「この料理美味しいなぁ。タッパー持ってくればよかったかも」
「シュウさん、流石にタッパーはマズイんじゃないですかね」
「バレなければ大丈夫だと思うよ、ほのか」
「恥ずかしいからやめてくれ、本当に」
俺たち一高生は、九校戦が行われる会場の近くのホテルに来ていた。
九校戦自体は明日からだが、その前に顔合わせをしなければいけないらしくこうして懇親会なるものが行われていた。
格式高い家や生徒会の人達は忙しそうに挨拶をしていたが、俺たちの様な一般学生はそんな事する必要もなく同校同士で食事をしていた。
「これ、持ち帰りができないか後で聞こうかな」
「出来ないわよ、そんな事」
独り言のつもりで呟いたが、後ろから聞き馴染んだ声で否定された。
「あれ? エリカ、どうしてここにいるんだ?」
「んー、まぁちょっとね」
口籠るということは聞かれたくない事なのだろう。その事には言及せずに別の話題に移した。
「ここに来るまでに大きい事故にあったんだけど、エリカは知ってる?」
「ああ、達也君からさらっと聞いたわ。シュウ君達も運が悪かったわね」
「いや、あれは運が悪いというか……」
俺たちを狙ったものだった様な気がする。横から車が突っ込んでくるならまだ分かるが、上から車が落ちてくるのは不自然すぎる。
まぁ、確証もないのでエリカには適当に返事をした。それからエリカと他愛もない話をしていたら、会場にアナウンスが入った。
魔法理事の九島 烈という人から話があるようだ。
俺もエリカも壇上に目を向けた。
「っっ!」
深夜さんが立っていた。
ありえないタイミングでありえない人の登場に声をあげなかった俺を褒めて欲しい。横目で深雪と達也を見て見るが、彼等も驚いているようだ。
多くの人達は深夜さんの事を知らないが名家の家柄の生まれ、師補十八家の人達は四葉の先代当主である深夜さんの事を知っているらしく顔を強張らせていた。
しかし、九島という人は何処にいるのだろう。
壇上には深夜さんがいるだ、け……。
(いや、誰かいる)
通力で目と耳を強化しても何も見えないし聞こえないが、何かいるような気がする。
俺は目を閉じて、気配を探ってみる。
深夜さんの背後に何かいる。
五感では上手く捉えることが出来なかったが、通力を薄く伸ばして会場全体に行き渡らせてみると確かに誰かがそこに居るのを感じ取ることが出来た。
(魔法か?)
これは一番近くにいる深夜さんですら気がついていないかもしれない。敵だと深夜さんが危ないので、飛び出そうかと思ったが深夜さんがこちらを見てウィンクをしてきたので大丈夫なのだろう。一旦深呼吸をして落ち着いた。
臨戦態勢を解いて、隣のエリカを見る。何かのトラブルだと思っているらしくキョロキョロと周りを見ているだけだった。
数秒たったら会場に電気がつき、深夜さんが裏手へと歩いていく。
深夜さんが舞台袖へと歩いていっている最中に深夜さんがいた場所に目を向けると、一人の老人が立っていた。あの人が九島なる人物なのだろう。
「まずは悪ふざけをした事を謝罪しよう。今のは魔法というより手品の様なものだ。だが、手品のタネに気づいたのは私が見たところ五、いや六人だけだった。つまり、私がテロリストだとしたら止めに動けたのは六人だけだと言う事だ」
「魔法を学ぶ若人諸君。魔法とは手段であって、それが目的では無い。魔法師は魔法力を向上させる事を決して怠ってはいけない。だがそれだけでは不十分だ。使い方を誤った大魔法は、使い方を工夫した小魔法に劣るのだ。魔法を学ぶ若人諸君、私は諸君の工夫を楽しみにしている」
この人が九島 烈。流石という感想しか出てこなかった。
俺は自然と拍手をしていた。他の人達もつられるように拍手が起こり会場に広がった。
◇
もう起きている人物もいないだろう遅い時間に、俺は深夜さんに呼び出された。こっちから連絡を取ろうと思っていた時にメッセージが届いていたのでちょうど良かった。俺たちが泊まっているホテルの最上階に部屋を取っているらしく、そこに今から来て欲しいという旨が書かれていた。
部屋の前に着き、ノックをする。
「入っていいわよ」
ロックが解除される音がすると同時に、深夜さんの声も聞こえた。
流石に俺たちが泊まっている部屋とはレベルが違うらしく、かなり良い作りだった。
「シュウ」
部屋の中に誰がいるのか確認しようとしたら、彼女が飛び込んで来た。
「真夜⁈ 真夜も来てたの?」
なんとか抱き止め、身体にすごい感触を感じながらもそれを気にしないで疑問を投げかける。
「えぇ、当たり前じゃない。シュウが九校戦に出るんだから、見にこないわけないじゃない!」
「なんか嬉しいような、恥ずかしいような」
部屋の中を改めて見渡すと、真夜の他に穂波さんと深夜さんがいた。
「穂波さんも来てたんですね」
「はい、シュウ君の監視役ですから」
なんとなく穂波さんが来るのは予想通りだったのでそこまで驚きはしなかった。しかし、意外なのはもう一人だ。
「深夜さんも見に来るなんて意外ですね。……もしかして深雪が、それと達也もエンジニアとして出るからですか?」
「ち、違います。私は真夜の付き添いで来ただけです」
深夜さんは、あの二人のことになると途端に分かりやすくなる。
それに突っ込もうとした時に俺は気がついた。
「そこに誰かいますよね。おそらく、九島さん」
懐から拳銃型CADを出し、深夜さんの横にある椅子に向ける。
「ほっほ、やはり君は気づいていたか。知覚系魔法を使った様ではなかった。何故わかったのか、聞いても良いかね」
「……企業秘密」
真夜と穂波さんは突然現れた、九島さんに驚いている。
わざわざ、自分の手の内を晒す必要がない。それも十師族であるなら尚更だ。付け加えて、
「美人が三人もいる部屋で、姿を隠していたエロジジイになんて教えませんよ」
擬似透明人間になっていたヤバい人に教えたくもない。懇親会で感じた、あの凄い人オーラはなんだったのだろうか。俺の中で九島さんの株はだだ下がりだ。
「ふっ、本当に面白い子だ。君の九校戦での活躍を楽しみにしている」
九島さんはそう言ったら、部屋から出て行ってしまった。
「何なんですか、あのエロジジイは。自分が偉いならエロいことしていいと思ってるんですかね。というかやっぱり、深夜さんは気づいていたんですね」
「えぇ、私が部屋に入れたんですもの。それに私には精神干渉系の魔法は効かないわ。初めからはっきり見えていたわ」
「……九島さんに、俺と四葉との関わりが知られちゃいましたけどいいんですか?」
「九島先生には四葉が貴方に恩があるとしかいってないから平気よ」
あまり知られたくなかったのだが、真夜と深夜さんはあの人に恩があるらしく少しだけ話してしまったらしい。まぁ四葉と関わりがあると知られて困るということではないので、構わないのだが。
深夜さんはおもむろに指をある方向に向けた。
そこには二人がいるだけなんだけど、どうかしたのだろうか。真夜と穂波さんを見てみる。
顔を真っ赤にしていた。
そうか……。
「そんなに顔を真っ赤にする程、九島さんの事を怒っているんですね」
真夜には男の人にトラウマとまではいかないが、あの出来事により良い印象を持っていない。
それなのに透明人間という女性の天敵になりやがって、あの野郎……。
「あのエロ隈ジジイ、今度会ったら一発ぶん殴ってやる」
深夜さんは、何故か深いため息を一つ吐いた。