魔法科高校の救世主   作:ノット

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殆どの話を一人称で書いていた本作ですが、そろそろ描写などがキツくなってきたので三人称視点も混ぜていくことにしました。



本番

 九校戦、五日目。

 

 午前中に女子アイス・ピラーズ・ブレイクの予選があり深雪や雫の圧倒的な魔法力を観た達也一行は予選を落とすことはないと判断してクラウド・ボールに出場する、シュウの事を観に来ていた。

 達也は深雪の試合を観てから行くつもりだったのだが、深雪本人がシュウの競技を優先してほしいということによりこちらに来ていた。

 

「意外に観客が多いわね」

 エリカはクラウド・ボールの会場について早々にそんな事を言った。アイス・ピラーズ・ブレイクに容姿が整っている深雪が出場しているということもありこちらにはそんなに人がいない、とエリカは思っていた。

「シュウは深雪より実技の成績は良いからな。期待されているってことなんじゃないか?」

 

「それだけじゃなさそう、だぜ」

 レオは観客席の前の方に座っている一高女子の生徒たちをみて答えた。

 彼女たちはベンチに座って梓とCADの最終確認をしているシュウをみて何やら盛り上がっている。

 ちなみに盛り上がっているのは彼女たちだけではなく、VIP席にいる二人もだった。

 

「シュウ君の女子の人気凄くない?」

 エリカは少し含みがあるような言い方をした。

 

「応援がいないよりは良いだろ? それよりもう始まるみたいだぞ」

 達也が言った通り、シュウと相手の選手はコートに立って向かい合っていた。

 

「シュウ君ってどんな系統が得意なの? ってか魔法使ってるの見たことないんだけど」

 

「シュウさんはどの系統の魔法でも高水準で使うことが出来ます‼︎ なので、逆に得意系統はないって言ってましたよ‼︎」

 

「だからこそ、この試合はどんな魔法を使ってくるのか楽しみです‼︎」

 

「なんだか余裕ね、ほのか」

 

「はい! だってシュウさんが負けるなんてことはありえませんから」

 

 どういうこと、とエリカが聞き返す前に試合は始まってしまった。

 

 ◇

 

 

 ボールはまず相手の選手にうち出された。相手選手は加速系魔法を使用してボールをシュウのコートに向かって打った。

 

 シュウが持っているのは右手に携帯端末型CADだけ。

 それなりの速さのボールがシュウのコートに向かっていくが、慌てずにボールに向かって魔法を発動させた。

 

 ボールは向かって来た速度とまったく同じ速さで相手コートに向かっていく。相手は魔法を発動してボールを打ち返そうとしたが、魔法は発動することはなかった。

 

「え?」

 何の変哲のないボールだったのに魔法を失敗してしまった、相手選手は少し動揺したが単純に自らのミスと判断したのか、転がったボールに魔法をかけ直そうとして、またもや失敗した。

 

 

「どういうこと?」

 観客席にいるエリカは魔法を発動できないでいる選手を見て疑問に思い、隣にいる達也に聞いた。

 達也は顎に手を当てて、考え始める。

 

 今度はシュウのコートに追加のボールが打ちだされ、それを先程と同じようにそこそこの速さで相手に打った。

 またもや、相手選手の魔法が発動することはなかった。

 

「成る程……」

 

「一人で納得してないで、教えてよ達也君‼︎」

 

「あれは、相手選手が魔法をミスしているわけではない。シュウが意図的にミスさせているんだ」

 自らが持つ精霊の眼でボールにかけられている魔法を分析した達也は解説を始める。

 

「使われている魔法は、移動系魔法、加速系魔法、振動系魔法の三つだ」

 

「そんなに⁈ あの遅いボールにどんな秘密があるっていうのよ」

 

「ここからだと、というか相手の選手から見ても普通にボールが打ち返されたように見えていただろうが、それは違う。加速系魔法で途轍もない速さで動いていたんだ」

 

「どういうこった? そんな速く動いてるようには見えないぜ」

 

「あぁ、語弊があったな。前後に、それも十センチメートルくらいの間を継続的に加速するように魔法がかけられているんだ」

 

 目で分からない程、ごく僅かの距離をいったりきたりしている。反復横跳びのようなものだというと分かりやすい。ほんのわずかな距離を高速で移動しているということだ。もちろん、前に進みながら。

 

「つまり俺たちが見えていると思っているボールは実際にはそのボールが動いた残像ってことなのか? でも、何でそれで魔法が発動しねぇんだ?」

 

「系統魔法は基本的に対象を指定して発動させる。今回の場合はあのボールが対象物となるが、ボールを指定しているつもりが実際には指定できていないから魔法が発動しないというわけだ」

 

「じゃあ移動系魔法と振動系魔法は何に使われてるんですか?」

 

「移動魔法は打ち返す時に使われているだけだ。加速魔法をボールに使っているから、打ち返すのにも使うと上手く残像ができなくなるんじゃないかな? それと、振動系魔法はちょっとした保険で使っているな」

 

「保険?」

 

「ボールを普通に動いているように見えさせるために振動魔法でボールの周りにモヤが出ているだろう?」

 よくよく目を凝らして見ると、たしかに夏の暑い日に見るあのモヤのようなものがレオたちの目に見えた。

 

「こりゃ、優勝は確実だぜ」

 レオは肩の力を抜いて背もたれに体重を預けながら、そういった。使っている魔法の凄さ、そして用意周到さが分かったからだ。

 

「いや、そうとも限らないぞ」

 

「あの魔法は魔法に対してはとても有効的だが、普通にラケットで打ち返す場合は少し打ちづらいだけだからな」

 ボール自体は重くなったりはしていないので、ラケットで物理的に返そうとした時は思っていたタイミングより速かったり遅かったりするだけでしかない。

 

「まぁ、シュウもその辺は分かっているだろうからな。何らかの対策はしているだろうな」

 

 そんなことを話していると、一セット目は終わってしまった。もちろん、一ポイントも取らせることなくシュウが取った。

 

 

 二セット目が始まる時に、相手の選手がCADではなくラケットに持ち替えしているのにシュウは勿論、達也たちも気づいた。

 

「原理は分からないが魔法が使えないなら、ラケットを使おうといったところか」

 

「でも、所詮は付け焼き刃だからね。どこまで持つことやら」

 

 今度はシュウの方へとボールが打ち出されて始まった。シュウは先と変わらない魔法を使って様子見を行う。

 相手選手はボールに合わせてラケットを振るう。先までは返すことすら出来なかったボールだったが、なんとか返すことに成功して頰が緩んでいた。

 

 シュウはそれをみて、使う魔法を変更することに決めた。携帯端末型CADをしまい、懐から拳銃型のCADを取り出した。試合前にデバイスチェックは済ませてあるので問題なく使う事ができる。相手は突然の戦術変更に驚いているようだった。

 巧く使うことをやめて、シュウは魔法力を活かした力押し戦術に変更した。

 

 緩く返ってきたボールにシュウは取り出したCADで魔法を使った。その瞬間、ボールが相手コートにむかって何倍もの速さになってはじき返された。

 

 急激な速さの変化に体がついていかずにボールに触れることさえできなかった。

 

「あれって会長のダブル・バウンド?」

 ダブル・バウンド。対象物の運動ベクトルを倍速して反転させる魔法。これを真由美は女子本戦で使い、優勝したので記憶に新しいのだろうエリカはシュウの魔法を見て同じ魔法だと思った。

 

「いや、二倍どころじゃない。三倍か四倍の速さで打ち返している。どんな魔法力だ、彼奴は」

 達也が若干呆れるほど、シュウの魔法力が際立っていた。元々、低反発ボールをダブル・バウンドを使って返すことは難しい。運動エネルギーが床や壁に衝突することで失われてしまうからだ。ダブル・バウンドを使える真由美は流石十師族といえる魔法力である。

 

 しかし、シュウは倍で返すどころが四倍で打ち返していた。それがどれだけの魔法力を有しているのかを物語っていた。

 

「シュウ君って、十師族なのかな?」

 魔法力の差を感じとったエリカは、ボソッと囁いた。

 

「どうなんだろうな。俺もよくわからない」

 

 達也は本当にシュウの事をよく知らなかった。真夜となんらかの関係があり、真夜はもちろんのこと達也の母親である深夜からも信頼を得ている謎の人物。正体は分からないが、深夜が信頼していることまた自分達と接する時の態度からシュウを敵ではないと判断している達也だが、シュウの事は未だによく理解してはいない。

 敵ではないのだが、味方であるという証拠もない。

 

「例え、十師族でも何も変わらないぜ。彼奴は彼奴だしな‼︎」

 レオが能天気にそういったことで暗くなっていた雰囲気が霧散した。

 

「レオって……いや、流石レオだね」

 

「どういうことだよ、幹比古‼︎」

 

「僕もレオみたいになりたいなって思っただけだよ」

 

「吉田君が筋肉モリモリになるのはちょっと嫌です」

 

「俺のイメージ、酷くねぇか」

 

 美月の天然な発言で耐えきらなくなったのかエリカは吹き出して、笑い出した。

 

 と、同時に二セット目もまた一ポイントも取らせることなく終わった。

 その後当然のように一回戦を勝利し、順調にというか当然のように決勝まで進み、クラウド・ボールを優勝した。

 

 十師族並の選手がいると、話題になるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 




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