教会の白い死神   作:ZEKUT

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 評価がすごく増えててビックリです!
 皆さんありがとうです!
 急いで書いたので後で修正するかもですけど、書きました!
 やっぱ篝火に燃料を入れるのは大切だね!
 今回は短いですけど、勘弁してください!



怨嗟

 今度こそ決まった。

 誰もがそう思える一撃。

 いくつもの張り巡らされた伏線。

 各々できる限り、最大限のことをした。

 100%ではなく、120%噛み合った連携。

 並の相手なら五回は殺すことのできるほどの策略。

 だが、それでも

 

 

「―――――無念だ」

 

 

 これだけの奇跡をもってしても

 

 

「チェックメイトなのは、此方、でしたね」

 

 

 やはり、白い死神は遠い。

 

 

 四肢をもがれ、無様に地面に堕ちていくサイラオーグ。

 同じように、両腕と翼を斬られ堕ちていくソーナ。

 その二人を酷く冷めた、虫けらを見るような眼で見下ろす有馬。

 

 

―――――嗚呼、やはりこの人に敵う筈が無かった

 

 

 戦略とは、闘争に勝つために練られた物の事を指す。

 『有馬貴将と闘う』、この時点でソーナが苦心しながらも生み出した戦略は戦略にあらず。自分達と有馬貴将とでは到底闘争にはなりえない。前提が成立していない時点でこの戦略は破綻している。だからこそ、今回の敗北は必然であった。

 

 

 瀕死の重傷、ゼファードルの傷がマシに見えるほどの深手。

 二人はリタイアの合図である粒子に包まれ、その場から消え失せる。それと同時に王であるソーナがリタイアしたことによって、その眷属も強制的にリタイアさせられる。

 残ったのは、リアスと一誠のみ。

 二人の眼には、先程飛び散った生々しい鮮血の跡が鮮明に残っている。

 リアスはそれを思い出すと先程の一撃がフラッシュバックする。

 IXAの遠隔起動によって貫かれた腹部。悍ましい程の痛み、いっそのこと発狂できればどれだけ楽だったことか。身体から多くの血肉が飛び散り、声を出すこともできなかったあの恐怖。それが再び脳裏によみがえる。

 ガタガタと体が震える。ここでようやく理解した。あれには勝てない。傷一つ付けることもできない。あれと対峙すればあるのは死と言う結果のみだ。

 

 

「あれ、まだリタイアしてない悪魔が」

 

 

 この絶望的な状況、そこに止めを刺すかのように人が集まってくる。

 無表情に徹しているジーク、返り血が付いていない場所を探すのが困難なほど返り血を浴びたジャンヌ、気疲れしたと言うような表情をしているリント。

 この三人が有馬の元まで来た。今まで五月蠅くも感じた周囲の戦闘音、それも一切聞こえない。それがどう言う意味なのか、言うまでもないだろう。

 たった三人の人間を相手に50は居たであろう悪魔達が全滅。更に目に入るような傷跡も見えない。それは三人はほぼ無傷で若手悪魔を蹂躙したと言う事に他ならない。

 彼らも唯の悪魔払いではない。有馬を師事する三人だ。その実力は並の枠から大きく逸脱している。

 

 

「あ、あああああっ!?」

 

 

 

 認められない、認めたくない。このフィールドに残っているのは自分と一誠だけだという事を。

 だって、もしそうなら、次にその牙が向けられるのは誰か、それが決まってしまう。

 

 

「い、嫌よ……ま、まだ何もしていないのよ?サイラオーグみたいに、ソーナみたいなことは何もできていないの。それなのに、何で……」

 

 

 狼狽し、支離滅裂な言葉を吐きながら後ずさりするリアス。彼女は碌に策もたてず、これだけの数が居るのなら問題はないと勝手に思い込んでいた。一度有馬の戦闘を見たにもかかわらず、それでも大丈夫だと思い込んだ。そしてその考えは全否定されたのだ。だからこその結末。仕方のないと言えば仕方のない事だ。今まで有馬と相対した悪魔も少なからず、このような精神状況になった者もいた。

 

 

「大丈夫です!部長は俺が死んでも守ります!」

 

 

 それでも尚、自分の主を鼓舞し、奮い立たせようとするが

 

 

「無理よ……私達はもう………」

 

 

 立つ気力すら失せた。戦意はとうに枯れ果てた。終わりだ。

 

 

≪力が欲しいの?≫

 

 

 そんな八方塞がりの状況で一誠の頭に見知らぬ声が響く。空耳か、はたまた自分の相棒の声なのか、余裕のない今は確認する術がない。だが、今の自分にはどうすることもできない。一度対価を払った為、これ以上対価を払う事もできない。藁にも縋りたい気持ちでその声に頷く。

 

 

≪ふふっ、素直な子ね。いいわ、なら貸してあげる≫

『止せ!』

 

 

 ドライグの制止の声も空しく、一誠の身体に再び赤き龍の力を具現化した鎧が装着される。

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker‼』

 

 

≪さあ、殺しましょう≫

 

 

 この言葉を最後に、一誠の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■□■

 

 

 再び鎧を纏った一誠。だが、その姿は先程の荒々しさとは違い、禍々しい雰囲気を醸しだしている。

 鋭利に尖った爪、翼の代わりについている穴の開いた突起のような物体、今までのフルフェイスのような兜ではなく口元を覆うようなマスク、臀部からは赤い尻尾が見える。

 一言で言うなら異質だった。

 だが、その姿を有馬は知っていた。

 先代赤龍帝が使用していた禁手、異質な見た目に伴った異質な攻撃方法。あれには有馬も手を焼かされたものだ。

 

 

≪殺したい≫

 

 

 その言葉と同時に一誠は有馬に跳びかかる。その敏捷性は今までとは比べ物にならないほど高く、洗練されている。その動きも有馬の記憶にある。

 

 

「待機」

 

 

 有馬はジーク達に短くも簡潔な指示を下す。あれを相手にするに能力を制限された三人では少々荷が重い。

 鋭利な爪をIXAで受け止める。その威力はサイラオーグと同等かそれ以上。流石赤龍帝、火力だけなら他の者よりも格段に高い。

 不意打ちの一撃が対処されたと判断すると、そのまま勢いを乗せた頭突きを喰らわせようとする。それよりも早くに有馬の抉り込むような蹴りが鎧へ放たれる。防御をしながらの蹴撃、十分な威力が出るはずもない一撃だが、鎧に罅を入れる。

 咄嗟に後ろへ跳び威力を散らしたがそれでもこの威力。そのまま勢いに身を委ね有馬から距離を取る。一誠の尻尾がバラけるように4本に分かれる。分かれた尻尾はそれぞれ意思を持ったように襲いかかる。

 

 

『Boost!』

 

 

 その間に5度の倍加が完了する。有馬の近くに突き刺さった尻尾の一本を使い瞬間移動したようにその場に移動する。そのまま貫手でその柔らかそうな腹を突く破ろうとするが、ナルカミのナックルガードが割り込んだ事によって失敗する。そこに再び4本の尻尾が時間差で四方から迫る。その攻撃を一瞥もすることなく、左手のIXAで斬り飛ばす。

 攻撃手段が減らされたことで不利と感じたのか、間合いを取ろうとバックステップを踏む。そこに追撃とばかりナルカミが光る。避けきることは不可能と割り切り、両腕をクロスし衝撃に備える。雷撃は鎧を破壊し、皮膚を焦がす。被害はあったが、結果として間合いを取ることには成功した。

 一誠は嘆息したように大きく息を吐く。

 

 

≪ああ、痛い痛い。こんなに焼け爛れちゃって≫

 

 

 そう言いながら見せびらかす様に両腕を広げる。案の定、両腕は高熱に焼かれたように爛れ、色も変色している。

 目を背けたくなるような無残な両腕に顔面蒼白し、呆然と見ることしかできないリアス。

 しかし

 

 

『Transfer!』

 

 

 次の瞬間、瞬く間に両腕が回復していく。数秒後にはナルカミを受ける前と変わらない両腕がそこにある。

 一誠が行ったことは簡単だ。身体の治癒能力に力を譲渡、それによってフェニックスも驚愕する治癒能力を瞬間的に行使したのだ。

 

 

≪貴方に殺されてからずっと我慢してたの。もう我慢しなくていいわよ、ねえ?≫

 

 

 先程よりも一際素早くなった動き。四方八方から攻撃をしては離脱を繰り返す。流石の有馬も観衆の眼を気にしてリミッターをかけた状態でこれに反撃を加えるのは至難だ。

 なので、加減をするのを止めた。

 背後からの奇襲、鋭利な爪と四本の尻尾を使った同時攻撃。狙いは四肢と腹部、狙いは悪くない。それでも、その攻撃は安直過ぎた。

 一拍を置いて、両腕と四本の尻尾が飛んだ。

 なんてことはない。ただ一誠が攻撃を当てるよりも早く両手の得物を動かしただけだ。その数、9回。鎧も破壊され、その身体に深い傷を刻まれる。

 

 

≪ふふっ、流石死神。二回目じゃ見切れ、ないわ……―――――――――≫

 

 

 その言葉を最後に、一誠は糸の切れた人形のように倒れた。

 しばらくするとリタイアの粒子に包まれその場から消える。

 思わぬイレギュラーに手の内を少しばかり晒す羽目となったが、それでも構わない。全ては晒していないのだから。

 有馬は残ったリアスに視線を向ける。その視線に気づくとヒィッと短く悲鳴を上げながら後ずさりする。

 

 

「ジーク」

「はい」

 

 

 今まで待機していたジークが動く。それに恐怖するリアスは近ずけまいと魔力弾を放つ。だが、及び腰で放った攻撃などに当たるはずもなく、徐々に接近され、最後に引き絞られた身体から放たれた魔剣がその身を貫いた。

 

 

『リアス・グレモリー様、リタイア。若手悪魔の王が全員リタイアした為、この勝負、教会の皆様の勝利となります』

 

 

 実に呆気ない幕切れだが、これでレーティングゲームは終わった。

 若手にとっては天災と言っても過言ではない今回の出来事。

 ほとんどの者が予想していた結果を大きく裏切った試合の結果。

 有馬貴将とその仲間、その名は今回のレーティングゲームで悪魔達の胸に大きな畏怖を刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

□■□■

 

 

 数日後

 

 

「よう、サーゼクス」

「ああ、アザゼルか」

 

 

 見るからに衰弱した表情をした二人の男。原因は先日に行われたレーティングゲーム。あれから事後処理が大変だった。

 今回のレーティングゲームで得た物は少なく、失ったモノは大きかった。

 試合中に重症で搬送された悪魔は数知れず、次々と送られてくる死ぬ一歩手前の悪魔達。その多くは命に別状のある者ばかりだった。中でもソーナやサイラオーグ、ゼファードルの傷は深く、フェニックスの涙を複数個使わねばならない程の重体だった。それ以外の者も涙を使わねば危険だったものが多く、その治療のために使わざるを得なかった。

 これから起きるであろう禍の団との戦いに備え、備蓄として用意していた物の半分以上を今回の試合で使わざるを得なかった。その出費は余りにもでかい。額で表すなら億は容易く超えている。

 次に若手の精神的状態だった。サイラオーグやソーナは入院こそしているが、精神的ダメージは比較的に浅く、『鍛錬が足りなかった。これからはもっと精進せねば』、『作戦に不備な点が多くありました。今後はあの時のような不測の事態に備えた作戦を考えないと』、などなど自分の未熟さを見直す良い切っ掛けとなったような発言をしている。

 だが、全ての悪魔がそうである訳ではない。

 ゼファードルを筆頭に、完全に心が折られた悪魔が何十名も現れた。教会の戦士とはもう戦いたくない。レーティングゲームなんてもう絶対に参加しない。悪魔になるんじゃなかった、と口々にしていた。

 若き芽が早々に摘まれた。

 これは組織の長として大変心の痛むことだった。本来なら、このまま悪魔の未来を支える支柱となる若手達。それが早々に折れてしまったのだ。仕方がないと思う反面、残念に思う気持ちは大きかった。できることなら、今回の出来事をバネに大きく成長してほしかった、と。

 三つ目に上層部の過激派が有馬を危険視する意見を挙げていた。今回のレーティングゲームを観戦していた者達もこの意見には大いに賛成し、有馬を排除する意見を出し始めている。

 これにはアザゼルやサーゼクスだけでなく、アジュカやファルビウム、セラフォルーも過激派を諫めていた。確かに実力も高く、悪魔払いとして恐れることは、この際仕方のないところもあるだろう。だが、同盟を結んだ直後にこの意見はいただけない。そんな事が決行されれば同盟が破棄され、再び戦争が勃発することは避けられない。付け加えるなら、有馬を相手に何人の刺客を差し向ければいいのか見当もつかない。上級悪魔では足手まとい、最低でも最上級悪魔が数人は出張る必要がある。それでも尚倒しきれるイメージがわかないところがさらに恐ろしい。そこに失敗した後の被害を考えるとそれはあまりにも軽率と言わざるを得ない。

 最後に

 

 

「アザゼル、イッセー君の容体は?」

「外傷は問題ないが、何故か眠りから覚めん。恐らく、あの時の禁手が原因のはずなんだが」

 

 

 グレモリー眷属である兵藤一誠。彼はあれから数日経っても未だ一度たりとも目を覚まさない。時折、魘される様に表情を歪めることはあっても起きるまでには至らない。原因を探ろうにも下手に干渉し、事態が悪化すれば目も当てられないことから手も出せずにいる。

 あの時の禁手、二人から見ても明らかに異質だと感じた。それに人が変わったかのような挙動、譲渡の力を使った自己再生能力、普段の一誠からは考えられない行動ばかりだ。

 

 

「で、今回の原因の死神様は今何してんだ?」

「何をするでもないよ。本来ならガブリエルの護衛として同行しに来た彼らだ。変わらず、護衛を行っているよ」

「それは何よりだよ。下手に単独で動かれたらこっちも気が気じゃねえ」

 

 

 アザゼルが前回に言った悪魔にとっての核弾頭、それが実現してしまった。今や有馬貴将の話は冥界の貴族たちには知れ渡っている。それこそ、是非眷属に欲しいとまでいう馬鹿もいる始末だ。あれは誰かに従うような奴じゃない。今は教会の指示に文句も言わず従っているようだが、あれほどの力を持ちながら今も尚野心の一つも見せないのは逆に恐ろしくも感じる。もう少し社交的なら腹の探りようもあるが、あれでは取り付く島もない。

 

 

「前回のヴァーリとの戦いを含め、あいつはついに底を見せなかった。その一端を垣間見ることができたが、それはヴァーリの時と然して変わんねえ。一体、あいつの限界はどこまであるんだろうな?」

「……さあ、それこそ神のみぞ知るところじゃないのかな?」

「けっ、居もしねえ神だけが知るってか?」

 

 

 異例の事態として発生した教会の戦士と若手の戦い。

 この傷跡は想像よりも深いものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有馬貴将の弱点を見つけた」

 

 

 魔王や堕天使総督の預かりの無い場所、そこで密かに計画を進める悪魔達。

 彼らの行動によって物語は加速していくことをまだ誰も知らない。

 

 

 




 一誠の尻尾は金色のガッシュに登場するアシュロンをイメージしてます。
 表現が下手だったらごめんなさいです!
 一瞬赫子みたいに書こうかなって思いましたけど、それだと後々めんどくさくなるのでやめましたです。

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