精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~ 作:緒方 ラキア
人の心は難しい。
辺り一面に湯気、独特な硫黄の香り、満天の星空。
温泉である。
この辺りは、かつて旅館が立ち並んでおり、言わずと知れた温泉街であった。しかし、ほとんどが天変地異によって消失してしまったが、ここだけは難を逃れたらしく、ヴァリアントと村の人々が協力して修理して蘇った。
「あーーーーーー!」
リーフは抱きしめてくる暖かい感触を肌に感じながら、至福に満ちた声を上げる。今までの汚れが溶けて消えてゆくようであった。
だが、リーフは現在進行形で現実逃避真っ最中だ。出来る事なら感覚全てを無くしてしまいたいぐらいであった。
その理由は、
「あなた、何でそんな端にいるのよ。」
「そうだよお兄ちゃん、もっとこっちに来てよ。」
「えっと・・・、あの~・・・」
何故かカスミ、明美、光が一緒に入っているからだ。
「どうしてこうなった?」
事の始まりは夕方までさかのぼる。
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ダンッ!と、机を叩きつける音が村長の家に響き渡る。リーフは村長に詰め寄っていた。だが、決して怒っている訳ではない。
「今、何て言った?」
リーフは先程の言葉が本当なのかさらに詰め寄る。
「えっと・・・、ゆっくりしてください?」
「違う、その前。」
「つまらない所ですが?」
「違う、その後。」
「お、温泉もありますので?」
そうその言葉だ。どうやら自分の耳は確かだった。歓喜が身体を巡りプルプルと震え出す。
リーフは困惑する村長の胸ぐらを掴み、
「・・・ろ。」
「はい?」
「今すぐ案内しろーーーーーー!!!」
「は、はいぃぃぃーーーーー!?」
後に村長は、あれほど生き生きして、喜びに満ちたリーフは見たことがないと、村人達に語り継いでおり、リーフは大の温泉好きだと噂が広まってゆく。
「こちらです。」
案内された場所は、村からそれほど離れていない森の中に存在した。すでに辺りは少し暖かく、仄かな硫黄の香りが鼻をつく。
村長は、先程からやけに静かな隣にいるリーフに目を向けると、
これまでにないぐらいに、目を輝かせたリーフがいた。
その姿はまるで、可愛いぬいぐるみを見つけた少女のようであった。
リーフはゆっくり振り返り、村長に目で告げる。
(入ってもいい?)
(どうぞどうぞ。)
村長もまた目で返答する。
リーフは了承を得ると、風のように脱衣場に走って行った。
しかし、村長は大切な事を良い忘れていた。
ーーここが混浴である事を。
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脱衣場は檜木で出来ていた旅館のような雰囲気であった。
リーフは棚の籠を取り出し、袴と着物を丁寧に脱いで、触手をうなじにしまって髪をほどく。シワにならないよう袴と着物を綺麗に折り畳み籠に入れる。
リーフは自分の体を見る。そこには鋼のように引き締まった筋肉、無駄な贅肉は一切付いていない。
この姿を見ると、三人の修行の日々を思い出す。
思い出に浸りながら、タオルを持ち浴場に向かった。
扉を開けた先には、満天の星空の下で光輝く透き通る温泉。その温泉を囲うのは不揃いの石がしっかりと積み立てている。周りの明かりは炎を使った物であった。
リーフは風呂桶を手にとりお湯を掬い、掛け湯する。リーフの身体を心地よいぬくもりが包み込む。久々の快感に思わず涙がこぼれ落ちそうになった。
その後身体をまんべんなく洗い、タオルを頭に乗せて湯船に入っていく。
ちゃぽちゃぽとお湯をかき分けながら奥に着くと、ゆっくり全身を沈ませ肩まで浸かる。
じんわりとお湯の温かさが、芯まで染み込んでくる。
「はぁ~~・・・、極楽極楽。」
心地よい感覚に身を委ね、身体を伸ばしながら星空をぼんやり眺める。
かつてのネオ東京では、街の明かりが強すぎるのと、企業の工場などから出るスモッグによって、このような美しい星空は見ることなどかなわなかった。さらに当時は、日本の自然も減少していた為、美しい星空など高い山に登るか、数少ない自然の奥地に行く事しか方法はなかった。
そう考えると、この世界は自然が戻りつつあるのかと、しみじみと感じる。
ふと、リーフは家族の事を思い出した。
本当に手掛かりなど見つかるのか、そもそも見つけたとして自分を認めてくれるだろうか。
この村とヴァリアントの他種族は仲が良いけれど、現実は都市では人間は奴隷まがいの仕打ちを受けていると、リトビ達から聞いた。対する人間も他種族にあまり良い感情を持っていない。世間一般なら、この村の状況こそ異端なのだろう。
でも、人間と他種族が互いに助け合いながら、仲良く笑っている光景を見た時、とても良い気持ちになった。
どうしてだろう、昔もこの光景が見たくて・・・
星空を見上げながら物思いに更けていると、脱衣場の方から声が聞こえた。
誰だろうと、脱衣場の扉に目を向けると同時に扉は開かれた。湯煙でこの位置からはよく見えないが、入って来たのは三人。
「やっぱり、ここよね~。」
「そうですね、星も綺麗に見えますし。」
「お風呂~。お風呂~!」
「・・・ん!?」
聞き覚えのある声に、思わず変な声を上げる。しかし、その声は向こうの三人にもはっきり聞こえた。
風が吹き湯煙が晴れてゆく。そこにいたのはやはりカスミ、光、明美の三人であった。
リーフは三人と目が合う。当然の如く三人は何も身に付けておらず、産まれた時の姿である。アニメやマンガなら大事な所は隠れるのだろうが、残念ながらここは現実で、そんな都合のいい事など存在しない。
リーフがひきつった表情を浮かべていると、
「あ!お兄ちゃんも来てたの~。」
「ちょ!何であなたが!?」
とりあえず、何でもいいから隠せと言おうとするけれど、それよりも早く光が動いていた。
「いっ、いやーーーーーーーーー!!!」
光は足元にあった風呂桶を、全力でリーフに投げ付ける。
プロ野球選手でも打てないんじゃないかというくらいに放たれた豪速桶は、吸い込まれるようにリーフの顔面に突き刺さった。
そのままリーフは気絶したかった。しかし、あの修行によって鍛え上げられた身体は、この程度ではダメージにもならない。
そんな事よりも、リーフは素早く頭に乗せていたタオルを自分の目を隠すように巻き付ける。これで三人の姿は見えない。
その状態で三人に問う。
「何で、あなた方はここに。」
「久しぶりに一緒にお風呂にしましょうって事になったから、あまり使わないこのお風呂に来たのよ。混浴だけど滅多に使う人がいないと思ったんだけど。」
カスミの表情は見えないが、まさかあなたがいるとはねとでも言う表情を浮かべているのだろう。
それよりも、混浴だなんて一言も説明しなかったぞ、あの村長。後で文句言うか。
「では、私は先に上がります。」
そう言って、リーフは修行の一環で教えてもらった。耳だけでその場の空間を認識して、立ち去ろうとするが・・・
「えー、お兄ちゃんも一緒に入ろうよ。」
いやいや、さすがにこれはダメだ。イエスロリータドントタッチ、お兄ちゃんは一刻も早くここから立ち去らなければならないのだから。
「まぁ、私もあなたがいても問題無いわよ。ね、光。」
何でオッケーが出るんだよ。普通なら恥ずかしがりながら追い出すのが正しいリアクションだろ。タオル持っているなら隠してくれ、目隠しでも隠してないと分かるから。隣で隠している光が一番正しいリアクションのはずだ。
やはり、精霊と人間の価値観が違うからだろうか。
「えっと・・・、わ、私も一緒に入りたいです!」
光サーーーーン、さすがに流されてませんか!何でこうなるんだよ!!
結局、互いにタオルを巻く事を条件に、混浴する事になったのだった。
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そして現在、リーフは三人に背を向け距離を取り入浴中である。
先程から明美は隙有らば近付いて来ようとする為、逃げながら入浴してる。全然気が休まらない。
「・・・すごいですね、あの身体。」
「・・・どうやったら、ああなるのかしら?」
二人はリーフの肉体を見て
すると、光が明美を連れて離れて行った。なんだろうと考えていると、カスミが近付いて来て話し始めた。
リーフは身体を見ないようにどぎまぎしながら話を聞く。
「ちょっと・・・、良いかしら?」
なんだろうか?
それにリーフも聞きたい事があった。あの時何故突然泣き出した事だ。
「もう一度聞くけど、あなたはこの髪をどう思っているの?。」
「髪ですか?白い所は雪みたいで綺麗じゃないですか。」
「・・・っ!あ、あありがとう・・・。」
リーフは首をかしげる。なるべく目を瞑っているとはいえ、カスミが挙動不審な事は気配でわかる。
やはり、自分のせいで泣かした事を気にしているのだろうと、カスミに話し掛けると、予想外の返答が帰ってきた。
「あなたのせいではありません。ただ・・・、嬉しかったのです。」
「嬉しかった?」
リーフは思っていた事と違い聞き返した。
「ええ、・・・少し昔話に付き合ってください。」
私は中央都の大貴族の長女として不自由のない暮らしをしていました。
父上も母上も私を大変可愛いがってくれて、妹達とも一緒に魔法の勉強をしながら仲良く過ごしていました。
父上は私の将来を一番に考えていて、婚約者との仲を見繕ってくれた。
母上は立派な淑女にする為、私にあらゆる作法を教えてくれた。
こんな日々が永遠に続くと思っていた。
ある日、私は高熱を出して倒れた。身体が焼けるような暑さだったけども、数日で治った。
しかし、私の髪が白く染まり始め、本来の
ーー医師からは龍脈病だと言われた。
龍脈病の発症原因は、未だに解明されておらず、有効な治療法も存在しない。一度発症すると一生治る事はない。
でも、それよりも私がショックを受けたのは家族の態度が一変した事だった。
優しかった両親は、私など最初からいなかったように無視し、暴力的な言葉を言い始めた。
妹達は私を見るなり逃げ出し、関わろうとしなかった。
しかし、差別をするのは家族だけではなかった。噂を聞きつけた人々も、石を投げるなど、さまざまな嫌がらせをした。
その後しばらくして、私は家族の縁を切られ、家から追放させた。使用人の中には仕打ちに不満を持つ者もいたが、父に逆らう事はできずただ見ているしかなかった。
居場所を無くした私はオーバードから去った。
何もかも失った私は、死ぬ場所を求めてこの森に入った。そこでこの集落の存在を知って私はここ住み始めた。
「最初は集落の人とも仲良くなれなかったけれど、密かに交流のあったイオタ村の光と明美に出会って、私は変われた。光と明美を助けてくれて、改めて感謝するわ。」
「いえ、お礼を言われるほどの事では。」
「そ、それに・・・」
カスミは顔が真っ赤になりながら、もじもじしている。のぼせたのか?と首を傾げる。
「この髪、無くなってしまえばいいと思っていたの。でも、あなたに綺麗だって言われて嬉しかった。ありがとう。」
カスミは心からの気持ちを込めて、リーフに感謝を告げた。
リーフは不意にも、トキメキそうになった。その感情を表に出さずにリーフも笑顔で対応する。
「いえ、こちらこそあなたに出会えて良かったです。」
「~~~っ!?べ、別に・・・感謝すると良いわ、この私から感謝されるなんて、光栄に思いなさい!」
えっ?何で急にお嬢様口調に、と思ったがもうスピードで湯船から上がり、離れて行ってしまった。
しかし、急に立ち止まってこちらに言った。
「それと・・・、光の事もよろしくね。」
それだけを言うと、カスミは扉を開け脱衣場に消えて行った。
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どういう意味だろう、疑問に思っていると光と明美が表れた。
明美の方はもう限界が近いようだ。すでに顔が真っ赤で、大丈夫なのか。
「明美ちゃん、そろそろ上がったらどうだ?」
「うーん、そうする~。」
力無く言うと、おぼつかない足取りで脱衣場に向かって行く。万が一何かあっても、カスミがなんとかしてくれるだろう。
「・・・」
「・・・」
いや、これでは光と二人きりだろ!
二人共目を合わせず無言でいる為、気まずい空気が流れる。
リーフがパニックになっている中、静寂を破るように光が話し掛ける。
「やっぱり、本当のお姉さんの方が良いのかしら。」
「えっ?」
突然光が言い出した言葉に、リーフは驚いた。それに光の表情はどこか暗い雰囲気を漂わせている。
リーフはカスミの言葉を思い出し、声を掛ける。
「どういう事ですか?」
「・・・聞いてくれますか?」
リーフが頷くと、カスミはこれまでの事を語り出した。
見ての通り、明美は私の妹ではありません。
彼女の本当の姉は、すでに前の戦争で亡くなっています。両親もその時に。
私は星原家にホームステイに来たアメリカ人でした。本当の名前は、シンディと言います。
簡単な日本語しか喋れなかったにも関わらず、明美と光とは、会ってすぐに仲良くなりました。
でも、しばらくして精霊が戦争を仕掛けて来たと、ニュースが流れるようになって故郷も、その他にも沢山の国々が敗北してゆきました。
やがて、日本にも精霊達がやって来て、一般市民に避難勧告が出され、人々は我先にと逃げ出して行った。
しかし、無情にも戦場は一般市民も巻き込むほどに拡大して行った。
その日、私達が避難している中で、国防軍と精霊の戦闘が始まりました。
両者共に私達がいる事など関係無く、一般市民は流れ弾や精霊の攻撃によって、命を散らしていきました。
私達が逃げているところにも、戦車の砲弾が着弾しました。
痛みで目を開けるとそこには、血だらけの光と明美の両親が倒れていました。二人共すでに事切れていました。
私は明美と光の二人を探しました。明美の方は私の近くにいて無事だと分かりました。
でも、光は着弾の衝撃で飛び散った瓦礫に潰され、血を流していましが意識はあるみたいでした。
『・・・お父さん?・・・お母さん?』
いつの間にか明美は目を覚ましていて、目の前の惨状を目の当たりにしてしまったのです。
『お姉ちゃん?・・・いや、いやーーーーーーーーーー!!!』
強すぎるショックを受けた明美はそのまま再び気を失ってしまいました。
私は明美を抱えながら、光を助けようとしましたが、光は私に逃げるようにと言い出したのです。
『明美を連れて、早く逃げてシンディ!』
『イヤデス!』
私はひたすら瓦礫を退けようとしましたが、退けても新しい瓦礫で埋まってゆきます。
『聞いてシンディ。私はもう逃げられないの、でもあなたと明美は助かるかも知れないの。』
『光・・・。』
『だからお願い。明美を連れて逃げて!!』
『・・・わかった。』
私は明美を抱き抱えて逃げ出した。涙を流しながら決して振り返らず走り続けた。
その後、私と明美は精霊連合に保護された。
人類の敵と言われている精霊連合だが、民間人には適切な対応をしていた。明美にも、ちゃんとした治療を施してくれた。
けど、明美が起きた時こう言ったんです。
『お姉ちゃん、誰?』
明美は両親も光の事も忘れてしまいました。
その時私は、このままではこの子は一人ぼっちになってしまうと思いました。
だから私は・・・
『ワタシ・・・ハ、アナタノアネ・・・ヒカリデス。』
嘘をつきました。
「明美は、私を本当の姉だと思っています。でも・・・嘘なんです。」
「・・・」
リーフは、ただ黙って聞いていた。うかつに声など掛けられない。
「ずっと嘘をつき続けているんです。」
目に涙を浮かべ、話は続く。
そんな彼女に、リーフは優しく頭を撫でる。
光は驚きの表情を浮かべリーフを見る。リーフも彼女に向き合い告げる。
「あなたが本当のお姉さんでなくても、あなたが明美ちゃんを思う気持ちは本物のはずです。」
「・・・っ!」
「だから、これからもお姉さんでいてください。」
リーフの言葉はただの気休めになってしまうかも知れない。けれど、リーフは彼女にそう言った。
そして、涙を流し続ける光の頭を撫で続けた。
入浴中
明美「お兄ちゃん待てーーーーーー!」バチャバチャ
リーフ「来るなーーーーーー!」バチャバチャ
カスミ「何であの肉体なのに、女の色気出せるのよ。」
明美「女性として、自信を失いそうです。」
リーフの髪を下ろした姿は、とても色っぽい。