねよ!クソデカ女!!」

 

罵り合いながら、デバイスを展開する二人。

《王者》が居ない上に敵の数と予想以上の速さに逃げ切れないと判断した二人は、自分たちが生き残る為に頭を回して策を思いつく。

生き残る確率を伸ばす効果的な策を思いついた二人だったが、その表情は非常に苛立っており、怒気に溢れていた。

二人がチラリと同じタイミングで互いを見れば、お互いに同じ策を考えていると理解する。

 

本気で何度も殺し合った事で知った、人柄と考え方。

太刀筋に癖。得意な間合いや苦手な間合い。

忌々しい事に自分が生き残るのにはコイツの力が必要だと、彼女達はそこいらの夫婦よりもお互いを理解していた。

 

「ミスしたらぶっ殺すからな!!」

 

「それはこっちのセリフだチビスケ!!私の足を引っ張るなよ!!」

 

二人の策は単純。

殺したい程にムカつくライバルと、共に戦う事だった。

 

生き残る為、二人の学生騎士の戦いが始まる。

 

 

 




次回から戦闘に入ります。

読者の皆様が、面白いと思って頂けたのでしたら幸いです。

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