精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~ 作:緒方 ラキア
「打ち上げをしましょう。」
唐突にリリーナはそう言った。
「という訳で、今日は依頼(クエスト)は止てください。」
「ちょっと待って下さい。話が見えません。」
初仕事から三日経ち、リーフの名はガレオンの時よりも広まっていた。
無名の新人だったリーフが最初の依頼(クエスト)で、最高ランクのSである
ギルド側もリーフの功績から昇格を決めた。
高ければ高いほど難度の高い依頼(クエスト)を受けることができ、最高ランクのSに到達すれば立ち回り次第では貴族の地位が与えられる。
リーフの実力を見る限り本来ならすぐにでもSランクに昇格すべきとの意見も出たのだが、他の冒険者のことも考え、リーフの現在の序列はAとされた。
これでもかなりの異例な事態であることには変わりなかったのだが。
そして現在リーフとフェンは受付の仕事をするリリーナと揉めていた。
「だってあれからずっと二人で依頼(クエスト)に出かけて、ここ数日休みをとってないじゃないですか。」
リーフはフェンの申し出によりバディを組み、依頼(クエスト)にあたっていた。
最初は実力差が大きいと心配されていたが、予想以上に二人の連携はぴったりで、まるでずっと昔から組んでいるのかのようであった。
「時には休むことも重要なんです。」
「最初の依頼(クエスト)のメンバーを呼んで打ち上げするので今日だけでも休みをとってください。他の冒険者の見本であるためにも。」
「・・・わかりました。」
「じゃあ今日の夜七時にギルドにお越しください。」
しぶしぶリリーナの言葉に従うが、今日の夜まで時間が空いてしまった。
フェンは別件で話しがあるとリリーナに奥の部屋に案内された。
現在朝の七時、つまり一人で時間を潰さなければならない。
「(・・・町の中を回るか。)」
考えついたのはバッケスの観光だった。
このバッケスで冒険者として活動を始めてまだ日が浅いリーフはこの町をまだ全て回りきれていない。
しかし、となると案内する者が必要になる。
初仕事のメンバーは出払っているようだし、誰かいないかと辺りを見回していると。
「あっ。リーフ様お疲れ様です。」
この町に詳しく、リーフの見知った者で、案内役を引き受けてくれそうな男夢魔(インキュバス)が仕事終わりの私服姿でそこにいた。
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バッケスで武器や防具を扱う店と言えば二つ存在する。
一つは『ベディア武具店』。店の規模はバッケス1を誇り、多種多様の武器や防具が揃っており、多くの冒険者で賑わいをみせている。
もう一つは『ネーア武具店』。ベディア武具店の向い側にひっそりと存在し、猫人(キャットピープル)の「ミケニャ」が一人で切り盛りしている。
「・・・うぅ、今月もピンチニャー。」
ショートカットの髪から生えている猫耳がダランと寝かせる。
現在ネーア武具店は目の前のベディア武具店に客をとられ赤字続きで火の車状態であった。
このままだと経営破綻まっしぐらだ。
「辛い?辛い?消えたい?消えたい?だったら私が終わらせてあ・げ・る。」
「ンニャ、そこまで酷くはないニャ。」
カウンターテーブルで項垂れていたミケニャに話しかけるのは、唯一の客である「チョノ」と名乗るピンク髪の女夢魔(サキュバス)。
「というか、いい加減ちゃんとした服を着ろニャ。」
「可愛いでしょ。」
確かにフリフリで可愛さを強調されてはいるがスケスケのベビードールの上にマントを羽織った姿である。
下半身は前掛けと左右の長さが異なるグラディエーターブーツ?靴下?らしきものを履いている。
女夢魔(サキュバス)特有の黒い尻尾がゆらゆらと揺れている。
「いや、だからちゃんとした服を・・・」
「可愛いでしょ。」
「あっ、はいニャ。」
一瞬女性がしてはいけない目をしていた。
数週間前に突然現れた彼女は素性も何もかも謎に包まれている。
冒険者ではないようだし、かと言って娼婦とも違う。禍禍しい雰囲気が滲み出ている上、彼女は自分以外は確実に下に見ている。
そしてはっきりわかるのは、彼女がそこら辺の冒険者とは桁違いに強いということだ。
実際に実力をこの目で見た訳ではないが、商売上いろんな冒険者を見てきたミケニャは観察力には自信があり、生物としての勘も彼女が危険な力を持っていることがわかるのだ。
だからミケニャは心の中で彼女の事を『極悪ピンク』と呼んでいる。
「それよりできたニャよ、特注の
「わぁーい。」
奥から持ってきた拷問機具を見て、あまりの嬉しさにぴょんぴょん跳び跳ねて喜ぶチョノ。
通常ならこんな危ない奴に商品を売りたくない上、わざわざ拷問機具なんて作りたくもないのだが、倒産のさの字まで追い込まれている為、仕方がない。この店にとって彼女が最後の頼みの綱なのだ。
そんなことをしていると、不意に店のドアが開いた。
そちらを向くと見覚えのある人物と始めて見る人物が入ってきた。
片方は冒険者ギルド職員のカーシーだ。男夢魔(インキュバス)でありながら女性が苦手と矛盾した性格でバッケスでは有名である。
もう一人は袴姿で腰に黒い日本刀を帯刀していた中位木精霊(アルラウネ)であった。黒髪で一瞬人間かと思ったが。
「へぇー。」
隣のチョノがとても興味を持ったらしく、中位木精霊(アルラウネ)の
そして立ちあがり二人の方へ歩いてゆく。
「じーーーー。」
「・・・・・」
「じーーーー。」
「・・・あの何か?」
ケースの中の剣を見ている中位木精霊(アルラウネ)の真横からじっとり見つめ続けていた。
「やっぱり・・・あなた男だよね。」
その言葉に中位木精霊(アルラウネ)が驚きを浮かべるが、それはミケニャも同じだった。
「(えっ!?・・・ウソニャろあれで男?)」
確かに男性にも見えなくもないが、どちらかと言って女性よりである。
「(何だこの邪悪なオーラむき出しにしている生物?)」
リーフは思わず左手を鞘にかけていた。
今までに感じた事のない邪悪な塊。この世の生物とはとても思えない。
後ろにいたはずのカーシーは女性が苦手な性格からか店の端で震えて見つかるまいとばかりに身を小さくしていた。
そんな怯える子猫みたいなカーシーをチョノが見逃すはずもなく。
「あら、同族?うふふ仲良くしようね~。」
「ヒィィィィーーーーーーーー!!」
完全に標的がカーシーに移った。
悪いがしばらくはカーシーに任せておこう。
最悪骨は拾ってやる。
助けを求めるカーシーを後にカウンターテーブルに足を進める。
「いらっしゃいませニャ。本日はどのようなご用で?」
久々にあの極悪ピンク以外に営業スマイルを浮かべ対応する。
「これを磨いでほしい。」
腰に差した刀をテーブルに置く。
ミケニャは見ただけでその刀が見事な逸品であるとわかった。それもこれまで扱ってきたどんな武器よりも。
軽く許可をとってその刀を鞘から抜く。
かなり使い込まれているが、刃こぼれはなく刃紋が銀色に輝いている。
おまけに刃に魔力が流れるように特殊な加工がしてある。下手に磨げばこの刀をダメにしてしまう。
「これは結構時間がかかるニャよ。」
「問題ない。明日までにできそうか?」
「オッケーニャ。」
今日はこの刀を解析して最高の状態にすることで一杯になりそうだ。
「あと、これと同じものがないか?」
袖口からリーフは苦無を取り出しミケニャに見せる。
先日の
ミケニャは手にとって確かめたが生憎取り扱ってはいない。
「ンニャ、でも投擲用のナイフなら幾つがあるニャが。」
「なら十本ほど頼む。」
「わかったニャ。」
ミケニャは奥の棚からナイフと幻龍の代わりとして両手剣を持ってきた。
幻龍と比べれば見劣りするものだが、手入れがしっかり行き届いている。
「あははははーーーーーーーーっ。」
「らめぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!」
・・・流石にそろそろ助けてやるか。カーシーが大事な何かを失う前に。
そして振り向いて見ると打ち上げられた魚のようにビクビクしているカーシーと何故か顔が艶々したチョノがいた。
「・・・一体何をした?」
「知りたい?」
これは深く掘り下げてはいけない。と直感的に感じ取る。
「てかもうこれ持って帰れニャよ。」
すっかり忘れられていた
どうやらそのまま帰るようだ。
「ありがとねー。」
そして嵐のように去って行った。なんとも言えない空気を残して。
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武器店を出たリーフとカーシーは軽い食事を済ませ、次の目的地へと向かっていたのだが。
「・・・その、ごめん。」
「・・・・・」
なんとも言えない空気が充満していた。
カーシーの返答が無い上に目が虚ろだ。相当心にダメージを負っているようだ。
「というか、何でそんなに女性が苦手に?」
その質問にポツポツと語り始めた。
「・・・以前は普通に
「研修中に相手にした女性が・・・その、かなり特殊な性癖の持ち主でして、それ以来女性と接する度に彼女の姿が頭にちらついて。」
つまり、その女性がとてつもないマニアックなプレイを要求されて、それがトラウマになっていると。
しかし男夢魔(インキュバス)にトラウマを与えるほどのプレイとは一体?
だがこれ以上はカーシーのトラウマを呼び覚ますだけなので聞かないこととした。
「あっ、着きました。」
話している内に目的の場所の目の前に着いていた。
目の前に聳え立つ白い建物は教会である。
一般的な教会にしては大きいと感じたリーフだが、バッケスの教会はこれでも小さい方である。
他種族の信仰する宗教は十二ある。
だが町の中に十二も教会を建てる余裕もなく、ほとんどの都市などでは一つの教会に全ての神を祈れるようになっている。
「にしても今日は少なくありません?」
リリーナに話を聞いたかぎりでは、いつも教会には信者で列ができると言っていたのだが、列はできていない。
目の前を通る人はいる、いやむしろ避けている?
「あぁ、多分それは・・・」
すると教会の扉が開いた。
そして思わずリーフは剣に手をかけてしまう。
出てきたのはこの教会の修道女(シスター)だ。けれど、その修道女(シスター)には肉がついていない。
そう、彼女(?)はアンデットの
「あら、今日は一体どうしました?カーシー様。」
どうやら彼女(確定)はカーシーの知り合いらしい。
それにしても小鳥のような美しい声。声帯が無いのにどうやって声を出しているのだろうか?
「うん、今日は宗教について聞きたい冒険者を連れてきたんだ。」
そう言って紹介してくれた後、中へと案内された。
ちなみに彼女の名は「ミュー」と言う。
教会の中は十二体の石像がそれぞれ並べられており、信者は自分の主神に祈りを捧げる。
「いつもは信者の皆さんで賑やかなんですが、私の日に限って少ないんですよ。」
多分あなたが原因です。
聞けば、教会の管理はそれぞれの宗教の修道女(シスター)が交代制であり、今日は彼女だそうだ。
しかも、彼女は「アルバス教徒」である。
十二宗教の中でも邪神と呼ばれる『アルバス・ハイゼン』を信仰する宗教であり、実際に入信する者は変わり者が多い。
「そんなに怖くないんですよ。えっと~あれです、倫理学を学ぶような感じです。」
どちらにしろ「死」に関係する宗教であることには変わりない。
「それでは簡単に全ての宗教を説明しますね。」
だが、この時リーフは油断していた。それを実感するのはかなり後であった。
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「・・・と、これくらいですかね。」
リーフはあまりの情報量に脳がショート寸前であった。
最初は普通にそれぞれの宗教の掟やら礼拝などを丁寧に教えてくれたのだが、最後の自身のアルバス教になるとまるで人が変わったように語り始めた。それもまさか五時間ぶっ通しで。
「だ、大丈夫ですか。」
「問題ないです。」
さっきカーシーを無視したバチがあたったのだろうか?
正直堪えたが、結構ためになることが聞けた。
例えばアルバス教の主神とセイヴァー教の主神が夫婦であったり、羅刹直伝の特訓ノートをめぐって信者が揉めたりなど、その他にもさまざまな話が聞けた。
失礼だろうが、宗教と言うよりノリが軽い部活みたいに感じてしまう。
「どうですか、この機会に入信してみては。」
「いえ、今は遠慮しておきます。」
約束の時間も迫っているため、彼女に別れの挨拶をしてギルドへと向かった。
カーシーは一度家に帰るのでここで別れた。
「それではまたのお越しを~」
ミューは二人を見送り、扉に今日は終了しましたと書かれた板をかけて中に入った。
「ヤッホー。ミューさん久しぶり。」
声の先にはリーフが武器店でであったチョノがアルバスの石像の前にいた。
「あらチョノさん、もう教会は閉めるのですが。」
「あぁ、今日は礼拝じゃないの。ただ人のいないところを探してここにきただけ。」
「そうですか。では私はこれで。」
そしてミューが消えた事を確認すると、あるものを取り出した。それは人間が通信で使う機械、ピンクのラインストーンなどでデコられた携帯電話だ。
チョノは番号を打ち込み電話をかける。
「あ、もしもし。面白い情報があるのですが。」
そう言って話すチョノはカーシーを見つけた時よりも歪んだ笑みを浮かべていた。
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バッケスが見えるほどの距離にある森の中で、フードを被った一際怪しい百人ほどの集団がいた。
「傾聴。」
リーダーらしき者が話し出し、他の者達は聞き漏らさないように耳を傾ける。
「先程潜入している仲間から連絡が入った。よって明朝仕掛ける。」
その言葉を待ってましたとばかりに欲望の炎を燃え上がらせ、笑い声が辺に広がる。
「では各自、バッケス襲撃隊とエルフの里襲撃隊に別れ最終準備に取りかかれ。」
ようやく、ようやくだ。
あの都市とエルフの里さえ落とせば中央都(オーバード)侵略にまた一歩近づく。
そのために今回は時間も手間も掛けた。オーバードの貴族と密かに繋りバッケスの警備を減らし、周辺のゴブリンを集め強化させた。そして
「あぁ、見ていてください魔王陛下。必ずやよい結果をあなた様に。」
新たな危機が目の前までに迫っていた。
今回登場したチョノは、みてみんにて明美ちゃんやリーフのイラストを描いてくれている若賀先生のオリジナルキャラクターです。