必ず、笑えます。
うとうとしながらも、なんとか深雪の答辞を聴き終えた俺は、達也達にメールで先に帰るとだけ送って先に帰ってきた。
ちなみにクラスはA組だった。達也とは同じクラスにならないだろうが、深雪とは可能性があるので後で聞いておく事にしよう。
「ただいま」
「おかえりなさい、シュウ君」
家のドアを開けたら、穂波さんが立っていた。
何故、穂波さんが居るのかと聞かれたならば真夜のせいという他ない。
隣の司波家よりは小さいがそれでも十分大きい家を去年から当主になった真夜からもらった俺は、はじめは一人暮らしをする予定だった。
しかし、また居なくなられたら困ると真夜の鶴の一声によって穂波さんという監視役兼お手伝いさんと一緒に暮らすことになったのだ。
穂波さんは元々、深夜さんのガーディアンだったのだが色々秘密の多い俺のことを良く知っている人物として穂波さんが抜擢されたのだ。
だが、真夜は考えなかったのだろうか。俺も健全な十五歳の男児だ。穂波さんと一つ屋根の下で暮らすというシチュエーションはなんとも言い難いものがある。穂波さんを変な目線で見ていると言うことはないが、女の人の独特な匂いやらなんやらで大変でしかたない。それに、料理もできて性格も良い。なんて理想的なお嫁さんだろうか。
(一家に一人穂波さんがいるととても素敵な生活を送れそうだなぁ)
そんな俺の思考を読んだのか、穂波さんは俺の方を見て首を傾げている。
もう、可愛すぎて俺の命がもたない。
◇
今日、俺が早く帰ってきたのは眠かったという理由もそうだが、入学祝いのパーティーの準備をするためである。
昔から達也は四葉家でも冷遇されていて、こういった事はした事がないと穂波さんが悲しげな顔で言っていたので、じゃあやりましょうと俺が言ったことから開催が決定された。
達也と深雪には内緒であり、先に帰ったことを不思議がられるかもしれない。それでも、俺がやると言ったのに準備の全てを穂波さんに任せるというのはなんとも無責任かなと思い、こうして手伝っているわけだ。
達也に帰り際にウチによってきて欲しい旨を教えたので、全ての準備が整った。
すると、家にチャイムが鳴り響く。
(さっきメールを送ったばっかりなのにもう来たのか?)
少し驚きながら俺は玄関まで行き、ドアを開けてみる。そこに立っていたのは司波兄妹ではなかった。
「御機嫌よう。久しぶりね、シュウさん」
司波 深夜。真夜の姉だった。
「深夜さん、どうしてここに?」
「穂波からその、パーティーをするって聞いたものだから……」
穂波さんは俺の後ろでニヤニヤとしている。俺もどうしようもなく不器用な深夜さんを見てたら口の端が自然と上がってきてしまっていた。
「早く、案内しなさい!」
俺たちの顔を見て少し不機嫌になった深夜さんは穂波さんの後をズカズカ歩いていってしまった。
◇
達也と深雪は豪勢な料理を作っていた俺たちを見て意図を察したらしく、誰にでもわかるくらい喜んでいた。達也も感情が希薄ながらも喜んでいるのがわかった。
深夜さんが来るまでは。
先にいては威圧してしまうからと、上の部屋で待っていた深夜さんは達也達が席に着いた時に入ってきた。
達也と深雪、正確に言うと深雪に緊張が走っているようだった。まぁそれも無理はないことだろう。真夜が目覚めるまではずっと、家族とは思えない態度を取っていたから。
深夜さんと達也は和解したと言っていたが、やはりどちらにも思うところはあるのだろう。
「深雪さん、入学おめでとうございます」
「……ありがとうございます」
まずは、深雪に。そして、沈黙となる。
達也になにも言わないことに深雪は少しムッとなるがすぐにポーカーフェイスを決め、達也は最初から期待していなかったらしく眉ひとつ動かさなかった。
次の言葉がなければだが。
「そ、その達也、貴方も入学おめでとう」
だんだんと声は小さくなって言ったが、確かに達也に祝いの言葉を深夜さんは述べた。
照れているのか、今更自分にそんな事を言う資格がないと思っているのか深夜さんの心情を正確には理解する事は出来なかったが、それでも関係を改善したいと思って深夜さんは一歩を踏み出した。
俺と穂波さんはやっぱりまた、自然とニヤケ顔を作ってしまっていた。それを見て、もう怒りが爆発したのか自分のCADを投げて来る深夜さん。
母親の今まで見たことない姿を見たからなのか、それとも兄に対してのセリフなのかを聞いたからなのかは分からなかったが、深雪は目尻に涙を溜めて笑っていた。
達也は自分が夢を見ているのではないかと疑っていた。
やっぱり家族はこうでなきゃな。
「シュウさんにセクハラされたって真夜に言いつけてやる‼︎」
「ごめんなさい、それはホントにやめてください」
なんて、優しい世界なんだ。