最近、筆の調子がよくなってきました。
これは書き溜めた分なのでまだ成果が出ていませんが、七、八話くらいになるかと。
だからといって、良くなるわけじゃないけども(´・ω・`)
では、本編どうぞ!
刹那を越えた飛翔
射命丸の、どこか腑に落ちないながらも美味しいと言わざるを得ない夕食をいただいた。
その後、歯を磨いたり、風呂に入ったり。
彼女と入れ替わりになりながら、俺が風呂に入ろうとする。
タオルは何枚か彼女の家にあったので、借りて使わせてもらうことに。
この時点で、もう既にかなり世話になってしまっている。
彼女のことなので、何かをせがまれたり、いじられたりすることを覚悟しながら、更衣室へ行こうとした時。
「ほうら、どうですか~?」
「おい人外。その格好で背中にくっつくな。不愉快だ」
完全に、隔てているのはタオル一枚なんだが。
顔だけでなく、彼女はスタイルも抜群にいい。
胸は豊満な方ではないのだが、普通かそれよりもちょっとあって、くびれだとかが――ごほん。
「まぁた人外って言いましたね~? ほれほれ、普通くらいは胸があるんですよ~?」
「だから押し付けんなって!」
柔らかい、まるでマシュマロのような感触のものが二つ、俺の背中で形を変えている。
射命丸も、押さえつけるように若干横やら縦やらに動いているので、一層その変化の具合がわかってしまう。
ってか、大きさの割りに柔らかい――ごほんごほん。
仕方がない。俺だって健全な男だ。
見た目だけとはいえ、美少女に胸を押さえつけられて、動じないわけがない。
「嫌なんですか? 男は色欲に弱いはずなんですがね……」
「弄ぶな。本当に不愉快だ」
しかし、本当のところを言ってしまえば、半分は心から不愉快だった。
役得ではあったが、はっきり言って鬱陶しいにも程がある。
今となっては乾ききった血のついた服を脱ぎ、風呂場へ。
夏場なので、湯は張らずにシャワーのみ。
シャワーの口を捻ると、シャワーヘッドからお湯が出てくる。
気になったのは、外の世界と幻想郷の文化の違い。
人外が射命丸だけじゃないと仮定すると、当然文化やその他諸々、外の世界の常識を逸脱したものだと考えることもできる。
しかし、思ったよりも常軌を逸したものではないように思える。
人間も食べられる料理、木造の住宅、湯は張っていないが湯船とシャワー。
和の文化を中心に、少しばかり洋が入っている。
そんなことを考えていても、されど薄紅の液体は微量ながら流れ続ける。
シャワーが先の方がよかっただとか、そんな小さなことを考えている余裕はなかった。
自分が、紛うことなき☓☓☓であること。
事実は冷淡に、しかし着実に、俺の心を蝕んでいく。それを半分
残酷な風景は、目に、頭に、そして消えない傷として全身に焼きつけられている。
たった数時間前のことだが、これから忘れることは、絶対にできないのだろう。そんな確信があった。
いつの間にか体は洗い終わっていて、自分でも驚く。
思案に囚われすぎだ、という自分への忠告と、これだけ思案して足りるはずがないだろう、という自分への脅迫が入り乱れた。
タオルで体を拭いて、置いてあった着替えが目に入る。
男物だが、果たしてこの家のものなのだろうか。
彼女は勿論女だし、置いてあるとも思えない。置いてあるならあるで、それも中々だが。
そうなると、用意したのは無意識の俺では絶対にないので、十中八九、射命丸だろう。
さり気なく向けられる優しさのようなものに、ちょっぴり心で感謝しながら、更衣室を出る。
「……おっ、中々似合っていますね。我ながらいい服を選んだと思いますよ~?」
「やっぱり、お前が用意したのか」
「勿論。眠っている間に、ちゃちゃっと買ってきました。サイズも丁度良い感じですかね?」
改めて、自分の着ている文の選定を受けた服を謁見。
青と白のバーチカル・ストライプがかかった、ゆったりとした浴衣じみた服。
いかにも和服、といった服で、俺としても動きやすく、少しだがいいなとは思う。
「まぁ、何だ? その、ありがたい」
「え? 何ですって? もう百回くらい言ってみましょうよ、ねえ?」
「だから調子に乗るなっての。感謝する気も失せるだろうが……だから言いたくなかったんだよ」
この女の前で素直な感情を出すと、ろくなことがない。
寸前まで感じていた恐怖を、自らの作った表情の奥へと追いやった。
開いた窓から、鈴虫の上品な鳴き声が、涼しい風に運ばれて届く。
夏にしては、想像以上に涼しい。
新しい和服の広い隙間から、冷気を孕んだ風が忍び寄って気持ちがいい。
「で、俺はどこで寝たらいい?」
「あぁ、それなんですけどね~」
そう言いながら、一つ隣の部屋を差した。
仕切られた障子を開いて視界を確保すると、灯りのない薄暗の部屋。
灯りを点けて確認する。が、どう考えても布団が一枚しかない
「……で、射命丸はどこで寝るんだよ」
「布団は一つです。これはもう添い寝しかありませんね!」
「ねぇよ! 俺は適当にどっかで寝とくから」
背中から聞こえる射命丸の声を耳から引き剥がしながら、靴を履いて玄関を出る。
星々の下、俺が外に出た先に広がった光景は、山。
ここが妖怪の出る山だとしたら、今の俺が襲われると大変なことになる。
今度は、俺の服が自身の血で染まる番に――
「――それも、いいか」
自分の命を若干投げ打つように、森へと進む。
耳に心地よい葉のざわめきや枝を踏み折る音が聞こえる中、それが俺には明確な恐怖の旋律にしか聞こえなくなっていった。
やがて、高さの丁度良い木を見つけた。
相手が相手だが、手間をかけて用意してもらったものだ。汚さないよう気を付けて、登る。
それほど太くもないので、簡単に登ることはできた。
木登りはやったことがなかったが、案外上手くいくものなんだな。
幹を背にして、太めの折れそうにない枝に座り込んだ状態で眠る。
規則的な自分の呼吸を子守唄に、静かに眠りにつく。
何者かが俺の心臓を鷲掴みにしている緊迫に襲われながらも、必死になって意識の外へと追いやった。
そして、声が聞こえた。絶対に幻聴だと、わかる声が。
――氷裏。
―*―*―*―*―*―*―
「もう、あの人は勝手なんだから……」
ゆっくりと森を周りつつ、彼を探す。
意外と彼の背は高いので、早くに見つかると思ったのだが、思いの外手間取っている。
かれこれ、探し続けて五分は経った。幻想郷最速にとっての五分は、結構大きいものだ。
何故彼にここまで固執するか。
正直、彼でなくてもどうだっていい、というのが本音だ。
では、どうしてわざわざ、新聞を作る時間を割いてまで彼を探すか。
その答えは、これからのメリットにあった。
まだ情報は持っていそうなので、使えるということ。
なくなっていようといまいと、生活環境を提供し続けて、労働源にしてしまえること。
新聞配達くらいは、飛べない人間なりにできることだろう。
「片桐さん、ねぇ……」
これから、どうなるのだろうか。
出会い方、性格、そして一番は大量の血液。
ああなったのは、絶対に何かがある。個人的にも記者的にも、気になるところだ。
それが、彼が答えなかった質問にある。都合が悪いという点では、共通点なのだろう。
彼から血液については、全く触れられていない。触れることすら避けたいのだ。
「はぁ、こんなところにいましたか」
木の上で、幹にもたれかかって座るように寝ている。
あの体勢で寝ると、翌朝には背中が筋肉痛の嵐だろうに。
どうして、あんなことをするのかが私にはわからなかった。
辛辣な返事は性格として、こうも意地を張るようなことをするのかが、理解できない。
彼の言動には、自分の命を顧みないものが目立つ。
それが英雄的行動でもないので、また不思議なものではある。
とはいえ、私は馬鹿ではない。
あの血の付き方は、どう考えても――
何を思っているのかは知らないし、知るつもりもない。
ネタになるのなら別だが、それも置いておいて。
今ここで彼を失くすのは、少し惜しいものがある。
ということで、片桐さんを担いでいくことに。
さすがに担ぐのは女の子として厳しい。妖怪としては何ら問題ないのだが。
運ぶ手段としては、やはり宙ぶらりんのまま空を飛ぶのが楽そうだ。
片桐さんの襟首を両手でつまみ上げて、空へ。
満点の星空をなぞって、来た道を戻っていく。
ふと、手元にある表情を飛びながら眺めた。
鋭い緑の目を透かした眼光は、今では瞼の奥で閉じ込められている。
漆黒の短い髪は、触ったらちくちくしそうだ。生花ができるかもしれない。
こうしていると、可愛い手頃な虎だ。
天邪鬼かただ性格が悪いだけか、あの目つきとの相乗効果でさらなる怖さがある。
「……ずっと眠ってくれるなら、私としても楽なのになあ。新聞、急いで作らなきゃ」
私の利益と不一致の呟きは、暗がりの空へと霧散した。
―*―*―*―*―*―*―
不思議と、背中に鈍痛は迸らない。
楽な姿勢で、むしろ快眠なまである。
夏とはいえど、夜は寒い。その寒ささえも、俺の体からは逃げていた。
ここで既に、俺の中で予想はできた。
射命丸に、家まで運んでもらったのだと。
目を開くと、赤みがかった綺麗な光が窓から差し込むのが見えた。
窓越しに輝く陽光は澄んでいて、薄雲もその恩恵を全身に受けている。
なるほど、ここの自然は外の世界とは一味違うのかもしれない。
こんなにも綺麗で透明な朝焼けは、そうそう見られるものではない。
俺の体を包んでいた掛け布団と敷布団を畳んで、茶の間へ。
低めの机に突っ伏して寝ている、黒翼の持ち主。
「はぁっ、俺だけ布団で寝かせて、自分はこれかよ」
文句、というよりも申し訳ない気持ちの方が大きい。
俺はそこまで性格が曲がっているわけじゃあない。
そして、隣に積み重なる灰色の紙束に気づく。
……新聞?
彼女は、記者だと言っていた。
記者は記者でも、雑誌などではなく新聞の記者みたいだ。
内容は、昨日俺が取材を受けたもの。
いつの間に取られていたのか、俺の写真。
へぇ、意外と綺麗に映っているものだ。結構上手に撮れて――
「盗撮じゃねえかよ!? ってかマジいつ撮った!?」
「ん~、もう、うるさいですねぇ。人が遅くまで頑張ったんですから、もう少し優しく起こしてくださいよ~……」
「俺はいつからお前の子守になったんだ? あぁ?」
本当に眠そうに、目をこすって上体を起こす射命丸。
いつまでも眠っていれば、可愛いものなのだが。
「まぁ、お疲れさん。今から配りに行くんだろ、これ。朝刊だろ?」
「えぇ、まあ。それにしても、片桐さんがお疲れ様、なんて言うんですね。意外でした」
「お前は俺を何だと思っているんだよ……」
正直、頭を抱えたくなってくる。
そこまで悩むことでもないのかもしれないが、これで俺達が会って二日目ということを忘れてはいけない。
時間的には、まだ丸一日も経っていない今で、この状態。
このままでは、要らない誤解や印象の差異が激しくなりかねない。
「ちょっと、片桐さん。……ん!」
「いや、俺も配れってか?」
思い切り、新聞の束の一部をこちらに突きつける射命丸。
半ば強引に押し付けられ、つい受け取ってしまう。
目の前で背伸びをしてくれやがる御蔭で、普通くらいの胸がやけに前へと強調されて、目のやり場に困る。
朝からこの調子だと、一日が相当に大変そうだ。
慣れていかなければならないのか、それとも逃げ出すべきなのか。
いずれにせよ、受け取ってしまったからにはアイツに返すことはもう不可能だろう。
できるとしても、さらにどっと疲れることには変わりなさそうだ。
「大丈夫です。一緒に連れて飛んでいきますから」
「あ~、わかったわかった。……その翼といい、飛んでいくといい、やっぱり鳥の妖怪なのか?」
「はい。正確には、鴉天狗といって、烏と天狗の混合種みたいなものですね」
なるほど、だからこその紅の高下駄なのかと、自分の中で妙な納得が起こった。
黒色の翼と形からして、烏だという予測もできていた。
あながち、俺の予想は当たるようだ。
外に出て、射命丸が玄関の鍵を閉める。
「はい。では、え~っと……はい」
「その手は何? 繋げってか? ちぎられるかもしれんだろ」
「そんなことはしないですって、何度言えばわかるんですかね? もしちぎったとして、落ちた新聞どうするんですか」
「俺の存在が新聞以下っていうことがよ~くわかったよビッチなカラス」
「なっ! ビッチじゃないですよ!」
いや、胸を押し当てる時点でビッチな気しかしないんですねこれが。
嫌味を漏らしながらも、射命丸の差し出した手を取る。
想像以上に柔らかな手に驚きつつ、少し心拍が乱れた。
「はいは~い、じゃ、行きますよ、っと」
「あぁ、わかっ――はぁっ!?」
俺の返事は、所詮刹那だった。
刹那の先を、越えた。体感できるものではないに違いない。
そう、人間だけの領域ならばの話ではあるのだが。
周囲の景色は異様な速度で回転し始め、地平線の彼方さえも楽々と辿り着いてしまえそうだ。
圧倒的な風圧に圧されながらも、新聞を強く抱えた。
肩にかかるとんでもない力を捻じ伏せながら、手を強く握る。
ありがとうございました!
私の中では、文ちゃんは強引に迫ってくるお姉さんってイメージなんですよね。
押し倒されたい(直球)
ではでは!