今度こそ次回で終わらせます!
なので如何か慈悲をください!
「ぶ、ぶち―――――――――」
「目を離すな!」
サイラオーグは重症の身体に鞭を打ち、一誠を抱え込むような形で身を投げ出す。
「離せよ、部長が!?」
「状況をよく見ろ!」
喚く一誠を他所にサイラオーグは自分達が居たであろう場所に目を向ける。そこには先程まで遠くに居た有馬がナルカミを振り切った後が見える。
初撃で態勢を崩し、二撃目で息の根を止める。今までの有馬の戦闘パターンを見たサイラオーグだからこそ、気がつけた情報。その気になれば一度の攻撃で全滅させることも可能なはず。にもかかわらず、その方法を取らず最も確実性の高い手段を常に選択してくる。多少欲を出し、荒の見える行動をとってもいいだろうに、そんな動きは一切取らない。
常に確実に、合理的に行動してくる。言葉にするなら簡単だが、そんな事を実行できるものが果たしてどれだけいるのだろうか。どれだけ鋼鉄の精神力を持てばそれを実行し続けることができるのだろうか。
「兵藤一誠!五秒時間を稼げ!その間にリアスは俺がどうにかする!」
サイラオーグが今回のレーティングゲームでもしもの為にと用意した保険、それはソーナが持っていた物と同じフェニックスの涙。本来なら自分の左腕を接合させるために使用を考えていた手段。しかし、有馬との戦闘ではそれを使用する暇などなく、使うことはないだろうと諦めていた。それを此処で使う。
リアスは既に瀕死、血肉が多く四散し、このままではリタイア後の治療が間に合わず死ぬ可能性もある。流石のサイラオーグも、親族がこんな所で死ぬことは許容できない。
「でも」
「リアスが死ぬぞ!」
サイラオーグは残った力を右腕に収束、右腕からミシミシと不快な音を上げながらも一度目より力を込めた一撃を放つ。今度は地面に逃れられないように範囲を広く。これなら数秒程度なら持つだろう。サイラオーグの予想通り有馬はIXAの防御壁を展開し、これを防ぐ。これで稼げる時間はせいぜい一,二秒。時間はない。
そのわずかな間に、少年は決断した。
「ドライグ!右腕一本だ」
『あれを相手にするなら全部寄こせと言いたいところだが、仕方がない』
『Welsh Dragon Balance Breaker‼』
一誠は右腕を対価に疑似的な禁手をその身に纏う。真紅に染まった赤い鎧は、見る者を震え上がらせるような荒々しい龍のオーラを放っている。
これを見て無表情を貫いていた有馬の表情がわずかに動く。
「時間は!」
『今の相棒では一分も持たん。ましてや相手は奴だ。数秒持てばいいと考えろ』
一誠はかつて左腕を対価に使用した時よりも短い時間に苛立ちを隠せないが、それは当然のことだ。いくら身体を鍛えたと言っても、それはたかが知れている。一般人が行っているであろうランニングや筋トレでを1,2ヵ月したくらいで劇的に強くなるのなら、人間はもっと恐ろしい人外を超越した生物となっているだろう。
「こうなったらやれるとこまでやってやる!」
一誠は赤龍帝の鎧の専売特許、連続倍加を瞬時に十二回行う。本来なら120秒は掛かるであろう倍加を瞬時に完了させるこの性能、ヴァーリとは違い対象に触れる必要が無いこの力はやはり脅威的だ。
「ドラゴン…ショットォォォ!」
山一つ吹き飛ばす一誠の必殺技。
有馬はそれを目のあたりにしながらも、驚くことも躱そうとする様子もない。
「見たことあるな、その鎧」
有馬は珍しく戦闘中に口を開く。
それと同時にIXAの防御壁を展開する。
山一つ吹き飛ばす攻撃を平然と受け止めようとする事に驚く一誠だが、その程度どうという事はない。疲弊し、全力だったとはお世辞にも言えないが、それでも覇龍状態のヴァーリの一撃を退けた有馬だ。山一つ飛ばすことが何だ。
案の定、一誠の渾身の一撃は爆破することも無く、衝撃すら殺して受け止められた。
それに目を開き言葉が出ない一誠。そんな相方を叱咤するように赤き龍は指示を飛ばす。
『惚けている場合か!来るぞ!』
ドライグは且つての先代赤龍帝と共に有馬と闘ったことがある。その時の戦闘は忘れられない。戦闘と言ってもいいのか、蹂躙と言った方が適切な気もするような一方的な戦い。客観的に見るのなら無様と断じるところだが、そんな事は赤き龍の誇りが許さない。
この距離からの反撃はIXAの遠隔攻撃かナルカミによる射撃。だが、IXAは防御形態に移行しているため選択から除外される。なら来るのは決まっている。
『雷だ!』
ドライグの予想通り、有馬はナルカミによる反撃を選択した。
ドライグは赤龍帝の鎧のブーストを限界まで稼働させ急激に加速する。急加速によって射線上から離れることができたが、それで安心することができないのは赤き龍が良く知っている。物理法則を無視した急転換、雷はそのまま一誠を追尾する。
「なっ!?俺を追ってきて」
『ガタガタ喚くな!それよりも奴から目を離すな!』
一々大袈裟に反応する相棒に苛立ちを隠せず、思わず声を荒げる。普段なら軽い制御補助にしか回らないであろうドライグだが、今回は赤龍帝の鎧を介して全面的に一誠を援護する。赤龍帝の鎧は頑丈だが、疑似的な形態ではナルカミの一撃に耐えられない。先代の赤龍帝の鎧ですら容易くナルカミによって破壊されたのだ。疑似的な禁手では言わずもがな。鎧だけではなく生身も消える。せっかく面白そうな宿主に出会えたと言うのに、それを早々に失うのは御免こうむりたい。何より、アルビオンよりも先に世代交代するなどと言う醜態だけは晒したくない。
ドライグの懸命な操作により、ナルカミの追尾を振り切ることができたがそれまでだ。すでに禁手の残り時間は数秒。開幕の瞬間的な倍加、それにナルカミの追撃を回避するための急激な負荷、宿主のスペックがスペックなだけに対価を払っても鎧を維持するだけで限界だ。
『相棒!今すぐリアス・グレモリーを連れてこの場から逃げろ!あと数秒で鎧が切れる!』
「嘘だろ!?」
一度目の時は対価を払い10秒持った。今回は前回よりも短い5秒ほどだ。5秒で解けるなど右腕を対価にした甲斐が無い。余りにも短すぎる。だが、その密度は前回とは比べ物にならない。逆に有馬相手に正面切って5秒持ったのだ。誇ってもいい。
「兵藤一誠!」
ここでようやくリアスの治療が完了する。
対するサイラオ-グは顔面蒼白で今にも倒れそうだ。傷口の深さもあるが、出血も酷く、湧き水の様に血が溢れている。
「部長!」
「ごめんなさい、心配をかけたわね。サイラオーグもありがとう」
「礼は言い。今すぐリタイアしろ。お前らがリタイアするまで俺がどうにかする」
サイラオーグは左腕を失い、バランスが取れずフラフラとした足取りをしているが、それでも有馬と対峙しようとする。
「無茶よ!左腕が無いのよ!」
「それが、どうした。ここは俺が食い止める。早くしろ」
「駄目よ!」
「行け!」
話は平行線をたどるが、その時間を与えるほど死神は優しくない。無慈悲の閃光が三人を襲う。言い争っている間に一誠の禁手も解除された。リタイアする時間も回避する時間も無い。
終わった。
だが、突如現れた何匹もの水獣が彼らの前に立ち盾となる。水獣達はできる限り電撃をその身に吸収させながらその身を四散させ、残った雷撃を上空から舞い降りた二人の僧侶が障壁を展開し防ぎ切る。
「全く、奇襲をかけようと上空から隙を伺っていましたが、どうにも考え通りにはいかないようですね」
上空から降りてきたのは若手の中で最も思慮深き悪魔
「ソーナ!」
「リアス、無謀も過ぎれば愚か者と称されますよ」
この闘いのきっかけとなった少女、ソーナ・シトリーだった。
彼女と眷属たちは戦いが始まると同時に上空へ上がり、戦闘から離れた場所を経由しながら有馬の元まで向かっていた。他の若手に有馬以外の敵を任せ、その有馬すら他の若手と戦闘が始まり隙ができるまで傍観することに徹していた。
全ては来るべき時の為に。
その作戦にはサイラオ-グの力が必要不可欠だった。
開始早々、女王がやられ、サイラオーグも左腕を斬り飛ばされた時は肝を冷やしたが、それでも我慢して待っていた甲斐があった。お世辞にも情報が揃ったとはいえないが、今の情報だけでも辛うじてどうにかなる。
「一つ目」
水獣が飛散したことによって散らばった水滴。それを氷結させ、広域にスケート場のような滑る足場が創られる。これによって有馬の機動力を奪う。
「上空へ!」
先程まで慣れない氷の足場を確かめるように足踏みしていた有馬。最初はぎこちない動きをしていたが、それは僅か数秒、そこからは普段と何ら変わりない速度で再び動き出す。
急ぎ上空へ退避しようとするも出遅れた二人の僧侶が餌食となる。
「奴は化物か!?」
何度目かはわからない驚愕。高速移動どころか、姿勢制御ですら困難なフィールド。それを目の前に居る怪傑は既に適応している。
有馬が動くと同時に地面に穴が空く。
接地面における抵抗力。これは速さを求めれば誰もが必要とする要素の一つ。動き出しの始動、制止、回転、この全てにおいて必要となるのがこれだ。
有馬は氷によって制御が困難な自身の速度をIXAやナルカミを地面に串刺し、接地面による抵抗力を上げ、その速度を完全に制御下に置いている。地を抉り、本来ならありえない急制動、急旋回を可能にしたその挙動。それは既に人間の動きでもましてや悪魔の動きでもない。
「二つ目を!」
一つ目の策が想定を遥かに上回る速度で看破され、作戦のシークエンスを速める。
王と女王を除いた三人の眷属が小型の結界を造りだす。その中で有馬とソーナ、その女王が対峙する。
本来なら、魔力操作に長けている僧侶二人を加えた結界を構築したかったのだが、想像を上回る速度でこの状況に適応した有馬によってその目論見は崩れた。この程度の結界では捕えたなど到底言えない。だが、状況は最悪ではない。
「椿姫」
「はい」
ソーナは今までとは比べ物にならないほど巨大な水獣を数体形成し、それを同時に襲わせる。それに対し有馬は目にも留まらぬ動きでその攻撃を躱し、襲い掛かった水獣に複数の斬撃を走らせる。形状維持できぬほど斬られた水獣達はただの水と化す。
次に狙われたのはソーナだ。有馬はその尋常ならぬ挙動で氷の上を駆け回り、一刀のもと斬り捨てようとするが、それよりも早くに前方に障壁を展開される。このままでは攻撃の軌道を逸らされ、一度では仕留められないかもしれない。そうなると少しばかり面倒だ。目の前の少女は他の者よりも頭が回る。こういった手合いは最初に潰すに限る。
結果、IXAを地面に突き刺し、方向転換、無防備な背後を強襲する。
そこに割り込む形で女王が両手を突きだす。
「
ここまでの流れはソーナが想定していた通りだ。有馬の動きを目視できないなんてことははなから承知の事。水獣が斬り裂かれた時から障壁を展開する準備は始めていた。有馬が水獣を無力化するのに要する時間は数秒程度。無力化したのち狙われる可能性が高いのは王である自分。それこそつけいることのできる隙だ。前方に障壁を展開されたことを確認できればそれを力技で破るのではなく、無防備となっている背後を狙うはず。そこに予め背後を守る様に指示を出していた椿姫の神器で迎撃。個人的にこの戦法は好かないが、勝つためには仕方ない。
有馬は目の前に現れた鏡ごと椿姫を貫く。IXAに貫かれた痛みで激痛が身体を襲っているにも拘らず、その表情はしてやったと言う笑みでいっぱいだった。
鏡が破壊されたことによって、神器、追憶の鏡の効果が発動する。その効果は鏡が破壊された時の衝撃を倍にして返すと言うカウンター能力だ。頑丈な悪魔でさえ容易く殺す有馬の一撃は並ではない。その威力を倍にして返されれば、耐久力の乏しい人間には必殺の一撃となる。
有馬の一撃がそれ以上の威力に変わり衝撃波として襲い掛かる。当たれば瀕死は避けられない威力、避ける時間もない絶妙なタイミングで返された衝撃波。
決まったと誰もが思った。
だが、そんな戦略を戦術によって捻じ伏せるのが有馬だ。
そもそも、有馬はこの闘いにおいて全力なんてものは一切出していない。むしろ過剰に力をセーブし、若干武器に依存した戦い方をしている。多くの観衆の眼もあるレーティングゲームで、自らの手の内を晒すことなど馬鹿げている。だからこそ、ジーク達にも本来の力で戦わないように指示を出し、自分自身も力を抑えて戦っていた。
だが、ソーナの綿密に練られた戦略によって、不運にもその力の一端を開放させられた。
襲い掛かる衝撃、それを避けようと言う素振りすら見せず、あろうことかそれに打って出る。驚くべき速度で引き戻したIXAを再び振るい、倍になって返された衝撃波を打ち消す。
驚愕的な状況、全員が全員驚きで硬直する中、その中でも一人、冷静に現実を受け止めている者が一人いた。
ソーナだ。彼女はこの戦闘に置いてあらゆる最悪の状況を想定していた。
あの有馬貴将を、教会の最大戦力を相手にするのだ。どれだけの妙策を練りだしたとしても、それが通用する確証はない。第一、実力も経験も劣っている自分たちが相手になるなんて考えてもいない。失敗して当然、ならその失敗する可能性も考慮して更に作戦を練ることが、王たる彼女の役目だ。
有馬は衝撃波を打ち消し、続けてソーナに斬り掛かる。神速の一撃、彼女の身のこなしでは躱しようのない一撃。だが、ナルカミの刃が首の皮に切り込みを入れた途端、ソーナの姿が消え、刃が空を斬った。
突然姿が消えたことによって、今まで隙を見せなかった有馬の動きに一瞬の空白が生まれた。
この時、初めて有馬の動きに空白が生まれた。
「チェック!」
上空から落とされた雷。それは有馬にめがけて落ちることなく、地面に向かって落ちていく。
―――――――白い死神、有馬貴将。その通りの名如く、決して敵を逃がすことなく命を刈り取る死神。実力、経験、才能、その全てにおいて非の打ち所のない怪傑。……隙も無い怪物の様に見えるがそうではない。弱点はある。有馬の最大の弱点は、おそらくその耐久力の低さだ。驚異的と言う言葉すら生ぬい程高度な回避能力、それが有馬の耐久力の低さを現しているのだとしたら?そこにつけ入る隙があるかもしれない。
刻一刻と変わっていく状況に処理が追いついていない有馬。それでも絶えず思考することを続ける。『雷』、『地面』、『水』、なら狙いは!
地面に雷が堕ちた瞬間、電撃が水を通し走る。
ソーナの作戦は単純だ。直接攻撃が当てられない、なら間接的に攻撃を仕掛ければいい。最初の水獣による防御、二度目の水獣による攻撃、これらによって自然に周囲に水を散らすことができた。結界を構築し逃げ場を失くし、更に女王を
目まぐるしく状況が変わる中、有馬貴将の中に宿る魂、それが防衛本能として身体を動かした。
今までよりも数段速い速度で水面から飛び出し、結界を壁代わりに足場にする。そこから三角跳びの要領でさらに上空へ跳び上がる。狙いは勿論、自身の命を脅かす
「死ね」
無表情、無感情が基本の有馬らしからぬ言葉。その眼、風貌は普段とはかけ離れた異質なものが噴き出している。並々ならぬ殺意と死を具現化したかのような強力な死と言う概念、今まで堰き止められていたものが溢れかえったような濁流に流石のソーナも恐怖に身を強張らせる。明確にイメージさせられる自らの死、今度はキャスリングによる回避はできない。予想していたものとはいえ、今までの人生で明確な死と言うものを感じたことがなかった少女にはそれは未知なる体験だ。このままではリタイアなどする間もなく殺されだろう。
だが、これも想定内だ。
「有馬貴将ォォォ!」
結界を破壊し、上空からサイラオーグが躍り出る。
そう、ここまでがソーナの思惑だ。これまでの作戦は有馬を上空に誘い出すための布石、女王も消え、これ以上の援護はないだろうと言う思考の外から攻撃。更に一度腕を斬り飛ばされ、瀕死の重傷を負ったサイラオーグの奇襲。戦闘の続行は不可能だと誰もが断じる容態、完全に意識の外から外れる。そこでソーナの持っていたフェニックスの涙が役立った。
若手の中で唯一有馬に届く可能性のある存在。それが万全の状態となり、完全に意表をついた形で奇襲をかける。一度瀕死の重傷を負ったからこそ手に入れることのできた一度限りの牙。それは魔王や神でさえ生み出すことのできない奇跡の瞬間。
サイラオーグの右腕が未だ且つてないほど膨張する。その身体から溢れる闘気を右腕に、この一撃に込める。
「今度はチェックメイトです」
その言葉を最後に
正真正銘全力全開の一撃。
それが有馬に振り下ろされた。
最近、お気に入り登録数が急激に増えてて驚いてますです。
評価も最初に比べると多くの人がつけてくれますので、作者の更新速度も上がりますです。
次回の更新速度、もしかしたらそれ次第で大きく変わるかもしれないです(気持ち)