精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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後半、スタートです。


18話「死闘②」

(間違いなく、こいつはグールだ。ゴブリン達が怯えていた原因はこいつか。)

 

リーフはかつて出会ったグールと同じ気配を感じ取っていた。

そして、奴は姿を現した。その姿は初めに出会った個体とは、相違点があるものの、リーフはグールに間違いないと確信した。

グールはゆっくりと正門をさらに破壊して村の中に入って来る。 

 

『ウォアァァァーーーーーーーーーーーー!!』

 

グールは咆哮を上げる。空気が振動し、立ち向かおうとする自分達に恐怖を与える物である。

リーフ以外の全員は無意識の内に足を一歩下げていた。

しかし、そんな中でもリーフは目の前のグールが初めて出会ったグールよりも遥かに強いと言う事を感じていた。

あの時のグールは体が細く腹が異常に膨れていた。だが、目の前のグールは体つきはがっしりしていて、ボディービルの選手のようであった。

逃げ出そうとしていたゴブリン達を、潰しながらリーフ達にゆっくり近づいて来る。

グールの8つの目はどういう訳か、リーフしか見ていない。気のせいかどこかで見たような顔つきであるような・・・。

最後のゴブリンを踏み潰すとグールは歪んだ言葉を言い放った。

 

『見つけたぞ!』

 

これにはリーフ以外も驚く。それもそのはず、言葉を話す魔物など今まで聞いた事などなかったからだ。

一部の魔物は相手を油断させる為に、冒険者の言葉を真似する個体がいるとは、極稀に存在している。

だが、このグールはハッキリと意思を持っている。しかも、とてつもない憎悪と殺意をリーフに向けて。

しかし、そんなグールに対してリーフは非常に不機嫌に返答する。

 

「誰だテメェ?」

 

エナジー・ボールの暴走によって半分の魔力を消費したリーフは、身体にまとわりつく疲労感、倦怠感と不快感で、いつもと違って口調が荒れていた。

 

『忘れたとは言わせないぞ、お前に復讐する為にこの姿になったのだからなぁ!』

 

「だから誰だよ・・・、名前言ってみろ名前。」

 

一切怯む事なくグールに接するいつもと雰囲気が違うリーフに、後ろにいる全員は戦慄する。なんで動じないだあいつは!とその場の全員がそう心の中で呟いた。

 

『俺はエルオン・ナトルクス!思い出しただろ。』

 

「・・・知らねぇよ、今虫の居所が悪いんだ。もう倒しても良いか?」

 

頭を掻きながらそう呟く。最早リーフの記憶にすら残っていない事に、エルオンの怒りは限界を超える。

 

「あの・・・ボス。こいつ前に俺達を雇っていた中位木精霊(アルラウネ)ですよ。」

 

「ん?・・・、ああいたなそんな奴。」

 

ポークがリーフに補足するかの如く小声で説明する。

確か光を拐おうとしていた奴がいたな、自分の事を女だと思っていたあの中位木精霊(アルラウネ)か・・・

思い出したら余計に腹が立ってきた。

 

「何で木精霊のあなたがグールになってしまったのですか!?」

 

カスミが声を荒らげてエルオン・グールに問い掛ける。

 

『ハハハ!答えてやろう。私はあの後すぐにグールに襲われ喰われたのだ、しかし神は私に新たな力を授けなさったのだ。』

 

『私はグールの意識を支配し、木精霊の力と合わさって私は最強の存在となったのだ!』

 

そんな訳がない。グールは意思を持つ生物を補食した際、その生物の記憶を読み取る事が出来る。

エルオンは自分の意識が飲み込まれている事に気付いていない。いや、最早完全にグールになってしまったのだろう。

 

『復讐の為に、この辺りのゴブリンを集めて無防備な所を襲撃させるはずだったが、さっきの爆発音を勘違いしたゴブリン共は勝手に動いてな、計画がめちゃくちゃになってしまった。』

 

その爆発音はリーフがエナジー・ボールを爆発させた時の物である。

幸運な事にそれによってイオタ村を警備していた豚人(オーク)達は異変に気付いて、正門を閉め村人を避難させる事が出来ていた。

そして、ヴァリアント達も早急に行動が出来た事を。

しかし、それで一世一代の大勝負に出ていた一人の少女の邪魔をしてしまった事を、リーフ本人は知らない。

 

『まぁいい、まずはここにいる貴様を殺してやる、楽に死ねると思うなよ!』

 

「・・・上等だ、返り討ちにしてやる。」

 

すでに血で汚れた短剣と片手斧(ハンド・アックス)を構えエルオン・グールに突進する。

エルオン・グールとの戦いが幕を開けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エルオン・グールは突進するリーフに容赦なく拳を突き出す。リーフはそれを紙一重で避け短剣を腕に突き刺す。

しかし、血脂が付着している短剣の切れ味は0に等しく刃が通らない。

 

「ちっ!」

 

『うらぁ!』

 

すかさず間合いを詰めたエルオン・グールは拳を降り下ろす。リーフは避けたが、先程までいた場所はエルオン・グールの拳が地面にめり込み亀裂が入る。

動きが僅かに止まったエルオン・グールの目玉めがけて、短剣をおもいっきり投げつける。

くるくると回転しながら飛んでいく短剣は、見事にエルオン・グールの目玉の一つに突き刺さった。

 

『ぐうぁー!』

 

エルオン・グールは突き刺さった短剣を抜こうとするが、

 

【我が身に流れる緑の力よ、5つの矢となり、敵を打て。】

 

【グリーン・アロー】

 

カスミが詠唱によって生み出した光の矢が解き放たれる。

一つは目に命中し、残りは上半身のあらゆる所に突き刺さった。

 

「リーフ殿、助太刀いたす。」

 

「腕が鳴るにゃー!」

 

「俺達もボスを援護するぞ!」

 

苦しむエルオン・グールにグアナ、クロネ、ポーク、カツ達も攻撃に加わる。

エルオン・グールも気付き、凪ぎ払おうと腕を振るう。

全員それをかわし各々の武器をエルオン・グールの足に突き立てる。

痛みをこらえながらエルオン・グールは足元の奴らを潰さんと腕を上げる。

だが、振り下ろすよりも先に、カクニが三本の矢を一斉に放つ。

矢は全てエルオン・グールの首に命中し、エルオン・グールは苦しみもがく。その隙にエルオン・グールの足を踏み台にして、心臓のある位置まで飛び上がり、ガントレットの拳を叩き込む。

 

「猫パンチ!!」

 

空気が破裂するような爆音が響き、ガントレットがエルオン・グールの胸にめり込む。

明らかにリーフの知る猫パンチではない。威力はコンクリートの壁を貫くほどであろう。

しかし、エルオン・グールはクロネを見て嗤う。

そしてそのまま、空中で無防備になっているクロネを掴み取る。

 

「ニィャーーーーーーーー!?」

 

苦痛と絶望に満ちたクロネの叫びが、ミシミシと鳴るバックミュージック(骨の折れそうな音)と共に響き渡る。

その様子を見るエルオン・グールは顔を歪め嗤う。

 

「クロネ!」

 

「猫助!」

 

リーフとポークが助けようとするが、片方の腕が振るわれ、民家を破壊し瓦礫が飛び散って近づく事さえ困難になってしまった。

カスミとカツが狙い射とうと構えるも、エルオン・グールと近すぎる為下手をすると捕らわれているクロネに当たりかねない。

リーフ達にグアナも加わるが状況は大して変わらない。

最早救う事は出来ないのかと考えたその時、上空から猛スピードで急降下する影があった。

その影はどんどんエルオン・グールに迫って行き・・・

 

「クロネちゃんを、離せーーーーーーー!!」

 

怒りが籠められた渾身の急降下蹴り(ダイブキック)が、エルオン・グールの顔面を深く切り裂き、鋭い爪がこれまでの攻撃で一番のダメージを与えた。

これまでにないダメージを受けたエルオン・グールは仰け反り、握っていたクロネを手放した。

ヒバリは即座に転換してクロネを足で受け止め、離れた場所に下ろす。

すぐさま近寄ってきたカスミが回復魔法を唱えた事で、クロネの命は何とか救われた。

そしてエルオン・グールは顔の傷を抑えており、動きが鈍くなっていた。

 

「全員突撃!!」

 

リーフの掛け声と共に前衛の者達はエルオン・グールに総攻撃を始めた。

それぞれの武器をエルオン・グールに突き刺していく。次々とエルオン・グールの身体には傷を増やしていく。

 

「今だボス!止めをさせ!」

 

リーフは今出せる力を振り絞り飛び上がる。そのまま片手斧(ハンド・アックス)を天高く掲げ、うなじ目掛けて渾身の力で振り下ろす。

確実に背骨を砕かんとする会心の一撃は吸い込まれるようにうなじに当たり・・・

 

リーフの片手斧(ハンド・アックス)が砕け散った。

 

その瞬間頭が真っ白になった。

リーフはいつもと違い精神が不安定であった。本来なら力加減を考え、無駄のない動きで相手と戦う。

しかし、今のリーフはただ力任せに武器を振り回し、荒れ狂いながらエルオン・グールと戦っていた。

そんな事をしていれば、当然片手斧(ハンド・アックス)の耐久力は限界を迎える。

そしてリーフはその場で呆けてしまった。

すると、エルオン・グールのうなじからものすごい勢いで『何か』が飛び出した。

 

その『何か』はリーフがよく知っているものであり、『何か』はリーフに迫り、リーフの意識を刈り取る一撃が打ち込まれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エルオン・グールと皆が戦う場所から少し離れた所を走る光の姿があった。

避難したはずの光が何故こんな所を走っているのかというと、全てリーフに幻龍を届ける為であった。

光は避難した後、少しでもリーフの力になりたいと考えた光は明美を村長に任せ、一人リーフの泊まっていた民家にへ向かった。

道中ゴブリンの襲撃に怯えながらも、奇跡的にたどり着いた光はリーフの愛剣を抱えてリーフ達の場所に走り出した。

思った以上に重量感がある幻龍を抱えて懸命に走る。

しばらく走り続けているとリーフ達の声と姿がうっすらと見え始めた。

そして、気になっている目的の人物はすぐに見つかった。リーフは巨体の上に乗っており、まさに勝負は決したように光は見えた。

これなら届ける必要はなかったかなと思ったが、それでも刀は渡す事は出来るだろうとリーフに声をかける。

 

「リー・・・」

 

だが、言葉は最後まで続かなかった。

ゴキッ!と嫌な音が聞こえたと思うと、光の左側に何が凄まじい速度で通り抜けた。

風が吹き荒れ目を瞑り、飛ばされないように思わず体勢を低くした。

風が治まると光は目を開けて何が起こったのか確かめる。

目の前を見ると、カスミ、ヒバリ、クロネ、グアナ、ポーク達が信じられないものを見たかのような表情を浮かべてこちらを見ていた。

いや、正確には彼ら彼女らは光の後ろを見ていた。

光はゆっくり後ろを振り返り、その光景に頭が真っ白になった。

 

先程まで前にいたリーフが仰向けでそこに倒れていた。

 

意識はなく、頭から流れ出る血は地面を汚していく。

 

「いや・・・、いやぁぁぁーーーーーーー!?」

 

光は無我夢中でリーフに駆け寄る。

 

「リーフさん!しっかりしてください!リーフさん!!」

 

大粒の涙を目から溢しながら、倒れているリーフの肩を揺さぶるけれど返事がない。

すると、背後のエルオン・グールが起き上がった。

 

『ハハハ、油断したなぁリーフ。』

 

立ち上がったエルオン・グールのうなじからは、リーフを弾き飛ばした物の正体である、どす黒い触手が伸びていた。

 

『そして見よ、俺の自己再生の力を!』

 

エルオン・グールがそう叫ぶと同時に、身体に刻まれた数多くの傷が癒えていく。

深かった顔の傷までも数十秒で塞がり、元の醜い顔がそこにあった。

その場の全員が絶望の表情を浮かべ動けなかった。唯一渡り合えるリーフが倒れ、エルオン・グールは完全に回復した。

最早この状況に絶望するなと言う方が無理な話だ。

 

『さあ、今止めをさして・・・、むっ?』

 

すると、物陰から小さな影が飛び出した。隠れていた生き残りのゴブリンである。

ゴブリン達はリーフ達の攻撃から逃れて物陰からエルオン・グールとの戦闘をずっと見ており、どちらかが弱った所を襲うつもりでその時を待っていたのだ。

リーフが意識を失い倒れた事で、止めを刺さんと飛び出してきたのだ。

 

「まずい、カクニ!」

 

ポークが真っ先に我に返りカクニは矢を引き絞り矢を飛ばす。

生き残りのゴブリンは全部で三体、その内の一体の後頭部に見事命中する。

もう一体はポークが投げつけた片手斧(ハンド・アックス)が突き刺さり絶命する。

しかし、最後の一体は間に合わない。

飛び上がったゴブリンは、光もろとも突き刺さんとナイフを降り下ろす。

それを見た光は、逃げようともせずリーフを庇うように覆い被さる。

カスミ達が激しく叫んでいるが、今の光はどうでも良かった。

あなただけは絶対に助けると光はリーフを強く抱き締めて目をギュッと瞑る。

そして、ナイフは光の背中に迫り・・・

 

痛みは訪れなかった。

 

「えっ・・?」

 

恐る恐る目を開けて振り返ると、最後のゴブリンの脳天に鞘の着いたままの刀が降り下ろされていた。

よくよく見ると光は誰かに片手で抱き締められている。

 

「無事ですか?」

 

「・・・っ!」

 

突然聞こえた声の方を見るとそこには、いつもの優しい雰囲気を漂わせている中位木精霊(アルラウネ)がいた。




登場人物にヒバリとクロネを追加しました。
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