教会の白い死神   作:ZEKUT

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 遅れまして、新年あけましておめでとうございますです。
 今年もよろしくお願いしますです。
 大変遅れた投稿で申し訳ないと思いますが、何卒ご了承ください。
 現在作者は、オリジナル小説の執筆、及び世界観の構成に多くの時間を割いています。
 その為、こちらの投稿速度が著しく落ちていますことをお詫び申し上げます。
 内容も劣化していき、作者自身も満足いく作品を書けずにいることが歯がゆく感じます。
 そして、作者の手術日が今日という事で、暫くの間、休ませていただくことになります。
 読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、どうか次の投稿までお待ちして頂けましたら幸いです。
 さて、面倒な話はここまでにして、オリジナル小説もある程度のめどが立ちましたら投稿する予定ですので、よければそちらも読んで頂けると幸いです。

 


燻り

 冥界に有馬らが滞在して10日が経とうとしていた。そんな彼らにある一方が届いた。

 

 

――――――――――兵藤一誠が目覚めた

 

 

 悪魔にとっては喜ぶべき吉報なのだろうが、3人は報告に欠片も反応を見せない。

 冥界に滞在してから日に日に無表情が板についてきたジークは、眉一つ動かすことなく。

 ジャンヌはふーんと口にするだけ。

 リントは興味すらないと言った様子で珈琲を啜る。

 そんな3人とは対象的に、有馬は兵藤一誠の面会を申し出た。その申し出に、先程とは打って変わった驚きを見せる3人。

 あの有馬が、殺し合いを演じた相手の見舞いをすると言ったのだ。驚くなと言う方が無理がある。

 ガブリエルは有馬の申し出に、にっこりとした笑顔で応じる。それならと、我先と同行を立候補したジークらだったが、意外なことに提案は断られた。

 普段の有馬なら、部下の提案を無碍にしないのだが、やんわりと断られる。変わりに護衛を頼むと言い残し、有馬はホテルの一室を後にした。

 残ったのはガブリエルと内心納得できていない3人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

□■□■

 

 

「一体全体どういった心境の変化だ?怪我人、しかも大して関わりの無い赤龍帝の見舞いなんざ。俺の見立てじゃ、お前さんが誰かの見舞いをするような気さくな奴には思えねえんだが」

「お前には関係ない」

 

 

 何時に増して辛辣な返答に顔を顰めるアザゼル。

 病人の見舞いに訪れる。これは何も不思議なことではない。それが有馬でなければ。

 アザゼルの言葉通り、有馬は誰かの見舞いに訪れるような男ではない。そんな暇があれば、仕事に取り組み、悪魔や異端者を駆逐する任務に赴くような人間なのだから。

 そんな有馬が世界に数少ない神滅具持ちとはいえ、見舞いに来たのだ。何かしら警戒を抱いても仕方のない事だ。

 

 

「まあいいさ、イッセーも記憶が混濁して、リタイア前の記憶が欠落している部分もある。そこら辺の話をしてやってくれると助かる。一応、俺から説明をしておいたが、当事者から聞いた方がいい事もある」

 

 

 話を聞いているのか聞いていないのかわからない鉄仮面のような無表情。それに諦めに近い溜息を吐く。まさか返事すら返ってこないとは、会談の時から思っていたが、不愛想にもほどがある。

 

 

「そら、ここがあいつの病室だ。目を醒ましたってことで、今日退院する予定になっていが、あまり時間をかけるなよ?」

「わかっている」

 

 

 短く了承の意を示し、入室する。アザゼルも続いて入室しようとするが、有馬に鋭く睨まれ、動きが止まる。その間に扉が閉められ、入るタイミングが失われる。

 辛辣を通り越えて失礼に値する行動をされたにもかかわらず、アザゼルは憤ることはなかった。いや、そんな些事など気にしていられない程、恐怖を感じていた。

 役職柄、多くの感情に触れる機会が多かったアザゼル。そんな彼がようやく触れることのできた有馬の一端、その感情に触れて、心底恐怖した。

 たった一睨み、その中に込められた有馬の感情、そこから感じられたのは圧倒的なほどの利己的感情。目的の為なら自身の身すら顧みることの無い、それでいて執念深く、もはや呪いと言っても過言ではない程の、圧倒的利己心。立場上、そう言った感情を抱く相手と接することもある。身近な人物で上げるとすればコカビエルなどがその筆頭だろう。彼も彼で自分が戦う事を常に考え、それ以外の事は眼もくれない自己中心的人物だった。それが霞んで見える程の圧倒的利己心、初めて触れるには些か重たすぎる問題だった。

 

 

「有馬、俺はお前が何をしようとしているのかわからねえぞ」

 

 

 現状、アザゼルが知りうる有馬の情報では、何を望んでいるのか知りようがない。

 金、名声、地位、支配、従属、娯楽、快楽、闘争、混沌、何れかを欲しているのならまだ予想のしようがある。だが、アザゼルの知る有馬はこの項目のどれにも当てはまらない。

 新たに得た有馬の情報、本来なら喜ばしいことのはずだが、それ以上に謎が多くできてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

□■□■

 

 

「あ、有馬さん」

「久しぶりだな」

「レーティングゲーム以来ですかね?」

 

 

 一誠は病院着を着て横になった身体を起こし、小さく会釈しながら挨拶をする。有馬は丸椅子に腰かけ、足元にトアタッシュケースを下ろす。

 

 

「兵藤一誠」

「何ですか?」

「リゼの意識に触れたな」

 

 

 有馬の唐突な物言い、今まで寝込んでいた原因の核心を突いた一言に、無意識に顔を顰める一誠。その反応を見て内心納得する。

 

 

「あれはお前の一つ前の赤龍帝だ。歴代の中でも時間が経過していなかったからだろう、歴代の怨念に染まることなく、今も尚自我を持ち、お前の身体を乗っ取ろうとしたんだろう」

「俺の、身体を……」

「その様子だと、あの時の記憶はあるようだな」

「……はい、先生や部長には言ってませんけど、俺はあの時の記憶があります。でも……認めたくないんです。あれが……俺だったなんて。あの時、俺は本気で有馬さんを殺そうとしたんです……。殺意を持って、この手で殺そうとしたんです……。今までなんとなく使ってた赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が、初めて怖いと思いました」

 

 

 一誠は両手で自分の身体を抱きしめ、震えながら当時の想いを語る。

 

 

「内から溢れる殺意、本能を刺激する血への渇望、俺はその感情に身を委ねて、人を殺そうとしたんです。ぼんやりする意識の中、女の人が言ってたんです。血を浴びるように飲みたい、柔らかい肉を斬り裂きたい、臓物をアクセサリーのように飾りたい、って。怖くなりました。俺が今まで使ってきた力が、人を簡単に殺すことのできることに気づいて……。何より、その事を自覚せず、当たり前のように相手に使っていたことに、心の底から怖くなりました……」

 

 

 一誠が、震える声でガタガタと身体を震わせながら口にした言葉、それに対して有馬は口を挟むことなく、沈黙を保つ。

 

 

「人を殺す、今までそんなことまで考える余裕はなかったんですけど……、いざその事実と向き合ってみると、すごく怖かったんです……!俺がやってるのは遊びじゃなければ、特訓でもない、たった一つしかない命のやり取りだという事を改めて実感しました……。それを自覚したら、これから戦うのが怖くなってきたんです。もし戦った相手を殺したらどうしよう、逆に殺されたらどうしようって。俺はもし、仲間の誰かが殺されたら、絶対にそいつを許せないと思います。多分、怒りに任せて仲間を殺したやつを殺してしまう。そう考え出すと、怖くて震えが止まらないんです……!教えてください、有馬さん!?俺はどうすればいいんですか!?たとえ相手が部長の敵だったとしても、殺したくないんです!相手がどうしようもなく悪い奴だとしても、俺は相手を殺したくないんです!でも、馬鹿な俺じゃあ、如何すればいいかわからないんです!?教えてください!有馬さん!?」

 

 

 一誠は悲痛な面持ちで涙ながら有馬に懇願する。どうすればいいのか、何をすればいいのか全く分からない、と。

 それに対して、有馬は一誠の求める答えを持ちえない。

 殺したくない、それでも誰かが、仲間が傷つくのは耐えられない。有馬からしたら、それは酷く甘えているとしか言いようがない。だが、それは今まで生きてきた環境が違うからだということは理解している。元々平和に日常を過ごしてきた高校生と、幼少期から命のやり取りをしてきた大人、そんな両者が端から価値観など合う筈が無い。

 それでも、だからこそ、有馬は一誠に告げなければならない。

 有馬貴将として、背き続ける現実と向き合わせる、残酷な言葉を。

 

 

「兵藤一誠、最も失わない者とは、最も力を持つ者だ。奪われたくなければ、奪うしかない。酷だが、この世界は、そういう風にできているんだ」

「そんなの、そんなのって……!」

「選べ。選ぶことも無く、ただ失っていくか、何かを選び、奪いながら生きていくか」

「その二つしか……選択はないんですか……?」

 

 

 藁にも縋る思いで、涙交じりの表情で漏らすその言葉は、数日前の兵藤一誠からは感じることもできない程、弱り切っていた。

 精神的に弱り切っている状態で、このような残酷極まりない選択をしろと言うのは酷なことだろう。それでも、彼は選択をしなければならない。

 

 

「選べないのなら、そのまま無様に這い蹲っていろ。目の前にある選択すら怠るお前に、何もできることはない」

 

 

 もはや興味はなくなった、そう言うように有馬は立ち上がり、病室を後にしようと歩き出す。その瞳は、すでに一誠を映しておらず、どこか遠くを見ている。

 有馬がドアに手をかけ、立ち去ろうとした瞬間

 

 

「待ってください!」

 

 

 一誠はベッドから転げ落ちるように身を投げ出し、必死の形相で有馬のコートの裾を握る。

 その行動を煩わしそうな目で見下ろし、袖にしようとするが

 

 

「俺に、力を!誰にも負けない力をください!お願いします!」

 

 

 一誠は、額を地面に擦りつけながらも懇願する。

 有馬から告げられた言葉は、一誠の心に深く、強い楔を打ち込んだ。『最も失わない者とは、最も力を持つ者だ』、単純ながらも一つの真理であるその言葉に、ある種の強迫観念が生まれた。

 自分は赤龍帝だ。そして、赤き龍を宿すその身は、これからも数多の禍に巻き込まれるだろう。巻き込まれるのが自分だけならまだいい。だが、それが両親、仲間にも火の粉が飛びかかるのならそれは到底看過できることではない。

 ならどうすればいいか、決まっている。失いたくなければ、奪うしかない。

 

 

「俺は、誰も殺したくない!でも、それ以上に!仲間や家族が死ぬところを見たくないんです!お願いします!俺に、戦い方を教えてください!」」

 

 

 あそこまで追い込まれたにもかかわらず、殺したくない、でも奪われたくないなどと、酷く甘えた選択だと思うが、それでも彼にとっては大幅に妥協したことなんだろうと言うことは理解できる。

 有馬とて暇人ではない。むしろ教会で彼ほど働いている人間は居ないだろうと言うレベルで忙しい。ただでさえ無い時間を割いてまで、兵藤一誠に時間をかける意味はあるのか?

 今の兵藤一誠に期待できるものは唯の一つもない。あえて無い所から捻り出すとすれば、名門グレモリー家の眷属で、今代の赤龍帝、そして金木研と似ている所ぐらいだろう。それ以外は見所もなければ、才能も無く、目に留める価値すらないといえる。

 

 

「いいよ、戦い方を教えよう」

 

 

 それでも、有馬は少年の頼みを聞き入れた。

 この時の有馬が、何を考えて了承したのかは定かではないが、ただ一つ言えることがあるとすれば、この男が情で流される様な甘ちゃんではないという事だ。

 

 

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、退院できたら俺のところに来るといい」

「あ、ありがとうございます!」

「気にするな」

 

 

 一誠の礼を肩越しに返し、今度こそ病室から立ち去る。

 病室から出ると、そこには険しい表情を浮かべるアザゼルが立ち尽くしている。その姿を一瞥もすることなく、有馬は横を通り過ぎる。

 

 

「おい」

 

 

 唐突に投げられた制止の言葉。別段立ち止まる必要を感じなかったが、このまま無視して立ち去る必要もないため、立ち止まる。

 

 

「お前は……何がしたいんだ」

 

 

 呼び止めたにしては随分とあやふやな質問。だが、それが何をさしているのか察せない程、有馬も愚かではない。そしてその質問に対して答える必要性がない事も。

 暫くの間、静寂がその場を支配するが、コツコツと言う足音共にそれも破られる。 

 先程の質問に、どんな意図があったのかはおおよその予想がつく。恐らく、アザゼルは病室内での会話を盗み聞きしていたのだろう。今回だけではない。前回の一誠との会話も、部屋に施された盗聴の術式で話の内容を全て聞かれていた。

 だからこそだろう。何故今になって、こうも正反対の対応をするのか。有馬の意図と目的を理解できず、アザゼルは混乱を起こしているのだろう。

 その結果が、先程の曖昧な問いかけだった。

 これほど露骨な反応をされれば、話の内容を盗み聞きしたのがばれるという事が分からなかったのか。どんな意図があったにせよ、アザゼルは自らの手札の一枚を有馬に晒してしまったわけだ。これでより一層、有馬から情報を得ることは難しくなった。

 上司であるガブリエルやミカエルが問いかければ、幾分かマシな答えが帰ってくるかも知れないが、それでも本質からは程遠い答えだろう。

 この前までの有馬なら、特に危険と断定することはなかったが、今は違う。一瞬だけ触れた感情の一端、生存本能が警鐘を鳴らしていた。あれはテロリストなんかよりよっぽど危険なものだ、放っておいたらとんでもないことになるぞ、と。

 しかし、現状何かできるようなことがある訳も無く、教会の神父として立派に働いているのだから、難癖の付けようがない。下手に接しようものなら、三勢力の同盟に亀裂を入れかねない。

 結果、何もすることはできない。

 

 

「たくっ、なんで和平したのに、こんなに苦労しなきゃならんのだ」

 

 

 大きく吸い込み、吐き出した息は、鉛のように重かった。

 

 

 

 

 




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