武装少女マキャヴェリズム~東雲に閃く刃~   作:鍵のすけ

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第六話 「テンソウメツ」

 紫雨の頭には二つの案がせめいでいた。

 まずは問答無用で打ち倒す。話し合いに持ち込みたいが、先ほどと同じ結末ならばまずは黙らせてからの方がゆっくりと出来るというもの。

 そしてもう一つは――。

 

「百舌鳥野殿、状況が理解できていない訳ではないだろう?」

 

 あまり冷たい廊下に薔薇咲を寝かせておくわけにもいかないので、短期決戦。自分ではなく、他人に対する思いやりに訴えかけた紫雨渾身の策。

 

「そんなものは百も承知なのです! ウーチョカちゃんを保健室に運ぶのは、まず一発貴方を懲らしめてからのです!!」

「心得た」

 

 何だ、と紫雨はホッとした。それほどまでにこの難航するかと思われた状況に対する容易い解決案を提示してくれたことに感謝する紫雨。すぐさま竹刀を構え、紫雨は一言。

 

「ゆくぞ百舌鳥野殿。私の真打をくれてやる」

 

 ピタリと竹刀の切っ先を向けられ、ひしひしと感じるは威圧感。百舌鳥野は自然と警棒を握る手に力が入っていた。

 非常にやりにくい。隙が見当たらないのだ。目の前で倒れている友達(ウーチョカ)がやられてしまうのも納得出来てしまう。

 

「後悔しないでくださいのです」

「後悔? 知らない言葉だな」

 

 合図は無い。僅かに竹刀の切っ先が揺れた瞬間を見逃さなかった百舌鳥野は踏み込んだ。そこで一気に組み敷く。それのみを意識し、百舌鳥野は仕掛けた。

 

「速い……。なるほど、これもまた」

「えっ!?」

 

 その瞬間の百舌鳥野の驚きはいかに例えようか。定石ではまず理解の出来ない一手。

 百舌鳥野の目の前には構えていた竹刀を左手に納め、直立不動の姿勢を取る紫雨。勢いは既に止められない。

 振るった警棒が寸分の狂いもなく、紫雨の右肩を捉えた。鈍痛が走る。右肩へのクリーンヒットの衝撃はいかに例えようか。

 だが紫雨の表情に一点の曇り無し。

 

「天晴れな打ち込みなり」

「ど、どうして」

「その問いは如何な意味だろうか?」

「なんで何も反撃してこなかったのですか……?」

 

 軽く薔薇咲へ目をやり、紫雨は答えた。

 

「いつまでもそこの薔薇咲殿を寝かせておくわけにはいかぬのでな」

「う、ウーチョカちゃんを?」

「無論。察するに、百舌鳥野殿は薔薇咲殿の友人であろう。その激昂も当然だ」

 

 薔薇咲を背負うと歩き出す紫雨。その背中には一切の戦意なく。

 

 

「テン――――ソウ――――メツ」

 

 

 百舌鳥野は戦慄した。そのような台詞を吐く者“達”はこの学園でたった一種類。

 何も知らぬ紫雨の眼光が捉えるはホッケーマスクを被った怪しげな風格を放つ生徒達。

 

「何者だ?」

「テン、ソウ、メツ」

 

 前後合わせて六人。囲まれた、と感じたのは間違いではないだろう。

 否、そのような事は些細。むしろ、気になるのは発する気配。

 全くの“無”。気配などと言う物は微塵もない。違う。それは見当違いだ。

 

 ――“同じ”なのだ。

 

 人間というのは十人十色の気配を持つ。そんなものは火を見るより当たり前のはずなのだ。だと言うのに、紫雨の鋭敏な感覚を以てしても、全くの“同一”と掴んでいる。

 

「百舌鳥野殿……彼奴等は?」

「て、天下五剣の一人である眠目(たまば)さとりさんの親衛隊なのです」

「天下五剣……眠目さとり」

 

 怖気が走った。一体どのような手練手管でこのような無機質な存在を作れるのだろうかと。

 それよりも。紫雨が知りたいことはそのような政治的なものではない。

 

「貴殿らの目的は? 私に用があるとお見受けするが……と、その前に。百舌鳥野殿」

「ののっ!?」

「薔薇咲殿を頼めるか?」

「は、はいのです」

 

 百舌鳥野へ薔薇咲を預け、身軽になった紫雨。手は既に竹刀の柄へいっていた。

 

「私にだけ用があるのだろう? ならば、そこな百舌鳥野殿、並びに薔薇咲殿は通してもらう」

「テン――ソウ――」

「むっ……!」

 

 覆面女子の一人、百舌鳥野へ急接近。手には警棒。明らかな交戦の意思が見て取れた。

 

「えっ!?」

 

 百舌鳥野は驚いた。鬼瓦輪側である自分と、眠目さとり側の人間が戦う事、それすなわち天下五剣の戦争を意味する。それを分からぬはずがないのに。

 何故今、このタイミングなのだろうか。

 

「呆けるな百舌鳥野殿ッ!!」

 

 振り下ろされた警棒を遮り、即座に胴一閃。崩れ落ちる覆面女子に目をやる事なく、次へ目をやる。

 東雲紫雨はこの時点で天下五剣の三振りを敵に回すことが確定した。

 鬼瓦輪、鶴亀城メアリ、そして眠目さとりである。

 とは言え、それを一々気にする程、器用な紫雨ではないのだが。

 

「貴殿らの思惑分からず。だが、それでも分かることが一つだけある」

 

 一歩で紫雨は相手を間合いに入れ、下から竹刀を振り上げ、顎を打ち抜く。そして次の一歩で隣の覆面女子へ近づき、武器を持っている側の肩目掛け、竹刀を振り下す。

 

「無抵抗の相手へ武器を振るうとは何事かッ! 如何な理由あれど、それを容認するには至らぬと知れッ!」

 

 人道逸脱。容認不可。東雲紫雨の(ワタ)は煮えていた。

 

「行け百舌鳥野殿ッ! 殿(しんがり)は務める」

「あ、ありがとうございますのです!」

 

 見送る紫雨は構えを変える。一対多を想定した複式の型を繰り出すための立ち振る舞いである。

 技を繰り出す直前、紫雨の背筋に電撃走る。

 

「何奴ッ!?」

 

 今しがた倒した覆面女子が落とした警棒を手に取り、紫雨は廊下の角へ投擲した。

 

 

「あれぇ、なんで~~分かったのぉ~~?」

 

 

 現れたのは、緑髪の乙女。だが、それだけで終わるには余りにも悍ましい相手であった。

 

(何だ、この悪意とも殺意とも、懇意とも取れぬこの違和感しかない感覚は……!?)

 

 長い緑髪が美しい女剣士が、現れた。だが、何ということだろう。それだけで終わるには些か捨て置けない。

 全くの“無”なのだ。あり得ない。底知れぬ恐怖が紫雨を襲う。喜びも怒りも、哀しみも楽しさも感じえない。これが人間なのか。何の嫌味もなくそう思えるくらいには、目の前の女子がそう見えてしまったのだ。

 

「……私は東雲紫雨。名を聞かせていただきたい」

「えぇ~~もう分かってるはずだよね~? 私は~眠目さとりだよぉ~~」

 

 ただの世間話程度のこの意味のない探り。

 それよりも、まずはこの天下五剣の登場に備えるべく紫雨は油断せず注視する。

 鬼瓦輪、そして因幡月夜が可愛く見えるほどのうすら寒さ。言葉を良くすれば底が知れぬ。

 ただの問答で計り知れぬ程度には物差しが足りない。即座に判断した紫雨は次の言葉を発する。

 

「目的は?」

「バランス調整、ってところかなぁ~~?」

「その真意は如何に?」

「分からないのぉ~~?」

 

 ノーモーションで向かってくる覆面女子達。言い訳に過ぎないが、完全に意識を取られていた。だがその手並みは流石と言っていいだろう。さしずめ幽霊のような忍び寄り方である。

 ただそれだけで終わる紫雨ではないが。

 

「分からぬ!!」

 

 竹刀を使わず、手刀による当身で覆面女子達を制圧した紫雨は言葉を続ける。

 

「眠目殿。眠目殿から感じられるは無――」

「そりゃそうだよ~~さとりはぁだぁれにも――」

「――と、誰もが言うのだろうな」

 

 少しだけ、眠目は表情が強張った。しかしてそれは決して誰にも悟られぬレベルで。

 

「生憎と、私はまだ貴殿と刃を合わせてはいない。なればこそ、刃を打ちあって心を知りたいと思っている」

「無駄だよそんなの~」

「無駄かどうかは――」

 

 紫雨が言い放つ言葉はただの一つ。

 

「その身で確かめてみるが良い」

「……さとり、同じ女の子でも~~君の事はだぁいきらいかも~」

「なれば如何様に?」

 

 その一言で、眠目はだらりと刀を下げた。その様は見る者にとってはただの戦闘放棄。しかして、紫雨はその中に含まれる攻撃の可能性を感じ取っていた。

 

「さとりが~~捻ってあげる~~」

「いとをかし」

 

 そう言い右手で顔の高さまで上げた竹刀の切っ先を眠目へ向け、左手は刃部に添える。そして腰を深く落とし、心を水面の如く平静に。

 構えるは倉崎と右井へ披露した東雲一刀流の奥義。

 ひしひしと感じ取ったことがある。この目の前の剣士相手に小手先は通用しない。やるのなら最少にして最大の一撃。

 紫雨にとって、それは余りにも好ましくないことで。

 だが、やらなければならない。例えそれが自分の限界を超えることになったとしても。

 

 

「そこまでです」

 

 

 聞き覚えのある声。いつやってきたのだろうか。そこには紫雨が良く知る剣鬼。因幡月夜であった。

 

「月夜殿……!?」

「月夜ちゃん~~なんでぇ~?」

 

 手を出そうとするの~? 言外のその台詞を受け、月夜はただ一言。

 

「お友達だからです。ただでさえ連戦を終えた身で眠目さんと戦わせたくはありません」

 

「えぇ~~月夜ちゃんがぁ~? まさかの発言でぇ~さとり、びっくり~~」

 

 皮肉でも何でもなく、眠目はその言葉を発していた。誰とも群れることないあの因幡月夜がそんな暖かみに満ちた言葉を吐くだなんて思いもしなかったのだ。

 これは余りにも誤算。群れないことで一種のパワーバランスとなっていたこの因幡月夜が、“群れ”を覚えてしまえばそれが如何な化学反応をもたらすか。

 

(まあでも~びっくりなのはぁ。東雲ちゃん、だよねぇ~)

 

 一体どのような人心掌握術を用いれば、天下五剣最強とも言える因幡月夜を抱き込めるのか。純粋に興味が湧く。

 

「東雲ちゃんってぇ~~どんな手を使って月夜ちゃんに取り入ったのぉ~?」

「死合いを行い、心を通わせた。それだけだ」

 

 眠目は思わず作り笑いを見せてやった。何だそれは。余りにも馬鹿馬鹿しい。そのような事があり得るのだろうか。漫画ではあるまいし。

 人の心など通い合うはずがない。所詮は他人と他人。そこに分かり合える要素など微塵もないのに。

 この手の人間が一番分からない。およそ関わり合う事などない人間だ。否、関わったところでどの道自分の手駒となるような末路を辿るのはほぼ間違いない。

 

「……やっぱりぃ~さとり、君と仲良くなれないかも~~」

「その言葉、一手打ち合ってから判断してもらおうか」

「ん~やろうと思ったけど、気が変わったよ~。今日はやめとく~~。月夜ちゃんに殺されたくないからね~」

 

 既に刀を鞘に納めていた眠目はくるりと背を向けた。

 

 

「今度会ったら~~――――命、懸けてねぇ?」

 

 

「了解した。私も次(まみ)える時はこの刃、淀みなく振るうと誓おう」

 

 紫雨の言葉には何の反応も示さず、眠目は去っていった。最後の最後までその背中を見送った紫雨はそこでようやく竹刀を袋に納める。

 

「……寿命が縮まったような感覚だ」

「がっかりです。消耗した状態でよもや眠目さんと戦おうとするだなんて」

「今回は月夜殿に助けられた。意を地へと張ってみたものの、眠目殿から感じる強者の香りは私の鼻孔をくすぐるには十二分過ぎた」

 

 ぽすっと紫雨の胸に収まる月夜。背丈の違いもあり、何だかぬいぐるみを抱きしめているような感覚である。

 胸の中で、月夜がぽつりと呟く。

 

「……いなくならないでくださいね」

「何を……」

「東雲一刀流はそもそも、肉体的に強靭な男性の使用を大前提としている流派と聞いています」

「……勉強熱心だな、と言っても男尊女卑ではないが、他の流派も似たようなものだろう」

 

 暗殺剣である東雲の剣は自身の肉体をフルに酷使しなければ成立しない。当然、その負担は決して軽くはなく。

 最初は骨を折った。次に内臓をおかしくし、挙句の果てには血を吐いた。剣士として、致命的な肉体の箇所ですら負担が発生していき、その辿り着いた先が今の東雲紫雨である。

 

「今こうして身体をくっつけ、呼吸時の内部の音を聞いて、確信しました。普通ならもう剣士としてどころか何故今こうして歩けているのかも不思議なくらいの損耗。……さっぱりです。何をモチベーションとし、そこまで紫雨さんは……」

「相対したい相手がいる。それだけだ。それだけが私のモチベーション」

「……お姉さま」

「あの雷神の嘶きを直に感じとるまで、私は決して地に膝を付ける訳にはいかぬのだ」

 

 月夜の頭に、紫雨の手が乗せられた。その手のひらから伝わる体温が月夜にはすごく優しくて。

 この手の温もりを知ってしまったから。因幡月夜は一つだけ心に決めていたことがある。

 

「紫雨さん、私決めました」

「何をだ?」

「いつか紫雨さんがお姉さまへ辿り着くその時まで、私は紫雨さんの傍で見守ります! それが、その、お友達の務めです!」

 

 拍子抜けしてしまった。どのような突拍子もない事を言われるかと思えば、そのような――かたじけない言葉だった。

 

「善き。やはり月夜殿は最高の友だ」

「えっへんです」

 

 これは無理をしたら月夜にどのような事を言われるか分からないな、と。そんな嬉しいようで複雑な感情を込め、紫雨は月夜に気付かれないよう苦笑した。




さとりちゃんの書き方が掴めないっすね


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