教会の白い死神   作:ZEKUT

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書く意味があったのかわからないですけど、書いてしまったのでとりあえず投稿してみたです。
余りツッコまないでいただけるとありがたいです……


艱苦

冥界

 神の子を見張る者の本拠地、そこで一人の男が執務室で大量の書類と格闘をしていた。

 

 

「あ”ぁ~、自分のしでかしたこととはいえ、これは精神的にくるな」

 

 

 一度書類の束から目を離し、凝り固まった首の骨を鳴らす。

 現在アザゼルは神の子を見張る者の執務室で大量の書類もとい、始末書の片づけを行っている。

 多くの進展と問題が起きた先日の駒王会談。天使代表ミカエル、堕天使代表アザゼル、悪魔代表サーゼクスらの調印をもって結ばれた駒王協定、この協定によって三大勢力内での和平が決定した。この協定によって、三種族の争いは沈静に向かう事になるだろう。

 だが、その会談内で起きた問題は各勢力の首脳陣に責任が生じた。

 悪魔勢力は、襲撃の主犯格旧魔王派カテレア・レヴィアタン、会談先に襲撃を行うほどの危険思想を持つ彼女を今まで放置していたこと。加えて、前魔王の血縁者らが揃って反旗を翻し禍の団に所属。会談が執り行われる駒王学園の不十分な警備。最後に襲撃の主犯格が原因で堕天使総督の左腕が欠損。

 以上の4点が問題となっている。

 天使はフリード・セルゼンの襲撃。

 堕天使は白龍皇の裏切り、更に裏切り者の見逃し、それに加え白龍皇が魔法使いの侵入幇助。

 天使を除いて悪魔、堕天使共に和平する気あるのかと言わんばかりの惨事だ。

 後からわかったことなのだが、行方をくらましていた有馬は、結界外で魔法使いたちを相手に無双していたらしい。魔法使いたちの予定では停止した三勢力の部隊を人質に相手の動きを封じようとしていたらしい。だがその場に居合わせた有馬によってその策は瓦解することとなった。道理で結界外で停止していた各部隊に損害が出ないわけだ。

 これには流石の首脳陣も驚きを隠せなかった。

 そしてその事を再び思い出したアザゼルは頭を抱える。

 

 

「どうにも都合が良すぎる……偶然にしちゃあ出来すぎと言ってもいい。確かにあいつが魔法使いたちを撃退したことによって、俺達の動きは封じられずに済んだ。どうやって俺らが気づかなかった敵の存在に気づくことができた?それに結界外からどうやってあの結界の中に入ってきた?」

 

 

 会談前、駒王学園の周囲に敵の気配らしきものは感じられなかった。当然、警護の者もそれ相応の警戒態勢を行っていた。にもかかわらず、警護の部隊はなす術もなく停止させられた。何十人が気づかなかった敵の気配に、何故気づくことができたのか?

 駒王学園の結界は、それこそ魔王クラスでもなければ破壊できない代物だ。破壊せずに潜り抜けようとするなら、ヴァーリの様に予め内側からポイントを準備する必要がある。それをどうやってすり抜けてきたのか?

 違和感と言うには言い過ぎかもしれない。

 ちょっとしたこと、気にする事ではない程小さなこと、それでもどこか違和感に残る。

 堕天使総督として今まで人間を見守り、保護してきたアザゼルの人を見る目は確かなものだ。

 しかし、そんなアザゼルでも有馬貴将を見抜けなかった。何を考えているか全くと言っていい程わからない。その瞳には何が写っているのか、どのような感情を抱いているのか、何をもって行動しているのか、真意は愚かその断片すら掴むことができなかった。

 ミカエルから送られた資料、それを読めば少しは有馬のことがわかるかもしれない。そんな甘い考えを持っていた。

 そして資料を見た結果は散々、むしろ謎が深まったと言ってもいい。

 

 

「あいつが魔法の類を使うことができないことは資料にも書いてあった。ならどうやって結界の中に入り込んだってんだよ」

 

 

 考えても答えは出てこない、アザゼルは机の片隅に置かれている資料に再び目をやり、腹部をさする。

 天界、ミカエルから各勢力に送られた有馬貴将のデータが掛かれた資料。

 中身を見た時は思わず椅子から転げ落ちたほどだ。

 

 

 

 3時間前

 

 

「さて、ミカエルから届いた有馬貴将の資料。拝見させてもらうとするか」

 

 

 会談の後日、アザゼルは多くの始末書を放り投げ、一つの書類をデスクに広げる。

 内容は有馬貴将の教会での実績、個人情報だ。

 アザゼルは有馬貴将の事が気になって仕方がなかった。

 有馬貴将の行動には謎と思える点がいくつかあった。

 会談前に魔法使いの存在に気がつきこれを撃退したこと、いつの間にか結界内に移動したこと。

 明らかに不自然だ。第三者が介入しているとしか思えない。

 

 

「もし第三者がいたと仮定しても、あいつがそいつの存在を隠す理由が分からん」

 

 

 有馬は魔法使いの襲撃に気がつき、撃退した。結界の出入りはこの際頭の片隅に追いやるとしても、その後にフリードやヴァーリと戦闘したことから禍の団の協力者ではないはずだ。もしも仲間ならヴァーリを殺す一歩手前まで痛めつけるわけがない。

 

 

「考えれば考えるほどわからん……俺の考えすぎか?まあいい、こいつに目を通したら少しはわかるかもしれねぇしな」

 

 

 こうしてアザゼルは地獄の書類に目を通し始めた。

 

 

 有馬貴将、ある日、教会のとある司祭が保護した。当時の年齢は5歳。

 その後、有馬貴将は悪魔払いの訓練を受けながら、10歳になるまで教会の施設で暮らしていた。10歳になる頃には、現役の悪魔祓いと何ら遜色ない実力を身に付けていたと書かれている。

 10歳と言う幼い歳で特例として悪魔払いになる。

 悪魔祓いとして非日常的な生活を送るも、わずか一年の間に討伐した悪魔の数は50体、並とかけ離れた討伐数を持ってその実力を示す。

 13歳、その時点で有馬貴将の実力は教会屈指の聖剣使いエヴァルド・クリスタルディを打ち負かす程の力を教会に見せる。

 

 

 ここまで読んでいてこいつ本当に人間か?と改めて疑問に思ったアザゼルだが、それを押し殺し続きを読んだ。

 

 

 天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマットを撃退

 

 

 これを見た瞬間、アザゼルは勢いよく椅子から転げ落ちた。

 

 

 アザゼルの胃に50のダメージ!

 

 

 当時、使い魔の森から多種の生物が教会へ侵入。

 これを撃退、もしくは討伐。

 原因究明の為、使い魔の森に精鋭を派遣。

 聖剣使い6名と有馬貴将が参加。

 使い魔の森を探索中、天魔の業龍と遭遇、戦闘が始まる。

 戦闘開始から10分、聖剣使い5名が殉職、残る一名エヴァルド戦闘不能。

 戦闘開始から30分、天魔の業龍に致命傷を与え撃退、有馬が追撃に向かう。

 追撃開始から1時間、天魔の業龍の討伐。

 この時、有馬の歳は13歳。ちょうどフリードがヴァチカン法王庁直属の悪魔払いとなった歳と同じだ。

 類稀な戦闘能力にフリードも当時は天才と言われていたが、フリードが天才なら有馬は何だ?神童、鬼才、こんな言葉では言い表すことができない。有馬を最も表す言葉があるのなら正体不明の未知(アンノウン)と言う言葉が一番だ。

 

 

「あ、ありえねえ。人間が、それもガキが五大龍王最強を討伐しただと?確かに十数年前から目撃情報が途絶えたことは知ってたが、まさか討伐されてたとはな……」

 

 

 詳しい戦闘内容はこう書かれていた。

 殉職した聖剣使いの聖剣をふんだんに使い捨て、天魔の業龍に致命傷を与える。その後、単独で追撃に向かい、これを討伐。死体の確認はできなかったが、龍のオーラが消失したことから、討伐成功とみなされている。

 

 

「聖剣を使い捨てにしたって、聖職者が聞いたら発狂するぞ」

 

 

 椅子に座り直し、再び資料を読み進める。

 

 

 有馬貴将、15歳の誕生日に二天龍、白龍皇と赤龍帝に遭遇。

 単独で討伐。

 

 

 これを見てアザゼルは盛大に椅子から転げ落ちる。

 

 

 アザゼルの胃に100のダメージ!

 

 

 資料によるとどうやら有馬は運悪く赤龍帝と白龍皇が殺し合いをしようとしている場所に立ち会ってしまったらしく、そのまま戦闘に巻き込まれたらしい。

 それがどういうことが起きたらその結果になるのか聞きたくなるが、結果的に一人で二天龍を討伐してしまったらしい。

 詳しい戦闘内容は記載されておらず、どうやって二天龍を同時に倒したのかは不明だ。

 ご丁寧に証拠として二天龍の鎧の一部を持ち帰ってきたときには、教会内で大きなパニックが起こりミカエルが教会に出向く騒ぎとなった。

 混乱を避けるためか、この事はミカエルを中心に教会内で他言することは禁じられていた。それが功を奏したのか、他勢力にその事が広まることはなく、今に至るまでその事件を隠し通すことができた。

 もしもこの事実が各勢力に広まれば、有馬を危険視する者が多く出るだろう。それは結果として天使に多くの被害を齎していたかもしれない。それを危惧したミカエルは今までこの事件を隠し続けた。

 そしてミカエルの危惧は正しく、アザゼルは有馬の事を危険視していた。これが二天龍を討伐した当時なら危険分子の排除と言う名目の元、天使と堕天使の戦争が始まっていたかもしれない。

 まあ、同盟を結んだ今はそう言ったことはないだろうが。

 

 

「な、なるほどな……赤龍帝と白龍皇が同世代だという事がこれで納得できた……。同時期に死んだから同世代に宿ったのか……どうやって倒したか聞きたいが、それは後でもできることだ。続きを読まねえと」

 

 

 アザゼルはその後も気力を振り絞り、懸命に意識を保ちながら書類に目を通した。

 だが、出てくるのは非常識な話ばかり。

 やれ傘で悪魔を討伐しただの、やれ戦闘中に居眠りしただの、1人ではぐれ悪魔を何体も討伐しただの、読むだけで意識が遠のく内容ばかりだ。

 

 

「ひ、非常識にもほどがあんだろ………」

 

 

 その言葉を最後にアザゼルは意識を失った。

 その後、執務室に訪れたシェムハザに叩き起こされ無事に再起動を果たした。

 再起動したアザゼルはすぐさまミカエルに通信を行い、いくつか質問を行った。

 しかし、その質問に対する答えは残念ながら返ってこなかった。

 『有馬を連れてきた司祭は今何処に居るのか』これに対する答えは『すでに死去している』だった。これによって有馬貴将の出自は本人から聞くしかなくなった。最も、本人が分からないと言えばそれまでだが。

 次に『有馬の武器は何か』と言う質問、それに対しては詳しくはわからないと答えが返ってきた。本人曰く『敵を倒したら拾った』と言っているらしい。いや何処のゲームの話だよ、とツッコミを入れてしまったアザゼルにミカエルも苦笑を零していた。

 最後に『有馬貴将は本当に人間なのか』と言う質問、それに対しては明確な答えが返ってくる。有馬貴将は正

真正銘普通の人間である。過去に実施した検査でもその事は確認されている。

 直接聞いておきたい質問を終え、ミカエルとの通信をきる。通信を終えたアザゼルは大きく溜息を吐く。

 

 

「白か黒か判断に困るな。有馬貴将の情報源となる司祭が死んでいるって言うのが一番痛い。これじゃあ裏から調べるって言うのも難しい。それにあいつのとんでもない身体能力は人外の血が混ざっているからだと推測していたんだが、検査の結果では唯の人間。しかもあいつの武器が何処で手に入ったのかも不明。確かにティアマットは宝物の類、特に伝説に名高いものを収集するきらいがあったが、あいつの武器がそれだという確証はない。神器に勝るとも劣らないあの性能、何か秘密があるはずだ。調べたい、今すぐにでも、あいつを拉致ってでもあの武器を研究してえな!」

 

 

 話が脱線しているが、アザゼルの中での有馬は白寄りのグレー。今までのように危険視しないが、それでも注意を怠ることはしない。何故なら完全な白ではないのだから。あくまで白寄りのグレー、疑いが完全になくなったわけではない。

 騒ぐアザゼル、そこに額に青筋を浮かべたシェムハザが再び現れ、説教が始まる。そして長く続いた小言が終わり、ようやく溜まりにたまった始末書に取り掛かる。

 

 

 翌日、アザゼルは即効性のある胃薬を開発した。

 

 

 

 


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