私は夢を見ました。夢の中では誰かが私を呼んでいました。助けて、助けて。誰か聞こえませんか―どこかで見たような、それでいて初めて見るような林の中のどこかで、その声の主が私を呼んでいました。必死に。一生懸命に。
私、高町なのは。私立聖祥大付属小学校に通う、小学三年生。ここ、高町家においては三人兄妹の末っ子さんです。実家は喫茶翠屋をやっています。将来はお父さんとお母さんの後を継いで二代目喫茶翠屋の店長さんになるかもしれませんが、まだまだ先の事なので良くわかりません。
「なのは。もうすぐ朝ご飯だからお兄ちゃん達を呼んできて」
「はーい」
お母さんの高町桃子さんに言われて私は道場に行きます。そこではお兄ちゃんの恭也さんとお姉ちゃんの美由希さんが朝稽古をしています。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おはよう。朝ごはんだよ」
「おはよう、なのは」
お兄ちゃんがお姉ちゃんにタオルを投げます。
「恭ちゃん、ありがと。なのはもサンキューね」
お兄ちゃんの高町恭也さんは小太刀二刀術御神流の師範代で大学一年生。お姉ちゃんのお師匠さんです。
で、お姉ちゃんの高町美由希さんは高校二年生です。
高町家の両親はいまだに新婚ラブラブです。で、お兄ちゃんとお姉ちゃんもとっても仲良しさんです。そんなわけで高町家では私だけがちょっと浮いた存在に思えちゃったりしたりします。
「行ってきまーす」
私は家を出ると近くのバス停に向かいます。私立聖祥大付属小学校へは送迎バスに乗って行くのです。バスには既にクラスメイトのお友達が乗っていて、私は同じ最後尾のシートに座ります。
「なのは、こっちこっち」
「なのはちゃん、おはようございます」
お友達の一人はアリサちゃん。実家は有名なお金持ちでお嬢様だったりします。とはいってもアリサちゃんは活発で元気な女の子です。
もう一人は すずかちゃん。アリサちゃんとは違っておとなしい女の子です。ちなみにすずかちゃんのお姉さんの月村忍さんは恭也さんの彼女さんだったりします。
二人とは一年の頃から同じクラスで、今年からは同じ塾にも通っているの。
※ ※ ※
「ここ、こっちからだと塾に行く近道なんだ」
学校が終わって、三人で塾に行く途中でアリサちゃんが言い出しました。始めて通る道になんだか覚えがあるような感じがしました。
(…ここ、夢で見た場所だ…)
と、「助けて」と私を呼ぶ声がしたような気がしました。
「!」
私は思わず駆け出しました。
「なのは?」
「どうしたの?」
私達は森の中でケガをして倒れていた小さな動物を見つけました。
「どうしよう?」
「とりあえず動物病院に連れていかないと…」
私はそっとその動物を抱き上げると動物病院へ連れて行きました。
幸いケガは大したことが無かったみたいで、その日は病院で預かってもらう事にしました。
アリサちゃんの家には犬が、すずかちゃんの家には猫がいるので、私がその子、フェレットを家で飼えないか聞いてみる事にしました。
※ ※ ※
夕食の時にさっそく話してみました。
「そういうわけで、そのフェレットさんをしばらく家で預かれないかなって」
「うーん。フェレットか…」
お父さんが腕を組んで考え込みます。飲食店だから原則、ペット禁止なので難しいかも知れません。
「ところで何だ? フェレットって」
お父さんはフェレットを知らなかったみたいでした。
「イタチの仲間だよ、父さん」
「大分前からペットとして人気の動物なんだよ」
お兄ちゃんとお姉ちゃんが説明してくれました。
「フェレットって小さいわよね」
「知っているのか?」
「しばらく預かるだけなら、籠に入れておいて、なのはがちゃんとお世話できるなら良いかも。恭也、美由希、どう?」
お母さんは味方になってくれそうです。さらにお兄ちゃんもお姉ちゃんも同意してくれました。
「うん、だそうだよ」
お父さんも認めてくれました。
「ありがとう」
さっそくアリサちゃんとすずかちゃんにメールします。
『アリサちゃん すずかちゃん あの子は家で預かれることになりました 明日学校がえりにいっしょにむかえにいこうね なのは』
メールを送信して、私はいつの間にか眠ってしまったようでした。
〈聞こえますか? 僕の声が聞こえますか? 聞いてください。僕の声が聞こえるあなた、お願いです。僕に少しだけ力を貸してください〉
夢で聞いた声がしました。私はあの子がしゃべっていると確信しました。
〈お願い、僕の所へ。時間が…危険が…もう…〉
気がつくと朝でした。また変な夢を見たみたいでした。フェレットがテレパシーで呼び掛けるなんて、随分と変な夢を見ちゃったみたいでした。
翌日、学校がえりに私はアリサちゃんとすずかちゃんと一緒にフェレットを引き取りに動物病院に行きました。
近所でなにやら事件があったらしく、お巡りさんがいました。私達はフェレットを受け取ると院長先生にお礼を言って、動物病院を後にしました。
※ ※ ※
「うわー! 可愛い! 本当、可愛いわね」
お母さんはフェレットに大興奮です。
「なかなか賢そうなイタチ? じゃないか」
「フェレットだよ。お父さん」
フェレットはみんなに大人気です。私はフェレットにユーノくんと名付けました。
「そうだ。ユーノもお友達がいないと寂しいだろう。明日、フェレット? をもう一匹買って来てやろう」
思いがけないお父さんの発言です。
「こんなに母さんが喜んでいるんだからな」
お父さんはなんだか照れているみたいでした。
翌日、お父さんが約束通りもう一匹のフェレットを買って来てくれました。
新しいフェレットちゃんはユーノくんの上に乗っかって、お腹でユーノくんを叩き続けます。私はユーノくんがイジメられていると思いましたが、お父さんもお母さんもこれは仲良しの仕草だと言います。
その晩は一晩中フェレットちゃんはユーノくんに乗っかっていました。籠から聞こえるキチギチという音を聞きながら、いつしか眠っていました。そして私はまたしても夢を見ました。
〈誰か…僕の声が聞こえるあなた。どうか助けて…僕はオスです。…お願いです。助けて…掘らないで…〉