Fate/white seed   作:華鈴糖

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種は芽吹く、望まれざるとも。







chapter6/弓兵

 光がそれを導き、風が訪れを告げる。

 体重の軽い久遠が飛ばされないようにと、凛が強く抱き締めた。二人の黒と白の髪の毛が混じり合うように靡く。

 

 時は満ち、魔力は注がれ、そして彼の者は応えた。

 やがて光が溶け英霊は姿を現す。

 

 

 

 「サーバントアーチャー、召喚に応じ参上しましたっと、オタクがオレのマスター?」

 

 

 

 フードで顔を大半を隠し、唯一拝顔できる口許を軽率に歪ませながら彼は不遜な態度でそう尋ねた。

 時代や国籍を感じさせない格好、初見で真名を名乗らない不躾さといい、アーチャーというクラスといい、凛は過去の経験と彼女の勘によってこの英霊への警戒を高めた。

 

 肝心の久遠といえば、まだどこか夢現の気分でいるらしく彼の緑色のマントの揺れるのをじっと見詰めている。桜から魔術を習っているとはいえ、実技は初めてだったらしい。

 

 

 

 「ちょいとお嬢さん方?」

 

 「⋯⋯」

 

 

 

 と、凛は彼が自分の方を見ていることに気が付いた。

 この状況では仕方がない、魔力は非凡とはいえ明らかに素人の子供と生粋の魔術師の女とでは適正は後者であるはずなのだから。いっそ自分が適正者だったら良かった。そう思いながらも凛は彼の間違いを指摘することにした。

 

 

 

 「何か勘違いをしているようだけれど、貴方のマスターはあたしじゃないわよ」

 

 「じゃあ、まさか……」

 

 

 

 彼の視線が凛の腕の中へと注がれる。

 口許がひくりと微動した。

 

 ようやく我を取り戻した久遠は恐れを感じたのか周知からか凛の腕にしがみつく。凛はゆっくりと頷いた。

 

 

 

 「はああああ?!冗談はよせよ!」

 

 

 

 まあ、こういう反応になるだろう。

 予測していた出来事に凛は冷静だった。英霊とて何らかの願望を聖杯に抱いているのだ、こちらが彼らに期待を抱くように彼らもマスターという主に期待を抱いている。

 自分のマスターを殺してしまう英霊がいるくらいだ。

 

 アーチャーは荒々しくフードの上からわしゃわしゃと頭を搔いた。ちらちらと明るい茶髪が見え隠れする。

 そして意を決したように久遠へと近付いた。

 

 

 

 「悪いこた言わねえ、この聖杯戦争は辞退しな」

 

 

 

 ため息をついたのはやはり凛である。

 ほら見ろ、面倒な奴がきた。

 

 

 

 「あんたね、勝手なこと言わないで!」

 

 「魔術師なら分かるだろ、子供にこんな過酷なことさせられるかってんだ!まんまととっ捕まって終わりだろう!!」

 

 

 

 殺される──という表現を使わなかったのは彼なりの優しさか。だとしてもその台詞は凛の琴線に触れてしまった。

 凛が、自分が久遠の心配をしない訳がないのに。こんな男なんかよりずっとこの子の幸福を願っているのに……。

 

 久遠に幸せであれ……。

 そう名付けたのは他でもない自分なのに。

 

 

 

 「お、おばさんを虐めないで」

 

 

 

 腕の中のぬくもりがすっと立ち上がった。

 この不毛な言い争いを、凛が悔しそうに黙ったことでいじめられていると勘違いしたらしい。これに焦ったのは当然、いじめた側である。

 

 

 

 「オレはいじめてんじゃなくて……」

 

 「お顔も見せない人とはお喋りしないから」

 

 

 

 ぷいっとわざとらしく顔を背ける。

 彼にはそれだけで充分だった。

 

 

 

 「…………ほら、いじめてねえって」

 

 

 

 フードの下、ボサボサの髪の奥にエメラルド瞳があった。肉付きの少ないほっそりとした顔の中、真っ直ぐに見つめるそれに久遠は身近な人に似たものを見る。

 

 士郎だ。

 士郎が向ける眼差しに似ている。

 

 

 

 「嬢ちゃんの名前は?」

 

 「久遠、衛宮久遠」

 

 「良い名前だ」

 

 

 

 無意識か久遠の頭部に伸ばされた手を凛が払う。

 彼はこれ見よがしにため息をついた。

 

 

 

 「あー……ともかく、オレはお嬢の聖杯戦争への参加は認めらんねえ、断固として、腹掻っ捌く勢いで」

 

 「あら、こっちには令呪があるのよ」

 

 「オタクのじゃねえっしょ」

 

 

 

 凛が見せびらかしたまっさらな手の甲を睨む。

 

 

 

 「凛おばさん」

 

 

 

 久遠が凛をつついた。

 きょとん、と首を傾げる。

 

 

 

 「この人は私のこと手伝ってくれるんだよね?一緒に聖杯を取りに行ってくれるんだよね?」

 

 

 

 薄ら涙声でそう訴える。

 話の内容は分からずとも、彼が自分との共闘を拒んでいるということはなんとなく察したらしい。久遠にとっては聖杯戦争の過酷さよりも、養父を救う手立てが失くなることの方が恐怖なのである。その願望は重く美しい。

 

 あんたに裏切れる?

 凛は挑発するように彼を見た。

 

 

 

 「……」

 

 「戦闘にはあたしが出る、もとよりそのつもりよ」

 

 「狙われるのはお嬢だ」

 

 「相手が弓兵や暗殺者でなければ大丈夫よ」

 

 

 

 どこにそんな根拠があるのか、その問いには答えない。

 だが凛は確信している。

 

 

 

 「近距離でこの子に近付く者は、どんな魔術師だろうが英霊だろうが心があるなら問題ないわ、悪意を持って近付くなら尚更ね」

 

 

 

 それに……、凛はにやりと嗤う。

 

 

 

 「あんた、子供一人守れないわけ?」

 

 「…………付き合ってらんねっすわ」

 

 

 

 二人に背を向け、彼は肉体を霊子に変える。

 決着はついていないものの、とりあえず、本当に自害しようとしなかっただけ安心するところだ。

 

 彼が光の粒になるのが不安になった久遠が声をかける。

 

 

 

 「お兄ちゃん!」

 

 

 

 振り返り、彼はへらりと人懐こく微笑んだ。





ロビンフッド

ロビンフッドという蓑を与えられた義賊。英雄と呼ぶには程遠い英霊で、キザで毒舌で捻くれ者。生前の経験からこの聖杯戦争でマスターが自分のような苛酷な目に合うのではと予感しており、例え凛がマスターだったとしても同じように辞退を促した。魔力は弱く子供には強く出れないため、久遠の反転の作用を強く受けずして久遠に頭が上がらないという関係が目に見える。
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