チーズハンバーグ   作:はなみつき

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まほメイン話

最終章の時系列がよくわかんないけど、まあそういうことで


カレーライスとおまけ

 

 あれからどれくらいが経っただろう。

 戦車道大会決勝戦の日からどれくらいが経っただろう。

 あの日の事を俺は昨日のように思い出せる一方で、あの日からもう何年も経ったような気さえする。

 まあ、実際のところは4カ月程という、つい最近というには経ちすぎているし昔というにはそれほど前の事ではない。そういう意味では昨日のような数年前のような、という曖昧な感覚は間違っていないのかもしれない。

 

 月は12月。

 黒森峰女学園での体験入学も終わり、本来俺が在学している学校での生活に戻っていた。有難いことに、黒高での生活が終わる日にはクラスメイトや戦車道チームのみんなに盛大に追いコンをしてもらったものだ。

 ……例の疑わしいビールには再び困らされたものだが……

 それはそれとして黒高での生活を終わらせた俺は熊本にある家に戻り、日常を過ごしているうちにあっという間に冬休みへと突入していた。

 

「冬休みなのは良いけど、寒いのは勘弁してほしいよな」

 

 こたつ布団を肩まで被り、寒さに震えながら俺はそう言った。

 去年の冬みたいにメタクソ雪が降っていると言う訳ではないが、冬の寒さは晴れの日だろうが耐えがたい。

 

「……無視は酷いんじゃないの?」

 

 別に俺は寂しさに耐えかねて独り言を言ったわけでも、柴さん達に語り掛けているわけではない。となりにいつも通りあいつが居るから話しかけた訳なんだが……

 

「寝てるし」

 

 テレビに向けていた視線を横に座っているエリカ(テレビの対面を陣取りやがった!)に向けてみると床で寝ている姿が見えた。口をだらしなく開けているくせに寝息も経てずにすやすやと眠っている。

 あ、寝返りをうって横向きになった。

 あ! バッ……ヤメロ! よだれがカーペットにッ! はぁ……ちょうど大掃除もあるから別にいいか……

 

 話し相手がおらず、急に暇になってしまった。

 外にいる柴さん達と遊ぶのも良いが、寒いから外に出たくない。それに、もうすぐお客さんが来るはずだ。ちなみにこのことはエリカは知らない。面白そうだから話さなかったというのもあるが、こっちの予定も確認せずに我が家を訪ねて来たエリカが悪いだろう。

 きっと驚くぞ。エリカの驚く姿がありありと思い浮かぶのが面白すぎて、想像と実際の答え合わせを早くしたいものだ。

 

「ん?」

 

 外にいる柴さん達が騒いでいる。

 どうやら件のお客さんが来たらしい。

 

「どっこいしょ……あーさぶっ」

 

 手を擦りながら玄関まで出迎えに行く。

 ドアを開けると柴さん達にまとわりつかれてなでなでに勤しんでいる西住まほ(ポチのお母さん)が居た。

 

「お久しぶりです、先輩」

「ん? ああ、久しぶりだなチズル」

 

 飼い主知り合いでしかなかったときはポチのお母さんと呼んでいたが、黒高で生徒をやっていた時は隊長さんと呼んでいた。しかし、今は戦車道チームの隊長を辞しているため、隊長という呼び名はおかしいので先輩と呼んでいる。いちいちポチのお母さんと呼ぶのは大変だしな。

 

「どうぞ、入ってください。ずっとそこに居るのは寒いでしょ」

「いやなに、二人のおかげでとてもあったかかったよ」

 

 先輩に目を向けられた此のさんと木のさんは何やらとてもやり切った顔をしている。

 なんだその顔は。自分たちが構ってほしかっただけだろうに。

 

「お邪魔します……他にも誰か来ているのか?」

 

 家で一人暮らしをしている俺の事を知っている先輩は玄関に出船で綺麗にそろえられた女物のブーツを見て聞いてきた。

 

「ええ、まあ。エリカがちょっと」

「都合が悪いなら出直そう」

「あ、あいつのことは気にしなくていいんで。ホントに。こっちの予定も確認せずに押しかけてきたのはあっちなんで。それに、先輩が来たらエリカも喜びますよ」

「そうか? 君たちは本当に仲が良いんだな」

「そうですね、友人から聞く幼馴染の話を聞く限り俺たちは仲が良いんでしょうね~」

 

 俺の友人達はよく俺とエリカの話を聞くと仲が良すぎてこわいと言ってくる。どうやら彼らの異性の幼馴染というのは小~中学あたりから疎遠になっていき、中には道端ですれ違っても挨拶すらしない奴もいるらしい。

 そういう話を聞くとやはり俺たちは仲が良いのだろう。

 

「ふむ、仲が良いのは良い事だ」

「まあ悪いよりは良いですよね」

 

 そんなことを言いながら靴をエリカのブーツの横に、これまた綺麗にそろえて脱ぐ先輩。流石は黒高の生徒、といったところだろうか? 

 

「そういえば、コレを冷蔵庫にしまいたいのだが」

「そうですね、キッチンはこっちです」

 

 先輩はなぜ俺の家を訪ねて来たのか。その理由はこれにある。

 俺と先輩は一人暮らしの師匠と弟子の関係にあったりする。師匠は俺で、先輩は弟子だ。先輩はドイツに留学して一人暮らしをしており、その中で色々アドバイスのやり取りをする間にいつの間にかそんな関係になっていた。そういえば、妹さんも一人暮らしをしているらしいが、そっちに色々と一人暮らしのアドバイスを聞けばよかったのではないだろう? やはり姉として色々あるのだろうか? 一人っ子にはわからない感覚だな。

 

 そして、冬休みに入り、帰省した先輩はこれまでのお礼ということで食事を作ってもらうこととなったのだ。

 初めてできた弟子的存在に料理を振る舞ってもらうということで結構楽しみだったりする。

 

「ここにお願いします」

「ありがとう」

 

 普段ハンバーグの材料ばかりが保管されている我が家の冷蔵庫にそれ以外の料理の食材がひとつずつ放り込まれていく。

 

 じゃがいも

 にんじん

 玉ねぎ

 にんにく

 しょうが

 ブロック状の牛肉

 

 ふむ、材料を見る限りだろ先輩が作ってくれる料理は『カレー』だろうか? 

 そういえば一番初めに先輩が相談を持ち掛けてきた時もカレーだった気がする。カレーが好きなんだろうか? 

 

「よし」

「さっき通り過ぎた部屋が居間になってて、そこにエリカも居ますんでゆっくりしててください。自分は飲み物をいれてから行きます。先輩はコーヒーか紅茶かオレンジジュースどれがいいですか?」

「ん? すまないな。それではコーヒーを頼む」

「了解です。こたつで暖まっててください」

 

 到着早々料理を作ることは無いだろう。

 それに今から作り始ると夜ご飯にするにはちと早すぎる。

 少しの間飲み物でも飲みながら留学先であった出来事を聞きたいものだ。

 

 居間に向かった先輩を尻目に俺は慣れた手つきでコーヒーと紅茶を注ぐ。今回はお客を待たせるわけにはいかないので簡単にインスタントだ。

 3人分のコーヒーを盆に載せて居間へ向かう。すると、何故か先輩はこたつの前で立ったままで居る。

 

「? どうかしましたか?」

「いやなに、エリカがあまりにも気持ちよさそうに寝ていたものでな」

 

 あー。

 そういえばエリカは寝てたんだった。しかもこの様子じゃうたた寝というレベルではなくガチ寝だろう。この状態に入ったエリカはちょっとやそっとじゃ起きない。

 

「はは……、こりゃしばらくは起きないですね。どうぞ、そちら座って下さい」

 

 先輩用のコーヒーを俺が座っていた対面に置き、先輩に座るように促す。

 

「ありがとう」

 

 寝ていることをすっかり忘れて注いでしまったエリカの分のコーヒーも一応彼女の位置に置く。

 最後に自分の紅茶を自分の前に置き、こたつに戻る。

 エリカがこたつの中で足を延ばして寝ているために俺と先輩は足を曲げざるを得ない。こいつ……後で覚えてろ。

 

 飲み物を飲んでひとまず落ち着いたことで、どちらからともなく近況報告を始めた。

 

「へー、ドイツってゴミの分別そんなに厳しいんですね」

「ああ、これが結構大変なんだ」

 

 ドイツでの日常。

 

「陸の学校の学祭か。暇が合えば行ってみたかったな」

「たぶん、黒高の文化祭の方が規模も大きくて面白いでしょうけどね~」

 

 俺の学校の話。

 

 etc、etc……

 

 ☆

 

 

 気付けばコップの中身は空になり、料理を作り始めるのにちょうどいい時間になろうとしていた。

 

「さて、そろそろ準備するか」

「そうですね、ちょうどいい時間かもしれません」

 

 立ち上がった先輩は持っていたカバンからエプロンを取り出し身に着ける。エプロンには『前進あるのみ』というアップリケ。

 なんというか、まさしく西住流って感じだ……

 

「しかし、エリカは本当に起きないな」

「こいつは昔から本気で寝ると基本的に何されても起きないんですよ。目覚ましの音には敏感に反応するのがせめてもの救いでしたね」

 

 ここまで俺たちは結構会話をしていた。寝ているエリカに気を遣うことはせず、そこそこの声量で会話をしていたのだが結局最後まで起きることは無かった。

 

「ふふ、エリカのこんな姿は初めて見たな」

 

 エリカは先輩の事をめちゃくちゃ尊敬していた。そんな先輩の前でエリカが緩んだ姿を見せるとは考えにくい。おそらく良い恰好しようと気張っていたんだろう。

 

「ははは、帰省の思い出にでもしてください」

「ああ、そうさせてもらおう」

 

 そう言って先輩はキッチンへと向かっていった。

 

 しばらくしないうちに焼いた肉や野菜の匂いが漂ってくる。そしてその匂いはいつの間にか濃厚なカレーの匂いへと変化していた。

 美味そうだ。

 

「んん……うん?」

 

 そんな美味そうな匂いにつられてか、どうやらエリカは目を覚ましたらしい。

 

「いい匂い……カレー、ね……チズルにしては珍しい……」

 

 身体を起こしたエリカだが、眼は閉じたままだし、床に寝てたことで若干髪の毛が跳ねている。

 そういえば、こいつが寝てる時はよく見るけど寝起きってあんまり見た覚えがないな。大抵は俺が料理を作り終える前に目を覚ましてすました顔で居るからな。これは先輩のおかげで俺も珍しい体験をさせてもらったようだ。

 

「よう、起きたか」

「……うん? あれ? なんでチズルが?」

 

 どうやら寝ぼけている様子。頭の中で情報をまとめられていないのだろう。

 

「そりゃ今キッチンに立ってるのは俺じゃないからな」

「? おばさんが帰ってきてるの?」

 

 なるほど、エリカは今キッチンに立っている人物を俺の母親だと推測したらしい。確かに、その発想は悪くないが、残念ながら不正解だ。

 カレーの匂いがしだしてから大分時間が経った。おそらく煮込む時間を終わらせてそろそろ先輩が持って来てくれる。

 

「おや、起きたかエリカ」

「? え? えっ!? た、隊長!?」

「今の隊長はエリカだろ」

「え! あ……はい」

 

 お、エリカは先輩の存在を認識した瞬間に一気に目が覚めたようだな。

 

「ちょ、ちょっとこれどういうことよ!」

「今日先輩が家に来る予定だったんだよ」

「なんで言わなかったのよ!」

「いう前に寝たんだろ」

 

 寝る前に言わなかったのは俺だが。

 

「うっ……た、隊長に寝顔を見られた……」

 

 よだれを垂らした寝顔だったということは言わないでおいてやるか。

 

「起きた直後だが、エリカも食べられるか? 少し量を減らすか?」

「い、いえ! 大丈夫です! 隊長がお作りになった料理を残すはずがありません!」

「エリカ」

「あ……つい……」

 

 どうやらエリカの体に染みついた習慣は中々抜けないようだな。

 

「さて、エリカも目が覚めたみたいだし、先輩のカレーを頂こうぜ」

「ああ、是非感想を聞かせてほしい」

「……ゴクリ……」

 

 エリカが唾を飲み込む音が聞こえてくる。どんだけ嬉しいんだ。

 ま、そんなことは置いておいて、

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、エリカは朝の3時まで俺に対して今日の出来事についてメールで思いを送り続けて来た。

 

 だから昼寝は程々にしろと……ッ!! 

 寝られなくなってんじゃねーよ。

 

 俺は途中で寝た。

 

 

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