「シュウ君は大丈夫でしょうか?」
シュウは今日学校を休んでいた。いつもなら、家の前で待ってくれているシュウだが今日は居らず、達也は穂波に確認したところ風邪を引いたとの事だった。
「おそらくだが、シュウは風邪なんかひいてない」
「え?」
深雪は二つのことに驚き、つい声を出してしまった。
シュウが風邪をひいたとばかり思っていた深雪はそうではないなど考えもしなかったということと、姉のように慕っている穂波が自分たちに嘘をついたという事実に対してだった。
「シュウがいないからはっきり言うが、彼奴の身体性能は同じ人間とは思えない。そんなシュウが風邪なんて引くとは思えないな。疲労が溜まっていたりしたら話は別だろうが、昨日も元気だった事からして風邪というのは嘘だ」
「では何故、穂波さんは俺たちに嘘をついたのか。穂波さんは性格的に意味のない嘘を吐くタイプではない。逆を言うと意味のある嘘なら言うかもしれないという事だ」
深雪は穂波に対して疑いを持ってしまったことを恥じた。それに気づいた達也は深雪の頭を撫でる。
「だから結論を言うと、俺たちに言えない何かがある。それもシュウに関わりのある事だ」
深雪は達也の言っていることをゆっくりと理解していく。そして、同じ事を聞かされていたのに自分とはまったく違うところに気づいていた達也に尊敬の目を向けた。
「流石です、お兄様‼︎」
◇
そんな事を話していたら、達也たちは生徒会室に到着していた。
いつも通りの昼食だったが、真由美に電話がきた事によりそれはいつも通りではなくなった。
「え‼︎ 本当ですか? ええ、はい。分かりました。はい、失礼します」
「……真由美、何かあったのか?」
考え事をしている真由美に摩利は真剣な声音で問いかける。
「昨日、一高に情報操作をしているらしい存在について話したじゃない?」
達也は、その者の背後に存在している組織の例として反魔法組織ブランシュの名前を挙げた。これは、当てずっぽうで言ったわけではない。実際に自らを攻撃してきた連中のリストバンドがブランシュの下部組織、エガリテが身につけているものと一致していたからだ。
「それでね……」
真由美は意を決したように口を開いた。
「昨日、四葉家が反魔法組織ブランシュを殲滅したと情報が入ったの」
達也と深雪は思わぬタイミングで四葉の名前が出た事から顔に出そうになったが、なんとかポーカフェイスを保った。
「それだけだったら良かったんだけど、殲滅した際に内部資料を入手したみたいでね。そこに第一高校の生徒の名前が載っていたらしいの」
この言葉には、達也と真由美以外の全員の顔が驚きに変わる。
「ま、待て。だったらその生徒はもう……」
摩利は、言葉を濁したがその後のセリフは皆分かっていた。
「死んでいるのではないか?」
四葉は敵には容赦しない、というのは大漢の事件により一般常識となっている。だから、殲滅という言葉と死亡がイコールで繋がっていた。
「そこの場所には一高の生徒は誰もいなかったらしいからそれは心配いらないわ。そもそも、誰も亡くなっていないらしいからもし居たとしても大丈夫よ」
あからさまにホッとしたような顔をしたのは話していた摩利だけではなかった。
そして、達也と深雪はこれを行なったのが誰なのか薄々分かってきていた。四葉のやり方を彼らはよく知っている。反魔法組織という連中にわざわざ手加減する理由はないので、殺害というのが一番楽な方法であるがそれをしていない。
ーー四葉らしくないやり方だ。
しかし、真由美には四葉がやったと連絡が来ている。ここで嘘をつく理由はないので、本当に四葉がやったのだろう。
四葉らしくないが四葉の人間。
達也には一人の人間しか思いつかなかった。
ーーシュウか。
シュウがやったというなら、今日休んでいる理由も分かる。負傷をしたからという理由が最もベターだが、そういうわけではないだろう、と達也は思った。なにせ、達也は穂波がいつもと変わらない様子だったのを見ているからだ。
穂波とシュウは仲が良いというのは達也でも分かる。そんな穂波に何ら心配しているような気配がなかった事から怪我の類はしていないのだろう。
なら、何故休んでいるのか。深夜の活動だったから疲れて寝ているなどの理由だろうと達也はあたりをつけ、一人納得した。
「それで、これからその生徒達に事情を聴きに行きます。リーダーの男は催眠魔法を有していたらしいので一高の生徒もかけられていて、無理矢理加入させられていたとも考えられるますし、そもそも加入した組織がエガリテだと知らない人達もいるかもしれません」
真由美はそう言い終わると、それぞれに指示を出し始め事態の収束に向けて動き始めた。
◇
場所は変わって、シュウの自宅。
達也の予想通り、シュウは自室で眠っていた。当初シュウはいつも通り学校へ行く予定であったのだが、うっかり穂波に催眠をかけられた事を言ってしまった。
シュウはすぐに催眠は解いたと説明したが、他にも魔法を受けたのではないかと穂波に疑われ、シュウの身体をペタペタと触り始め異常がないか調べられた。
シュウの言った通り、傷一つ無かったが念のため今日は休んでなさいと強めの口調で穂波に言われたので学校を休むことにしたのだ。
ベッドで休んでいたシュウは手持ち無沙汰になり、深夜の活動が響いたのかいつのまにか眠りへと落ちた。
そんなぐっすり眠っているシュウの部屋に音を立てないように穂波は入った。
昨日、取り逃がした敵の確保のために同行を断られたがそれが本当の理由でない事を穂波は分かっていた。
ーー私を危険な目に合わせないため。
どんなに穂波が強かったとしてもシュウはきっと同行を断った事だろう。
その事に穂波は嬉しく思った。
自分の事を大切に思うからこそ、同行を断るという発想に至ったから。
ーー私はそんな彼の事が……。
穂波は寝ているシュウの頰に唇を落とした。