教会の白い死神   作:ZEKUT

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 駒王学園の小さな個室、そこが教会と悪魔の対談場所だった。

 個室には魔法陣やオカルト雑誌などが並んでおり、異質さを醸し出している。

 そんな個室の中、友好的とは言いがたい空気が個室を支配していた。

 その空気の中、教会側はゼノヴィア、イリナ、有馬が。対するはこの領地を管理している悪魔、リアス・グレモリーとその眷属が一つの机の前で対峙している。

 

 

「今日は話し合いの場を設けてもらったことに感謝する」

「こちらこそ、教会が悪魔の管理する領地に来るなんて驚いたわ。大したもてなしもできなくてごめんなさいね」

 

 

 互いが社交辞令を交わしながら二、三言葉を交わす。互いが互い友好的ではない分、相手の腹を探るような会話になっているが、それに痺れを切らしたゼノヴィアが用件を切り出す。

 

 

「先日、教会で保管されていた聖剣エクスカリバーの内3本が強奪された」

「聖剣ね・・・・」

 

 

 ゼノヴィアの言葉に後ろに居る眷属の一人に目を配りながら嘆息する。案の定、彼女の眷属の一人は鬼のような形相で歯ぎしりをしていた。

 そんな相手側の事情は知ったことがないゼノヴィアだが、ここで一つの疑問が投げられた。

 

 

「え、伝説の聖剣、エクスカリバーってそんなに何本もあるようなものなのか?」

 

 

 茶髪の少年、兵藤一誠の言葉は最もだ。現存する歴史の記録上でも、聖剣エクスカリバーが何本もあったという事は明記されていない。それにもかかわらず、何故聖剣エクスカリバーが何本もあるのかというと、それは過去、それも歴史の教科書には記されていない裏の事情があった。

 裏の住人で在れば有名な話だが、兵藤一誠は先日悪魔に転生したばかりで、そう言った話には疎い。仕方がないと言えば仕方がない事なのだが、ゼノヴィアはそんな事も知らないのかと呆れる。

 そんな一誠にフォローを入れたのはイリナだ。

 

 

「イッセー君、昔に戦争があったのは知ってるわよね?」

「えっと、確か悪魔と天使、堕天使で争ってたんだよな?」

「そう、その戦争で聖剣エクスカリバーは折れちゃったの」

「折れた?伝説の聖剣なのに?」

 

 

 一誠の疑問は最もだが、聖剣が折れたことについて細かい詳細は、教会に属する3人にも詳しい事情は知らされていない。それは故意的に知らされなかったことなのか、それとも3人が偶々知らないだけなのか、答えがどちらかなのかはわからないが、3人にとっては些細なことだ。

 ゼノヴィアとイリナは神の真意に自分たちが憶測を立てるのは恐れ多いという事から、有馬はただ単純に興味がないから。後者にいたっては教会の神父としてどうなのか疑問を感じるが、それはまた別の話だ。

 ゼノヴィアは説明の為に、隣に立てられた物の布を解いていく。

 

 

「詳細は省かせてもらうが、折れた聖剣の破片を集め、錬金術によって新たに7本の聖剣が造られた。これが7本の内の一振り、破壊の聖剣。これはカトリックが管理している物だ」

 

 

 布の中から現れたのは、無骨な大剣のような形をしながらも、その表面には薄らと光りを放つ一振りの聖剣。

 普通の人間には一切害悪のないものだが、悪魔に限り、触れるだけでも皮膚が焼ける猛毒となる。それが教会が新たに造りあげた聖剣エクスカリバーだ。

 

 

「で、私の方がこれ」

 

 

 イリナは腕に巻き付けていた紐のような物を解く。すると紐は生き物のようにうねりながら一つの形に変わる。

 

 

「擬態の聖剣、さっきみたいに紐みたいな形に変えることもできるし、結構便利で使い勝手がいいんだから」

「へぇ~、聖剣にも色々種類があるんだな」

 

 

 一誠はイリナの説明に感心しながら2つの聖剣を交互に眺める。

 そんな聖剣を歯ぎしりのような音をたてながら睨め付ける金髪の少年、木場祐斗。

 そんな彼の心情を察してか、リアスは二人に聖剣を収めるよう急かす。

 

 

「それで、聖剣使いが二人も何の用で来たの?」

「先程も言ったとおり、聖剣エクスカリバーは教会が保管している。君たち悪魔が知っているかは知らないが、エクスカリバーはカトリック、プロテスタント、正教会が各2本ずつ保有している。そのうちの各宗派から一本ずつこの地に持ち込まれた。ここまではいいか?」

「随分と不用心な上に、物騒な話だけど、誰が主犯なのか見当はついているのかしら?」

 

 

 リアスの言うように教会は少々不用心すぎる。有馬ではないが、セキュリティーは何をやっていたのかと言う話だ。ちょっとした武器ならまだしも、わざわざ厳重に保管していた聖剣を奪われるのは、保管状況に問題があったのではないかと言われても仕方がない。

 有馬が内心腹が立つのも無理はない。

 

 

「犯人は神の子を見張る者(グリゴリ)に所属している。それも唯の構成員ではなく、幹部。武闘派で名高いコカビエルだよ」

「堕天使の組織に奪われたの!?しかもコカビエルなんて聖書にも名を記された者の名前が出てくるなんてね・・・」

 

 

 有馬はそんな気にしていないが、聖書に記されるような人物が、今回の事件にかかわっていることに驚愕するリアス。これが普通の反応だ。

 

 

「先日派遣された部隊はコカビエルによって全滅、秘密裏に派遣された偵察の者も尽く始末されている。今回、こちらが対談での依頼、いや注文は聖剣の争奪に悪魔の関与、介入をしないこと。つまり、今回の事件にかかわるなと言いに来た」

 

 

 ゼノヴィアの言葉にリアスは額に青筋を浮かべる。それと同時に有馬の表情もピクリと動く。

 

 

「随分な言いようね。私達悪魔が堕天使と手を結ぶと思ってるの?」

「本部はその可能性もないかと危惧している」

「そう、ならここで誓うわ。私は堕天使などとは手を組まない。グレモリー家の名に誓って!」

 

 

 リアスとゼノヴィアの視線がぶつかり合い緊迫とした空気が流れる。

 

 

「そちらがそれならこちらも助かる。こちらもそちらに協力は仰がない。下手に手を組んだと思われたりしたらこちらも困る。三竦みの関係に影響が出ては互いに困るだろうしな」

「それはそうだけど、貴方たちはコカビエル相手に勝算があるの?」

「さあな、できれば相対したくはない相手だが、必要とあれば戦うさ」

「無謀ね、死ぬつもり?」

「そうよ、聖剣に対抗できるのは聖剣だけ。任務の為ならこの身を主に捧げることもいとはないわ」

 

 

 リアスの言葉に即答するイリナ。

 その言葉にリアスは理解できないと言った表情になる。

 有馬も表情は変わってないが『内心ちょっと待て!』と口から出してしまいそうだった。有馬は彼女たちのようにこの任務で死ぬつもりはさらさらない上に、この程度(・・)で任務を失敗する意味が分からなかった。

 

 

「相変わらず貴方たちの信仰心は常軌を逸しているわね」

 

 

 リアスの言葉に『俺を一緒にしないでください』と内心ごちる有馬。

 

 

「無論、唯で死ぬつもりはないよ。こちらもまだやるべきことが残っているのでね」

 

 

 ゼノヴィアはそれだけ言い、席から立ち上がる。それにつられるように有馬とイリナも席から立ち上がる。

 このまま何事も無く終わるかと思っていた。

 

 

「兵藤一誠の家で会った時、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?」

 

 

 ゼノヴィアの言葉にアーシアがビクリと反応する。

 それと同時に緊迫とした空気が再び張り詰める。

 

 

「あら、貴方が元聖女様?追放されたって言うのは聞いたけど、まさか悪魔になっていたなんて」

「あ、あの・・・その・・・」

 

 

 彼女たちの悪意のない言葉がアーシアに突き刺さる。

 彼女たち本人はアーシアを傷つけているという自覚は一切ない。何故なら自分たちは清く正しいと心の底から思っているから。神に仕える私達は正しく、その神から追放され、あまつ悪魔に転生した彼女は神を裏切った絶対的悪だと。

 

「大丈夫、他の信徒にこの事は言わないわ。このことを知ったら信徒たちもショックでしょうし」

 

 

 だからこそ悪意なく、ここまで人を傷つけることができる。

 

 

「聖女と言われた者が堕ちるところまで堕ちたものだな。君はまだ主を信仰しているのか?」

「・・・・捨てられないだけです。今まで信じてきたものですから」

「そうか」

 

 

 ゼノヴィアはおもむろに聖剣に巻き付けられている布を取り始める。

 

 

「それなら今すぐ私の聖剣に斬られるがいい。慈悲深い我らが神なら救いの手を差し伸べてくれるはずだ」

「ふざけんな!」

 

 

 アーシアを切り捨てようとしたゼノヴィアの前に立ちふさがる一誠。

 それと同時にゼノヴィアの前に有馬が出る。

 

 

「下がれ、俺達には関係ない」

「・・・・魔女を庇うのか?」

 

 

 ゼノヴィアは苛立ちのこもった目で有馬を睨め付ける。だが、この場でゼノヴィアが何と言おうと有馬の言っていることが正しい。

 既にアーシアは教会から追放された身だ。そのアーシアも今は悪魔となっている。今ここでアーシアを殺す事はそのまま三竦みの関係に歪を与えることに直結する。

 

 

「関係ないだと?アーシアを追い出しておきながら関係ないわけがないだろ!アーシアがあれからどんな思いでここに来たかわかってんのか!」

「知らない」

「なっ!?てめぇ!」

「よしなさい、イッセー!」

 

 

 一誠は有馬に掴みかかろうとするが、リアスに寸でのところで止められる。

 有馬の言っていることはそのままだ。有馬はアーシアが追放されてからどんな目にあったかは知らない。だからどんな思いでここに辿り着いたのか知りようがない。だからこそ、知らないと言った。

 

 

「勝手に聖女に仕立て上げといて、ちょっとしたことで追放しやがって!ちょっと悪魔を助けただけじゃねぇか!?」

「その結果、神父が一人殺された。原因は明らかに彼女だ。追放は妥当な処遇だと思うが?」

「そんなの結果だろ!アーシアは今までたくさんの人達を救ってきたはずだ!」

「それこそ結果だ。例えたった一度の失敗だったとしても、それが取り返しのつかないものなら、神への祈りが足りなかっただけだ。もしくはそれが偽りの信仰だったんじゃないか?」

 

 

 白熱する口論、口火は切って落とされた。こうなったら最後、互いが納得するまで延々と口論は続くだろう。勿論、そんな事に時間を使っている暇などない。

 有馬は諦めたかのような目でそのやり取りを眺める。コミュ障の彼ではあの中には割って入ることはできない。

 早く終わらないかな、有馬がそう思っていた時、話はある意味終結した。

 

 

「君達の先輩だよ。失敗作だったそうだけどね!」

 

 

 木場は部室の中に魔剣を咲かせながら憎悪の籠った目でゼノヴィアを睨め付ける。口論を聞き流していた有馬にはどうやってこの状況になったのか皆目見当もつかない。ただ一言だけ言うとするなら

 

 

 どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

■□■□

 

 

 あれから校庭に移動することとなり、ゼノヴィアとイリナ、一誠と木場が摸擬戦を行う事になった。相手がいない有馬はどうしようか悩んだ結果、その場を後にする事にした。ただでさえ時間がないのに、これ以上時間を無駄に浪費するのは得策ではないと考えたのだ。

 断じてあの場にいるのが気まずかっただとか、これ以上巻き込まれたくないとか、そう言った考えは一切ない・・・きっと。

 

 

 とりあえず有馬は不穏そうな空気、人気の少ない場所を転々と歩き回る。コカビエルが未だに悪魔祓いを殺しまわっているのなら、人気のない場所で一人歩いている神父を見逃すはずがないと踏んでの行動だった。

 暫く歩いていると複数の気配が有馬を中心に集まってくる。

 それに伴い有馬はスイッチを入れ替える。

 その瞬間、わずかに残っていた余分な感情は消え去り、冷徹な、絶対零度の眼に変わる。

 ここに居るのは先程までコミュ障を拗らせていた男ではない。

 ただ機械的に、冷徹なまでに淡々と敵を狩り殺す存在、教会の白い死神だ。

 

 

 有馬の頭上から光の槍が降ってくる。それに対し有馬はアタッシュケースのスイッチを押し、中から自身の得物を取り出す。取り出されたのはレイピアのような武器<ナルカミ>だ。

 有馬はナルカミを取り出すと同時に回避行動に移る。有馬の居た場所に光の槍が突き刺さり小規模なクレーターができる。そのクレーターから人間である有馬がこの一撃に掠りでもすれば、タダじゃ済まない事が分かる。しかし、どれだけ威力が高かったとしても当たらなければどうという事はない。

 有馬は回避行動を取りながらナルカミを上空に向ける。カチリという音と同時にナルカミの刃が華のように開く。4枚にわかれた刃の中心にはバチバチと音をたてながら雷が形成される。

 次の瞬間、雷が空に向かって駆けていく。狙いは上空で滞空している堕天使だ。雷はさながら獲物を求める猟犬のように空へ昇り、堕天使を一瞬で消し炭へと変える。

 上空の堕天使がやられると同時に前方に二人の悪魔祓いが現れる。その手には教会から強奪された聖剣が握られている。

 有馬は聖剣を確認すると、残った片方のアタッシュケースのスイッチを押す。出てきたのは槍のような形をした武器<IXA>。

 対峙する両者、先に動いたのは聖剣使いの方だ。

 聖剣使いは阿吽の呼吸で左右同時に有馬に斬りかかる。

 それに対して有馬はナルカミをレイピア状に戻し、左からの斬撃をIXAで受け流し、右からの斬撃を最小限の動きで躱しながらナルカミで腹部を貫く。

 腹部を貫かれた聖剣使いは血を噴きだし、その場に倒れる。

 もう一人の聖剣使いは態勢を立て直すために大きくバックステップし、距離を開けるが

 

 

「遠隔起動」

 

 

 地面から突如隆起した物体、IXAによって腹部を貫かれ絶命する。

 呆気なく戦闘が終わり、周囲に静寂が戻る。

 有馬は目的の聖剣を回収しようとするが、そこに数本のナイフが投擲される。

 有馬は片手間にナイフを弾きながらナイフの持ち主に目を向ける。

 

 

「あらぁ~、さっきのは決まったと思ったんですけどぉ~」

「フリード・セルゼン」

「お久ぶりです~、有馬さぁ~ん」

 

 

 現れたのは有馬と同じ白髪の少年、フリード・セルゼン。

 このタイミングで現れたという事は、目的は聖剣の回収だろう。

 そして現れたのはフリードだけではない。

 

 

「ククク、こいつらが遊び相手にもならんとはな。なかなか興味深いぞ、死神」

 

 

 上空で上機嫌そうに笑うのは、今回の主犯コカビエルだ。

 

 

「あれ、来ないって言ってませんでした?」

「気が変わった。俺の部下と被検体をああも足蹴にしてくれたんだ。丁重にもてなすのが、礼儀というものだろう?」

 

 

 コカビエルは両手に光の剣を握り、上空から有馬に肉迫する。

 有馬は迎撃の為、コカビエルにナルカミを放つ。追尾性のあるナルカミを振り切るのは困難だが、流石過去の大戦の生き残り。ナルカミが放たれると同時に急停止、そこから上空を旋回し、ナルカミを振り切り再び有馬に肉迫する。

 それに対し有馬もIXAを腰に構え、身体を矢のように引き絞りコカビエルを迎え撃つ。

 両者が激突した瞬間、周囲の建物が悲鳴を上げ、空間が爆ぜる。

 

 

「いいぞ!俺の攻撃をいとも簡単にいなす技量、俺とさして変わらぬ身体能力、そして極めつけはその眼だ!常闇のように深く、冷めきった冷酷な瞳!そして、死をも恐れぬ胆力!最高だ!」

 

 

 コカビエルは腕から流れる血をぺろりと舐め、目を血走らせながら饒舌に語る。

 先程両者が衝突した際に、コカビエルは光の剣を使った二刀の攻撃を繰り出すが、有馬はその攻撃を全てナルカミでいなし、その間に目にも留まらぬ速さでIXAの刺突を放ったのだ。

 結果としてはコカビエルの経験に基づく勘によって致命傷は避けられたが、それでも小さな傷を残すことができた。

 

 

「いいぞ!大した期待はしていなかったが、これは想像以上だ!有馬貴将!お前はもはや人の領域を超えている!ここで壊すには惜しい!」

 

 

 コカビエルはそう言い再び上空に舞い戻る。

 有馬は追撃とばかりナルカミを放つが、それは全て掠るだけで終わる。

 

 

「勝負はまた後日することにしよう。今日は此処で一度引かせてもらう!」

 

 

 コカビエルは両手を頭上にかざし、先程の光の槍とは比べ物にならないほど、巨大な光の槍を形成する。

 

 

「これは置き土産だ!この程度で死んでくれるなよ!」

 

 

 コカビエルは自分の身体以上の大きさを持つ光の槍を有馬めがけて投擲する。

 ここで有馬が避けたとしても、地面と衝突した瞬間エネルギーが爆発し、少なくない怪我を負うことになるだろう。

 ならどうするか?

 答えは簡単だ。

 

 

「・・・悪くないな」

 

 

 防げばいい。

 

 

 次の瞬間、小規模な爆発が起きた。

 

 

 

 


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