教会の白い死神   作:ZEKUT

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 誤字報告していただきありがとうです。
 更新速度が遅いのは勘弁していただけるとありがたいです。
 読者のみなさん、ここまで読んでくれてありがとうございます。
 これからも頑張って書いて行きたいと思います。



根底

 ファミレスに入り、ちょっとした食事を注文する。

 ゼノヴィアは遠慮したが、有馬が奢ると言い、その言葉に甘えることにした。

 普段金を使う事がないことから、今まで持ち歩くことはなかったが、前回の事でもしもの事を考え、自分のキャッシュカードを持ち歩くことにしたのだ。

 有馬は珈琲を口にしながら、トーストを頬張る。

 ゼノヴィアも注文した定食を口にする。

 しばらく食事の時間が続き、食べ終わってから一息つくと話が始まる。

 

 

「私は今、悪魔から勧誘されている」

 

 

 話の内容は、有馬が苦手とする個人に関することだった。

 何故こうもピンポイントで苦手なところを突いてくるのか、頭を抱えたかったが、珈琲を口にし、気持ちを落ち着ける。

 

 

「悩んでいるのか?」

「ッ!・・・・ああ」

 

 

 先程の言葉だけで、そこまで理解する機転の良さに舌を巻く。

 これなら、自分の求めている答えを、既に持っているのではないのかと、期待に胸を膨らませる。

 

 

「今まで教会で育ち、教会の為に戦ってきた私が、悪魔になってもいいのか。確かに主が居なかったことには、頭を鈍器で殴られたような衝撃的なことだった。だが、それでも私は信仰を、今まで信じてきたモノを簡単に捨てることはできない。今ならアーシア・アルジェントが言っていた言葉の意味が分かる。今まで信じてきたモノを捨てるのは容易ではない」

 

 

 苦笑を零しながら言いきる。

 まさかあの時、魔女と罵り、断罪しようとしていた相手の言葉の意味を、今になって実感させられるとは夢にも思っていなかった。

 これは経験した者にしかわからない、難しいことだ。

 だが、有馬はゼノヴィアよりも長く生き、それでいて物事を客観的に見ることができるほど視野が広い。

 そんな彼なら、少しは自分のことを理解し、道標を示してくれるのではないか。

 

 

「そうか、大変だな」

 

 

 だが、返答はそんな期待を裏切るような短い言葉。

 まるで他人事のように聞こえる無関心な言葉。

 それは期待していた言葉とは全くの真逆と言ってもいい言葉。

 だが、この言葉が当然なのかもしれない。

 そこまで親しくもない、出会ってからそう時間の経っていない相手に、これからの人生を大きく左右する相談をするのは果たして正しいのだろうか。

 

 

「そ、それだけ、ですか?」

「………」

 

 

 有馬からの返答はない。

 つまりそう言うことだ。

 これ以上話すことはない。

 暗にそう言っているのだろう。

 ゼノヴィアの中に疑問が支配する。

 何故、何で、如何して何も言ってくれない、あの時と違う、何が、おかしい、わからない、道を、示してくれ、教えてくれ、どうすればいい、何が正しい、選択、どれが。

 

 

「た、頼む・・・分からないんだ」

 

 

 そんな疑問で頭が埋め尽くされながら、助けを乞う声を上げる。

 まるで迷子になった子供のように見るに堪えない表情。

 それほど彼女は追い詰められていた。

 聖書の神の死、右も左もわからない異国の地、帰る場所も失った、助けを乞う相手もいない、そんな極限の状況が彼女を精神的に追い詰めた。

 何とか縋りつこうとするが

 

 

「俺から言うことはない」

 

 

 それすらも振り解かれる。

 道標どころか、アドバイス一つもらえない。

 八方ふさがりの状況に涙目になる。

 もしかしたら、いや、きっと何かきっかけをくれる。

 それだけを思い、有馬を捜したのにもかかわらず、返ってきた言葉は頭の中から排除していた最悪の言葉だった。

 

 

「そ、そうか・・・」

 

 

 呆然としながら、どうにか相槌を打つ。

 何も考えられない。

 やはり自分は何かに縋らなければ、考える事すら、自分で決めることすらできないのか。

 そう言った負の感情が支配していく。

 

 

「すまない・・・時間を取らせた」

 

 

 ゼノヴィアは虚ろな表情で立ちあがる。

 ここにはもう用はない。

 ここに自分が求める物はない。

 そう思い立ち去ろうとするが

 

 

「お前は何を選択する?」

 

 

 足が止まる。

 不意に告げられた言葉に思わず足が止まった。

 そんな彼女を知ってか知らずかはわからない。

 言葉を続ける。

 

 

「俺は選択した。そうして抗い続けてきた(生きてきた)

 

 

 今まで誰も聞くことのなかった有馬貴将の本心、それを彼女は初めて聞いた。

 その言葉は何処か惹きつけられる、ブラックホールのように暗く、深海の様に深い。

 

 

「お前の道だ。一人で歩いてみろ」

 

 

 意味が分からない。

 結局のところ、何が言いたかったのかわからない。

 アドバイスのつもりなら参考にもならない。

 本当に口下手すぎる。

 それでも何かを伝えようとしてくれた。

 その想いだけはよくわかった。

 迷いは消えた。

 涙はもう止まった。

 十分立ち止まった(休んだ)だろう。

 なら、もう歩けるはずだ。

 

 

「甘えていた、まだ縋ろうとしていた、まだ目を向けていなかった。だからこれからは前を向いて行く。何処に辿り着くかはわからないけど、一人で歩いてみます」

「そうか」

「でも、もし・・・疲れたら、また、会いに来てもいいですか?」

 

 

 少しの沈黙の後

 

 

「好きにしろ」

 

 

 相変わらず感情の読めない表情で、ぶっきら棒な言葉が聞こえた。

 

 

「ありがとう」

 

 

 今度こそ、ゼノヴィアは立ち去る。

 その後姿には、先程までのブレはない。

 迷いを振り切り、何か選択した強い人、その言葉が似合う。

 有馬も残った珈琲を飲み干し、席を立つ。

 帰ったらジークから何言われるだろう、そんな事を考えながら会計を済ませた。

 

 

■□■□

 

 

 翌日

 

 

 有馬とジークは別行動をとっていた。

 昨夜、何度も頼み込むジークに折れ、組手をする事となった有馬。

 就寝前の適度な運動という事で有馬も引き受けたが、ジークにとっては軽い運動なんてレベルじゃなかった。

 軽口を交わしながら30分程度、組み手をした。

 その間、ジークが地面に手を突いた回数は254回。

 あくまで組手という事もあり、加減をしていたがそれでもこの回数だ。

 鋭い蹴りは内臓にまで響き、真剣のように鋭い手刀は掠るだけで皮膚が浅く斬れる、組手が終わる頃には全身傷だらけの有様だった。

 そんな事もあり、今日はジークに休むように伝え、有馬は別任務に赴いていた。

 今回の任務は有馬にしては珍しい、護衛任務だった。

 護衛の対象は

 

 

「お久しぶりです、有馬」

 

 

 教会、天使のトップを務めるミカエル、彼が今回の護衛対象だ。

 何故ここにミカエルがここに居るのか、それは今回の三大勢力の会談にトップであるミカエルが参加するからである。

 魔王、堕天使総督、熾天使のトップ、この小さな町にこれだけの重鎮が集まっていることを考えると、はぐれ悪魔が多く潜伏しているのも頷ける。

 彼らに恨みを持つ者からしたら絶好のシチュエーション、襲撃をするにはもってこいだ。

 

 

「お久しぶりです」

 

 

 有馬も軽く会釈を返す。

 今回の会談前に、ミカエルから赤龍帝にちょっとした贈り物があるらしく、それの付き添いとして有馬は呼ばれた。要は立会人兼護衛の一人として呼ばれたのだ。

 はぐれ悪魔が多く潜伏する町でミカエルが護衛を付けないわけにはいかず、なら有馬でと言うよくわからない理由で呼ばれた。

 ミカエルは申し訳なさそうな表情で謝罪を始める。

 

 

「今回の護衛は無理を言ってしまい申し訳ありません。それに先日の任務では苦労かけました。私達も動きたいのは山々だったのですが、我々が介入することによって事態が悪化すること危惧し、動くことができなかったのです。先日だけではなく、貴方には厄介な仕事ばかり押し付けてしまい申し訳ありません」

「いえ、お構いなく」

 

 

 有馬貴将の噂は天界でも有名だ。

 それが今回のコカビエルを瞬殺した話で、さらに広まり、その実力は教会に留まらず、四大熾天使に匹敵するとまで話が広まりつつあった。

 ミカエルも有馬の事を少年の頃から知っており、その頃から実力は群を抜いて高かったことを覚えている。

 

 

「今代の赤龍帝と白龍皇を直に見た貴方に聞きたいことがあります。白龍皇は情報も少なく、更に赤龍帝はドライグの力に気がついたのは悪魔になってから。それも悪魔になって間もなく、更に歴代最弱の宿主だと聞きます。その為に天使から悪魔に贈り物をする機会を頂いたのです。ですが噂はあくまで噂でしかない、噂が真実とかけ離れたことであることも少なくない。そこで彼らを直接見た貴方の意見を聞かせていただきたいのです」

 

 

 ミカエルが今回用意した贈り物は聖剣。

 それも龍殺しの聖剣。

 彼の龍殺しの逸話を持つゲオルギウスが所持していたとされるアスカロン。

 赤龍帝を宿す兵藤一誠に龍殺しの聖剣を贈るのは、どこか皮肉がきいている気がするが、それは置いておこう。

 

 

「白龍皇は未知数、赤龍帝は闘いを何も知らない人間からしたら十分。悪魔や堕天使と闘うには未熟、その一言に尽きます。神器に依存しきったあの状態では、剣を十全に扱うことはできないと考えます」

「歴代最弱と言う噂は本当だったという事ですか。元々裏の事情を何も知らなかった彼に、そこまで求めるのは間違いだと思っていますが、これからの事を考えると少し不安が残りますね」

 

 

 三大勢力のトップが揃った会談、良くも悪くもこれからの未来を大きく変える。

 現在、悪魔に赤龍帝、堕天使に白龍皇が属していることが判明している。

 今まで二天龍が三大勢力に属することはなかった。

 会えば争い、周囲に甚大な被害を齎していた二天龍が、今になってどちらも三大勢力に所属しているのは、何かの前触れかもしれない。

 

 

「二天龍、私達にとっては恐怖の象徴でしかない彼らが、今になって悪魔や堕天使に属することになるとは。私達が変わる転機と言うべきか、何かの前触れと捉えるべきか・・・・考えても仕方のない事ですね。では、赤龍帝の彼と会いましょう。形だけとはいえ、護衛をお願いします」

「わかりました」

 

 

 ここで話を打ち切り、二人は待ち合わせ場所に向かう。

 

 

「お待ちしておりました」

 

 

 神社に着き、出迎えとして現れたのは、グレモリー眷属である姫島朱乃。

 服は巫女服を着ており、どこか着慣れているような感じがする。

 

 

「わざわざ出迎えていただき申し訳ありません。彼はまだ来られていませんか?」

「はい、お待たせして申し訳ないんですが、少々お待ちいただいてもよろしいですか?」

「構いませんよ。それよりも特殊儀礼を施したアスカロンはどちらに?」

 

 

 ミカエルの疑問に朱乃は、こちらですと、案内をする。

 案内がされたのは神社の中、そこに保管されているアスカロンが見える。

 

 

「後はミカエル様が、こちらで最終調整を行っていただけましたら完了となります」

「各陣営が施した儀礼、私が最終調整を施せば悪魔にも使うことができる聖剣に変わります。では、後は私に任せてください」

 

 

 ミカエルは目を瞑り、聖剣の最終調整に入る。

 邪魔になると考えた有馬と朱乃は神社の外へ出る。

 

 

「先日はお世話になりました」

「俺の方こそ、此方の者が世話になった」

 

 

 先日のコカビエルが起こした事件、有馬が参戦しなければ悪魔側、教会側共に全滅していた可能性が高かった。

 白龍皇が後から現れたが、彼女たちだけで白龍皇が現れるまで状況を維持できたかと言うと難しかっただろう。

 

 

「いえ、彼女たちがいなければ私達はもっと苦戦を強いられていました。感謝こそあれど、邪険に思うはずがありませんわ」

「それならありがたい」

 

 

 そう言えば、と思い出したように朱乃が口を開く。

 

 

「ゼノヴィアちゃんですが、先日悪魔に転生されましたわ」

「・・・そうか」

 

 

 ゼノヴィアが悪魔に転生した。

 昨日、話をした際にその可能性は考えていた。

 もしかしたら、有馬の言葉がきっかけで悪魔になったのかもしれない。

 

 

「ゼノヴィアちゃんはちょっと前まで随分と悩んでいました。それが少しの時間、外に出ただけでその迷いが消えていましたわ。あの少しの時間、何があったかあなたなら知っているのではありませんか?」

 

 

 その言葉で思い起こされるのはファミレスでの出来事。

 朱乃の話が確かならその時の会話によって、ゼノヴィアは悪魔になることを決心したのかもしれない。

 有馬からしたら大したことを言ったつもりはない。

 本人は何を言えばいいかわからなかった為、彼女自身に答えを丸投げをしたつもりだった。

 その結果が悪魔に転生。

 なぜそうなったのか、あの時の言葉に何を感じたのか、それはゼノヴィアにしかわからないことだ。

 

 

「一言だけとは冷たい方ですわね。元同僚何でしょう?」

「ゼノヴィアが選択した道だ。俺が口を出すことじゃあない」

 

 

 その言葉は薄情だと捉えられるが、ゼノヴィアの新たな道を祝福しているようにも聞こえる。

 朱乃は前者の捉え方をした。

 

 

「薄情な方。私は先輩としてゼノヴィアちゃんを支えていきます。彼女を追放した教会の様に見捨てはしません」

 

 

 だからなのだろうか、朱乃の言葉は刺々しく、有馬を糾弾するような言葉を口にしてしまった。

 それに、はっとした朱乃は慌てて言葉を訂正しようとする。

 

 

「し、失礼しました!先程の言葉は――――――」

「構わない、彼女を頼む」

 

 

 先程の言葉は教会全体を敵にしてもおかしくないような言葉だった。

 それこそ、その場で殺されても仕方ない程。

 寛容、心が広いと言ってしまえばそれまでかもしれない。

 それでも神父が教会への暴言を無視するとは思えなかった。

 しかし、目の前の男は一切怒ることも無く、感情一つ変えなかった。

 その事が逆に朱乃に恐怖を与える。

 生物と言うのは未知に恐怖する存在だ。

 今彼女は有馬貴将と言う未知の存在に心から恐怖していた。

 感情が抜け落ちたような淡泊な言葉、喜怒哀楽が感じられない表情、人間から大きく逸脱した強さ、それらすべてが彼女の恐怖を煽る。

 

 

「朱乃さーん」

 

 

 そんな恐怖が支配しようとする中で救いの手、と言うには大げさかもしれないが、いいタイミングで一誠が到着した。

 

 

「兵藤一誠が到着したか」

 

 

 有馬は一誠が到着したことを確認すると、神社の中に向かう。

 おそらくミカエルを呼びに行ったのだろう。

 先程の恐怖から解放された事に安堵しつつ、今まで感じていた恐怖を紛らわせるように笑顔を作る。

 

 

「いらっしゃい、イッセー君」

 

 

 

■□■□

 

 

 その後、ミカエルと一誠の話は無事に終わり、アスカロンは無事に一誠に渡された。

 その中で一誠が有馬に先日の言葉を謝罪しに来たことなどがあったが、有馬は気にしていない、気にするなと言い話を切り上げた。

 有馬からしたらそんな事はとうに忘れており、そんな事もあったなと思いだすぐらいだった。

 その後、有馬とミカエルは各々の予定で別れるはずだったが、意外にもミカエルに呼び止められた。

 

 

「有馬、念を押すようで申し訳ありませんが、今回の会談は極めて重要です。いつものようなことはしないでくださいね」

 

 

 どんな仕事でも完璧にこなし、教会本部にも大きな信頼を得ている有馬だが、一つだけ問題があった。

 会議の無断欠席。

 有馬は今までどんな重要な会議であったとしても参加したためしがない。

 何度か強く咎め、半ば無理やり会議に参加させたこともあったが、その時参加した会議で何とも言えない威圧感のような物を放つ有馬を見て萎縮した者達が大量に出た為、それ以降有馬が会議に無断欠席することが暗黙の了解として決められた。

 

 

「貴方が会議を無断欠席することに頭を悩ませるものが多くいます。何が気に入らないのかは知りませんが、会議にはできる限り参加するようにしてください。今回の会談は欠席することは許されません。もしもの時は貴方を引きずってでも参加させるので覚えておいてください」

 

 

 ミカエルは入念に釘を刺してからその場から去った。

 実際は威圧感を放っていたのではなく、緊張して気を張り過ぎていただけで、会議に参加しなかったのは任務が重なって参加できなかっただけなのだが、ミカエルがそれを知る術はない。

 何か理不尽に怒られた気がする、と不満を持ちながら宿に引き返した有馬だった。

 その後、組手と称してジークをボコッ―――――鍛えてストレスを発散した

 

 

 

 余談

 

 

「手合わせしよう」

「今日こそ貴方に届いて見せます」

 

 

 組手が始まると同時にナルカミが放たれる。

 

 

「ちょっ!?いつものと違うっ!」

 

 

 結果、ジークは満身創痍を通り越し、死体と勘違いしかねない程ボロぞうきんとなった。

 この日、謎の雷が駒王町に降り注いだ。

 

 

 


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