「クラウド・ボール、優勝おめでとう」
「おめでとうございます、シュウ君」
「ありがとう真夜、穂波さん」
新人戦のクラウド・ボールが終わった夜、一高ではちょっとした食事会が行われているのだが、俺はそれには参加せず応援していたであろう真夜と穂波さんに会いに来ていた。一高の食事会に参加しないのは空気が読めていないような気がしたのたが、優勝して気が緩んだせいなのかふと二人の顔が見たくなったのでこうして会いに来ていた。
部屋の中には、穂波さんが作ったであろうちょっとした料理が並んでいた。一高の食事会ーー二人は知っていたーーが終わったら呼ぼうとしていたらしく、その時に食べるように作っていたらしい。なので、早くに訪れた事で料理がまだ並び終わっていなかった穂波さんは、珍しく少し慌てていた。しかし、なんとなく嬉しそうにも見えた。
「それにしてもすごかったわね。あの威力を倍加させて返す魔法」
「そうですね。十師族でもあんな事が出来るのはそういないと思います」
「そう……かな? 会長が使ってた魔法を改良しただけなんだけどな」
会長が使っていたのは来た球を倍にして反射させるというものだったのだが、それに少し手を加えて来た球を四倍にして返す魔法にしただけだ。倍数の違いはあれど、会長と似たような魔法を使ったので他校から何か言われるのかと心配していたのだが、そういったことは何もなかった。
「七草の娘が使ってたのは、二倍にして返すだけでしょ。二倍程度なら私でも再現できるでしょうけれども、それ以上となると魔法力がついていかないわ」
深雪ならこのくらい余裕で使えそうな気がするのだが……。いや、深雪も十師族の中では飛び抜けて天才だったという事を忘れていた。それなのにぽっと出の俺が高度な魔法を使ったのは少しマズかったかもしれない。
「でも、まぁ大丈夫じゃない?」
「お偉いさんに声をかけられたりはするかもしれない程度ね。まだ、マシな方ね。もし十師族の人間に勝ったりしたら……」
「したら?」
「十師族と婚約なんて話が出て来るかもしれない、わ……」
真夜は言い終わる直前に顎に手を当てて何かを考え始めた。こちらの耳には聞こえない程に小さな声で何かを考えているようで、俺と穂波さんは顔を見合わせて首をかしげた。
「あの、シュウ君。質問があるんですけど」
「何ですか?」
「威力を倍加させる魔法だけで良かったんじゃないですか?」
「どういう事ですか?」
「ええっと、七草のご令嬢はダブル・バウンドという魔法のみでクラウド・ボールを優勝しています。しかもシュウ君の魔法は彼女のより凄いものでした。どうして同じような戦法をしなかったのかな、と思いまして……」
つまり、穂波さんはカドラプル・バウンドーーダブル・バウンドの倍数が四倍なので安直にそう名付けたーーだけを使った方がもっと楽だったのではと言いたいのだろう。たしかに、わざわざCADまで用意して二つの魔法を使うなんて事はしないで一つの魔法、しかもほぼ確実に優勝を狙える魔法でいく方が無難であり正解だと思う。
「そうですね、まずは会長とまったく同じ事をやるというのはあまり他校からしたら気分の良いものじゃないかもしれないというのがありますね」
「魔法式自体が違うので、そこは大丈夫なのでは?」
「他所からしたら、そんなのは関係ないですよ。似たような魔法を使って優勝したとなれば、いちゃもんの一つや二つは飛んでくると思います」
だから、優勝までに使った割合としては七対三。三の方がカドラプル・バウンドだ。観客の印象的には会長と似たような魔法を使ったことからカドラプル・バウンドの方が強く残っているかもしれないが実際のところそんなに使っていなかったりする。
「いちゃもんが飛んでこないようにするっていうのが一つ目で、二つ目は……」
ーー穂波さんとの約束ですから。
とは、流石に恥ずかしかったので口には出さなかった。
四月の時点では、別系統の魔法を組み合わせた魔法なんてものは絶対に使えなかった。あの時はただ魔法力がずば抜けているだけで、所謂宝の持ち腐れというやつだった。
しかし、ひょんなことから始まった穂波さんとの放課後の勉強タイム。厳しくもあり優しさもあり、天職は家庭教師なんじゃないかと思うほど優れた教えにより俺の魔法師としての実力はメキメキと伸びていった。
だから、俺は見せたかったのだ。
穂波さんが教えてくれた事で一番になったということを。
元からあった魔法力で、会長からパクった魔法を使って優勝したところで、意味はない。
二人で積み上げてきたもので勝負がしたかった。
他の人からしたら手を抜いてるように見えるかもしれない。けれど、俺からしたらこれが俺自身が持っている全ての力を出した魔法だった。
「二つ目は秘密です」
でも、所詮自己満足に過ぎない。この事は穂波さんに伝える気は無いけど……。
ーー伝わってたら嬉しいな。
◇
九校戦六日目。
明日はモノリス・コードの予選が始まってしまうので今日出場するであろう深雪や北山さん、光井さんには悪いが最後の打ち合わせを行うために一高本部に集まっていた。
ここには、出場選手である俺と森崎、五十嵐に加えて市原先輩と五十里先輩がいる。
市原先輩は作戦立案のためであり、五十里先輩は俺たちのCADを調整してくれているということもあり、一応念のために来てくれていた。
「じゃあ、基本的な所からもう一回確認していくぞ」
「ああ」
「分かった」
「オフェンス、相手のモノリスもしくは選手を倒すための役割は俺。そんで、遊撃。これは森崎だ」
「あぁ、分かってる。僕は灰村の援護をしながら相手の選手を倒すんだろ?」
遊撃というポジションは難しい。サポートと攻撃、また後衛が危険になったら援護にもいくなどの柔軟な対応が求められるからだ。
知覚系魔法が使える人がこのポジションになる事が多いと五十里先輩が言っていたので、知覚系魔法に匹敵する索敵能力を持っている俺がこれをやろうとしていたのだが……。
「灰村君は攻撃に専念してください。魔法式構築がはやい灰村君に攻撃してもらって素早く相手を全滅させるというのが最も堅実であり、最も勝算が高い」
というのが、市原先輩の言だ。
つまり、相手に何かされる前に倒せというのが市原先輩の案だった。シンプルだが、三人とも魔法力自体はかなり高いので下手に作戦を立てるよりはベターな方法だと思った。
「そして、五十嵐が後衛だ」
「モノリスに向かってくる選手を倒せばいいんだろう。大丈夫だ」
当初はこの陣形で最後までいく予定だった。余程のことがない限りは負けることがないと事前に予想していたのだが、余程のことが起こってしまっていた。
三高の出場選手に十師族の生徒が入っていたのだ。
名前は一条将輝。
爆裂という魔法を使う一条家の次期当主であり、まぎれもない天才だ。彼だけでも苦戦は免れえないというのにもう一人凄い人物がいるらしい。カーディナル・なんとかという異名がある生徒だ。魔法師についてあまり俺は知らないーー一条将輝はギリギリ覚えていたーーのでなんともいえないのだが、こちらも厄介な人物らしいと市原先輩が言っていたのでそうなのだろう。
なので、三高に対してだけは別の陣形を取るかもしれないと事前に決めていたのだが、幸運なことに予選では三高とは当たらないことになっていた。
ーーだから、俺は油断していたのかもしれない、と後々思うことになる。
あまり話が進んでないですね……汗
展開は考えているんですが、執筆時間が足りないんです。
もしかしたら早いうちにもう一話投稿するかもしれないです‼︎