英雄王《偽》の英雄譚   作:課金王

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12話

ギルガメッシュとエーデルワイスはぶつかり合う贋作の軍団と魔導騎士達の戦いを遠くにある丘の上で眺めていた。

特に彼の親友の弟子である少女と、その相棒らしき女性の動きは映画のワンシーンの様で見ごたえがある。

二人の戦いぶりを見て、ギルガメッシュは戦場で駆け抜けていた若かりし頃の親友二人の姿を思い出し、ニヤリと笑う。

 

「エーデ。お前はあの二人を見てどう思う?」

 

「……撤退を選択し、距離を徐々に離しながら戦う優れた状況判断や武の才能も魔力も有り、最初に戦場で手合わせした頃に比べれば成長もしました。

彼女達は将来有望な騎士になると思います」

 

小学生の様に見える自分よりも年下の少女と自分よりも背の高い女性の舞にも似た戦いに、見た目の年齢相応の笑顔を見せるギルガメッシュを横目に見ながらエーデルワイスは答えた。

そして、彼女は無自覚に瞳を鋭くし、戦場で戦う二人を見て口にする。

 

「ですが……まだ未熟。彼女達は私や貴方の足元にも及ばない運命の内側に居る存在。

私の相手にすらならないでしょう」

 

心優しいエーデルワイスから発せられた謎の敵意に驚き、わずかながら目を見開くギルガメッシュ。

 

「珍しいな。優しいお前が敵意を見せるのは……。

自分と同じように運命の埒外に至るであろう二人の成長速度に対抗意識が芽生えたか?」

 

「…いえ、そうではありません。

ただ……」

 

「ただ?」

 

「原因は分かりませんが……」

 

 

―――不愉快なのです。

 

 

――――。

 

 

ギルガメッシュが嬉しそうに眺める彼女たちへ向け、少女から女性へと成長途中にあるエーデルワイスの無自覚な嫉妬による敵意が放たれた。

幼い頃からギルガメッシュとのダイエットと言う名の修行と自主練の果てに運命の外側へと至った彼女の敵意。

それは……戦場で戦う彼女たちに届いた。

 

「「ッッ―――――――!!」」

 

デブガメッシュから出来るだけ距離を置きながら、《竜牙兵》を近・中距離で相手にする彼女達は剣気にも似た鋭い敵意を感じ取り、二人は同時に後ろへと下がった。

喉元に剣を突き付けられたような感覚に襲われた彼女たち。

未熟な二人は敵意の主である人物の位置を把握する事は出来なかったが相手の強さの一端だけは感じ取っていた。

 

「ふざけんなァ!!あのデブ以外にもとんでもねぇのが居るじゃねか!!」

 

「お前の言いたいことは分かる!!でも、今は足を動かせ!!

今以上にここから離れるぞ!!」

 

新たなる未知の敵を感知した二人は一分一秒でも戦場から距離を離す為に戦闘を再開する。

西京寧々の持つ、緋色の鉄線から風を扇ぐように放たれる黒い蝶と滝沢黒乃の時を止めて放たれる数十発の弾丸。

彼女たちの舞は激しさを増した。

 

戦況は連盟と同盟にとって最悪の状態となっていた。

西京達の前を先行していた一団は全滅。

杖を持った顎鬚の騎士は逃亡しようと背を向けた後、背中を刺されて死亡。

他愛なしと言っていた短剣を持った騎士は見事なアクロバティックで一撃を避けるも、追撃の二撃目によって頭部を殴られて死亡

物の数秒で全滅。

後方に居た軍も《王者》が居ないことを知って脱走兵が続出。

西京達やBランクの優秀な騎士たちが《竜牙兵》の数を減らしているが旗色はかなり悪い。

 

奮闘していた彼女達であったがそろそろ限界が近い。

 

「《クイック・ドロウ》!!」

 

「《黒刀(こくとう)八咫烏(やたがらす)》!」

 

滝沢黒乃の攻撃により足を止めた《竜牙兵》、西京寧々が緋色の鉄扇に宿った超重力の黒き刀で止めをさす為に、首を横一閃。

首から上を切り飛ばされた《竜牙兵》はガラガラと音を立てて崩れ去り、骨の山を築いた後は粒子となって世界から消えた。

 

「まったく!!骨だけの癖に頑丈過ぎるだろ!!どんだけカルシウム取ってんだ!!

うちにも分けろ!!」

 

「帰ったら牛乳と相談していろ馬鹿者!!何か来るぞ!!」

 

西京寧々のボケにしか取れない発言にツッコミを入れる滝沢黒乃。

 

騎士たちの努力によって《竜牙兵》の数が残りわずかとなった時、地面から触手の様な物が這い出てくる。

その姿は醜悪でその姿を視認した騎士達は嫌悪感から顔を歪ませた。

それは紫色で、タコによく似た触手を持ち悪臭を放つ大きな口を持ったおぞましい怪物。

 

「おいおい……。なんだよ、あのタコとヒトデを合体させたような生臭い化け物は?」

 

「私が知るか。だが、このまま反撃をしなければ、私たちは奴らの餌になるのは間違いない」

 

疲弊した体にムチを打って、再び構えを取る西京寧々と滝沢黒乃。

彼女たち連合と同盟の連合軍の地獄が始まった。

 

 

 

――――。

 

 

醜悪な怪物の登場によってさらに混沌とする戦場。

怪物の正体は、ギルガメッシュの持つスクロールによって召喚された《海魔》である。

ジル・ド・レェの代名詞とも言える魔術である。

 

《海魔》は中位クラスの魔術であるが物理攻撃は《竜牙兵》とさほど変わりはない。

ただ、《海魔》には特殊能力として自己再生能力や相手に毒などのステータス異常を与える力がある。

ジル・ド・レェのアバターを育成し、極める事が出来たならば、時間と強化アイテムなどのコストが掛かるが、ソロで高難易度クエストの代名詞《神の討伐》を達成させる事も出来る。

 

 

そんな、神殺しの可能性を持つ醜悪な怪物が戦場で猛威を振るう。

それはまさに地獄であった。

 

醜悪な姿で騎士たちの心を圧迫し

 

異常状態を与える毒液を所構わず、まき散らして、弱った相手から飛び掛かって食事を始める。

 

血と悲鳴が戦場を支配した。

 

「それで…どうする?デカ女」

 

「この状況で策があると思うか?チビスケ」

 

そして、西京寧々と滝沢黒乃もまた、追いつめられていた。

学生騎士とは思えない多大なる戦果をたたき出した彼女たちだったが、もはや限界。

お互いを背中を預け、醜悪な怪物…《海魔》たちに囲まれていた。

まさに絶対絶命である。

 

「なぁ…お前って男居るって聞いたんだけど本当か?」

 

「……居る。なんなんだ、突然?この状況で男でも紹介しろと言い出すのか?」

 

そんな状況で真剣な表情で、西京寧々は滝沢黒乃にカフェで行われると噂される女子トークのような質問をする。

馬鹿らしい質問であったが、彼女の知らないほど決意に溢れた西京寧々の真剣な表情と声色に答える滝沢黒乃。

もしかしたら、映画の様な最後の会話をしようと言うのだろうか?

 

「そうか……」

 

聞きたかった答えを知った、西京寧々は瞳を閉じた。

そんな彼女の様子に滝沢黒乃は理解が追いつかない。

滝沢黒乃が疑問を浮かべていると、彼女はクルリと反転。

 

「リア充は爆発しろぉぉおおおおおおおお!!!!」

 

「ぐはっ!?」

 

戦場に轟く、魂の叫びと共に放たれる嫉妬の一撃。

彼女のデバイス《紅色鳳(べにいろあげは)》から放たれる超重力のエネルギーを宿した蝶が滝沢黒乃の背中に叩き込まれる。

今は味方であるはずの西京寧々に背中を攻撃された滝沢黒乃は超重量の衝撃に襲われ上空に打ち出された。

 

「リア充は戦場に邪魔なんだよクソボケェ!!テメェは日本に帰って末永く爆発していろ!!

後、男を紹介しろや!!」

 

「チ、チビスケェエエエエエエエ!!殺してやるぅううううう!!!」

 

空を滑空し、呪詛を吐きながら、来た道を戻るライバルを見送った西京寧々はニヤリと笑い、彼女を囲う怪物たちに鉄扇を構える。

その獰猛な表情は、まさに夜叉。

 

「我が偉大なる師!《闘神》南郷(なんごう) 寅次郎(とらじろう)の名に賭けて、貴様らを一匹でも多く地獄へと還してやる!!

…さあ、化け物ども。

 

かかってきやがれぇえええええええええ!!!」

 

両手の鉄扇に重力の黒刀を作り出し、突撃する西京寧々。

自殺にも等しい行為だが、彼女の表情に悲壮も後悔もない。

ただ、恐れずに前へ、前へと進むのみ。

 

―――ジジイ…悪い。

 

うち…先に死ぬわ。

 

でも……後悔はないんだぜ?

 

本気でぶつかれて、本気で殺し合いが出来るムカつくバカ女と好きなだけ暴れられたんだ。

 

ムカつくけど…楽しかった。

 

これがジジイの言っていた友達って奴なのかな?

 

うちは素直な弟子ではなかったけれど……ジジイの友達の話、十分長生きした後にまた、あの世で聞かせておくれよ―――。

 

刃を縦横無尽に振り回し、《海魔》を切り刻む西京寧々。

怪物たちの赤い血を浴びながら、戦い続けたが彼女は敵の物量に負け、仰向けに倒れたその瞬間。

彼女は複数の触手にからめとられようとされていた。

 

西京寧々が終わる、その瞬間。

 

黄金の鎖が全てを縛った。

醜悪な《海魔》もデブガメッシュもエーデル武蔵も、敵はすべて捕縛され、彼女の前に黄金の王と白銀の戦乙女が空から舞い降りた

 

「よくぞ持ちこたえた。

その魂、その不屈ぶり…まさしく現代の英雄にふさわしい女だ。

貴様とその友の武功は賞賛に値する」

 

彼女に賛辞を述べた黄金の王は揺れる空間から薬を出して、彼女に振りかけた。

すると、彼女の傷は全て癒え、体力も消費した魔力もすべてが全快した。

驚きながら体を起こし、体の確認をする彼女を尻目に黄金の王は全ての敵に裁定を下す。

 

「さて、汚物ども。

貴様らはやり過ぎた…疾く、地獄へと堕ちるがいい。」

 

王の…ギルガメッシュが右手を上げて宣言すると、すべての敵に古今東西の武具が突きつけられる。

まさに絶対強者。

一人で国と戦争が出来る最強の英雄。

 

「死ね」

 

手が振り下ろされると武具が射出され、その一撃の元に、すべての敵が爆散。

土ごと敵を吹き飛ばし、クレーターだけを残して、全ての敵は塵に還った。

 

しかし、ギルガメッシュは警戒を解かない。

地面や空、奇襲が出来るであろう場所を見渡し、警戒していた。

 

そして、そんな英雄を森から見ていた《解放軍》から派遣されて来た男は獰猛な笑みを浮かべる。

世界大戦当時のままの戦闘とギルガメッシュの能力を見ていた男は己の勝利を確信したのだ。

自分の能力ならば、奴を殺せると。

 

「戦争当時の資料よりも強くなっていたらと不安だったが……これでようやく復讐が達成できそうだ」

 

《解放軍》は関係ない。

全ては彼の復讐の為にギルガメッシュを殺す。

 

復讐者は今、満を持して姿を現す。

 

 




いつも応援して下さる読者様に感謝を捧げて投稿。
戦闘シーンは難しいですね。
あまり活躍しなかったオリ主とエーデルワイスさんは次回活躍の予定です。

エストニア編が終わったら、連盟と同盟はどうなるのでしょうかね?(白目)

未熟な作者と作品ですが、これからも応援よろしくお願いします。

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