教会の白い死神   作:ZEKUT

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皆さん、誤字報告ありがとうございます。
多すぎて作者の確認が甘かったことを痛感してます。
今後は要チェックしていくつもりです。

今後もよろしくお願いしますです。


三分

「面白い!」

 

 

 コカビエルはIXAの遠隔起動を辛うじて回避する。初見では回避することが難しいこの攻撃を、避けることができたのは一重に戦闘経験の差だろう。

 

 

「解除」

 

 

 有馬は攻撃が躱されるや否や、IXAの遠隔起動を解除、それに並行し、回避先にナルカミを向ける。

 動きを予測されたコカビエルは光の槍を雷の中心部に投げ、自分に直撃するであろう雷を削減する。だが、それだけでナルカミの一撃を防ぎ切れるわけではない。ナルカミの雷は追尾性に優れ、猟犬のように喰らいつく。

 

 

「ぬぅ!?」

 

 

 ナルカミの一撃が直撃する刹那、翼で身体を覆い、少しでもダメージを減らそうとする。

 コカビエルの翼の強度は当然ながら高い。その強度はゼノヴィアのデュランダルの一撃を無傷で防ぐほどの硬度を持つ。

 その翼がナルカミの一撃を受け、漆黒の翼から何枚も羽が焦げ堕ちる。

 掠ってこれだ、直撃ならどれだけのダメージがあることか。

 コカビエルは痛みに顔を顰めるが、今、この瞬間に歓喜していた。

 過去の大戦で常に自身に付きまとった感情、生きるか死ぬかの極限の闘争、未来など見えない、一秒先の未来を掴むために戦うこの極限の戦い、これこそ彼が望んでいたものだ。

 

 

「いいぞ!攻撃は良し!なら守備はどうだ!?」

 

 

 コカビエルは先程リアスたちに放った威力の光の槍を数十本形成し、有馬に向けて掃射する。

 リアスたちならなす術もない攻撃だが、有馬は違う。有馬は既にあれ以上の攻撃を正面から受け止めている。

 

 

「防御壁展開」

 

 

 当然、それ以下の攻撃がいくら増えたとしても、有馬の防御を破ることはできない。

 IXAの防御壁を展開し、光の槍をいとも簡単に受け止める。

 有馬は、光の槍をIXAで防ぎ切ると、コカビエルに肉迫する。

 コカビエルも近距離戦は望むところだ。

 扱いやすい光の剣を二刀創りだし、有馬の攻撃に応える。

 先制はIXAの刺突、鋭く突かれた刺突はコカビエルの頬を掠る。そこから流れる動作でナルカミの横薙ぎが襲う。コカビエルは二刀をクロスし、ナルカミを受け止める。

 瞬間、校庭に轟音が鳴り響く。

 ナルカミと光の剣がギシギシと音をたて鍔ぜり合う。

 コカビエルは鍔迫り合いになるや好機と見たのか、光の剣に力を込め、そのまま有馬を押し潰そうとする。

 有馬も身体に力を入れ踏みとどまるが、それでも押し返すまでには至らない。

 余りに有馬が強すぎて忘れてしまいがちだが、有馬は人間だ。いくら有馬でも単純な力比べで人外に勝つことは難しい。

 有馬は半歩後ろに下がり、ナルカミを後ろに下げる。

 それによって、鍔迫り合いに生じていた力は逸らされ、コカビエルは見事に体勢を崩される。

 その隙は余りにも致命的だった。

 有馬はコカビエルの体勢を崩し、IXAとナルカミの二刀で連撃を叩き込む。

 コカビエルは、体勢を崩された事に驚愕しながらも、少しでも被害を抑えるために5対の翼で連撃を防ぐ。並みの堕天使や悪魔では翼諸共斬り捨てられ、肉塊になるのが必定だが、流石はコカビエル。5対の翼にダメージこそ残っているが、斬り捨てられはしていない。

 

 

「小癪な真似をッ!?」

 

 

 今の間合いでは分が悪いと考えたのか、上空から光の槍を降らせ、その間に間合いを取ろうとする。しかし、有馬はそれを察知したかのような動きで頭上にナルカミを放つ。

 

 

「貴様!俺の動きをッ―――――!?」

 

 

 光の槍はナルカミによって一つ残らず破壊される。この程度の小技では間合いを取る時間稼ぎにもならない。

 コカビエルは間合いを取ることができないのなら、このまま近距離戦でゴリ押すと言わんばかりに猛突進する。

 光の剣で斬り掛かりながら光の剣、槍を要所要所で掃射する。

 普通ならこんな近距離で避けることはまずできない。

 毎回不規則な場所から放たれる光の剣、槍は、コカビエルが創りだすまで攻撃の軌道すらわからない。

 その攻撃を避けることができるのは余程速度に自信がある者か、攻撃を見てから避けることができる者だけだ。

 有馬の場合は後者に該当する。

 有馬が行っていることは単純だ。コカビエルの攻撃の始動を確認する。その後に反則的な反射神経にて避ける。

 勿論、それだけで攻撃を避け続けられる訳がない。相手の視線、挙動、呼吸、それらで次の攻撃地点を予測し、何を狙っているのか、何処に誘導しようとしているのかを考え、予測する。

 戦闘中に敵の何手先も読み続ける。これがどれだけ困難なことかは実力者にしかわからない。

 有馬はコカビエルの猛攻を避け、両手の得物でいなす。

 一見防戦一方にも見えるが、それは有馬がわざとそうしているだけだ。

 コカビエルの攻撃の合間に反撃を入れることは可能だ。だが、その攻撃は決定打になりえない。流石の有馬も、捨て身の猛攻を避けながら、決定打を与えることはノーリスクでは難しい。

 

 

「ええい、ちょこまかちょこまかとッ!」

 

 

 だからこそ、有馬はコカビエルの心理的余裕を消すことにした。

 自分が攻めているにもかかわらず優位性を保てない焦燥感、紙一重で避け続けられる苛立ち、ただただ消耗していく体力、焦りを覚えない者は居ない。断じてそっちの方が安全に、楽に勝てそうだからとかそう言った理由はないはずだ・・・きっと。

 だが結果的に、コカビエルは知らず知らずのうちに追い詰められていく。

 二刀による攻撃は精細さを欠き始め、光の剣、槍の奇襲は単調なものに、いつの間にか全力とは程遠い動きをしていた。

 

 

「当たりさえ、当たりさえすれば貴様なんぞ―――――ッ!?」

 

 

 コカビエルが苦悶の声を上げる。それと同時に動き続けていた有馬の動きが止まる。

 今までなかった隙に、これぞ好機と考え、一切疑問を抱かず喰らいつく。

 二刀の光の剣の連撃と光の槍の掃射が有馬に襲い掛かる。

 

 

「防御壁起動」

 

 

 だが、有馬は一切動じることなく、IXAの防御壁を展開する。

 その表情には、防壁が破られることに対して不安は一切ない。

 それは慢心なのか、客観的評価なのかはわからない。

 そして、その結果は有馬の考えた通りとなった。

 コカビエルの渾身の一撃は、IXAの防御壁の前になす術もなく封殺された。

 

 

「なん、だとッ!」

 

 

 コカビエルは、自身の一撃をいとも簡単に防ぎ切られたことに大きく動揺する。

 有馬によって乱され、万全の状態ではなかった一撃は有馬の想定よりも軽く、受け止めても一切反動がなかった。

 ここでようやくコカビエルは致命的な隙を晒す。

 有馬はIXAの防御壁を解除し、IXAを振るう。コカビエルは遅れて上半身を捻り直撃を避けるが、左腕の肘から先が斬り落とされる。

 息を吐く間もなくナルカミの袈裟斬りが襲う。片翼で受け止めようとするが、今まで蓄積されたダメージが響いたのかあっさりと翼が斬り落とされる。

 片翼が斬られ、バランスを崩したコカビエルに追い打ちとばかりIXAとナルカミの連撃が襲い掛かる。

 袈裟斬り、横薙ぎ、斬り上げ、逆袈裟斬り、刺突。

 いっそ嬲っているのではないかと思われても不思議ではない程の連撃が続く。

 

 

「ふ、ざ、げる”な”ぁぁぁぁ!?」

 

 

 コカビエルは自身に当たることも構わず、光の槍を周囲に降らす。

 流石の有馬もこれは防ぐより避けることを選んだ。

 コカビエルから間合いを取った有馬。

 あれだけの戦闘を行ったにもかかわらず、その息は全くもって乱れがない。対するコカビエルはもはや虫の息だ。

 今のコカビエルの身体は、血だるまと言う表現が一番近い。左腕、右翼は斬り落とされ、身体のそこら中にIXAとナルカミの切傷と刺突された跡が見られる。

 それでも諦めない。自分たちの種族が最強だと信じ、それを証明するために今まで戦ってきたのだ。

 それにもかかわらず、魔王や天使長ならいざ知らず、ただの人間に負けることなどコカビエルのプライドが許さなかった。

 

 

「何故だッ!なぜ貴様は戦う!?貴様らが祈りを捧げる相手は既にいないというのになぜ戦う!?なぜここまで戦える!?」

 

 

 コカビエルの叫びが校庭に響く。

 今まで敵の言葉に耳を貸さなかった有馬が、この言葉で初めて動きを止めた。

 

 

 

■□■□

 

 

 私は今呆然としている。

 有馬貴将、噂には聞いていたが、実際の実力の真偽は定かではない。

 何故なら彼は常に一人で任務に赴くからだ。

 通常、任務を行う場合、二人のペアか、フォーマンセルの小隊で任務を行う事が基本とされている。

 だが、有馬貴将は一人で任務に取り組むことが多い。

 その理由はわからないが、彼は単独行動を好み、ペアで任務に行くことが少ない。

 それ故に彼の実力を知る人物は少数に限られる。

 だからこそ、彼の噂が独り歩きしている。

 はぐれ悪魔を傘で討伐した、戦闘中に居眠りをしていた、30を超える悪魔を一人で討伐し尽くした。

 このように普通では考えられないような眉唾物の噂が、教会の中では語られている。

 この噂を馬鹿馬鹿しいと笑う者やそれに尊敬の念を抱く者、意見は分かれているが、今回の任務でわかった。

 あの噂は本当だったんだ。

 コカビエルと闘い始めてからまだ何分も時間が経ってないが、私でもわかる、どちらが有利でどちらが不利なのかが。

 彼の攻撃は実に的確で、容赦がない。未来予知と勘違いしてしまうほどの回避能力、一つ一つの攻撃の繋ぎ目を感じさせないほど流麗な連撃、さらにあれだけ動いても息切れ一つしないスタミナ。

 対するコカビエルは彼の裏をかこうと必死になっているが、それに集中し過ぎて攻撃が単調になっている。身体能力の差で無理やり押し潰そうとしているけど、それでも尚、余裕を持って対処されている。あれで焦りや苛立ちが浮かばないはずがない。

 私は心のどこかで有馬貴将の事を侮っていたのかもしれない。

 神器も持たず、聖剣を使えるわけでもない、噂話が独り歩きしているような男に、私が劣っているはずがないと。

 だが実際はどうだ?

 私はコカビエルに手も足も出ず、一矢報いることもできていない。挙句の果てにデュランダルが使えるだけと断じられた。

 にもかかわらず、あれだけ私とイリナが軽んじていた有馬貴将は、顔色一つ変えず、淡々とコカビエルを追い詰めている。

 いっその事、悔しさも通り越して自分たちの哀れさに涙が出そうなくらいだ。

 そうこうしているうちに、コカビエルは満身創痍になり、戦闘も終了しようとしている。

 私は一体何のためにこの任務に来たのだろうか・・・

 情けない現状に項垂れる。

 そんな時にコカビエルは聞き捨てならない言葉を発した。

 

 

「何故だッ!なぜ貴様は戦う!?貴様らが祈りを捧げる相手は既にいないというのになぜ戦う!?なぜここまで戦える!?」

 

 

 祈りを捧げる相手がいない?

 それはいったいどういう事なんだ?

 突然の出来事に頭の整理が追いつかない。

 

 

「それは一体どういう事なの!コカビエル!」

「がふっ、簡単なことだ・・・・哀れな貴様らに教えてやろう・・・聖書の神はこの世に存在しない。過去の大戦で死んだのは魔王だけではない・・・聖書の神も死んでいたのさ!」

 

 

 かみが、しんだ?

 なにをいっているのか、ぜんぜんわからない。

 

 

「でなければ聖魔剣のような物が生まれるはずがない!魔王と神が死んだことによって、聖と魔の境界があやふやになっているからこそ、そのようなイレギュラーが生まれたのだ!」

「そ、そんな・・・主はもういない?なら私達に与えられる愛は・・・?」

「神の残したシステムを、ミカエルらが使えば多少の機能はする。だが、多くの信徒が切り捨てられたことを考えるに、システムは不完全、だからこそ些細な出来事で追放される者が増えたのだ」

 

 

 コカビエルの言葉が嫌でも私に現実を叩きつける。

 目から涙が流れているのが分かる。

 

 

「私は一体何のために・・・」

 

 

 今まで満たされていたモノが崩れていく。

 大切な何かが、私の根幹となっていたモノが崩れていく音が聞こえる。

 

 

「わかったか?死神、いや有馬貴将、神はとっくに死んでいる。貴様らに与えられていた愛は偽りにすぎん!それでよく今まで戦ってこられたものだ!」

 

 

 コカビエルはほくそ笑みながら有馬さんを見る。

 有馬さんもコカビエルの話を聞いてからずっと動いていない。

 

 

「ククク、いいぞ、まさに呆然と言ったところか?所詮貴様らのような惰弱な種族は何かに縋ることしかできないのだからな!」

 

 

 ハハハハハハ――――――――

 

 

 コカビエルは高笑いをしているが、もうどうでもいい。

 ここで死んでも神の元に召されない。

 今まで神の為と言って死んでいった者達は何のために死んだんだ・・・

 

 

 空虚さが私を飲み込もうとしたその時

 

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

 

 ここに来て初めて有馬さんが口を開いた。

 

 

「なに?」

 

 

 コカビエルも怪訝そうに有馬さんを見る。

 先程まで力無く俯いていた私も思わず顔を上げる。

 

 

「辞世の句はそれで十分かと聞いた」

 

 

 そう言いながら有馬さんはコカビエルに向かってゆっくり歩きだす。

 

 

「き、聞いてなかったのか!?神は死んだ、貴様らの信仰は唯の無駄だと言ったんだぞ!?」

「ゼノヴィア」

 

 

 有馬さんはコカビエルの言葉を聞き流し、私の名前を呼んだ。

 

 

「神は居ない。それを悲しむことは良い、だが絶望することは正しい選択ではない。お前にはまだ、帰る場所も、帰りを待っている人もいる。少しずつでいい、前を向け」

 

 

 今まで積極的に喋らなかった男が、ここに来て初めてゼノヴィア個人に向けて不器用ながらも言葉を発した。

 この言葉が、空っぽだったゼノヴィアに新たな命を吹き込む。

 

 

「わ、私には、まだ・・・」

 

 

 私には、まだやりたいことも、話したい人もいる、今ここで死ぬのはその人たちに対しての裏切りだ。

 だからまだ下を向けない、向くわけにはいかない!

 

 

「何故だ!教会に仕える者なら無視できない言葉のはず!なのに何故貴様は俺に向かってくる!?」

 

 

 コカビエルは後ずさりながら、恐怖の籠った目で有馬さんを見る。

 

 

「別に、どうでもいいから」

 

 

 最後の有馬さんの声は、何故か聞き取れなかった。

 有馬さんはナルカミをコカビエルに向ける。

 今のコカビエルにナルカミを避けるすべはない。

 終わりだ。

 

 

 バチチチチ!

 

 

 ナルカミから雷が放たれる。

 碌に動くことができないコカビエルの未来は決まっている。

 そう思った瞬間だった。

 

 

 

 バリンッ!

 

 

 結界が破壊され、白い流星が校庭に落ちた。

 

 

 

 

 


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