愛しい瞳   作:シーマイル

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お待たしました。17話です。


17 最も醜いモノ

こいしside

あれからどうしたのだろうか、

··確か目の前が真っ暗になって、

·····わたしの目、

 

 

嗚呼、そうだここには何もないんだ。

 質量も光も、暗闇も長さも。

  私をつつむ暖かさも、弾力も。

なにも、なにもない。

 すべてが意味のない。

すべてが無意味で

 

それは、

それは、きっと

 

····わたしが無意味になったから。

わたしも、こころも、ひとみも

 

ここはどこだろう。

 

お姉ちゃん、

 雅、

 

 

そこにはなにもない。

 

 

さとりside

「どうして「"おまえがここに?"ですか? いやー探しましたよ。

 まさか我が家の地下とは、見つからない訳です。灼熱地獄に居るとは思いませんでした。」

「だからなんで「"ここがわかった?"ですか、私は多くのペットを飼っているんです。

 それで総動員したわけですよ。

 烏をほったらかしにしておいたのはいけませんでしたね。」

 

「····しかし、やってくれましたね。」

私の目にはこいしが映っている。

あれからもう2~3時間は経っていた。

覚悟はしていたが。

···嗚呼、

だめだ、覚が心を揺さぶられてどうする。

 

「それで、ここまで来たってのかい?

 残念だったなぁ、好きにさせてもったよ。

 見ものだったぜぇ~ 一突しだだけで、こう」

「そうでしょう、心の壊れる瞬間、

 とても楽しい。」

「はぁ?」

「心が死ぬ瞬間、身体のほうは生きているのに、

 それを心が拒む、それはもう、

  それは、」

 

······へどがでますね。

 

恐怖を、戦慄を、こんな薄汚いものを、

獲物を目の前にして‘覚’である自分が喜んでいるのが不快だった。

目の前の獲物達の目には確かにその感情が浮かんでいる。

その目を見つめる自分の瞳が嬉々とした感情を浮かべているのが見なくてもわかってしまう。

 

…この瞳が憎い。

 

「…さっきまでの威勢はどうしたぁ?こいつと同じように壊れちまったか?」

「いいえ、どうもこういった性分でしてね。

嗚呼、だけどこうなるとは思わなっかったなぁ

ねえ、お燐?」

そこにはこいしを抱えたお燐が立っていた。

「はい、さとり様ぶじにほごいたしました」

「なっ‼てめえいつの間に?」

「こう見えてもうちのお燐は化け猫じゃなく火車でね、死体を運ぶのは得意なのよ。

例えばそう、心の死んじゃったこの子とかね。」

私はこいしを抱き寄せる、

第三の目はもはや閉じており眠っているかのようだ。その瞼からは赤く血が滲んでいる。

服も体もボロボロで顔に傷がないのが不思議なほどだ。

・・・この子はいつ目覚めるのだろうか。

押し殺していた怒りが沸々と湧いてくる。

「やっぱり覚にろくなやつがいねえなぁ。身内がやられたってのに。

 その神経がしれねぇぜ。」

「…それはあなたの身の上に重ねてのことでじょうか?」

「…また始まったよ、だったらどうしたぁあああああ!!」

「別に、どうもしませんよ。

あなたの兄弟が死んでも殺した人間はとうに死んでいるでしょうし

無力なあなたにはどうすることもできないでしょう。」

「うぅうらぁああああああああああ」

恐怖と怒りでぐちゃぐちゃになった拳が飛んでくる。

しかしそれはお粗末なもので心が読めずとも避けることができるだろう。

とうに自分を見失っている。

「だからどうしたぁああ俺はぁあああ

「“人間よりも強い“ですか、確かにそうでしょう。

ですがそんなものトラウマの前では無意味です。

力を振りかざしてもトラウマを振り切ることはできません。

正面から立ち向かわないといつまでも、それこそ死ぬまで、

いや死んでもそれは纏わりついてきます。

…そして」

 

―それを喰らうのが覚です―

 

「ああそうだよ!気持ち悪いんだよ!その言葉も、その目も!

何もかも気味が悪い!」

「…私のこの瞳はあなたの心を映しているだけなんですけどね。

それはそうと、実は私たち姉妹の両親も殺されたんですよ。」

「ああそうだろうなあ、死んで当然だお前らみたいなやつ。」

「それでなんですけど、…死んだことってあります?」

「何寝ぼけたこと言ってんだ?」

「まあ無いですよね、

…私見たんですよ、両親が死ぬ瞬間の”心”を。」

「…それがどうした。」

「とても醜いものでしたよ死ぬ瞬間の心というのは。

とても激しい衝動のはずなのにどんどん暗く冷たくなっていくんです。

こいしはその光景を見て少々トラウマになってしまいましたが。

ところで、…死を想起させたらどうなると思います?」

地獄の底から響くように、暗く、暗く、温度さえ感じれぬよう

怒りと悲しみを塗りつぶして私は言い放つ。

「私はありますよ、

 といっても心だけですが。」

拳が、足が震えているのがわかる。

視線が揺れているのがわかる。

今、私に恐怖しているのがわかる。

「おい、やめろ, 俺にその目を向けるな、

 俺を見るんじゃねええええ!!」

 

―想起「テリブルスーニール」―

 

やはりあまり見たいものでは無い、

とてもうるさいくせに私にしか聞こえないのだ。

腹は満たされるが心はすり減っていく。

「・・・さとり様、」

「・・・・・・」

「…クゥ~(さとりさま、こいしさま。)」

 

「お燐、お空、雅、

まだまだ怨霊は、死体は増えるからお願いできる?」

…冷たく言ったつもりだったが自分でも声が震えるのがわかる。

「わかりました、いくらでも焼きましょう。ここはしゃくねつ地獄です。」

「さとり様、こいし様は、」

「・・・」

「雅とお空はこいしの介抱をお願いします。

 お燐は後始末の手伝いを、

 私は、」

足元の死体を蹴り飛ばす。

そして目をやる、

こいつに賛同し騒ぎを起こした愚かども達に。

放心するもの、こちらを睨みつけるもの、恐怖に震えるもの、

なんて汚いのだろう。

 

もうお腹いっぱいなんだけどなあ。

 

「さあ、あなたのトラウマを見せて?」

 

それでも私は喰らう、やけ喰いだ、

怒りを、悲しみを、恐怖を、トラウマを。

 

私は想起する

 

どこかへ行った私の心をすり減らして。

 

 

 

 

 


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