二〇六二年。
少年少女魔法師交流会が行われていた会場に大漢の兵隊が浸入し、多くの者が傷を負い、中には死亡した者までいた。しかし、彼らの目的はそんなことでなくある一族の娘だった。
運が悪いことに彼女の親は近くに居らず、いくら魔法が使えると言ってもまだ子供であった彼女は抵抗むなしく捕まって眠らされてしまった。
「ここは?」
真夜は周りを見渡そうとした時、両手両足が繋がれていることに気づいた。そして、手足が動かないという事に底知れない恐怖を感じる。
真夜は十師族の家系ということもあり、聡明だった。しかし、そのせいでこれからの状況を把握できてしまったのは彼女にとって最悪でもあった。
「いや、いや、いや、離して」
泣き叫びながら逃げようともがく。このままだと取り返しのつかない事になる気がする。真夜はもはや直感の域でそれを理解していた。手首と足首にそれぞれ繋がれている鎖は鉄のようなもので出来ている事もあり、膂力だけでは動きもしなかった。
せめて、魔法だけでも使えていたのならこの程度で真夜も焦りはしなかっただろう。だが魔法を阻害する物質が鎖に使われているのか、真夜は魔法を使う事ができなかった。
しばらくもがいたが、一向に動ける気配はなく、動けないでバタつく幼い少女を見ながら周りの大人達はニヤケていた。
そして、下劣な目をしていた大人の一人が真夜の服に手を伸ばす。
「やめて、触らないで‼︎」
抵抗はなんの効果も発揮せず、衣服は破り捨てられ下着のみになってしまった。
真夜はまだ子供で、未成熟な身体をしていたのが更にこの男達の何かを刺激した。
ハサミをどこからか取り出し、最後の砦をおとす。
「ううっっ」
声にならない声で抵抗を続けるが真夜本人もわかっていた。
(私はもう……こんな最低な奴等に)
真夜の身体が触られようとした時にやっと周りの大人達は異変に気付いた。
寒すぎることに。
ここは研究所の地下であるからそれなりに温度は低いがそれでも十八度ほどである。
だが、今は十度を下回っているほどに感じる。
そして、この部屋に誰かが近づいてきているのを真夜以外は気付いた。別に足音が聞こえたというわけではない。扉は研究所というに相応しい遮音性を有している。では何故、彼らは近づいていると分かったのか。
圧迫感だ。体が押しつぶされていく圧迫感が徐々に迫ってきている事から真夜以外が第六感によって理解していた。
徐々に迫ってくるにつれて、更に寒くなっていくことにも気がつく。これは本当に寒くなっているのか、それとも恐怖によってそう感じてしまっているのかどうかは彼らにはもう分からなかった。
足音は扉のすぐ前であろう所で聞こえなくなった。
その直後、扉は吹き飛びそれを行なったであろう人物の正体が目にうつる。
少年だった。誘拐した少女と変わらないほどの年齢の。大人達はそれを見て安堵して、そのまま二度と動くことはなかった。
「大丈夫?」
真夜は下着をとられてからパニック状態に陥っていた。研究所の職員が何かに怯えているのが分からないくらいには。
いつまでたってもこない痛みとなんだか優しい声に流されて、恐る恐る目を開けると穏やかそうな少年がそこに立っていた。
そして、真夜は理解した。
(私、助かったんだ)
安堵したからか今まで堪えてきたものが一気に込み上げてきて自然と真夜の目から涙が溢れてきた。
そんな彼女を優しく彼は抱きとめて泣き止むまで、そのままの状態で優しく頭を撫でた。
◇
大分落ち着いてきた真夜は謎の少年に尋ねた。
「助けてくれてありがとう。あなたは一体、何者?」
「僕の名前はシュウ。……訳あって、旅をしていたんだけどちょうど君がここに担がれていくのが見えたんだ。周りの人間のタダならない感じから拉致されたって思って、助けに来たんだ。違ったかな?」
「ううん、あってる。ありがとう。私は、四葉 真夜。……本当に助けてくれてありがとう。あのままだったら私……」
何度も感謝の言葉を真夜は目の前のシュウに伝えた。その事から彼女がどれほど怖がっていたのかがうかがえる。
「当たり前のことをしただけだよ。これ」
シュウは自分の上着を脱いで真夜に渡した。
「ーー?」
真夜は上着を渡されたが、なんで渡されたのかが分からなかった。
「服」
その言葉を聞いて真夜は目線を自分の体にもっていった。
すっぽんぽん。
それが真夜の現状を説明するのに適切な言葉だろう。真夜はここではじめて自分が裸なのに気付いた。
◇
「シュウのエッチ」
そんな理不尽すぎる言葉を聞きながら二人は外へと向かっていた。裸を見てしまったせいなのか、真夜もシュウもお互いに対して遠慮がなくなった。
「それで真夜ってどうして捕まったの?」
シュウはこの施設の出口に向かっている最中にその疑問を真夜に聞いた。真夜が捕まっている場所に向かう途中で粗方敵兵を殺してきたが、見逃しがあるかもしれないので慎重に歩きながら。
「私の家が四葉家っていう日本の十師族に位置してるからだと思う」
「良く分かんないんだけど、結構良いとこの家って捉えて良い?」
「うん」
「そうか……」
シュウは世間に詳しくないためなんとも四葉家や十師族とかいう言葉を知らない。しかし良いところに生まれたという理由でこんな事になるのは間違っている。これだけは確信できた。誰もが意図してその家に生まれるわけではない。
二人がそんな話をしていたら、いつのまにか外がすぐ目の前だった。異変を察知して増援が外にいないかを警戒しながら外に出たが、シュウが索敵できた範囲には敵はいなかった。
一刻も早く、離れたいという風な真夜の顔の後押しもあり、二人はとにかく目的も決めずに遠くまで走った。
かれこれ二十分ほど走り、真夜の息が荒くなってきたので一旦休憩を取る事にして、シュウは来た方向を振り返った。
すでに研究所はかなり遠くになってしまっているが、シュウの目には研究所の近くに集まる、仲間であろう大人達がたくさん集まっているのが見えた。防犯対策としての何かが別の場所になったのかも知れない、とシュウは推測したがちょうど良かった。
「真夜、僕はこれからあそこを破壊しようと思ってるんだけど、いいかな?」
非人道的な施設を壊すのにシュウは躊躇などしなかった。こんなものは世界にあってはいけない、と心の底からシュウは思う。それを行なっている人間も同様に。
「ええ。お願い」
「そうか。じゃあ僕のとっておきで…… 綴る」
そう言うやいなや、シュウは空中に文字を詠唱しながら書き始めた。
「終わらせる者よ 氷狼よ そなたの息吹を貸しておくれ 死よりも静けく凍えさせておくれ 盛者必衰は世の摂理 神の定め給うた不可避の宿業 ………………我は望む 白一色の景色を 我は望む 美しき死の世界を 我は望む 醜き万物が埋もれ 閉ざされる世界を 我は望む 全てよ停まれ 停まれ 停まれ」
詠唱し終えた直後、シュウの真上から冷気をこれでもかと帯びた竜が現れ、研究所に突進していった。
そして、ぶつかった直後そこから辺り一面はものすごい早さで凍結していきものの数秒で辺り一面を銀世界へと変えていった。かなり遠くにいた二人だったが、二人の目の前まで凍り付いていた。
「これは!? シュウって本当に何者?」
明らかに人間業ではない所業に真夜は声が裏返りながらも問いを発する。
「……ただの一般人だよ」
真夜を見ながらはぐらかす様にシュウは微笑んだ。
「さっきの施設の周りには人が集まっていたのが見えた。ということは多分だけどこの辺にはまだこんな人道に反してる研究所が他にもあると思うんだ。僕はそれを潰して回ろうかと思ってるんだけど、真夜はどうする?」
「私も貴方について行く。私をこんな目に合わせた奴らの最後を見ていたいし、なにより貴方ともう少し一緒にいたいから」
「じゃあ、行こうか」
後に、大漢の研究所を銀世界へと変えた魔法は戦略級魔法として認められこう名付けられた。
「
知っている方は読んだだけで、ピンときたかもしれませんね。
「思い……だした‼︎」さんの技です笑