更新しない方が上がるという謎現象に恐怖しながらも、とても嬉しいです。
目指せ1位‼︎
いよいよ、九校戦が始まったのだが、俺はあまり試合を観れていなかった。
なぜなら、久しぶりに会えて喜んでいる真夜が離してくれなかったのだ。俺も話しているだけで楽しいですという雰囲気を醸し出している真夜を置いて、何処かに行くという事もしたくなったので今日一日は一緒に観戦というなのお茶会をする事にした。
学校での日常を話したりしているとあっという間に一日経ってしまい、結局九校戦一日目は会長のスピード・シューティングをちらっと見るだけしかできなかった。
真夜と話しているのは楽しかったので観れなかったのを後悔しているわけではない。だが、一高生としてどうなんだろうとは思ったが。
明日からしっかり観ると誓い、一日目は眠りについた。
甘えてくる真夜をなんとか宥めて、俺は会長のクラウド・ボールの試合を観戦しに来ていた。
「あれ、シュウ君?」
達也以外のいつものメンバーが集まってこちらに寄って来た。
「昨日はどこ行ってたんだよ。一緒に観戦しようと思って探してたんだぜ」
「ゴメン、昨日はちょっと用事があってね」
深雪はご苦労様ですという意味を込めた礼をしてきた。それに軽く笑って大した事じゃないと否定した。
「達也はどうしたんだ? まだエンジニアの仕事は無かったはずじゃ」
「達也君はあそこよ」
エリカが指差したのは競技エリア。指を追ってみると、達也は会長のストレッチを手伝っていた。
「良い雰囲気だね」
目の下にホクロがある男子生徒がそう溢した。
(お、お前ー‼︎ なんて事言っちゃってんの、おい‼︎)
いきなり深雪を刺激する様な事を言ってきたことに若干の怒りを感じながら、深雪のフォローに入った。
「そんな事ないって、達也は嫌そうな顔してるし」
深雪の雰囲気一先ず落ち付きを見せる。
「何々、達也君に嫉妬してるの?」
ニヤニヤした顔でエリカは言ってきた。
周りの視線が何やら色々な期待を込めたモノに変わったのを感じる。
「シュウって会長みたいな人が好みなんだな」
「応援してます!」
「いやいや、違うからな」
「そうですよシュウさん、浮気は不味いですよ……」
深雪は、安心したのかポロっと口に出してしまった。
深雪は口に出した後にしまったと言った様な顔をして、口を隠す様に手で隠した。
「え⁈ シュウさんって誰かと付き合っているんですか?」
「え! 誰々? 気になるんだけど」
「誰とも付き合ってないよ」
本当に俺は誰とも付き合ったりはしていない。深雪は俺と真夜、もしくは俺と穂波さんの関係の事を言ったのかもしれないが、どちらにしても俺はまだそういう風な関係にはなっていない。
しかし、深雪の目からはそうは見えていなかったらしい。
深雪の反応的に、事実を言っていると勘違いしたエリカ達は根掘り葉掘り聞いてきて、結局また俺は試合をゆっくり見れなかった。
◇
新人戦が始まってもいないのに謎の精神的な疲労がある九校戦三日目。
渡辺先輩の応援をするために競技会場に来ていた。昨日はあの後、エリカ達といると疲れそうだったので一高本部から中継を通してしか観ていた。だから、これが初めてしっかりと観戦する競技になりそうだ。
バトル・ボード準決勝。流石に今までのように余裕綽々といった様子ではない。なぜなら、同じグループに難敵がいるそうなのだ。このことは、隣に座っている九校戦大好きな北山さんが教えてくれた。
そして、遂に競技が始まった。
バトル・ボードに詳しくない俺でもわかる程、かなり高レベルな勝負になっていた。九校の選手はお世辞にも速いとは言えず、みるみるうちに離されていき渡辺先輩と七校の選手の戦いになっている。
今のところ、リードしているのは渡辺先輩だが二人にはそれほどの差がないように見える。どちらが勝つにしても名勝負になること間違いなしな試合だったので、俺は固唾を飲んで観ていた。
ここで、初めてのカーブがやってくる。ここを上手く滑れるかで試合に大きく影響を及ぼすかもしれない。
渡辺先輩がトップにいるので、当然先に曲がることになる。ここで上手く滑れれば、七校の選手に差をつけることができる。
「頑張れ」
あまりの熱い試合に遂声が出てしまったが、誰も気づいてはいなかった。皆、この試合に魅せられているのだろう。
渡辺先輩がカーブの途中までやって来たときにそれは、起こってしまった。
「オーバースピード‼︎」
エリカがそれを目にして、そう口に出した。
カーブを曲がるには少し減速しなければ、上手く曲がることができないにも関わらず七校の選手は寧ろ加速している。
このままでは、危ない。
そう思ったのは、俺だけではなく競技中の渡辺先輩も同じだったらしい。吹っ飛ばされて来た七校の選手を受け止めようと、渡辺先輩は構えた。
三巨頭と言われるだけあり、魔法の行使スピードは早かった。ぶつかる直前に発動を完了していて、後は受け止めるだけだった。
だが、ここで渡辺先輩が態勢を崩してしまった。
受け止めるのに集中しすぎた所為なのか、俺には分からないが態勢を崩してしまいこのままだと先輩諸共吹き飛んでしまう。
不味いと思う前に、俺は足を動かしていた。
普通の人なら間に合わなくても俺なら受け止める事ができるかもしれない。そう思い、体に通力を漲らせ神速通を使った。
使って動き出した瞬間に俺は悟ってしまった。
(これじゃ間に合わない‼︎)
数百メートルの距離を神速通で一瞬で移動するのは今の俺には無理だった。
(不味い、不味い、不味い‼︎)
俺の目には先輩と七校の選手がボードから離れ、水中の上を吹き飛んでいるのが見えた。進行方向には壁がある。
どうにかしないと、と思う前に俺は懐からCADを取り出していた。九校戦に向けての練習で散々使ってきたので、パニックになった頭とは別に体は最適な行動を取ろうとしてくれていた。
発動する魔法は自己加速術式。
魔法を習得している過程で気づいた事だったのだが、魔法と光技、闇術は互いに作用する事ができる。例えば、炎の闇術に分子加速の魔法を使うということが出来るのだ。しかし、それなりにリスクはある。
なんといっても加減ができないのだ。
どちらか一方だけでもとんでもない威力が出るのにそれを組み合わせるのだから、当然と言えば当然なのだろう。
その甲斐あって、神速通と自己加速術式を使用した俺は一瞬で先輩達のぶつかるであろう壁に先に到着する事ができた。
壁を、一瞬だけ出したサラティガで破壊してサラティガはすぐに消した。
壁はなくなったがこのままだと地面に叩きつけられてしまうので、二人と同じ方向に進みながら、ゆっくりと抱きとめた。
二人とも意識を失っているが、体にはそれほど目立った怪我はないように見える。
渡辺先輩は七校選手とぶつかった時に怪我をしたかもしれないが、幸いにもそれだけで済んでいるようだった。
俺は、なんとかなった事に一安心してその場に座り込んだのだった。
◇
渡辺先輩と七校の選手は医務室に運ばれる事になったが、俺の見立て通り怪我はないそうだった。
俺の移動手段について、色々と聞きたがっていた周りの人達だが会長が上手く説得してくれて面倒な事にはならなかった。
そそくさとその場から離れようとした俺の耳に会長が、
「摩利の事、助けてくれてありがとね」
と囁いた。
このまま、競技を観るのは億劫だと思い自分の部屋があるホテルへと向かった。
「シュウ‼︎」
部屋に入ろうと思い、ドアノブを触った時に声を掛けられた。
「真夜、どうしたの?」
「怪我は大丈夫なの?」
「あぁ、大した事じゃないらしいよ。夕方には眼を覚ますらしいって医者は言ってた」
医者の診断結果をそのまま真夜に伝えたのだが、真夜は相変わらず心配したままの表情だった。
「違うわよ‼︎ 貴方の左腕がよ。折れてるんでしょ」
俺は思ってもみなかったことを言われ、表情を変えた。
あの時、神速通と自己加速術式で速さを極限まで上げたのは良かったが、止まる事ができなかった。だから、俺は止まらなかったのだ。
左腕から壁に激突するような形で突っ込み無理矢理止まるという荒業を使った。その所為で、左腕は痛いという痛覚すら無い。
まぁ、止まる事が出来ないのを承知で使ったのだから自業自得だ。
ここまで表情には微塵も出していないつもりだったのだが、何故か真夜にはバレてしまったらしい。真夜にはあの速さの出来事など見えているわけもないのに。
「達也さんに治してもらいに行きましょう‼︎」
「大丈夫だよ。これくらいなら直ぐに治る」
これは、本当だ。光技の一つ、内活痛という技で肉体の治癒力を高めることで骨折なら数日で治す事ができる。
それに、達也に治してもらうという事は達也に苦しみを与えるという事と同義なので、あまり俺はして欲しくは無い。
「でも……」
「ありがとう、俺の心配をしてくれて。でも、大丈夫だから」
真夜の頭を撫でながら、安心させるように言った。
真夜はまだ、何か言いたそうだったがこれ以上言っても意味がないという事をこれまでの暮らしで知っているからなのか何も言ってこなかった。
「ところで、何で俺が怪我してるって分かったの?」
「え? そんなの顔を見れば分かるわよ。シュウの事は何でも分かるわ‼︎」
その後、穂波さんも俺が怪我をしているのに気づいてたらしく、部屋に押しかけてきた。
女の人はすごいなぁと思った一日だった。