Fate/white seed   作:華鈴糖

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これは君の話だ。








chapter2/招かざる客

 衛宮久遠は、自分の手を引く養父を見上げた。

 

 

 

 「ねえ士郎」

 

 「うん?」

 

 「凛おばさん怖い顔をしていたね」

 

 「そうかな」

 

 「そんなに仕事忙しいのかな?私に手伝えることあればいいんだけど」

 

 

 

 久遠にとってたまに帰省する凛は憧れの対象だ。

 数々の美しい宝石を所有し、圧倒的な美しさと存在感で老若男女を魅了する。その所作は麗しく、その言葉は厳しく優しい。海外にいることが多いせいか彼女の土産物も見たことがないものが多い。逆回りの時計、宝石で出来たくるみ割り人形。フリルが多くついた純白のワンピースに、七色に輝く指輪等など。そういったものに囲まれている凛の姿も、不思議なほどに妖艶だ。

 まだ13歳にしかならない久遠の少ない語彙で表すなら、「かっこいい」のである。

 

 だがそんな凛が、今日ばかりは余裕がなく、何かに怯えているようにすら見えた。久遠のそんな漠然とした心配を士郎が拭う。

 

 

 

 「遠坂は大丈夫だ、立派な魔術師なんだから」

 

 「桜先生のお姉ちゃんだもんね」

 

 

 

 久遠が首を傾げれば、士郎も微笑んだ。

 

 二人は夕焼けに見守られながらしばらく歩を進めた。遠坂邸から町へと下る坂道をゆっくりゆっくりと。

 やがて坂道がゆるやかに終わりを迎えようとした時である。不意に士郎が立ち止まった。手を繋いでいた久遠は、彼に引っ張られるように後ろによろめく。

 

 

 

 「……あ、士郎?」

 

 「…………」

 

 

 

 士郎は考えを巡らせるように、瞬きをした。

 

 

 

 「どうしたの?」

 

 

 

 不安になり尋ねる。

 

 

 

 「久遠、少しここで待っていてくれないか?」

 

 「なあに?どうして?」

 

 「どうしてもだ」

 

 

 

 質問はするなと彼の瞳が語る。

 なんだか腹が立つような、切ないような気持ちになったが、久遠は言い返すことなど出来るはずもなく、黙って頷いた。彼が先程の凛と同じ顔をしていたからだ。

 

 

 

 「すぐ戻るよ」

 

 

 

 無造作に久遠の頭を撫でると、士郎はそう言って、どこかへと走っていってしまった。

 長い坂を背にして久遠は一人佇む。

 士郎と久遠に血の繋がりはない。幼い頃に親を失った久遠を彼が拾って育ててくれたのだ。母親の名前だけは聞かされたけれど、最初から彼と暮らしてきた久遠にとってそんなものはただの記号にしか聞こえない。明確に愛してくれる人さえいれば、血流など関係がない。

 

 だがそれにしても久遠は養父のことを知らなすぎた。彼がどんな仕事をしているのかも分からなければ、どうやって生きてきたのかすら知らされていない。養父だけでなく、家庭教師の間桐桜にしても、憧れの遠坂凛にしても、いつも何も久遠に語ってはくれないのである。

 

 

 

 「まあ、いいけどね」

 

 

 

 年齢に見合わぬため息をつく。

 そして再び顔をあげた。

 

 

 

 「っ!」

 

 

 

 そして、衛宮久遠は驚愕した。目を見開き、息を呑む。無意識に半歩さがろうとして…………。

 

 

 

 「おっと」

 

 「やっ!」

 

 

 

 容赦のない力で右手を掴まれた。

 

 一瞬、ほんの一瞬だ。

 久遠が地面に視線をおとしたその瞬間に男は現れた。

 背格好は異質にも、漆黒の甲冑姿。顔は獰猛な龍を模したような鎧に覆われ、引き締まった腰には明らかに殺傷能力の高そうな、刺々しい大槍が大人しく収まっている。

 おおよそ日本というこの国で、いやこの時代の世界では見ることが出来ない洋装で男は久遠の前に現れたのだ。

 

 わけも分からず恐怖に目を見開く。

 脳内にその甲冑模様を刻みつけた。

 

 

 

 「愚か」

 

 

 

 震える少女を見下ろし、鎧が呟く。

 思いの外透き通った声で。

 

 

 

 「愚かなるホムンクルスの子よ」

 

 「……?」

 

 「穢れた聖杯の申し子よ」

 

 

 

 ホムンクルス、聖杯。

 はじめて耳にする単語だ。

 

 

 

 「遍く欲望が集うこの聖杯戦争を終わらせることが、貴様に出来るか?」

 

 「な、なんの、はなし……?」

 

 「これは貴様の話だ」

 

 「……し、知らない、私は何も……」

 

 「ではこの手をよく見るがいい」

 

 

 

 そして、鎧は掴んでいた久遠の右手を高々とあげた。

 思い切り振り上げられ、腕が悲鳴をあげる。ぎちぎちと服の裾が引っ張られ思わず叫んだ。

 

 

 

 「痛い!やめて!」

 

 

 

 じたばたと手足を暴れさせれば、男はあっさりとその手を離して久遠を解放した。

 ようやく痛みから逃れることが出来た久遠は、鎧から距離を取ると思い切り睨みつけた。

 

 

 

 「愚図め」

 

 

 

 遠くで馬の嘶きが聴こえた気がした。

 

 

 

 「名だたる英霊たちに狙われる恐怖を、噛み締めるがいい、悪しき聖杯の欠片よ」

 

 

 

 そして、鎧は、溶けるように消えた。

 

 あとに残ったのは沈みかけた夕日と、かたかたと震える少女と、そして坂へと伸びるその影だけだ。

 遠くで誰かが少女を呼んでいる。

 

 

 

 「久遠!!」

 

 

 

 振り返った少女は、涙を流した。

 

 

 

 「りん、おばさん」

 

 

 

 その右手の項に、令呪の輝きを見せながら。








遠坂 凛 (とおさか りん)

ロード・エルメロイ二世と冬木の聖杯を解体した後、ロンドンの時計塔にて講師をする。その傍ら冬木の地層に聖杯の欠片が残されていることをつきとめた。久遠の反転の力を強く受ける可能性があるため日本には年に数回しか帰国せず、衛宮士郎の身体を診ている。久遠と聖杯を完全に切り離し、士郎を救う手立てをここ何年も時計塔にて探しているが手掛かりはない。奇しくも久遠がマスターとして選ばれたのを最初に目撃してしまう。





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