夜、どしゃ降りの雨の中、傘も差さずに少女は立っていた。
少女は、雨に濡れながら涙を流していた。
点滅する赤い光が少女を照らしていた。
―これは一人の少女の物語。―
私は雨香(あまか)。中学2年生。
私には一つ年上の好きな人、秀真(しゅうま)先輩がいる。
秀真先輩は、私と同じ卓球部の先輩で、背が高く、スタイルも良い、優しい人だ。
…そんな人が好きで、片思い中なのだ。
…そ、そんな事は置いといて…。
今私は部活動の試合に来ている。今日の試合は、その先輩の引退試合だ。だから、今日告白することができればベストタイミングだと思っている。
今まで毎日一緒に活動していた先輩が明日からいなくなると思うと、少し寂しくなってくる。
今日の試合は個人戦で、トーナメント式だった。
実を言うと、先輩よりも私の方が強かった。それもあってか、先輩は私よりも早く試合が終わってしまった。
しかし、私と当たった相手も強く、一回戦で負けてしまった。ちなみに私のその相手は何度も優勝している人だった。私は、しょうがないと思い、気持ちを切り替えてみんなの応援をした。
しばらく経ち、他のみんなも1人、2人と負けて、私達と勝ち残っているメンバーを応援した。
そこで予想外の事が起きた。
たまたま隣に座っていた秀真先輩がふと立ち上がり、先生の方向へ歩いて行った。私は、何だろうと思い、水を飲みに行くフリをして、先輩と先生のいる場所へ向かった。すると、先輩はこんな事を行った。
「今日、塾があるので帰ります。」
先生は、普通に「おう、良いよ」と言ったが、私はそれを聞いて、ものすごく悲しくなった。
秀真先輩は、部活動で練習のときに「塾で帰る」と言って帰る事が多かった。でも今、このタイミングでその理由で帰るとなると悲しくなる。
やがて、秀真先輩は帰る用意を始めた。私はたまたまその隣に居た。すると、先輩はこんな事を言ったのだ。
「もうこのユニフォームも使わないんだろうな…。」
私は、悲しい気持ちを顔や声でバレないように「そうですね」とだけ言った。
数分後、ついに先輩は帰ってしまった。
私は、悲しい気持ちを隠しながら、勝ち残っているメンバーを応援するのを再開した。
試合が終わり、みんなと電車に乗って帰っている最中だった。
私は、なぜかここのタイミングで悲しみの涙が溢れだしてきた。
他のメンバーは何も悲しみが無いのか、色々な子と話している。だから、私はみんなにバレないようにタオルを取り出し、汗を拭っているフリをして涙を拭いた。
私の好きな先輩は、なんとも微妙な引退試合の終わり方をした。私は予想外のこの出来事のせいで悲しみが増してしまった。
そして、時間の流れは早く、あっという間に3月になり、先輩は卒業をしていった。
私が3年生になり、いつものように部活動をしていたとき、同学年の男子が、
「明日って秀真先輩の誕生日だよなぁ?」
と言った。
私は先輩の誕生日は今まで知らなかったので、とてもびっくりした。
そんな事を思っていると、一人の男子がこんな事を言い出した。
「明日、秀真先輩の誕生日パーティー開こうぜ!卓球部の全員参加で!」
すると、他のみんなは一斉に「行こう!!!」と言った。
私は、先輩が卒業して以来一度も会っていなかったため、少し緊張してきた。
そして次の日、秀真先輩の誕生日パーティーが始まり、私は先輩の居る場所から遠い所に座って楽しんだ。
私は、ものすごく緊張していたが、それが先輩にバレないように頑張って耐えた。
…そして、その日は何事もなく終わった。
次の日、部活動が休みの日だったので、散歩をしようと1人で外に出た。そして、自分の家の近くを歩いていると、遠くから見覚えのある人がこちらに向かって歩いてきた。
それが秀真先輩と分かった瞬間、私は胸が高鳴ったが、先輩に違和感を与えないように自然に歩いていった。
そして、先輩とすれ違う時、私は挨拶をしようと口を開いた瞬間、先輩は私を欺くような笑みを見せ、それと同時に私のお腹に激痛が走った。
私はお腹を両手で抑え、そのまま地面に倒れ込んだ。
ぼんやり見えた先輩の腕には赤黒い液体がついていた。
そして、私の両手からも赤黒い液体がにじみ出していた。
私は、鉄に似た臭いの赤黒い液体を見ながら意識を失った。
私が目を覚ますと、夕焼けの色が少しかかった白い天井が見えた。
「…ここどこ?」
と私が言うと、視界に同じ部活の同学年の男子が映り込んできた。
「目覚ましたか!良かった…」
とその男子は言った。
私が気を失っていた間、その男子は私が倒れているのに気が付き、急いで救急車を呼んでくれて、私は病院に運ばれたらしく、その後2日間私は目を覚まさなかったらしい。
私が目を覚まさなかった間、その男子は毎日私が居る病院に通っていたらしく、私はそれを聞いて少し照れてしまった。
私が気を失っていた間の話が終わった後、私はその男子に秀真先輩が私を襲った事を話した。すると、その男子はすぐさま警察を呼んでくれて、私は警察の人にその時の事の全てを話した。
その後、外でパトカーのサイレンが鳴り響き、秀真先輩の行方を追って行った。
しばらくして、私を助けてくれた男子の携帯にメールが一通来た。
それは、秀真先輩だった。
〝俺、警察に捕まるかもしれん。今、前の試合会場の近くの住宅地近く歩いてんだけど、俺どうすれば良いかなぁ〟
と書いてあった。
私は、すかさず「どうしようかなぁじゃないよ!!」と叫んだ。そして、私はベッドから立ち上がり、少しお腹の傷が痛かったが、そのまま病院を抜けて走り出した。前の試合会場の近く、それは先輩の引退試合の会場となった場所の近くの住宅地だ。
後ろからあの助けてくれた男子が自転車で私を追いかけてきた。その男子は私の頭の中の状況を理解していた様で、「後ろに乗れ!」とだけ言い、私が自転車の後ろに乗ると、無言で自転車を漕ぎ、秀真先輩の居る場所へ走り出した。
すっかり夜になったが、私達はまだ秀真先輩を見つけることができていなかった。
すると、向こうのほうからパトカーのサイレンの音が聞こえだし、急にサイレンの音が止まった。
私達はそこに先輩が居ると確信し、音のした方向へ走り出した。
すると、ポツポツと雨が降り出し、パトカーを目にした時には雨が土砂降りだった。
私達は先輩を最後に一目見ようと、少し遠くで様子を見ていた。すると、先輩は警察と共に建物から出てきてそのままパトカーに入っていった。
私は、その光景を見て、「ばかっ!!」と叫んだ。
そして、助けてくれた男子と少し距離を置き、雨が降っている中、パトカーの赤い光に少し照らされながら泣いた。
私のその時の心の中では、先輩が好きだった気持ちと先輩を恨む気持ちが入り交じり、複雑な感情になっていた。
やがてパトカーは動き出し、遠くに行った。
私は、パトカーが見えなくなるまで睨みつけながら泣き続けた。
パトカーが全く見えなくなり、私は土砂降りの雨の中、地面にしゃがみ込んでうずくまって泣いていた。
そこに、私を助けてくれた男子が傘を持ってやってきた。
その男子は何も言わずに傘を差してくれていた。