「どういうことですか?」
見た目的には二十代より若く見える。いや、深夜さんの件から考えるに二十代半ばあたりの年齢のはずだ。そんな彼女が、死んでいる。
「真夜はね、貴方のことをずっと探していたの。十年以上も。目が覚めたら忽然と消えしまった貴方。そして、貴方の事を見たことがあるお父様はあの大漢に報復しにいった時に亡くなってしまった。シュウなんて人物の事を周りに発表する前に。だから、貴方がいた事を証明できるのは真夜一人だけになってしまった」
「正直に言うとね、私はシュウなんて人は空想上の人物だと思ってたの。真夜が心を崩壊させないために真夜が作り出したヒーロー。真夜は、攫われて助けられた時には心も体も犯されてしまっていると私も四葉の臣下達も疑ってなかったわ。だから、みんな彼女の妄想に付き合ってあげていたの。シュウなんて人物がいるというね」
「私達は真夜の妄想のために真夜が本当に生殖機能を失ってしまったのかを誰も調べなかったわ。真夜にしてみれば何もされていないから、あって当たり前。私達からすると調べてしまったら真夜の妄想が破綻すると考えていたの」
「直に真夜も気づくの。あの子、頭も勘も良いから。誰もが探しているふりをしているだけだって。でもあの子だけは本気で貴方を探していたわ。何年も何年も……。でも、結局見つからなかった。真夜も段々とあれは夢だったんじゃないかって思い始めた頃だった。真夜が二十五になる頃にね真夜は一大決心をするの」
「真夜は貴方のことをどうしても忘れたくなかった。だから、その記憶を持ち続けようとした。真夜は自らを仮死状態にするっていうことを決めた」
「いつか、シュウが来るその日まで私は眠ってるって…」
「それなら十年後、先代も亡くなり事情を知るのは私一人になってしまった。現当主は私、四葉 深夜だけど、英作さんの遺言には真夜が目を覚ましたなら彼女を当主にせよと書かれていたわ」
「私はシュウなんて人がいるとは思ってなかった。でも、いて欲しかった。でなければ、真夜が起きることはないから。私が一番信用している穂波にも情報を共有して捜索に当たったわ。けれど、やはりダメで気分転換に旅行でもと思っていた時に貴方と出会ったの」
「考えてみれば、貴方がいる証拠なんていくらでもあったのにね。現代の魔法ではありえない溶けない氷。体に傷一つなかった真夜。お父様の安心した死に顔。それでも私達は真夜を信じてあげられなかった」
「信じてあげていれば、達也さんなんて子も生まれなかったかもしれない。私は真夜が心の内では世界に復讐を願っていると信じ続けていた。いえ、そうあって欲しいと思っていた。だからこそ、真実に目がいかなかった。わたしは……」
四葉家の人間として厳格な人物であり続けた深夜は何十年かぶりに涙を流した。
俺は泣き崩れる深夜さんに寄り添ってあげることしかできなかった。
◇
「その、ごめんなさいね」
泣き止んでから、自らのした事を思い出して死ぬほど恥ずかしがっているのが今の深夜さんだ。
「いえ、それよりもなんかすいません。俺がいなくなりさえしなければもっと……」
そうなのだ。話をややこしくさせたのは俺が神隠しにあったかのように消えるという出来事が起こったから。
「貴方も自らの意思でいなくなろうとしたわけじゃないじゃない。むしろ、貴方も被害者よ。私が全ての黒幕」
「そんなわけないじゃないですか。深夜さんは真夜さんの事を思ってやっていただけで……桜井さんもそう思うでしょ?」
「そうですよ。奥様は何も悪くありません。私の方こそ奥様の苦悩に気づくことができず、更にシュウさんの唇まで奪ってしまうという大惨事を起こした黒幕です」
「えぇ、唇ってなんの話ですか桜井さん‼︎」.
桜井さんは、しまったという顔になった後、俺の方を向くことなくそっぽを向いてしまった。
「まぁ色々ありましたが、とにかく真夜を起こしましょう。そんで、真夜に土下座でもなんでもして謝り倒しましょう。三人で」
「えぇ、そうね」
「はい」
◇
「おはよう、良い夢は見れた?」
「いいえ、だってこれからシュウと一緒に見るんですもの」
もうこれで終わらしたい。